判例 その他
DV・ストーカー

2020.7.30
GPS機器を取り付けて位置情報を取得・探索する行為が、ストーカー行為等の規制等に関する法律2条1項1号にいう「住居等の付近において見張り」をする行為に該当しないとされた事例
[最一小判2020(令和2)年7月30日 家庭の法と裁判31号47頁]
[決定の概要]
ストーカー行為等の規制等に関する法律2条1項1号所定の「『住居等の付近において見張り』をする行為に該当するためには、機器等を用いる場合であっても、上記特定の者等の『住居等』の付近という一定の場所において同所における上記特定の者等の動静を観察する行為が行われることを要する者と解するのが相当である」として、「自動車にGPS機器をひそかに取り付け」、「多数回にわたって同車の位置情報を探索して取得した行為」については、同条項に該当しないとした。
なお、原々審の福岡地裁は要件該当性を認め、原審の福岡高裁は要件該当性を否定しており、最高裁は原審の結論を維持した。
[コメント]
本件は、平成28年改正前の同法が適用されるケースであるが、本判決と同日、同様の行為が改正後の同法2条1項1号に該当するかについても判決が言い渡されており、同様の法理で要件該当性を否定している。(最一小判同日、最高裁判例集刑事328号搭載予定)。
この判決を受けて、無断でGPS機器を取り付ける行為、相手方のスマートフォンを利用するなどして位置情報を取得する行為自体を規制する法改正が2021年5月に成立、8月にも施行される見通し。

2019.10.23
戸籍法49条の出生届を提出しなかったことについて、DV被害を受けていたことなどを理由として、同法137条の「正当な理由」があると認められた例
[東京簡裁2019(令和元)年9月18日決定 家庭の法と裁判27号99頁]
[事実の概要]
被審人(妻)は、現在の夫(現夫)との間の子を2012年に出産したが、その出生届を2019年に提出した。戸籍法は出生の届出を14日以内にしなければならないとし(49条1項)、正当な理由がなくて期間内にすべき届出をしない者を5万円以下の過料に処する(137条)と定めており、妻は2019年9月に、簡易裁判所において過料の決定を受けた。この決定に対し、妻は取消しを求めて異議申し立てをした。
[決定の概要]
妻は、前夫との婚姻中に、前夫から威圧的な態度をとられ、気に入らないことがあると物を投げたり壁を傷つけたりするなどの暴力を受けており、これに耐えかねた妻は2011年に前夫と別居した。別居後も、妻は前夫から電話で恫喝され、心底恐怖を覚えた。
別居前に妻が前夫に渡していた離婚届を前夫が役所に提出して2011年11月に離婚が成立したが、妻は前夫と別居中に現夫の子を妊娠し、待婚期間経過後の2014 年に現夫との婚姻届を提出した。
2012年、妻は現夫との子を出産し、その1週間後くらいに、出生届を提出するために役所に行ったが、その際、子が前夫の戸籍に入ってしまうと知らされた。そして、前夫が子の出生の事実を知れば、妻や子の所在を探し当てて、何らかの危害を加えてくるのではないかとの恐怖心から、妻は出生届を提出できなくなった。
妻は、子が無戸籍の状態になっていることから、子を前夫の戸籍に入れないで出生届を提出する方法がないものかと情報収集を行っていたところ、2018年になって、役所から法務局を紹介された。法務局では、強制認知という方法によれば、前夫の協力を得なくても手続きが可能であるということを聞き、弁護士に依頼した上、家庭裁判所に対し、実父である現夫を相手方とした認知調停を申し立てた。
家庭裁判所は、2019年、子が現夫の子であることを認知する旨の合意に相当する審判をし、確定した。これを受けて、妻は出生届を役所に提出した。
以上のような事情を考慮し、本決定は、出生届を提出しなかったことについて正当な理由を認め、妻を処罰しないのが相当であるとした。

2019.9.19
DVの虚偽申告を認めなかった例
[最高裁第一小法廷2019(令和元)年9月19日判決 日経新聞2019年9月24日]
[事実の概要]
男性と元妻は、結婚後、娘をもうけたが、元妻が娘を連れて別居し、DV防止法に基づき男性に住所などを知られないようにする支援を県警に要請。支援の要件を満たすとした県警の意見に基づき自治体が住民基本台帳の閲覧を制限した。男性は娘と会うことができなくなったとして、元妻と県に計330万円の損害賠償を求めた。
2018年の名古屋地裁判決は「DV被害は事実無根とは言えないが、診断書がなく誇張された可能性がある」と判断し元妻に金55万円の支払いを命じた。しかし、2019年1月の名古屋高裁判決は「元妻が男性と娘の面会を妨害する目的でDV被害を申告したとは言えず、県警の対応も違法とは認められない」とし、一審判決を取り消した。男性が上告した。
[判決の概要]
最高裁は上告を退け、男性の逆転敗訴となった名古屋高裁判決が確定した。

2018.9.21
被告人が被害者が使用している自動車にGPSを密かに取り付け被害者の動静を把握した行為について、ストーカー規制法違反で起訴された事案の控訴審において、被告人を有罪とした原判決を破棄し、原裁判所に差し戻した事例 [福岡高裁2018(平成30)年9月21日判決 裁判所ウエブサイト、LEX/DB25449773]
[事実の概要]
被告人は、Aと共謀の上、被害者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが充たされなかったことによる怨恨の感情を充足する目的で、2016年4月から2017年3月までの間、多数回にわたり、被害者が使用している自動車にGPS機能付き電子機器を密かに取り付け、同車の位置を把握する方法により同人の見張りをした。
原判決(佐賀地裁平成30年1月22日判決)は、上記の行為を認定した上、ストーカー規制法2条T項T号所定の「見張り」に該当するとして、被告人を有罪とした。
[判決の概要]
弁護人は、控訴趣意において、GPS機器を取り付けて被害者の所在する場所の位置情報を探索する行為は「見張り」に該当しないから、法令適用の誤りがある等の主張をした。
ストーカー規制法2条T項T号の特定の者等の住居棟の付近において「見張り」をする行為を「つきまとい等」の一つとし、それが「身体の安全等が害され、又は行動の自由を著しく害される不安を覚えさせるような方法によりおこなされる場合」で反復することを「ストーカー行為」とする(同条3項)。
「「見張り」とは、一般に、視覚等の感覚器官によって対象の動静を観察する行為と解されるところ、上記のとおり、法は、「見張り」について、被害者の住居等の付近において行われるものに限って、規制対象にしている。そうすると、本件において、本件GPS機器を本件自動車に取り付け、同車の位置を探索して同人の動静を把握する行為は、被害者の通常所在する場所の付近から離れて、携帯電話を用いて、本件GPS機器による位置情報提供サービスを行う会社のホームページに接続して、本件自動車の位置情報を取得することによって行うもので、被害者の住居等において、視覚等の感覚器官によって被害者の動静を観察するものではないから、「見張り」に該当しない」。
以上より、法令適用の誤りがあるとして、原判決は破棄されるべきとしたが、本件公訴事実には、被告人が、本件自動車にGPS機器を取り付ける際に付近に被害者がいないかどうかを確認するなどして、被害者の動静を観察する行為が含まれていると解する余地があり、含まれているとするとその行為が被害者の通常所在する場所の付近における「見張り」に該当するとみる余地がある。以上より更に審理を尽くさせる必要があるとして、原判決を破棄し、原裁判所に差し戻した。

2018.1.26
DVの加害者とされる者の代理人弁護士からの被害者とされる者に係る戸籍の附票の写しが必要である旨の申出がなされた場合に、住民基本台帳事務処理要領が定めるところに従って当該戸籍の附票の写しを交付しないとした市長の処分に裁量権の逸脱濫用はないとされた事例
[大阪高裁2018(平成30年1月16日判決 判時2375号182頁]
[事実の概要]
原告はAの代理人として、Aの妻Bとの離婚事件を受任し、離婚訴訟を提起し、訴訟上の和解により離婚を成立させた。本和解条項には、AはA宅にある仏壇等をBが引き取ることを認め、その日時、場所等は別途協議して定める旨の条項があった。そこで、原告は、Bの住所を知らなかったことから、住所を調査するため、橋本市長に対し、住民基本台帳法20条4項に基づき、依頼者をAとし、請求者を原告とする書面により、Bに係る戸籍の附票の写しが必要である旨の申出をした。
本件申出の前に、橋本市長は、Bから、AをDV加害者とする戸籍の附票の写しの交付等の申出を拒否する支援措置の実施を求める申出を受け、支援措置を開始していた。そこで、原告のBに係る戸籍の附票の写しが必要である旨の上記申出に対し、戸籍の附票の写しを交付しない処分をした(本件処分)。
原告が橋本市長に対し、本件処分が違法であるとしてその取消を求め訴訟を提起した。一審の和歌山地判平成29年6月30日(判時2375・2376・189頁)は、@市町村長は、加害者から申出がされた場合であっても、戸籍の附票の写しを交付する必要性が高く、かつ被害者の保護の見地を含む諸事情を総合考慮した上で交付することに相当性が認められる場合に、支援措置を講ずることとした者に係る戸籍の附票の写しの交付申出に対し、利用目的を適切に審査することなく、加害者による申出(又は依頼者が加害者である申出)であることのみを理由に戸籍の附票の写しの交付を安易に拒絶することは住基法の解釈として許される裁量の範囲を逸脱し、又は濫用するものとして違法との判断を免れない、AAは、Bが代理人との委任関係を修了したことで、Bへの連絡手段を失い、原告が戸籍の附票の写しを取得することによりBの住所を知る以外にA側がBと仏壇等の引取りに関する協議をし、あるいは提訴する手段がないといえ、原告が戸籍の附票の写しを取得する必要性は高いこと、Bは、和解において仏壇等の引取りについてAと協議する旨合意しており、A又はその代理人と協議できる状況を整える信義則上の義務があるのに、代理人を解任して以降、A側との連絡を絶って現在まで協議を拒絶していることからすれば、Aは住基法20条3項1号の「自己の義務を履行するために戸籍の附票の記載事項を確認する必要がある者」に該当し、原告において戸籍の附票の写しの交付を受ける必要瀬が高く、交付することに相当性が認められる可能性が高い事案である、B橋本市長は、弁護士である原告に対し、Bが支援措置の対象者であることを伝え、Bの戸籍の附票の写しをAに交付せず、又はBの住所をAに伝えないよう誓約させる等の方法により、被害者の保護に支障が生じないようにして本件申出の目的を達することも可能であったといえるが、その事情について何らの質問や調査をすることもなく、被害者保護のための措置について原告に質問等をすることもなく、本件申出について相当とは認められないとして、本件処分をしているから、裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用した違法なものであるとして、原告の請求を認容した。
被告橋本市長が控訴。
[判決の概要]
戸籍の附票の写しの交付等の申出を拒否する支援措置の運用については、国が事務処理要領を定めている。各市町村長は、その定めが明らかに法令の解釈を誤っているなど特段の事情のない限り、これにより事務処理要領を行うことが法律上求められている。そして、事務処理要領第6の10によれば、市町村長は、DV等の加害者が、戸籍の附票の写しの交付等の制度を不当に利用して被害者の住所を探索することを防止し、被害者の保護を図ることを目的として、住基法20条4項等の規定に基づき支援措置を講ずるものされている。この事務処理要領は合理性があり、住基法の解釈を誤ったものではない。そこで、市町村長は、DV被害者等の保護のための支援措置を講ずるとした場合には、被害者に係る戸籍の附票の写しの交付については、事務処理要領第6の10に従って運用し、裁量権を行使すべきこととなる。
事務処理要領第6の10は、戸籍の附票の写しの交付については、加害者が判明しており、加害者から申出がなされた場合には、住基法20条3項各号に掲げる者に該当しないとして申出を拒否することとされ、利用目的の厳格な審査の結果、特別の必要があると認められる場合にも、加害者に交付しないで目的を達成することが望ましいとされている。この取扱は、戸籍の附票の写しが交付されることで、被害者の住所等の情報が加害者に知られる事態を可及的に防止しようとするものであるから、合理性があることは明らかである。 また、加害者の代理人に被害者に係る戸籍の附票の写しを交付した場合、代理人を通じて被害者の住所が加害者に知られるおそれが否定できないことから、加害者の代理人からの申出も、原則として本人からの申出に準じた処理がされるのもやむを得ない。そこでAの代理人からの申出であるが、A本人からの申出があった場合に準じた本件処分には、裁量権の逸脱・濫用の違法があるとはいえない。
事務処理要用第6の10には、「ただし、…申出に特別の必要があると認められる場合には、交付する必要がある機関等から交付請求を受ける…などの方法により、加害者に交付せず目的を達成することが望ましい」としており、事務処理要領に付加されている質疑応答(問13)では、この「特別の必要」の意義について、戸籍の附票の写し自体が、請求における利用目的のために必要不可欠のであり、他の手段では代替できない場合とされている。相手方に訴状等の送達をするためには、送達場所を知ることが必要不可欠であり、この場合には戸籍の附票の写し等を利用する必要性がある。特に、高い倫理性が要求される弁護士が代理人となって申出をした場合には、代理人弁護士に対して、戸籍の附票の写しの記載を本人に秘匿する旨の制約を求めるなどの秘匿措置をとり、代理人弁護士がこれに応ずるのであれば、戸籍の附票の写しを交付すべき場合がないとはいえない。しかし、本件申出書に記載された利用目的が訴訟事件の後処理のためBと連絡を取る必要があるというに過ぎないこと、Bが被控訴人からの連絡を受けることすら拒否していること等に鑑みれば、本件処分が、市長の裁量権の範囲を逸脱し、濫用したものということはできない。
以上より、原判決を取り消した上、被控訴人の請求を棄却した。
[ひとこと]
判例時報2375・2376合併号182頁によれば、被控訴人は上告・上告受理申立てしたとのことである。

