判例 その他
国籍

2008.6.4
[裁判所]最高裁大法廷
[年月日]2008(平成20)年6月4日判決
[出典]判時2002号3頁、LEX/DB28141384
[事案]
父が日本人、母が外国人の男女の間に生まれ、出生後に父より認知を受けた子らが、国籍取得を求めた事案。国籍法上、婚外子の中でも、母が日本人の子、出生前の認知を受けた子は日本国籍を取得できるが、生後認知の場合はできなかった。2007.2.27判決(東京高裁)の最高裁判決。
[判決より抜粋]
「我が国における社会的、経済的環境等の変化に伴って、夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなくなってきており、今日では、出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど、家族生活や親子関係の実態も変化し多様化してきている。このような社会通念及び社会的状況の変化に加えて、近年我が国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大することにより、日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加しているところ、両親の一方のみが日本国民である場合には、同居の有無など家族生活の実態においても、法律上の婚姻やそれを背景とした親子関係の在り方についての認識においても、両親が日本国民である場合と比べてより複雑多様な面があり、その子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって直ちに測ることはできない。これらのことを考慮すれば、日本国民である父が日本国民でない母と法律上の婚姻をしたことをもって、初めて子に日本国籍を与えるに足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められるものとすることは、今日では必ずしも家族生活等の実態に適合するものということはできない。」
「諸外国においては、非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向にあることがうかがわれ、我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約及び児童の権利に関する条約にも、児童が出生によっていかなる差別も受けないとする趣旨の規定が存する。さらに、国籍法3条1項の規定が設けられた後、自国民である父の非嫡出子について準正を国籍取得の要件としていた多くの国において、今日までに、認知等により自国民との父子関係の成立が認められた場合にはそれだけで自国籍の取得を認める旨の法改正が行われている。」
「我が国を取り巻く国内的、国際的な社会的環境等の変化に照らしてみると、準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことについて、前記の立法目的との間に合理的関連性を見い出すことがもはや難しくなっているというべきである。」
「日本国民である父から胎児認知された子と出生後に認知された子との間においては,日本国民である父との家族生活を通じた我が国社会との結び付きの程度に一般的な差異が存するとは考え難く,日本国籍の取得に関して上記の区別を設けることの合理性を我が国社会との結び付きの程度という観点から説明することは困難である。」
「父母両系血統主義を採用する国籍法の下で,日本国民である母の非嫡出子が出生により日本国籍を取得するにもかかわらず,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子が届出による日本国籍の取得すら認められないことには,両性の平等という観点からみてその基本的立場に沿わないところがあるというべきである。」
「本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するものとなっているというべきである。しかも,本件区別については,前記(2)エで説示した他の区別も存在しており,日本国民である父から出生後に認知されたにとどまる非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じさせているといわざるを得ず,国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えられた裁量権を考慮しても,この結果について,上記の立法目的との間において合理的関連性があるものということはもはやできない。
そうすると,本件区別は,遅くとも上告人らが法務大臣あてに国籍取得届を提出した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間において合理的関連性を欠くものとなっていたと解される。
したがって,上記時点において,本件区別は合理的な理由のない差別となっていたといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,憲法14条1項に違反するものであったというべきである。」
[ひとこと]
長いたたかいだったと思うが素晴らしい形で決着がついた。
判例評釈として、市川正人・判時2021号164頁、原田央・法教341号6頁など。

2007.2.27
[裁判所]東京高裁
[年月日]2007(平成19)年2月27日判決
[出典]法学教室139頁、LEX/DB28141365
[事案]2006.3.29の控訴審判決
[判決の概要]
「国籍を取得できるとする規定は存在しない」と述べ、子に国籍を認めた1審の東京地裁判決を取り消した。また、母が外国人で日本人の父が出生後に認氏した子について、国籍取得には父母の婚姻が必要と定めた国籍法3条の規定について、「誰が国籍を有するかを決めるのは国家の権限。法律を厳密に解釈するべきだ」と指摘し、国籍法に定めのない国籍取得の要件を法解釈から導き出すのは立法権限に属し、裁判所には許されないとした。
[ひとこと]
東京地裁06.3.29の違憲判決を取り消し、国籍法3条について立法裁量の問題とした。原告側は上告する方針である。

