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映画ウォーキング 群を抜いておもしろい映画評です。名作と言われる映画もジェンダーの視点で切ると・・・
『花よりもなほ』(是枝裕和監督 日本 2006年)

主演岡田準一、宮沢りえ
ステキな時代劇。
時代劇って、いつも何かなあと思っていたけれど、ふふふ、落語のようで、ポップで、情があって、おかしくて、共感できて、ステキな時代劇。
江戸時代と言ったって、きっとこんな感じよねっていう気がする。
是枝監督の映画は、やさしさの溢れた不思議な映画「誰も知らない」、そして、去年の5月3日にフジテレビで放映された憲法9条のこれまた個人史を下敷きにした不思議な魅力の番組、父親が過ごした台湾の話、戦後を語るうえで、ウルトラマンが出てきて、戦後、高度成長期のなかで、貧困などの問題が忘れ去られたのではないかということなどが、オリジナリティー溢れる不思議なやさしさのなかで語られる番組などで、大好きである。
ご本人にお会いすると、やさしいだけの男ではなく、テレビマンユニオンでテレビの仕事をし、お金を集めて、人を結集して、一大プロジェクトを作って、映画という途方もないものを作るのだから、腕力も力もこの世のなかで仕事をするうえで必要な交渉力もある人だった。しかし、是枝作品の魅力は、やっぱりやさしさであり、マッチョではないのである。

その意味で、やさしさの溢れた深い味のある、そして、楽しい映画である。
暗い少し思い詰めた主人公である岡田準一の顔が、最後の場面で、満面のとてつもなくステキな笑顔となる。
このステキな笑顔がこの映画を象徴している。

わたしは、実は、人が死ぬ映画が苦手である。
人が殺されたりする映画は嫌なのだ。
死は、生き物には訪れることで、避けることはおかしいけれど、生き物が死ぬたびに心が痛む。だから実は、人がバンバン殺されるアクション映画などは、苦手である。
おバカな恋愛映画、ハッピーエンドの恋愛映画などが大好きである。

「花よりもなほ」は、人が死なない仇討ちの映画である。
時代劇というと、男の美学なんて感じになり、「本当は人を殺したくないのだけれど、やむにやまれず、人を殺さなくてはならなくなり、剣を抜いて殺す」なんて設定が多い。結局、殺すんじゃんという感じであるが、ふふふ、この映画は、殺さない仇討ちの映画である。
そこがいいのである。
そして、剣を抜かないし、自分の剣の腕を絶対に見せびらかさないが、いったん剣を抜くと強いなんて設定が普通は多い。
ところがである。この映画の主人公は、実際、剣を抜いても弱っちいのである。
彼は、長野県松本藩で、剣の道場を持つ父親が、殺され、いわゆる長男として、仇討ちをしなければならない。そこで、お江戸に来て、長屋に住み、仇討ちの相手を探しているのである。
長屋の住人である武士大嫌いな者の挑発により、武術の勝負をすることになるが、こてんぱんにやっつけられて、からっきし弱い。普通、ヒーローは、こんなとき強いんだけれど、そうは問屋がおろさず、がっかりするほど弱っちい。剣が強いけれど、抑えて人を傷つけないといのではなく、そもそも「あなた大丈夫?」という感じ。
そして、そこがいいところなのである。
彼は、お金稼ぎに、近所の子どもたちに、字を教える。
そして、彼は、ひそかに、子どもを育てる宮沢りえに惚れている。貧乏長屋には、いろんな人が住んでいて、メチャクチャなんだけれど、そんななかで、彼も実は、癒されていく。
そして、彼は、安藤安信演ずる仇討ちの相手が、近所に住み、子どもを抱えた女性と一緒に暮して、働いていることを知る。
殺すことを躊躇する彼。
江戸時代は、離婚率が高かったけれども、宮沢りえは、夫と死別しているという設定であり、仇討ちの相手が一緒に暮す女性もシングルマザーで、新たに子どもが生まれるという設定。血のつながらない子どもを岡田準一も仇討ちの相手もかわいがっているという設定はいいなと思った。
仇討ちをしないと郷里の家族や藩に申し訳が立たないし、仇討ちが成功すれば、藩から百両くらいお金がもらえるらしい。
仇討ちをしなければならないのだけれど、如何せんというところが見所である。
これに、長屋のみんなの人間模様などがからんでいく。

これは、憲法9条の映画であると思う。
弱ちくて何が悪いという映画である。
武力行使をしていくたびに、遺族と悲しむ人を増やしていくではないかという映画である。
弱い奴だと言われても、実は、そのことのほうがいいのだという映画である。
憎しみをどうやって、変えていくかという映画でもある。
人がまわりからの期待も含めて、仇と憎しみを生きがいとして生きていっていいのかという映画でもある。

この映画が伝えたいことが、もっともっと広がっていくといいな。
勇ましいことより、大事なことは一杯ある。
剣は弱くったっていいのだ。
このことをどうやって説得力を持って人に伝えるかだと思っている。
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