2018.1.15
ストーカー被害のため非開示の支援措置を受けていたにもかかわらず住所を開示されたことによるプライバシー侵害が認められた事例
[横浜地裁横須賀支部2018(平成30)年1月15日判決 LEX/DB25549223]
[事実の概要]
原告は被害者の配偶者であり、被害者は元交際相手である加害者からストーカー行為を受け、被告である逗子市の住民基本台帳事務におけるDV等支援措置を受けていた。しかし、被告市の担当者は、被害者の夫を装った者に被害者の住民登録上の住所を電話で伝えた(本件情報漏えい)。本件情報漏えいの相手方を通じて被害者の住所を知った加害者により、被害者は自宅にて刺殺された。被害者が本件情報漏えい行為により精神的苦痛を受けたとして、慰謝料請求権を単独で相続した原告が、被告市に対し、国会賠償法1条1項に基づく損害賠償を請求した(慰謝料1000万円及び弁護士費用100万円)。
[判決の概要]
1被害者は、被告市に対して、DV等支援措置を申し出て、同措置の対象者となっていた。被害者の住所は、秘匿されるべき必要性が高く、自己が欲しない他者にはみだりに開示されたくないとの被害者の期待は保護されるべきものであり、プライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。
支援措置の対象者の住所を把握できる市区町村の公務員が、これを問い合わせる者の権限等を確認できる手続を執ることなく、第三者に開示することは許されない。
本件情報漏えいは、そのような手続をとった上でのこととは認められず、被害者のプライバシーを侵害する違法な公権力の行使にあたる。
2被害者は、加害者からストーカー行為をされたことから、支援措置を申し出ていたが、自宅を訪れた加害者に殺害された。被害者は、同措置により第三者に秘匿していた住所を加害者が突き止めたことを知り、精神的苦痛を受けたと認められる。本件情報漏えいに係る被害者の住所は、被害者と加害者との関係においては被害者の生命身体の安全にかかわる重要な情報であったこと等に鑑み、その受けた精神的苦痛は多大であった。被害者の受けた精神的苦痛に対する慰謝料は100万円が相当である。
以上より、慰謝料100万円と弁護士費用10万円の支払の限度で請求を認容した。

2017.11.9
元妻の元夫からのDVを理由とした行方不明者届の不受理の申出を相当とした警察官の厚意により精神的苦痛を被ったとする元夫の県に対する国家賠償請求が棄却された事例
[名古屋地裁2017(平成29)年11月9日判決 判時2372号80頁]
[事実の概要]
原告(元夫)の元妻は原告からの暴力を理由に2012年原告との間の子(2003年生)を連れて別居した。別居当日、元妻はA警察署を訪れ、対応した警察官に対し、原告からの具体的な暴力の被害について具体的に相談するとともに、B(市町村)にも相談しており同日中に避難することになっていることなどを説明した。そして、DV防止法8条の2の援助の措置として、住所又は居所を原告に知られないようにするための措置及び元夫からの行方不明者届の不受理を要望する旨の援助申出書を警察官に提出した。警察官は、同僚や上司と検討した上、援助申出を相当と判断し、A警察署長は援助申出を受理した。翌日、原告はA警察署を訪れ行方不明者届を提出しようとしたが、担当した警察官から受理できない旨説明を受けた。
なお、2015年に原告と元妻は離婚した。
[判決の概要]
原告は、元妻の援助申出の相当性について、警察官は客観的証拠を精査して事実確認をする職務上の注意義務があったが、これらの調査を怠り、漫然と元妻の申出を鵜呑みにして援助申出に相当性があると判断しており、注意義務違反があるとした上、援助申出が受理されたことにより、原告は公的機関から元妻に暴力をふるった加害者として取り扱われ、子の所在、安否を確認することもできなくなり、精神的苦痛を被ったとして、A警察の設置主体である被告愛知県に慰謝料150万円と弁護士費用15万円を請求した。
本判決は、国家賠償法1条1項は、国又は公共団体の公権力の行使にあたる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体が賠償責任を負うことを規定するものであるとした上で(最一判昭和60年11月21日民集39巻7号1512頁)、援助申出の相当性を判断した警察官の対応が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかは、警察官の対応が原告に対して負担する職務上の法的義務に違背したかの問題となると指摘した。
「配偶者からの暴力には、被害者の生命、身体に対する差し迫った危険が存し、警察等の関係機関が緊急に被害者を保護する等の措置を執らなければ、このような危険を防止、回避することが困難である事例が相当数存するといえるところ、(DV防止)法の目的、法第三章が主に関係機関の努力義務を定めていること、(DV防止)法8条の2は、『申出を相当と認めるとき』に援助できることとしていること等を総合すれば、同条は被害者の保護を図るために警察署長等に援助を行う義務があることを定めた規定であって、当該援助の申出の相当性の判断については警察署長等の合理的な裁量に委ねられていると解されるところ、当該援助申出を受理した場合には、その反面において、原告が主張するように、加害者とされる者に事実上の不利益を課すことにもなることから、その判断が著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用していると認められる場合には、加害者とされる者との関係において違法と評価される場合もあり得ると解される。」
本件では、警察官がB(市町村)の担当者から元妻を子とともにシェルターへ避難させる予定であり、元妻が行方不明者届の不受理を要望している等の連絡を受けていたこと、元妻が原告からのDVについて具体的に供述するとともにその日のうちにシェルターに避難することになっている旨述べたこと、警察官が元妻の供述等も踏まえ上司らとともに援助申出の相当性を検討したことなどからすれば、援助申出に相当性があると判断し、A警察署長による受理の手続を執ったことが著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用しているとはいえない。
元妻がDV防止法8条の2の援助を離婚紛争で悪用しようとしたものであるから、援助が相当な場合ではなかったとの原告の主張についても、本判決は、元妻が悪用しようとしていたと認めるに足りる証拠はないし、仮に元妻にそのような意図があったとしても、本件援助の申出の経緯かからすれば、警察官が元妻の意図を把握することが容易であったとはいえないから、警察官が援助申出に相当性があると判断したことが著しく不合理であったとはいえないとして、斥けた。
以上より、原告の請求を棄却した(確定)。
[ひとこと]
判例時報2372号の解説によれば、加害者とされた者から、DV防止法8条の2の援助申出を受理した警察署の設置主体である都道府県に対する損害賠償請求が起こされるようになっており、神奈川県に対する請求を棄却した横浜地裁判決に対する加害者とされた者からの控訴を棄却した判断(東京高判平成26年8月21日(判例集未登載))もあるという。

2017.9.22
別居中の妻等に対するストーカー行為について原判決が有罪認定しなかったGPS機器の取付やビデオカメラの設置等の行為を「見張り行為」等に該当し、ストーカー規制法2条の目的があると推認できるとし、被害者ごとにストーカー行為の一罪が成立するなどとして、原判決を破棄し自判した事例
[福岡高裁2017(平成29)年9月22日判決 LLI/DB L07220462]
[事実の概要]
被告人は、@別居中の妻と妻の交際相手が使用する各自動車にGPSを取り付けたり、妻と交際相手の住居等の付近にビデオカメラを設置したり、妻方付近で妻方の様子をうかがったりして見張りをした、A妻に対し、妻が使用する自動車に張り紙をしたり、メールを送信したりした際の内容から、行動を監視していると思わせるような事項を告げた、B妻の交際相手に対し、同人が使用する自動車に張り紙をしたり、メールを送信したりした際の内容から、行動を監視していると思わせるような事項を告げた、また、義務のないことを要求した、として、2016年改正前のストーカー規制法違反を問われた。
[判決の概要]
原判決(詳細不明)は、被告人の上記複数の行為を認定しつつ、A及びBのみを有罪認定し、@は有罪認定しなかった。ストーカー規制法2条1項にいう「特定の者に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的」について、被告人にとっては不貞行為の調査は許された行為であり、不貞調査に恋愛や怨恨の感情を伴うことをもって2条の目的があるとするのは相当ではないとし、不貞調査として目的の範囲内の行為については、恋愛や怨恨の感情を伴っていても、2条の目的は認められないと解すべきとした。
検察官は、法令適用の誤りないし事実誤認があるとして控訴(弁護人側も理由齟齬として控訴)。
「ストーカー行為は、対象者に不安を覚えさせるとともに、行為がエスカレートして凶悪犯罪に発展し、対象者の身体、自由又は名誉に危害を与える恐れがある行為であり、ストーカー規制法の目的は、こうした凶悪犯罪等を未然に防止し、国民が安全で平穏に暮らせる状態を確保することにある。別居中の配偶者間においては、不貞調査の際の行為に、事実上、2条の目的が認定できる例が多いといえるにしても、ストーカー行為に該当するか否かは、ストーカー規制法違反の罪の他の成立要件によって絞りをかけられているであるから、不貞調査目的の行為であるか否か、その目的の範囲内の行為であるか否かを殊更に考慮する必要はないといえる。」「不貞調査として目的の範囲内の行為については、恋愛や怨恨の感情を伴っていても、2条の目的は認められないとする原判決の判断は、是認できない。」 以上より、事実関係を確認した上で、@ないしBは一連の行為として、被害者ごとにストーカー行為の一罪が成立するとした。
弁護人は、@の行為は機器を用いた監視行為として、ストーカー規制法2条1項1号の「見張り」に該当しないと主張したが、本決定は、同項2号で「監視していると思わせるような」行為をも処罰対象にしていることからすると、電子機器を用いた「監視」といえれば、直ちに同項1号の「見張り」に該当しないという解釈が適切であるとはいえない。監視のための電子機器等の取り付け又は設置が、対象者の住居等付近において行われれば時間的には短い場合が多いものの見張りをしたといえる。また、構成要件上、被害者が「見張り」行為の対象に置かれていることを直接、同時的に知る必要はないことから、GPS機器及びビデオカメラが得られた情報を後の時点で認識するという特徴があるものの、「見張り」に該当しないとはいえない、として、弁護人の主張を斥けた。
本判決は、刑訴法397条1項、382条により原判決を破棄し、同法400条ただし書を適用して破棄自判し、妻に対するストーカー行為及び妻の交際相手に対するストーカー行為を認め、懲役4月執行猶予3年に処するとした(原審における求刑 懲役4月)。