2006.3.29
[裁判所]東京地裁
[年月日]2006(平18)年3月29日判決
[出典]判時1932号51頁、判タ1221号87頁
[事実の概要]
9組のフィリピン人女性と日本人男性の間に生まれた子9人が、両親が法律上の婚姻関係にないために日本国籍を取得できず、国を相手に国籍確認を求めた。
[判決の概要]
父母が婚姻関係にあるかどうかで子が国籍取得できるかどうかを区別する国籍法の規定は、法の下の平等を定めた憲法14条に反する不合理な差別であるとした。
[ひとこと]
東京地裁05.4.13の違憲判決は、「子と日本人の親が共同生活している」実態を重視してそのような場合に婚姻関係がないからといって国籍を認めないのは違憲とした。本件は、家族が一体であるかに関係なく、規定自体が不合理で違憲とした。昨年の判決より広く違憲性を認めた。この後、上級審で最判02.11.22の合憲判決をくつがえすかどうかである。

2006.2.28
外国人女性と日本人男性の間に生まれた子が出生後認知を受け、日本国籍を主張した事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2006(平成18)年2月28日決定
[出典]家月58巻6号47頁
[事実の概要]
外国人女性を母、日本人男性を父として日本で生まれた子が出生後父から認知を受けたことを理由に国籍取得届けを提出したところ、国籍取得の条件を備えていないとの通知を受けたことから、国に対し日本国籍を有することの確認を求めた事案。原判決は、国籍法3条1項は、認知と父母の婚姻という要件を満たした子と法律上婚姻していないが内縁関係にある非嫡出子との間で、国籍取得の可否について合理的な理由のない区別を生じさせており、憲法14条1項に違反する旨を判示し(判時1890号27頁)、国が控訴した。被控訴人は、@国籍法2条1号に基づき出生時に遡り日本国籍を取得、A国籍法3条1項が違憲無効であるから父母の婚姻という要件を具備していなくとも日本国籍を取得したと主張。
[判決の概要]
国籍法2条1号は、単なる生物学的出自を示す血統が証明されれば足りるとするものではなく、子の出生児に日本人の父又は母と法律上の親子関係にあることを要する旨を規定するものと解され、同号の適用上、認知の遡及効が否定されるから、被控訴人の出生時に被控訴人と父との間に法律上の親子関係にあったとは認められず、被控訴人が同号に基づいて日本国籍を取得することはできない。
国籍法3条1項の「婚姻」が事実上の婚姻関係(内縁関係)を含むとの拡張ないし類推解釈をすることは許されないから、被控訴人が同項によって日本国籍を取得したということもできない。
[ひとこと]
国籍法3条1項については、2002年の最高裁判決後も、下級審段階では動いている。本件は、1審で違憲判決が出たが、控訴審では原判決が取り消された。

2005.4.13
婚外子の国籍につき、不合理な区別を設けた国籍法は憲法14条違反とした例
[裁判所]東京地裁
[年月日]2005(平成17)年4月13日判決
[出典]判時1918号176頁
[事実の概要]
フィリピン女性と日本人男性の間に生まれた男児(婚外子)が、国に対して日本国籍の確認を求めた。原告の男児は、関東地方で生まれ、すでにフィリピン国籍を持っていた。父は出生後に認知した。
国籍法3条によれば、婚姻関係のない日本人男性と外国人女性の間の子は、胎児認知をするか、出生後に婚姻しなければ、日本国籍を取得できない(日本人女性の子は、いかなる場合も出生と同時に日本国籍を取する)とされている。
[判決の要旨]
本判決は、@父の負担する生活費で母子が生活、父が週末などに定期的に母子方に宿泊したり、A子の幼稚園などの行事に参加している、などの点をあげ、完全同居ではないが内縁関係にあると認め、親子3人の共同生活の実態を重視した。また、「価値観が多様化している今、父母が婚姻関係にある家族こそが正常で、内縁関係は正常ではないなどと言うことはできない」とし、「父母が婚姻関係にあるかどうかで国籍取得の可否について不合理な区別を設けた国籍法3条の規定は、法の下の平等を定めた憲法14条に違反する」とし、原告の男児に日本国籍を認めた。ただし、父子の共同生活が成立していないケースについて国籍取得を認めないことについては、「違憲と断じるだけの証拠はない」と付加した。
[ひとこと]
2002年の最高裁判決の補足意見が、さらに深められ、違憲判断がなされたケース。
高裁で原告逆転敗訴。

