1−2010.3.10
実子である婚外子と養子(嫡出子)が相続人であり、被相続人の全財産を遺言により相続した養子に対して婚外子が遺留分減殺請求権を行使した事案について、民法900条4号但書前段を準用する民法1044条を適用することは違憲であるとした事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2010(平成22)年3月10日判決
[出典]判タ1324号210頁、戸籍時報2010年6月号
[事実の概要]
Xは、昭和39年に婚姻関係にないA男とB女の間に生まれ、その後A男の認知を受けた。他方、A男は、昭和54年にYを、平成6年にYの子Cを養子とする養子縁組をした。平成7年、A男は死亡。A男の相続人は、X、Y、Cの3人であったが、A男は、平成6年、Yに財産全部を包括的に相続させる旨の遺言をしていた。そこで、XがYに対し、遺留分減殺の意思表示をし、相続財産に対して遺留分として6分の1の持分を有することの確認等を求めた。
本件では、民法1044条が遺留分について同法900条4号を準用していることから、婚外子の相続分を嫡出子の2分の1とする同法900条4号但書前段の規定が、Xの遺留分算定の際にも準用されるか等が問題となった。
[判決の概要]
@ 民法900条4号但書は、法律婚の尊重と非嫡出子の保護の調整を図る趣旨の規定であり合理的理由のない差別とはいえず、憲法14条1項に反するものとはいえない(最判大平成7年7月5日と同様の判断)。そして、遺留分制度においても上記趣旨はそのまま妥当するから、民法1044条が同法900条4号但書前段を準用し非嫡出子の遺留分を嫡出子の2分の1としたことは憲法14条1項に反するとは言えない。
A しかしながら、(a)本件において、Yは婚姻関係から出生した嫡出子ではなく、Xの遺留分を嫡出子の2分の1としてYの取り分を増やすことは、法律婚の尊重という立法理由からはその合理性を説明することはできない。また、(b)本人の意思や努力によって変えることのできない事情によって差別的な取扱いを受けることにより、精神的に大きな苦痛を被ること、(c)民法900条4号但書の規定やこれに基づく区別を正当化する理由となった社会事情や国民感情などは、本件相続発生当時の時点でみると、もはや失われたのではないかとすら思われる状況に至っていることなどを総合考慮すると、同法900条4号但書前段ないしこれを準用する同条1044条が法令として違憲・無効であるとはいえないにしても、これを本件事案に適用する限りにおいては、違憲と評価され、効力を有しないというべきである。
[ひとこと]
民法900条4号但書、これを準用する同法1044条につき、従来の判例どおり、法令違憲とはしなかったものの、本件事案に適用する限りにおいては違憲とする適用違憲という手法を用いて、結局、Xの遺留分を6分の1と判断した。二宮周平教授は、本判決が適用違憲の理由として掲げたもののうち、(b)及び(c)については、民法900条4号但書の法令違憲の是否が問題となった最大決平成7年7月5日の反対意見(法令違憲とする立場)等と共通しているとし、本判決は限りなく法令違憲に近いものであることを指摘している(戸籍時報656号2頁以下)。
|