2017.3.16
長期の不法残留となったのは前夫からのDVに遭ったことによるものである上、退去強制令書発付処分等は外国人女性と現在の夫の不利益を無視するものであるとして、退去強制令書発付処分等を取り消した事例
[名古屋高裁2017年3月16日判決 ウエストロージャパン2017WLJPC03166001]
[事実の概要]
韓国籍女性である控訴人が、2002年、短期滞在の在留資格で来日した際に、日本人の前夫と出会い親しくなり、2003年、両親らの反対を振り切って日本人の前夫と婚姻し、2003年、前夫の妻として「日本人の配偶者等」の在留資格への変更を求める申請をしたが、前夫は控訴人に対し暴力をふるい、妊娠した控訴人に堕胎するよう脅迫するなどした。同年中に控訴人は前夫と別居し、離婚した。控訴人は、「日本人の配偶者等」の在留資格への変更の申請を取り下げ、90日間の在留期間更新許可を得たが、手続は主として前夫が行い、控訴人はどのような手続を踏んだらいいかもわからない状態であった。
同年、控訴人は現在の夫と知り合ったが、夫は年齢差等を気にし、控訴人は前夫のDVにより強い男性不振に陥っていたため、両者が男女の交際を開始したのは2010年ころからであった。夫は、債務が過払いであり借財もないと判明した2013年、控訴人にプロポーズし、両者は婚約したが、韓国での前夫との離婚手続が未了になっていたことが判明し、必要書類を整えるのに手間取ったこともあり、両者の婚姻が成立したのは、2013年12月となった。2014年1月、控訴人と現在の夫は入管に出頭し、控訴人の不法残留への対応をしようと考えていたが、その予定した日の前前日に、控訴人は、臨場した警察官に入管法違反の嫌疑で逮捕された(判決中、「不法残留者が行政書士を伴い入管への出頭を予定していた直前に検挙に至った例が他にも存することは、当裁判所に顕著である」とされている)。
[判決の概要]
入管法49条1項に基づく異議の申出に理由がないとした入管局長の裁決は、女性が日本人前夫から酷いDVをふるわれ、堕胎まで強要されたために、短期間で婚姻関係が破綻し、別居及び離婚を余儀なくされるなどしたことから、やむにやまれず長期の不法残留となった事情を敢えて無視したものである上、現在の夫との婚姻に至るまでの長い経緯や真摯な夫婦関係の実質をみようともせず、当該女性を帰国させることによる夫婦両名の不利益を無視又は著しく軽視したものである等として、裁量の範囲を逸脱又は濫用した違法があり、裁決を前提とした退去強制令書発付処分も違法であるとして、女性の請求を棄却した原判決を取り消し、裁決及び処分を取り消した。
[ひとこと]
裁判長は、東京地裁民事3部の部総括であった2001年、収容されていたアフガニスタン難民5人の収容執行停止を認めた判断などで著名な藤山雅行裁判官である。

2017.2.24
校長宛の手紙を渡す目的で学校を訪れる等した行為を保護命令で禁止された「はいかい」に該当しないとして原判決を破棄し無罪を言い渡した事例
[東京高裁2017(平成29)年2月24日判決 判タ1440号159頁、LEX/DB25547479]
[事実の概要]
子への接近禁止命令(以下、「本件保護命令」という)を受けていた父が、長男が就学する学校付近をはいかいし保護命令に違反したとして、東京地方裁判所は、2016年4月8日、保護命令違反罪が成立すると判断し(DV防止法29条、10条3項)、懲役4月、2年間の執行猶予を言い渡した。
[判決の概要]
DV防止法10条3項の子に対する接近禁止命令の趣旨は、「被害者に対する接近禁止命令の効果が減殺されることを防ぐことにより、被害者本人の身体に対する更なる暴力を防止することにある」。
「「はいかい」の字義は、「どこともなく歩き回ること、ぶらつくこと」(広辞苑第六版)、あるいは「目的もなく、うろうろ歩き回ること、うろつくこと」(大辞林第三版)などとされ、DV防止法案の国会審議等においても、上記字義に沿った説明がされているところである。」
「そして、DV防止法10条の前期趣旨、目的に照らせば、子に対する接近禁止命令は、被害者の子の身辺につきまとうことのないように、それによって被害者に配偶者との面会を余儀なくさせるような行為を禁じたものであって、前記用語の字義からしても、DV防止法10条3項及びこれに基づく子に対する接近禁止命令における「はいかい」とは、理由もなく被害者の子の住居、就学する学校その他通常所在する場所の付近をうろつく行為、をいうものと解するのが相当である。」
「そうすると、子に対する接近やこれを手段とした被害者への接近の目的がある場合は格別、それ以外の目的で、子の通常所在する場所の付近に赴き、当該目的に必要と認められる限度で同所に所在する行為は、「はいかい」には当たらないというべきである。」
校長宛ての手紙を渡す目的で、学校を訪れ、正門から敷地内に入り、エントランスロビー内で手紙を教頭に渡した後、教頭に見送られて、学校を後にするまで約8分間学校の敷地内に滞在したという行為は、「理由もなく長男の通常所在する場所の付近をうろつく行為」には当たらず、本件保護命令で禁止された「はいかい」には該当しない。
原判決を破棄し、被告人に無罪を言い渡した。
[ひとこと]
外形的には子への接近行為であっても、目的等に踏み込み、「はいかい」に当たるかどうか判断したものである。子に対する接近禁止命令のみならず、被害者に対する接近禁止命令の「はいかい」の意義にも影響が必至であり、被害防止の実効性が揺らぐのではないか、懸念される。

2016.8.3
かつて同棲した女性に対し23回にわたり電子メールを送信しその害する事項等を告げるなどした行為について、ストーカー規制法違反が成立すると判断した原判決に事実誤認がありストーカー規制法は不明確な刑罰法規で違憲無効であると主張した控訴を棄却した事例
[東京高裁2016(平成28)年8月3日判決 判タ1438号117頁]
[事実の概要]
被告人は被害女性とかつて交際し2010年からは同棲し、正月やお盆等に家族や親戚が集まる際に被害女性を同伴するなどし、結婚話を持ちかけもした。しかし、2012年10月末以降、両者は別居したが、被告人は冷却期間と考え、数ヶ月間被害女性との連絡を完全にたった。しかし、2014年6月ころ以降、被告人は被害女性に対し、連日にわたり、1日20通以上ものメールを送信したり、応答しないことがわかりながら何度も電話をかけたり、同年8月には夜間女性の住むアパート前まで行って金返せ、家電を返せと騒ぐなどした。同年10月、被害女性に対する民事訴訟を提起した後、訴訟の追行を代理人に委ねるも、2015年2月ころ以降、GPS発信機をレンタルし、女性の使用車両に取り付け、その行動や所在を把握しようとし、把握したことをほのめかすメールを送信したりした。
同年4月下旬及び6月中旬、被害女性の相談を受けた警察官から注意を受けながらも、被告人は被害女性に対するメールを継続した。2014年6月から2016年7月にかけて被告人が被害女性に送信した電子メール性は約2000通に及ぶが、公訴事実は警察から注意を受けながらも継続した約23通の電子メールの送信である。
[判決の概要]
1恋愛感情等を充足する目的はなかったか
弁護人の控訴趣意は、被告人が電子メール等を送信した目的は、被害女性から家電製品等の返還等を求めることに尽き、恋愛感情等を充足する目的はなかったとして、ストーカー規制法13条1項違反が成立するとした原判決(東京地裁2016(平成28)年2月23日未公表)には事実誤認があるとした。
しかし、被告人が過去において被害女性に対し恋愛感情等を有していたことは明らかであるし、長期間にわたる頻回の連絡やGPS発信機等を用いた行動調査は、金員等の返還を求めるという目的との関係では明らかに過剰であり、関連性も薄い。電子メールの内容もあわせて考慮すれば、かつて内縁関係にあり別居後も半年は復縁したいと考えていた被害女性に対する恋愛感情の他の好意の感情が充たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的によるものであったと認めることが相当である。またこれらの感情は、被害女性から金員等の返還を求める目的と併存しうる等として、事実誤認の論旨は理由がないとした。
2規定が曖昧不明確で違憲無効か
弁護人は、「好意の感情」などというものは、曖昧な概念であり外縁を画することが困難な概念である等と主張し、ストーカー規制法13条1項はあいまい不明確であり、規制範囲が過度に広範になるおそれがあるから、違憲無効である、として、法令適用の誤りを主張した。
しかし、ストーカー規制法において構成要件上必要な、「好意の感情」等を充足する目的とは、単に一般的に好ましいという感情だけではなく、相手方がそれにこたえて何らかの行動をとってくれることを望むという意味での「好意の感情」であり、かつ、それを充足する目的が存在すると認められる必要があると解される。この意味における「好意の感情」は明確であり、「充足する目的」も加わり、規制対象が過度に広範になるとの主張は採用し得ない、等として、法令適用の誤りの論旨は理由がないとした。