2003.6.12
[裁判所]最高裁一小
[年月日]2003(平成15)年6月12日判決
[出典]家月56巻1号107頁、判時1833号37頁
[事案の概要]
韓国人である母が日本人である父と離婚した翌日に子が出生し、出生の約8ヶ月後に母の元夫と子との間の親子関係の不存在確認を求める訴えが提出され、親子関係不存在を確認する判決確定の4日後に真実の父が子を認知したという事案において、出生後認知された場合であっても、国籍法2条1号による日本国籍取得が認められた例
「一般的には、子の出生後8ヶ月余を経過して親子関係の不存在を確定するための法的手続きが執られたとしても、これが遅滞なくなされたものということは困難である。しかしながら、上記事実関係によれば、Bは、帝王切開により上告人を出産し、退院後も長女と上告人を養育しながら、自宅療養を続けていたというのであり、また、出産を間近に控えた平成9年8月ころには、Cからの連絡を待つだけで、Bの側からCに連絡を取ることはできない状態になっていたところ、Bは、同10年3月ころ、弁護士に相談し、Cと上告人との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続きを執ることとし、そのために約3ヶ月間Cの所在を調査したが、結局、Cの所在が判明しないので同年6月15日に至り、上告人の親権者として、上告人のCに対する親子関係不存在確認の訴えを提出し、Cに対しては公示送達がされたというのである。これらの事情に照らせば、上告人の出生から上記訴えの提示までに8ヶ月余を要したのもやむを得ないというべきであり、本件においては、Cと上告人との間の親子関係の不存在を確定するための法的手続が上告人の出生後遅滞なく執られたものと解するのが相当である。」と判示した。
[判決の概要]
[ひとこと]
97年判例は「前夫との親子関係不存在の手続きが出生後遅滞なく行われ、その確定後に速やかに認知された場合に認められる」としていたが、さらに緩やかに日本国籍の取得を認めた。

2002.11.22
[裁判所]最高裁
[年月日]2002(平成14)年11月22日判決
[出典]判時1808号55頁
[事案の概要]
日本人の父、フィリピン人の母をもつ婚外子(非嫡出子)が、生後に認知を受けても生来的な国籍の取得は認められず帰化の方法によらなければ取得できないことにつき、法の下の平等を定める憲法14条1項に違反すると争われ、憲法違背にはあたらないとされた例。
[ひとこと]
国籍法2条の国籍要件は全員一致で合憲としたが、同法3条1項の、準正(つまり認知後の婚姻、婚姻後の認知)の場合には、出生後であっても届出によって国籍取得可能とした点につき、5人の裁判官のうち2名(梶谷玄裁判官,滝井繁男裁判官)が違憲の疑いが濃厚との補足意見を書いた。以下は抜粋である。
「その父母が婚姻関係にない場合でも,母が日本人であれば,その子は常に日本国籍を取得することを容認しているのであるから,法自身,婚姻という外形を,国籍取得の要件を考える上で必ずしも重要な意味を持つものではない,という立場を採っていると解される。そして,法2条1号によれば,日本人を父とする非嫡出子であっても,父から胎児認知を受ければ,一律に日本国籍を取得するのであって,そこでは親子の実質的結合関係は全く問題にされてはいない。さらに,父子関係と母子関係の実質に一般的に差異があるとしても,それは多分に従来の家庭において父親と母親の果たしてきた役割によることが多いのであって,本来的なものとみ得るかどうかは疑問であり,むしろ,今日,家庭における父親と母親の役割も変わりつつある中で,そのことは国籍取得の要件に差異を設ける合理的な根拠とはならないと考える。」「特に,嫡出子と非嫡出子とで異なる扱いをすることの合理性に対する疑問が様々な形で高まっているのであって,両親がその後婚姻したかどうかといった自らの力によって決することのできないことによって差を設けるべきではない。既に,我が国が昭和54年に批准した市民的及び政治的権利に関する国際規約24条や,平成6年に批准した児童の権利に関する条約2条にも,児童が出生によっていかなる差別も受けない,との趣旨の規定があることも看過してはならない。・・・このような差別はその立法目的に照らし,十分な合理性を持つものというのは困難であり,憲法14条1項に反する疑いが極めて濃いと考える。」

1997.10.17
[裁判所]最高裁
[年月日]1997(平成9)年10月17日判決
[出典] 判時1620号52頁、判タ956号143頁
[事案の概要]
外国人である母の非嫡出子が、日本人である父により胎児認知されていなくても国籍法2条1号により日本国籍を取得するとされた例
 
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