2016.7.5
ストーカー規制法の「身体の安全、住居等の平穏…が害され…るような方法」「反復して」に該当するか否かが争点となった事案についてこれに当たらないとして無罪とした原判決を破棄しいずれの要件も満たすとして有罪の判断をした事例
[福岡高裁2016(平成28)年7月5日判決 判タ1431号138頁 LLI/DB L07120325]
[事実の概要]
被告人は、知人A(37歳)に対する恋愛感情その他の好意の感情を充足する目的で、Aの居住するマンションに立ち入り、以下の行為などをした。@朝方、A方玄関前に押し掛け、AAに面会を要求し、B同日から翌日にかけて、Aに拒まれたにもかかわらず連続して6回電話をし、C翌日、再度A方玄関前に押しかけ、DAに面会を要求し、E翌々日頃、面会党を要求する内容の手紙を投函してAに読ませた。行為自体に争いはない。
原判決は、被告人が警備員を殴打するなどしたことにつき威力業務妨害罪、生活保護受給中に実際の収入額を届け出ず、生活扶助費等の返還を免れたことにつき詐欺罪の成立を認め有罪としたが、上記の一連の行為については、ストーカー行為に当たるとは言い切れず、マンション内に立ち入った行為も邸宅侵入に当たらないとして被告人を無罪にした。
検察官が控訴。
ストーカー規制法は、同法2条1項各号は特定の行為を「つきまとい等」として定義し、同条2項は「つきまとい等」を同一の相手に反復することを「ストーカー行為」と定義する。「つきまとい等」は、警察本部長等の警告(4条)、公安委員会の禁止命令(5条)の対象となるに留まり、同法が刑事罰の対象とするのは「ストーカー行為」のみである(13条1項)。「つきまとい等」のうち一部の類型には要件が加重されており、反復に加え、身体の安全、住居等の平穏が害されるなどの不安を覚えさせるような方法でなされた場合のみが「ストーカー行為」に該当する(2条2項、1項1号ないし4号)。
被告人の@からDの行為が「つきまとい等」にあたることは明らかであるが、これらの行為が「ストーカー行為」に該当するか、具体的には、@C(2条1項1号)、ADE(2条1項3号)が身体の安全、住居等の平穏が害されるなどの不安を覚えさせるような方法でなされたか、一連の行為が「反復」されたと評価できるか、が争点である。原判決はいずれも否定した。なお、Bの連続架電行為は、身体の安全、住居等の平穏が害されるなどの不安を覚えさせるような方法は要件となってない(2条2項)。
[判決の概要]
Aは3月下旬ころ被告人に「友人としての付き合いもやめたい」などと告げ、4月4日に「もう会わない、電話もしてこないで」などと述べたことを最後に、被告人からの電話やメールに応答しなくなったものであり、@Aに際し初めて拒絶を示したわけではなく、原判決の要約は不適切である。Aが住むマンションはオートロック式であり、被告人は@Cにおいて、他の居住者による出入りに合わせてオートロックをすり抜け、Aの居室前に至っている。本来なら立ちいれない場所まで押しかけることは、身体の安全や住居等の平穏を害される不安を増大させる要素であるが、原判決はこれを検討していない。ADについても同様である。Eの手紙は、今後も顔を合わせることがありうることを暗に示しているし、送付される以前の@Aの行為に対し、Aから明確に拒絶の態度を示され、Bの連続の電話もし、再度の押しかけに(CD)にも、明確に拒絶をされていたがその直後に送付したことにも、原判決は不十分な考察しかしていない。
一連の行為に強い不安を覚えた旨のAの供述は、行為の態様や時期等に照らしてよく理解出来るところであるし、Aは@Aの当日に警察にも相談していることとも符合する。そうすると、@ACDEは、不安方法で行われたというべきである。
また、@C、ADE、6回の電話(B)と、それ自体多数回に及ぶだけではなく、数日内に連続して行われているから、これらが反復してなされたと評価できる。
以上より、@ないしEは規制法2条1項1号、3号、5号、同条2項に該当し、同法違反の罪(13条1項)が成立する。
また、@、Cの行為が住居の平穏を害することが明らかであり、邸宅侵入罪(刑法130条前段)が成立する。

2016.3.15
差戻し後の児童買春児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に係る法律違反等の追起訴が検察官の訴訟裁量を逸脱するものではないとされたストーカー殺人事件
[東京地裁立川支部2016(平成28)年3月15日判決 季刊刑事弁護89号166頁、LEX/DB25542693]
[事実の概要]
被告人は、2013年1月ころ、被害者から別れを切り出されたが、被害者の裸の画像等を流出させるとほのめかして交際の継続を迫った。しかし、関係の修復が困難であると認識しつつ未練を断ち切れず、同年7月中旬ころには被害者を殺害しようと考えるようになった。さらに、被害者を社会的にも失墜させようと考えるようになり、裸の画像等をインターネット上に流出させようと考えるに至った。
被告人は、インターネット上のアダルトサイトを介し、某運営者が使用するサーバーコンピューターのハードディスク上に被害者の画像データを記録保存させた上、不特定多数のインターネット利用者が閲覧できる設定にし、上記ハードディスクを使用して運営されている交流サイトツイッターのアカウントのタイムラインに、画像データの所在を特定する識別番号を投稿し、同交流サイトFacebookのアカウントのウオールにも「被害者さん、借りを返すよ」等の文言とともに前記投稿を特定する識別番号を投稿した。さらに、インターネット上の掲示板にも、「恨みがありました」等の文言とともに画像データを特定する識別番号を投稿した。
被告人は、被害者を殺害する目的で、同年10月、被害者の自宅の窓から侵入して6時間にわたって潜伏し、帰宅して被告人に気づき逃げ出した被害者の右頸部及び腹部等を持っていたペティナイフで多数回突き刺すなどして、失血により死亡させた。
  2014年8月1日、被告人は、差戻し前の一審判決において、住居侵入、殺人、銃刀法違反として、懲役22年の判決を受けた。被告人のみが公訴したところ、2015年2月6日、東京高裁は、上記一審判決が、起訴されていない画像投影行為を実質的に処罰する趣旨で量刑判断を行った疑いがあるとして、同判決を破棄し東京地方裁判所に差し戻した。同年7月、遺族は画像投影行為に関する告訴状を東京地検立川支部に提出し、受理され、同年8月、児童買春及び児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に係る法律違反として追起訴された。
[判決の概要]
差戻前の東京高裁平成27年2月6日判決は、東京地裁立川支部平成26年8月1日判決について、起訴されていない画像の投稿について主張立証を行うことの当否、範囲や程度を議論された形跡は見当たらず、裁判官による論点整理や審理の進め方に誤りがあったとして、東京地裁立川支部に差し戻した。
1 公訴権濫用についての判断
弁護人は、差戻し後に画像等の投稿について検察官が追起訴したことは、時機に後れた訴追権の行使であり、被告人の迅速な裁判を受ける権利を侵害するものであり、訴追裁量を逸脱し違法であるから公訴棄却されるべきと主張した。
この点、本判決は、本件追起訴は非親告罪であり、捜査機関において当初より把握、訴追が可能な事件ではあったが、事件の性質、内容を踏まえれば、起訴するか否かの判断に関し、遺族の意向は当然考慮されるべき事情であったところ、遺族の意向は、控訴審判決を受けて変化したのであり、このような経緯からすれば、差戻し後の追起訴を無効とすべきとはいえないとした。さらに、追起訴事件に係る基本的な事実関係は差戻し前においても一定程度審理されていたのであるから、防御の負担も大きいものとはいえないし、控訴審判決及び追起訴から公判期日に至るまでの期間の長さ、期日間整理手続の具体的な経過からすれば、追起訴が迅速な裁判を受ける権利を侵害するものとはいえないとした。
2 量刑の理由
殺害行為の態様は執拗かつ残酷である。また、殺害の前後には、被害者の性的な画像等を被害者の顔とともに投稿し、複数のサイトに投稿を重ねるなどして閲覧数を増やした。相当不特定多数者に閲覧され、その抹消は困難であり、被害者の尊厳をはなはだしく傷つけた。また、犯意は非常に強固であり、犯行は計画性がある。
弁護人は、被告人の不遇な成育歴が心理的問題を生じさせ動機形成に影響を与えた、画像の投稿は自己の存在証明であった等と主張した。しかし、画像には被告人の氏名や画像は含まれていないことや投稿の内容等からして、その行為の主だった動機は、殺害だけでは飽き足らず、被害者の尊厳を傷つけることになったとみられる。被害者に格別の落ち度がない経緯からすると、成育歴が動機形成に与えた影響を情状として重視することはできない。
その他の情状にも言及した上で、被告人を懲役22年(未決勾留日収中200日参入、ペティナイフ1丁没収)に処するとした(求刑懲役25年、ペティナイフ1丁没収)。
[ひとこと]
三鷹ストーカー殺人事件といわれる、痛ましい事件である。この事件を機に、私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律(いわゆるリベンジポルノ禁止法)が2014年11月成立した。
本件につき、被告人側、検察側双方が控訴したが、東京高裁平成29年1月24日判決は、いずれも棄却した。検察、被告人側はともに上告せず、2017年2月8日、判決が確定した(毎日新聞2017年2月9日朝刊近松仁太郎記者)。

2016.1.15
夫が提起したDVの慰謝料請求の基本事件を、後に夫が提起した離婚及び損害賠償(慰謝料)請求の別件事件の係属する家庭裁判所へ移送することを妻が求めたのに対し、基本事件を移送して別件事件と併合することはその解決を遅延させる可能性が高い上、あえて別個に提起した相手方の意思にも反するとして、移送申立てを却下した事例
[東京地方裁判所2016(平成28)年1月15 日判決 判時2299号124頁]
[事実の概要]
夫は妻から暴力をふるわれたと主張して、そのことだけを理由として損害賠償請求(慰謝料)の支払いを求めて訴訟提起をした(基本事件)。夫は更に続けて、別件訴訟として離婚訴訟と不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)の支払を求める訴訟を提起した。
妻は、夫が基本事件で主張する慰謝料請求の原因と、別件事件で主張する慰謝料請求の原因とはほとんど同一の関連損害賠償請求事件であるとして、基本事件の移送を申し立てた。
[判決の概要]
基本事件は、別件事件との関係で、人事訴訟法8条1項にいう関連損害賠償請求事件であると認められる。
もっとも、基本事件と比較して別件事件の場合は暴力が行われたとされる日以前の暴力や罵倒等の有無、別居に至る事情及び別居の経過等についても争いがあり、基本事件を移送しないで別々に審理した方が早期解決に至る可能性が高い。
また、相手方は、基本事件において主張する暴力の事実だけを早期に確定する目的のもとに両事件を別個に提起したものである。そうすると、基本事件を東京家裁に移送し別件事件と併合して審理することは、基本事件の解決を遅延する可能性が高く、別個に訴訟提起した相手方の意思に合致しないこと等から、相当ではない。
以上より、本件移送申立てには理由がないとして、却下した。
[ひとこと]
判例時報の解説には、「離婚紛争の過程における暴力等の評価に関しては、それだけを切り離して早期に解決することがそもそも可能なのか、妥当なのかは議論の余地があり得ようし、人事訴訟事件における処分権主義の扱い等問題を多く含んではいるが」、一つの事例として紹介するとある。

2015.11.25
ストーカー行為によりPTSDに罹患して通院及び休業を要し、転居を余儀なくされた女性から元交際相手への損害賠償請求のうち慰謝料50万円等合計90万円余を認容した事例
[東京地裁2015(平成27)年11月25日判決 LLI/DB L07031152]
[事実の概要]
X(女性)は,Y(男性)と2011年3月から交際したが、2014年8月末に関係を解消した。しかし、その後もYは、Xに対し交際を継続するよう要求し続け、繰り返し電子メールを送ったり、Xの住居に押しかけたりした。Xは勤務先の寮に居住していたため、同僚に迷惑をかけたくないと、Yに面会することもあったが、交際を継続する意思はない旨伝えた。これに対し、Yは暴言を吐くなどした。同年11月、XがYに連絡を取るのは最後にしたいとのメールを送ったところ、YがXの住居に押しかけたことから、Xは警察に保護を求めた。警察は、Yに対し、Xに電話をかけたりメールを送ったりしないよう、注意を与えた。それにもかかわらず、その翌日から翌々日までの間に26回にわたり深夜早朝にもメールを送信し、また18回にわたり電話をかけ、Xの勤務先前路上にて待ち伏せをした(本件ストーカー行為)。
Yは同年12月、ストーカー行為等規制法違反として起訴され、2015年1月、公訴事実を全て認めた上、同年2月、有罪判決を受けた。
[判決の概要]
1不法行為の成否について
被告は、本件ストーカー行為に至る経緯につき、原告が被告に任意で面会した等と主張し、不法行為は成立しないと争ったが、判決は退け、原告の人格権を侵害するものであって、不法行為が成立するとした。
2損害額について
ストーカー行為に至る経緯、ストーカー行為の具体的内容、ストーカー行為を契機として原告が心身に変調を来し約1か月間の通院治療を要したこと、転居を余儀なくされたこと、被告が刑事訴訟では公訴事実を全て認めたにもかかわらず本件訴訟ではこれを争い、さらに訴訟係属中に原告の代理人に原告を誹謗中傷する内容の手紙を送ったこと等、一切の事情を総合考慮して、慰謝料を50万円の限度で認めた(請求額500万円)。
その他、治療費、休業損害、引っ越し費用、弁護士費用のそれぞれ一部を認め、被告に対し、合計90万4,709円の支払いを命じた。

2015.10.8
元交際相手に対する傷害事件で執行猶予付有罪判決を受けた後その元交際相手を殺害した行為につき懲役17年に処した事例
[横浜地裁2015(平成27)年10月8日判決 LEX/DB25541763]
[事実の概要]
被告人は、交際していた被害者に対する傷害事件で2013年懲役1年執行猶予4年の判決を受け、交際を解消していたが、その後も被害者に好意を持ち続け、たびたび連絡をとるなどし、接触することもあった。2014年、被告人は被害者と電話で口論となった後、被害者方に押しかえた。その後2人でホテルに移動した後、被害者がホテルの従業員に助けを求めたことに腹をたて、その頸部を両手で締め付け、さらに顔面頸部等をホテルの室内にあったはさみで多数回突き刺し、失血死させて殺害した。
[判決の概要]
争点のひとつとなった殺意の有無について、弁護人は、被告人は睡眠薬等の服用や飲酒の影響などにより、自己の行為の危険性が理解できていなかったとして争い、傷害致死に留まると主張したが、判決は、駆け付けたホテルの従業員や警察官の供述等各証言から、被告人に殺意があったことは合理的な疑いを差し挟む余地なく認められるとした。
さらに、弁護人は被告人が軽度精神発達遅滞及び睡眠薬等の服用や飲酒の影響で心神耗弱の状態であったと主張したが、判決は、精神科医による鑑定結果等を踏まえて、単純酩酊の状態にあったのみであるとして、否定し、完全責任能力があったとした。
その上で、犯情に照らし、「本件犯行は、動機が男女関係、突発的だが強固な殺意を有する刃物を用いた単独犯の殺人罪の事案の中においても、重い部類に属する」として、懲役17年(未決勾留日数200日算入)に処するとした(検察官の意見懲役18年、弁護人の意見懲役3年6月)。
[ひとこと]
裁判員裁判事件である。

2015.8.24
元妻と子らに対し、施錠されている玄関ドアの隙間から室内に向かって拳銃で弾丸1発を発射し、居室内廊下の床に命中させるなどして脅迫、建造物損壊、銃刀法違反等の罪に問われた被告人に懲役6年の実刑を言い渡した事例
[横浜地裁2015(平成27)年8月24日判決 LEX/DB25541164]
[事実の概要]
@被告人(当時49)は、元妻(当時42)と離婚後も同居や別居を繰り返していたが、元妻に対して、些細なことに腹を立てて肩をつかんで引っ張るなどの暴行を加えた。
Aその後、元妻は、長男(当時15)及び長女(当時12)と共に、被告人から避難して暮らしていた。被告人は、元妻らの所在を元妻の実父(当時79)及び実姉(当時50)から聞き出そうとしたところ、実父らがこれに応じなかったため、腹を立て、実父らに対して拳銃様のものを突き付け、「てめえら覚悟しろ、まだわからねえのか」「ぶち抜かれてえのか」などと怒号し、脅迫をした。
B被告人は、さらに、元妻、長男、長女が在室しているマンションに赴き、ドアロックが施錠されていることに腹を立てて、「開けろ」などと怒号し、ドアガードで施錠されているドアの隙間から居室内に向かって拳銃で弾丸1発を発射し、居室内廊下床に命中させ破損させた。
以上について、被告人は、@につき暴行、Aにつき脅迫、Bにつき建造物損壊、示兇器脅迫、拳銃加重所持の事実について、それぞれ起訴された。
[判決の概要]
被告人は、いずれの公訴事実も認めたものの、@については被害者である元妻に処罰感情がないこと、A、Bの各犯行の際に飲酒の影響下にあったことを量刑上考慮すべきと主張した。
判決は、@〜Bいずれの事実も「軽視すべきではない」「悪質な態様」であるとともに、「短絡的な動機に基づくものであ」り「犯情も良くない」とし、飲酒の影響の主張については「被告人が飲酒していた可能性は否定できないものの、・・飲酒の影響は、これがあったとしても被告人の刑事責任の評価を左右するものではない。」として、「被告人の行為に基づく刑事責任の程度は相当に重い」と結論付けた。
これに対し、「公判廷において、今後は、犯行の原因となった飲酒を控え、罪を償ってまじめに更生したい旨を述べていること、元妻が被告人の反省の状況次第で再度被告人と一緒に暮らしてもよい旨証言していることなど被告人の更生にとって一定程度評価できる事情もある」と、プラスの事情も評価し、求刑8年に対し、懲役6年の実刑判決を言い渡した(未決勾留日数90日)。

2015.7.1
約6年間にわたり交際関係にあった女性から別れを告げられたが未練を断ち切れずつきまとい行為等をしたことについて抗議をした女性を殺害し死体を遺棄した被告人が懲役16年に処せられた例
[東京地裁立川支部2015(平成27)年7月1日判決 LEX/DB25540906]
[事実の概要]
被告人は、約6年間にわたり交際関係にあったAから別れを告げられたものの未練を断ち切れず、Aの携帯電話の位置情報を確認してその動向を探り、Aが新しい交際相手と歩いていたところに自動車で接近した。そのつきまとい行為等に抗議するために被告人方を訪れたAに対し、殺意をもってその頸部を手で絞めつけ、窒息により死亡させた上、下位を浅川河川敷側溝に投げ捨て、もって死体を遺棄した。
[判決の概要]
弁護人は、被害者Aが被告人に対し包丁を突き出し、先に被告人に対し攻撃した等と主張したとし、過剰防衛の成否が争点となった。判決は、目撃証言から、負傷していた被害者が被告人方から同踊り場まで逃げ出し、助けを求めていた事実を認めるとともに、被害者の怪我が筋肉に達していたこと、被告人に防御創が認められないこと等から、過剰防衛の成立を認めなかった。弁護人は、LINEでのやりとりや、被告人のことを「殺そう」と友人に対して発言していたこと等から、被害者が被告人に対し強い敵意等を抱いており、被告人に対して包丁を突き出したことが裏付けられるとしたが、判決は、「LINEでのやりとりや友人との会話において、そのときの感情を過激に表現してしまうことがあったとしても、それと実際に人を殺そうというのは、一段次元の異なる心理状態である」等として斥けた。

2015.3.18
元交際相手に対する恋愛感情が満たされないことに思い悩み、元交際相手とその実母を殺害し、元交際相手の子に傷害を負わせた被告人に対し、無期懲役を言い渡した事例
[名古屋地裁2015(平成27)年3月18日判決 LEX/DB25506172]
[事実の概要]
元交際相手であるVに対する恋愛感情が満たされないことに思い悩み、V居宅に侵入した被告人は、そこで居合わせたV母を果物ナイフで胸部を1回突き刺すなどして殺害した。V母を殺害したことで後戻りできないと考え、被告人は「Vを殺して自分も死のう」と決意し、Vとその子(2歳)が帰宅すると、Vに馬乗りになってひもで頸部を締め付け、果物ナイフで胸部を2回突き出して殺害した。V殺害中に、背後から近付いてきた子を追い払おうと、フライパンでその顔面を殴りつける暴行を加え、傷害を負わせた。
被告人は住居侵入、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反で起訴された(裁判員裁判)。
[判決の概要]
被告人は、公判においてV母に対する殺意の有無、子を殴った際に対象が人であることの認識の有無を争った。判決は、「あらかじめ自分が用意した果物ナイフでV母の左前胸部を相当な力で突き刺していることからすれば、被告人は自分のしていることがV母の死の危険を招くものであることを認識していたものと認めることができる」としてV母に対する殺意を認定した。また、被告人が「子の存在を十分認識していたこと、犯行当時、犯行現場である室内には子以外に気配を感じさせるようなものは存在しなかったことからすれば、被告人は背後に感じた気配が子だと分かった上でこれを追い払おうとフライパンを振って殴りつけたものと認められる」として、子に対する対象が人であることの認識も認めた。以上より、被告人には、V及びV母に対する殺人罪及び子に対する傷害罪が成立するとした。
量刑考慮においては、「刃物類を用いた単独犯の殺人事件のうち、2名以上殺害した事案の量刑傾向を参照すると、加害者に対する責任非難を軽減する特段の事情の無い限りは有期懲役ではなく無期懲役となる傾向が見て取れる」として、「2名の人命を奪った結果は誠に重大である。目の前で自分の母親が殺され自らも額に痕が残る傷を負わされた幼い子の将来への影響も懸念され、遺族の処罰感情が厳しいのももっともであ」り、被告人には「有期懲役とするほどの特段の以上は見当たらないから、無期懲役に処するのが相当である」として、求刑通り無期懲役を言い渡した。

2015.1.20
ストーカー殺人事件の被害者の住所を市役所から不正に入手したとされた元探偵業の被告人に執行猶予付き有罪判決が言い渡された事案
[名古屋地裁2015(平成27)年1月20日判決 LEX/DB25505781]
[事実の概要]
被告人は殺害された女性にストーカー行為を繰り返していた元交際相手の依頼を受けた別の探偵に頼まれ、逗子市総務部納税課に女性の夫を名乗って電話し、女性の夫になりすまして納税通知に関する問い合わせする権限がるかのように装って住所を聴き出した。被告人は探偵に住所を伝え、報酬を受け取った。
その翌日、元交際相手は女性を殺害した(逗子ストーカー殺人事件)。
被告人は上記と他2件の事実により起訴された。
[判決の概要]
被告人は「納税課ではなく、国民健康保険課にかけたが、情報は入手できなかった。探偵には、女性が住んでいる建物には▲室と□室がないことがわかっていたので、□室と回答した」と主張し、公訴事実を否認した。
しかし、判決は、被告人の供述が変遷していることや、国民健康保健課に女性の個人情報が照会されていなかったこと等から、被告人の供述を信用できないとし、「偽りの苦情を述べるなどして苦情に対応する相手方の動揺や心情につけこんだ」各犯行は「巧妙で悪質」であり、「常習的犯行」で刑事責任は軽くないと指摘し、「想定外とはいえ、入手した情報をもとに新たな犯罪が起きた」と逗子ストーカー殺人事件にも言及した。
3件につきいずれも不正競争防止法違反、偽計業務妨害罪の成立を認めた上で、今後は調査業は営まないと述べていること等を踏まえ、懲役2年6月執行猶予5年(求刑3年)の判決を言い渡した。

2014.3.17
複数の被害者に対するストーカー行為等規制法違反、強要未遂、脅迫事案につき、懲役2年、執行猶予4年が言い渡された事例
[東京地裁立川支部2014(平成26)年3月17日判決 LEX/DB25503264]
[事実の概要]
1被告人は、共犯者Aと共謀の上、Aの被害者Bに対する恋愛感情等が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、
(1)7回に渡り、B宛てに文書等を送り、その名誉を害する事項を告げる等した。
(2)Bの妹C宛に、必ず指定したメールアドレスにメールすること、メールがなければBの妹の子らが「大変困ることになる」等を告げたが、Cは警察に届け出た。
(3)CとBの姪D宛に4回に渡り封書を送り、著しく不快・嫌悪の情を催させるものを知りうる状態にした。
2 被告人自身のEに対する恋愛感情等が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、
(1)Aと共謀の上、2回に渡り、E宛に文書等を送り、その名誉を害する事項を告げる等した。
(2)Fと共謀の上、E宛に性的羞恥心を害する図画を送付し、著しく不快・嫌悪の情をもよおさせるものを送付した。
3 Gと共謀の上、
(1)H宛に、「貴方に連絡させていただいたのは、ある方の復讐代行依頼を当社が請け負うことになったためです」、期間内に連絡がない場合は「行動に移させていただくことになります」等と記載した文書を送ったが、Hは警察に届け出た。
(2)H宛に、「俺はお前を復讐するためだけに生きてきた」等と記載した書面を送った。
[判決の概要]
1被告人は、共犯者Aと共謀の上、Aの被害者Bに対する恋愛感情等が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、
(1)7回に渡り、B宛てに文書等を送り、その名誉を害する事項を告げる等した。
(2)Bの妹C宛に、必ず指定したメールアドレスにメールすること、メールがなければBの妹の子らが「大変困ることになる」等を告げたが、Cは警察に届け出た。
(3)CとBの姪D宛に4回に渡り封書を送り、著しく不快・嫌悪の情を催させるものを知りうる状態にした。
2 被告人自身のEに対する恋愛感情等が満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、
(1)Aと共謀の上、2回に渡り、E宛に文書等を送り、その名誉を害する事項を告げる等した。
(2)Fと共謀の上、E宛に性的羞恥心を害する図画を送付し、著しく不快・嫌悪の情をもよおさせるものを送付した。
3 Gと共謀の上、
(1)H宛に、「貴方に連絡させていただいたのは、ある方の復讐代行依頼を当社が請け負うことになったためです」、期間内に連絡がない場合は「行動に移させていただくことになります」等と記載した文書を送ったが、Hは警察に届け出た。
(2)H宛に、「俺はお前を復讐するためだけに生きてきた」等と記載した書面を送った。

2014.2.5
継続的に虐待を受けていた原告が、被告から暴行を受け、マンションのバルコニーから転落して傷害を負ったことにつき、被告は原告に対して暴行を加えることによって原告が自殺を図ることを予見することができたというべきであり、暴行と事故によって原告に生じた損害との間には相当因果関係があるとして、請求を認容した事例
[札幌地裁2014(平成26)年2月6日判決 LEX/DB25503000]
[事実の概要]
専門学校生であった原告(1987年生)は、交際相手の会社員被告(2009年1月当時21歳)と、2008年5月ころから交際を始めた。
原告は、ミクシィにて、被告から暴行を受けたことをたびたび記載するとともに、ミクシィを利用して交際者からDVを受けていることを告白して友人を募集していた者(A)に対し、自分もDVを受けていることを内容とする電子メールを送信した。また、原告は、友人たちに、被告から暴行を受けてできた打撲痕などをみせることもあった。原告は、怪我の治療を受け、担当医師に、男性から足蹴にされた旨訴えた。また、原告は、被告の携帯電話機に「もうたえられない」「お願いだから別れて下さい」等のメールを送ったことがあった。被告は原告が顔等に湿布を貼ったところを写真に撮ったり、「早くケガ治して」等怪我をしていること前提としたメールを送ったりしたこともあった。
2009年1月7日、被告が原告方居室を訪れた後、原告はマンションの14階非常階段に通じるバルコニーから地上にある駐車場に転落した。被告が119番通報し、原告は救急搬送され一命を取り留めたものの、外傷性脳損傷等の傷害を負ったほか、低酸素脳症を発症し、身体障害者等級1級の認定を受けた。
原告は、2011年、札幌家庭裁判所による成年後見開始の審判を受け、父が成年後見人に就任した。
父は、2008年8月5日の傷害について、被告を告発したが、不起訴とされた。父は、検察審査会に審査を申し立てたところ、不起訴処分を不当とする議決がなされた。その後同日の傷害について罰金20万円に処する旨の略式命令が発せられ、同命令は確定した。
原告は、原告が被った損害は、被告から継続的に暴行を受け、2009年1月7日にも被告から暴行を受けた後、被告が原告を非常階段に追い詰め、転落に至る状況を作出しながら防止しなかったか、又は、一連の暴行等により、精神的に追い詰められ飛び降り自殺を図ったために、発生したものであるとして、不法行為に基づき、損害賠償を請求した事案である。
[判決の概要]
被告は、原告が主張した継続的な暴行等のうち、2008年8月5日の暴行と同年10月13日の携帯電話を損壊したことのみを認め、その余は否認した。判決は、2件の暴行については認めなかったものの、被告が署名押印した検察官調書、警察官調書での被告の供述や、原告のメール、ミクシイ上の記載、病院の医師が原告から聴取した内容等から、14件の暴行等の事実を認定した。
被告が原告をバルコニーまで追いかけて逃げ道を塞ぐなどした事実は認められないとして、被告に転落防止義務違反があったとの原告の主張を斥けた。
原告のミクシイやメールの記載等から、被告が原告の外出や喫煙、散髪や衣服の購入を制限していたことを認定した上、被告の暴行や虐待により原告が人格を著しく傷つけられ、多大な精神的苦痛を被っていたこと、そのため自殺念慮を深めていったことが推察されるとした。そして、2009年1月7日にも被告が原告に暴行を加えたことを認め、その暴行が原告の自殺企図の原因になったと考えるのが合理的とした。被告は原告が被告に好意を抱いていた等と主張したが、判決は、そのことと、原告が被告の暴行を受けて自殺念慮を抱いていたこととは矛盾しないとした。
さらに、一連の暴行のほか、原告が被告に対して「死んでやる」などとバルコニーから飛び降りるそぶりをしていたことなどから、引き続き暴行を加えた場合に、原告が実際に自殺を図りかねないことは、通常の注意を払いさえすれば予見しえたとして、1月7日の暴行と損害との間の相当因果関係を認めた。
損害額として、事故前の暴行について100万円、事故当日の暴行と同日の傷害に対する慰謝料400万円、逸失利益6765万9122円(賃金センサス平成23年女子高専・短大卒全年齢平均年収に基づく)、後遺障害に対する慰謝料2800万円、その他と弁護士費用500万円、合計1億1742万2739円とした上で、原告の一部請求を全額理由があるとして、被告に対し、金5000万円と遅延損害金の支払いを命じた。
[ひとこと]
いわゆるデートDV事案である。継続的な虐待・暴行を、被告の警察官らに対する供述調書のほか、原告のミクシイやメールの記載から認定した上、被告の一連の暴行に痛めつけられていた原告が当日の暴行により飛び降り自殺を図ったものとして、被告の暴行と原告の自殺未遂の結果との間の相当因果関係を認めたもので、継続的なDVが被害者にもたらす深刻な影響を正当に評価したものといえる。
2014年8月29日、札幌高裁は、一審を支持し、男性の控訴を棄却した(毎日新聞2014年8月30日地方版 久野華代記者)。


2014.1.20
保護命令違反、住居侵入、殺人、器物損壊について一審で裁判員裁判で有罪が認定された事案につき、裁判員が関係証拠に照らし裁判官とともに科学的内容の証拠を適切に評価して事実認定することが可能であることに疑いをいれる理由はないとして、控訴を棄却した事例
[広島高裁2014(平成26)年1月20日判決 LEX/DB25503007]
[事実の概要]
被告人は妻と別居しAと交際するようになり、被告人のアパートでAとAの3人の子どもたちと2012年2月から同居したが、Aは被告人との関係がうまくいかなくなり、同年9月12日、子らとともに、転居した。同月13日、被告人はAに対する傷害事件で逮捕され、た。傷害事件で罰金刑に処せられて釈放された同年10月4日、山口地方裁判所下関支部は、Yに対し、Aの住居付近をはいかいしてはならないことなどを内容とする保護命令を発令した。
同年11月27日から28日かけてAはスナックでの勤務のため居室を離れ、子らB、C、Dは一緒に就寝した。同日午前5時25分ころ、子Cが異臭で目を覚まし、居室の玄関付近から出火していることに気づき、Dを起こしベランダで助けを求めた。駆けつけた消防隊員により、アパートの外で心肺停止状態のBが横たわっているのが発見された。Bの死因は、頸部圧迫による窒息であった。
[判決の概要]
被告人は、Aに対する怨恨を晴らす目的で、Aやその家族に危害を加えようと考え、A方の室内に侵入し(住居侵入)、Aの娘であるB(当時6歳)に対し、殺意をもって、頸部に扇風機のコードを巻いて締め付け、よって窒息により死亡させて殺害し(殺人)、パチンコ店経営の会社の所有の従業員の制服に着火して焼損し他人の器物を損壊した(器物損壊)。
また、Aの住居付近をはいかいしてはならないという保護命令に違反した(DV防止法違反)。
以上の認定をし被告人に懲役30年(未決勾留日数中240日算入)の判決を言い渡した原審(山口地判2012(平成24)年7月25日)について、弁護人が刑事訴訟の基本原則について理解が不十分な市民が加わった裁判体に公平な裁判をすることは期待できないし、DNA型鑑定に関する専門家の証言についての評価が問題となる難解な事案では一般市民には公平な判断を行うことは期待できないから、裁判員裁判であった原審は、憲法31条、32条、37条1項に違反する等とした控訴を棄却し、控訴審における未決勾留日数中490日を原判決の刑に算入した。


2013.9.19
再度の退去命令を却下した原決定を取り消し、抗告審において再度の退去命令が発令された事例
[福岡高裁2013(平成25)年9月19日決定 判時2216号74頁]
[事実の概要]
妻は夫(相手方)に対し、暴力を受けていた等として配偶者暴力に関する保護命令を申立て(前件申立て)、退去命令(前件退去命令)を含む保護命令が発令されて、妻(抗告人)は住所地に戻って生活していたが、退去命令の効力が生じた日から起算して2か月を経過した後も、転居せず、妻から再度の退去命令の発令を申し立てた。
原審で、妻は、住居を賃借する際の保証人を得ることができず、転居先を探せなかったこと、躁うつ病のため身体を動かせない日があることなどの事実を主張していたが、原審(大分地裁中津支部平成25年5月24日決定)は、退去命令の再度の申立て(DV防止法18条1項)の要件である転居を完了できないでいたことについて「被害者がその責めに帰することのできない事由」によるものということはできないとして、却下した。
[決定の概要]
抗告審と原審は、以下の事実認定は共通していた。すなわち、抗告人が躁うつ病にり患し、障害等級2級と認定されていること、頼れる身内がいないこと、相手方に前回の保護命令に違反する行為があったこと、相手方が抗告人が転居するまで相当期間を要することを理解していると述べ、当面、当該住居に接近しない旨誓約していることなどである。そこで、これらの事実関係を踏まえて、抗告人が転居できなかったことについて帰責性がないと認められるか否か争点となった。
決定は、「抗告人がグループホームへの入居を希望し、該当する施設を探し、入居の許可を得るまでに二か月以上の時間を要したことは、抗告人の心身の状況からすれば、帰責性がなかったものと認めるのが相当となる。なお、相手方は、住居に当面接近しないことを誓っているが、一件記録によれば、相手方には、保護命令に反した行動があるので、再度、退去命令を発令する必要があるといえる。次に、相手方は、退去命令により、余所での生活を余儀なくされることとなるが、その収入や稼働状況、生活状況等に照らして、特に著しい支障を生ずる(法18条1項ただし書)とは認め難い。
そして、上記のとおり、相手方には、保護命令に反した行動があるので、法10条1項に定める『配偶者からの更なる身体に対する暴力』により『その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きい』ことも認められる。」として、抗告には理由があるとして、原決定を取り消し、退去命令を発令した。


2013.9.13
妻に対する傷害事件、妻が滞在する友人宅への住居侵入事件、妻の友人を失血死させたとの殺人事件等につき、経緯や動機に酌量の余地はないとして、被告人を懲役24年に処した事例(裁判員裁判)
[福岡地裁2013(平成25)年9月13日判決 LEX/DB25502333]
[事実の概要]
被告人は、平成24年12月頃から、当時の妻Aが自分の言うとおりに愛情表現をしないことなどを理由に、暴力をふるいはじめた。平成25年1月18日午前0時ころ、Aがしばらく距離を置きたいと言ったことなどに激昂し、A(当時28歳)に対して拳で左胸部を殴るなどの暴行を加え、加療約6週間を要する左第2肋骨骨折の傷害を負わせた。
被告人は、Aがその友人B方に宿泊していることを知り、Aを連れ戻す目的で、同月30日午後7時過ぎ、B方居室内に、Bに無断で作っていた合鍵を用いて侵入した。そのままB方で待ち伏せしていたところ、同日午後10時40分ころ、帰宅したAを連れ出そうとしたころ、Bが帰宅し、Aを連れ出すことができなくなった。同日午後11時40分ころ、Bが携帯電話をもっていたのを認めて、警察に通報していると誤解し、B(当時28歳)に、持参していた洋包丁で右頚部等を突き刺し、頭部等を切りつけるなどした。Bは同月31日失血により死亡した。
被告人は、Aに対する傷害、Bに対する殺人、住居侵入、銃刀法違反で起訴された。
[判決の概要]
本件の主要な争点は、殺人事件の動機である。弁護人は、被告人はAとのトラブルにより精神的に追い込まれていたところ、Bに警察に通報されると勘違いしたことや、Bの反撃から気が動転したもので、積極的な殺意はなかったと主張した。
裁判員裁判による本判決は、被告人の攻撃は、通報を止めさせる等の目的を達成するためには明らかに過剰なものであり、犯行態様自体から客観的に、被告人がBに対して強い怒りや憎しみを抱いていたことが推認されるとした。また、関係証拠によれば、自分のパソコンにAを殺して自分も死ぬ旨の文章を残していたり、職場の女性にAの殺害計画を打ち明けていたり、同月30日には包丁2本、スタンガン、金づち2本、粘着テープ、荷造りひも等を準備し、犯行に及んだことが認められるが、Aの対応次第では殺害に及ぶ可能性も視野に入れていたものといえる。そしてスタンガンを用いた暴行などによりいったん被告人とともにB方を出ることにAが同意したものの、帰宅したBが反対し、Aを連れ戻す計画がとん挫した。Bの帰宅で態度が一変したAの求めで離婚届に署名押印することにもなり、自己の計画を阻害したBに悪感情を抱いたことが推測できる。これまでもAが自分の思い通りにならないとすぐに怒りを爆発させてきた被告人としては、Bが警察に通報すると誤解して、Bに強い怒りを抱くことも推察できる。以上より、Bに対する加害意思を有していたと認め、被告人の供述は信用できないとした。
犯行直後に自首したとはいえ、その反省はいまだに表面的であるなどとし、懲役24年、未決勾留日数110日算入、洋包丁1本没収とした。


2013.9.6
保護命令の申立てをいずれも却下した原決定を取り消し、退去命令、被害者に対する接近禁止命令、子に対する接近禁止命令、電話等禁止命令の申立てを認めた事例
[東京高裁2013(平成25)年9月6日決定 未公表 平成25年(ラ)第1618号]
[事実の概要]
東京地決2013(平成25)年8月9日と同事案。
[決定の概要]
相手方が暴力をふるうだけでなく、激情に駆られて刃物を使用するなどし、その結果、抗告人がその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれは大きい。相手方が交通事故等により体力が低下していること等はこの認定を左右しない、等の理由から、原決定を取り消し、退去命令、被害者に対する接近禁止命令、子に対する接近禁止命令、電話等禁止命令の申立てを認めた。
[ひとこと]
本決定と原決定は、認定した事実自体はさほど変わらないが、「もみ合いの結果の負傷」を、原決定が身体に対する暴力とは評価せず、仮に評価してもその程度は一方的かつ圧倒的ではなかったとして、要件としての「おそれ」もないとしたが、本決定は、暴力であり、おそれもあると認めた。原決定が相手方が体力を低下していることからその暴力は圧倒的でなかったとしているが、本決定はその事情により認定は左右されないとした。さらに、原決定は相手方から長男に対する暴力や申立人避難後の相手方のメールをもってしても保護命令の要件は認められないとしたが、原決定は、これらの事情をも、要件を満たす事情の中に列挙している。

2013.8.9
審尋における供述がその態度等から陳述書中の相手方の暴力等に関する内容を裏付けるものたり得ないなどとして、保護命令を却下した事例
[東京地裁2013(平成25)年8月9日決定 未公表 平成25年(配チ)第59号]
[事実の概要]
申立人と相手方は夫婦であり、両者の間には長男(10歳)がいる。2013年、相手方が長男に対し暴力をふるったことにより、長男は児童相談所に保護されている。同年、相手方は、飲酒の上酔って帰宅後、申立人の浮気、長男が保護されたこと等の心配や悩みが重なって、包丁を持ち出し、申立人の面前で腕を刺すなどの自傷行為に至った。申立人は、自宅を出て一時避難した。
[決定の概要]
避難するに至った相手方の暴力とされる事実について、相手方が自傷行為以外に申立人を叩きつけたり体を押さえたりひっかくなどの暴力をふるったと申立人は主張したが、決定は、自傷行為を止めようとしてもみ合いになった際に怪我した可能性も否定できないとした。さらに、裁判官からの申立人の審尋において、申立人は「感情が高揚して落涙しているとはいえ、真摯に供述をしようとする努力・態度に欠ける応対態度であったこと」等から、申立人の陳述書の内容を裏付けるものたり得ないとし、この暴力を認定はできないとした。
直近以外の暴力については、裁判所からの「いつどこでという具体例を挙げての説明を問うたのに対し、申立人からはこの点について具体的かつ信憑性のある供述は何ら得られていない。申立人は、沢山ありすぎて説明できないというので思い出せる直近のものを大体でよいから挙げてみてくださいという裁判官の要求にも、残念ながら泣きながら黙り続けるのみであった。」夫婦喧嘩はそれなりにあったものと推測できるが一方的な暴力であったかは疑問がある。相手方が交通事故による障がいを負って以降の平成20年からは、体力で相手方が申立人を圧倒できるものであったかも不明である。
相手方による最近の暴力により長男が児童相談所に保護された事実は相手方の粗暴さを示すものともいえるが、児童相談所が相手方による暴力だけを問題にして保護されたかは不明である。相手方による長男への暴力が直ちに申立人に対する暴力が繰り返されてきたことを裏付けるものではない。
申立人の主張する相手方による繰り返しの暴力が有効に認定できないほか、平成20年、平成25年のものは、もみ合いの中での受傷で、身体に対する暴力といえるかどうかも確証できない。暴力としてもその程度は一方的かつ圧倒的なものではなく今後相手方の暴力により申立人の生命又は身体に危害が加えられるおそれがあるとは認められない。
申立人が一避難した後の相手方の申立人に対するメールの内容は、同居当時のものであれば、発令要件たる生命等に対する脅迫に当たる余地があるとしても、一時避難後のものであることからして、それに当たらない。
以上より、申立人に対する接近禁止命令、退去命令、(申立人に対する接近禁止命令の発令が前提となる)電話等禁止命令、子に対する接近禁止命令の申立てをいずれも却下した。
[ひとこと]
東京高裁2013年9月6日決定(未公表 平成25年(ラ)第1618号)は、本決定を取り消し、退去命令、被害者に対する接近禁止命令、子に対する接近禁止命令、電話等禁止命令を発令した。

2008.11.18 DV別居と遺族年金
DVにより別居していた妻に対し遺族年金支給が認められた例
[裁判所]岡山地裁
[年月日]2008(平成20)年11月18日判決
[出典]LLI/DB(L06350476)
[事実の概要]
夫の家庭内暴力が原因で別居していた韓国人女性につき、いったん遺族年金支給が決まったが、社会保険事務所は2007年、「死亡時に被保険者(夫)によって生計を維持した者」にあたらないとして支給を取り消した。女性が国を相手どって、不支給処分の取り消しを訴えた。
[判決の概要]
別居の原因が主に夫の暴力にあると認定。別居後の2000年、岡山家裁が夫に月3万円の生活費支払いを命じたが、夫は支払わないまま04年に死亡したことに触れ、「夫の生活費支払い拒絶が著しく不当な場合、生活費を払っていなくても支給を認めるのが相当」と判断し、不支給処分を違法とした。

2004.3.10 ストーカー行為と訓告処分・転勤命令
[裁判所]東京地裁
[年月日]2004(平成16)年3月10日判決
[出典]労働判例873号93頁
[事実の概要]
原告(異動命令当時53歳の職員)が、一方的に好意をもった女性職員Aに対して職場の内外で執拗につきまとい、再三にわたり支店長から注意を受けたのに態度をあらためなかった。これに対し、訓告処分及び異動命令が出て、原告は訓告処分の無効確認、異動命令に基づく新部署での労働義務の不存在を争った。
[判決の概要]
本件訓告は懲戒処分と異なり直ちに法律上の不利益を生じさせるものではないから、過去の事実関係の確認請求に他ならず、確認の利益を認められない。・・・K支店内における原告のAに対する態度に照らせば、Aの職場環境に配慮する義務を有する被告が、原告を早急にK支店から異動させなければならないと判断するのも、やむを得ないといわなければならない。そして、原告の行動に鑑みて、管理体制がしっかりしている大型支店で女子職員に接する機会が少なく、1年以内に欠員が生じるという業務上の必要性が認められ、しかも、K支店と一定以上の距離があり、年老いた母親のいる○○からは遠くない大型支店であるNを選択した本件異動命令の判断が、権利濫用を構成するとは到底評価できない。
[ひとこと]

2003.12.11
ストーカー行為規制法2条1項、2項、13条1項は、憲法13条、21条1項に違反しないとされた例
[裁判所] 最高裁一小
[年月日] 2003(平成15)年12月11日判決
[出典]  刑集57巻11号1147頁、判時1846号153頁、判タ1141号132頁
[事実の概要]
 上告人は、ストーカー行為規制法について、規制の範囲が広すぎる、規制の手段も相当でない、「反復して」の文言が不明確である、として争った。
[判決の概要]
 「ストーカー規制法は、上記目的を達成するため、恋愛感情その他好意の感情等を表明するなどの行為のうち、相手方の身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる社会的に逸脱したつきまとい等の行為を規定の対象とした上で、その中でも相手方に対する法益侵害が重大で、刑罰による規制が必要な場合に限って、相手方の処罰意思に基づき刑罰を科すこととしたものであり、しかも、これに違反した者に対する法定刑は、刑法、軽犯罪法等の関係法令と比較しても特に過酷ではないから、ストーカー規制法による規制の内容は、合理的で相当なものであると認められる・・・ストーカー規制法2条2項にいう「反復して」の文言は、つきまとい等を行った期間、回数等に照らし、おのずから明らかとなるものであり、不明確であるとはいえないから、所論は前提を欠くものである。」とした。
[ひとこと]
 当然の結果であると思われるが、納得できずに最高裁まで争うという点が珍しいのでとりあげた。

2003.8.6
[裁判所] 名古屋高裁
[年月日] 2003(平成15)年8月6日判決
[出典]  法学教室277号120頁
[事案の概要]
 ストーカー殺人で約8900万円の損害賠償義務。高校2年生の女子生徒が元同級生に殺されたストーカー殺人事件で、被害者の両親が、加害者とその両親を相手取り1億円の損害賠償を求めた裁判の控訴審。「加害者の両親が監護義務らしい注意を払っていれば凶悪犯罪を引き起こすことは予見できた」として計約8900万円の支払いを命じた1審を支持し、被告側の控訴を棄却した。

2003.3.5
被害者が着信拒否設定をしている携帯電話に電話をかけ続ける行為がストーカー行為規制法2条1項5号の「電話をかけ」る行為に該当するとされた事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2003(平15)年3月5日判決
[出典]判時1860号154頁
[事実の概要]被告人(女性)は、別れたBに対する恋愛感情及びそれが満たされないことに対する怨恨から、41回にわたりB経営の事務所に行きドアを執拗にノックし、23回にわたり手紙を事務所郵便受けに投函するなどして面会や交際等を要求し、299回にわたりBが着信拒否しているにもかかわらず、連続して携帯電話に電話をかけた。
[判決の概要](ストーカー行為等の規制等に関する)法2条1項5号は「電話をかけ」と規定していて、通話可能状態となることまでを要件とはしていないこと、同項2号、6号ないし8号の「つきまとい等」については、被害者が「知り得る状態に置くこと」をもって足りると規定されていること、・・中略・・個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、国民の生活の安全と平穏に資することを目的とする法の趣旨を考慮すると、本件のように着信拒否の設定がなされていた場合であっても、被害者が着信履歴を確認して犯人から電話があったことを認識し得る以上、犯人が電話をした行為は、法2条1項5号の「電話をかけ」に該当するものと解するのが相当であるとした。

2003.2.26
桶川ストーカー殺人事件について国家賠償請求が認められた例
[裁判所] さいたま地裁
[年月日] 2003(平成15)年2月26日判決
[出典]  法学教室03年4月271号、判例時報1819号85頁
[事案の概要]
 埼玉県桶川市で、女子大生が刺殺された事件で、被害者の両親が「県警が適切に捜査していれば、生命の危険は回避された」として、国家賠償法に基づいて県に約1億1000万円の損害賠償を求めた。さいたま地裁は、県警に殺人事件の予見可能性はなく、捜査怠慢と殺害との間に因果関係はないとしたが、「期待と信頼を侵害したことによる慰謝料が認められる」として、県に合計550万円の支払を命じた。

2003.2.4
ストーカー殺人の加害者に両親の監督責任を認めた例
[裁判所] 名古屋地裁
[年月日] 2003(平成15)年2月4日判決
[出典]  法学教室03年4月271号、LEX/DB28081351
[事案の概要]
 平成11年、愛知県で当時16歳の女子高校生が刺殺された事件で、被害者の両親が、当時17歳の加害者とその両親に慰謝料など1億円の損害賠償を求めた。名古屋地裁は、加害者の両親が監督義務を怠ったことと加害者の犯行との間に相当因果関係があると判断し、加害者の両親に約8910万円の支払を命じた。

2002.10.8  同棲とDV
[裁判所] 東京地裁八王子支部
[年月日] 2002(平成14)年10月8日判決仮処分決定
[出典]  未公表
[事案の概要]
 女性22歳大学生、男性18歳(決定当時フリーター)。約6ヶ月同棲し住民票も同所にしていた。別れた後の男性に対し、女性からDV法の保護命令を申立てたが、事実婚(内縁)であると認められず保護命令はおりなかった。しかし、一般の仮処分申請によって、保護命令以上の具体的内容の仮処分が下された例。
主文は、「債務者は以下の行為をしてはならない。
 1.面接又は電話をかけるなどの方法により、面接・連絡・交渉することを強要する行為
 2.債権者の住居を訪問する行為
 3.髪の毛や腕をつかんだり、殴打したり等の暴力行為」
[ひとこと]
 6ヶ月同居しているのに事実婚であると認められなかった(認められればDV法の適用あり)のは、双方まだ親の仕送りによって生活していたためか。身体・生命の保護にかかわる場合には、もう少し事実婚をゆるやかに認めてもよいのではとも思われるが、一般の仮処分が低い供託金で出たのは、DV法が成立したことの効果だろう(ただし保護命令なら供託金なし)。

2002.7.19
[裁判所] 静岡地裁
[年月日] 2002(平成14)年7月19日決定
[出典]  判タ1109号252頁、LEX/DB28080587
[事案の概要]
 婚姻歴21年。長年にわたり、夫は妻に対し、金銭面や家事の細かいことで命令し、思うとおりにならないと怒鳴る、ののしるなどの言葉による暴力を続け、子どもに対しても殴る・蹴るの暴行を加えていた。妻の外出にはスーパーへの買い物すらついてきて監視し、妻が友人と電話することを嫌った。妻を殴るところまではいかないが、殴る真似をして顔面すれすれのところで止めるということをくり返した。これによって妻は外傷後ストレス障害(PTSD)に診断を受けるにいたった。DV防止法によって、6ヶ月間のはいかい禁止が命じられた。
[ひとこと]
 直接の暴力がふるわれなくても、言葉による暴力がくり返されそれによって精神的疾患が生じるような場合には、DV法の適用があると理解されてきたが、その具体的な適用例である。申立人代理人によれば6ケ月後に再度の保護命令も認められたとのことである。

2002.3.29
保護命令が高裁で取り消された例
[裁判所] 東京高裁
[年月日] 2002(平成14)年3月29日決定
[出典]  判例時報1791号
[事案の概要]
 91年3月に婚姻した夫婦。妻はフィリピン人だったが、99年に日本に帰化した。妻の主張する暴力の一部を認めず、下記の通り判示して地裁の認めた保護命令を取り消した。 「ところで、保護命令は、『被害者が更なる配偶者からの暴力によりその生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいとき』(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律一〇条)に発令されることになるが、この保護命令に違反した場合には、『1年以下の懲役又は100万円以下の罰金』(同法二九条)に処せられることに照らすと、上記発令要件については、単に将来暴力を振るうおそれがあるというだけでは足りず、従前配偶者が暴力を振るった頻度、暴力の態様及び被害者に与えた傷害の程度等の諸事情から判断して、配偶者が被害者に対して更に暴力を振るって生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高い場合をいうと解するのが相当である。これを本件についてみると、前記一の認定事実によると、抗告人は、平成8年以前にフィリピン国滞在中に相手方に暴力を振るって傷害を負わせ、また、平成13年1月13日に抗告人が相手方の身体を蹴ったりするなどの暴力を振るって抗告人に外傷性頸部症候群及び全身打撲の傷害を負わせているが、平成14年1月2日には、抗告人が相手方の手をつかんで相手方を戸外に引っ張り出したことを超えて、抗告人が相手方に傷害を負わせたということはできず、その後に、相手方に暴力を振るったという事実もない。したがって、以上の事情によれば、抗告人が相手方に対して更に暴力を振るって相手方の生命又は身体に重大な危害を与える危険性が高いということはできないというべきである。」
[判決の概要]
[ひとこと]
 厳しい認定である。かつてふるわれた暴力によって被害者がおびえ、相手の意に沿うようにさからわず行動することによって暴力を回避しているような場合、別居という「夫への反抗」によって再び暴力がふるわれることがある。そういう場合には、申立時に近接した暴力の証明はできないが、以前の暴力による脅迫状態は継続し、被害者は強くおびえている。こうしたメカニズムにはこの判決は無理解なようにも思う。あるいは、主張に誇張があると受け止められ、心証が悪かったのかもしれない。

2002.2.20
1交際相手の堕胎強要を認めず不法行為に当たらないとされた事例
2原審が全く認定しなかった交際相手の暴力行為と,これにより被害者の心的外傷後ストレス障害が生じたことを認め,同障害に基づく慰謝料請求を認容した事例
[裁判所]仙台高裁
[年月日]2002(平成14)年2月20日判決
[出典]判タ1136号203頁
[事実の概要]
控訴人が,妻子ある被控訴人との交際中に,堕胎を強要されたり,度重なる暴力や精神的虐待を受けるなどしたとして,不法行為による損害賠償(PTSDによる逸失利益及び慰謝料等)と書面による謝罪を請求したところ,原審が控訴人の請求を全部棄却したので,控訴した事案である。
[判決の概要]
堕胎強要の事実関係については,控訴人の意にそわない堕胎であり,被控訴人が出産に強く反対し,胸倉をつかんだり怒鳴ったりしたことを認めたが,妻子ある男性との間の子であること等に照らし一般的な社会人の立場からは堕胎の選択も十分に考えられる状況である等として,被控訴人により堕胎を強要されたと評価するのは相当ではないとし,不法行為に当たるとまではいえいないとした。
控訴人の暴力を強調して被控訴人の暴力等をほぼ全面的に否定する被控訴人の供述を自己を合理化する不自然なものとなっているとし,他方,控訴人の供述内容はより具体的で,一連の経緯が無理なく自然に説明されており,また,診断書等客観的証拠によっても裏付けられるとした。そして,被控訴人の暴力行為により心的外傷後ストレス障害が生じていることを認めたが,これによる労働能力の喪失については証拠がないとして,逸失利益を認めず,後遺障害による慰謝料のみを認めた。
謝罪請求については,不法行為による損害賠償請求は,名誉棄損(民法723条)のような例外を除いては,原則として金銭賠償に限られるものであるとして(民法722条1項),理由がないとして棄却された。
[ひとこと]
原審は,診断書等客観的証拠を踏まえながらも,控訴人の主張供述する被控訴人の暴力とそぐわないとして,控訴人の供述を信用できないとした。本判決が,両者の供述を分析し,原審とは全く対照的に,被控訴人の暴力を認めたもので,密室で行われるDV被害の立証の困難を浮き彫りにする。
本判決が,堕胎に至るまでの経過での暴力を認定しながら,不貞相手との子は堕胎するのも社会通念上十分考えられるとして,堕胎の強要とその不法行為性を認めない点には,疑問が残る。

2000.12.22
ストーカー行為につき300万円の慰謝料の支払いが命じられた例
[裁判所] 大阪地裁
[年月日] 2000(平成12)年12月22日判決
[出典]  判例タイムズ1115号
[事実の概要]
 原告はたこやき店を経営していた。客であった被告は、客の前で結婚をせまったり、深夜から早朝にかけて玄関前に「好きだ」と書いたメモを置いたり、車でつきまとうようになった。このため原告はたこやき屋を閉店した。原告は、被告の上司に指導方を要請、警察にも対応方を要請し、裁判所には面談禁止を求める仮処分を申請し、まとわりつかない旨の和解が成立していた。ところが、その後も被告はストーカー行為を再開したので、原告から提訴した。
[判決の概要]
 「認定にかかる被告の行動態様、近時一定のストーカー行為を刑罰の対象とする「ストーカー行為等の規制等に関する法律」(平成12年法律第81号)が成立し、ストーカー行為の違法性が社会的にも強く意識されてきていること並びに被告は前記仮処分事件で自己の行為の是非を検討する機会を与えられ、別件和解を成立させながら、これを無視して、その後もストーカー行為を継続していることに照らせば、被告の前記一連の行為は、強い違法性を有する。」
[ひとこと]
 従前のスートカーについての判例では、100万(東京地裁平成2年11月28日)、50万(大阪地判平成10年6月29日)50万(東京地判平成10年11月26日)等、慰謝料金額は低かった。本件では閉店にまでおいやられていること、法律制定後で違法性が強く意識されるようになったことなどから金額がアップしている。

2000.12.20 ストーカー行為と解雇
[裁判所] 東京地裁
[年月日] 2001(平成13)年6月28日判決
[事案の概要]
 新卒の女性社員に対し、3年間にわたって、誘い、待ち伏せ、追いかけ等のストーカー行為を行ったとして解雇された原告男性が、会社を相手どって解雇の無効を争った事件。判決は、行為態様および女性社員による退職の申出等の影響を考慮すると、もはや原告の単なる私行にとどまらず、職場秩序を乱すものといえるとして、解雇事由に該当するとした。

 
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