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婚姻外の男女関係
2020.12.23
既婚男性と独身女性が,一緒に宿泊したり,ラブホテルに滞在したりした事実が相当回数あるにもかかわらず,両者間でのメールの内容等に照らして,両者が不貞行為に及んだ事実は認定できないとして原告の請求を棄却した事例
[福岡地裁2020(令和2)年12月23日判決 判タ1491号195頁]
被告とZ(男性)は,2017年8月,依存症の家族の会が主催するミーティングで知り合い,2018年10月以降,一緒に,東京,沖縄県石垣島,北海道等を訪問して宿泊し,また,福岡市内のラブホテルに相当回数宿泊した。
原告は,被告は,原告とZが婚姻関係にあることを知りながら,Zと不貞行為に及んだと主張して,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求として,慰謝料500万円及び遅延損害金の支払いを求めて提訴した。
なお,原告とZは2019年に離婚が成立している。
[判決の概要]
ア)「成人の男女である被告とZは,多数回,一緒に旅行して同室に宿泊し,しかも,ダブルベッドの設置された部屋やラブホテルに宿泊することも少なくなかった。また,一般に,『不倫』とは,既婚者が配偶者以外の相手と性行為に及ぶことを意味する言葉であるが,被告は,Zに対し,『やっぱり悪いことは出来ないです。不倫でしかないと思いました。』などのメールを送り,Zは,被告に対し,『神の前で 俺たちは不純なのかな あなたが不倫という言葉を使う限り,きっとそうなのでしょう。』などのメールを送っている。これらの事実に照らせば,被告とZが性行為に及んだ事実が極めて強く推認される。」
イ)「ところで,被告とZのメールのやり取りは,前記認定のとおり,いずれもアダルト・チルドレンかつ共依存症であると自覚する両者が,精神世界の理論についてマンツーマンで相互学習するという精神的に緊密なつながりのある師弟関係にある上,第三者の介在を排除した2人だけの閉じられた世界で行ったものであるため,その表現は,ときに,妄想的,夢想的あるいは宗教的であったり,比喩的あるいは誇張的であったりし,また,言葉遊びの要素や,自己陶酔的あるいは自意識過剰な部分も見受けられることから,その内容を正確に理解することは必ずしも容易ではない。そこで,上記のような被告とZの特殊な関係等を踏まえ,両者の間に性行為があったか否かという観点から,両者のメールのやり取りを再度精査することとする。」
「まず,Zのメールのうち『肉体関係は諦めたとしても あなたとの楽しみや喜びは失っていないと信じています。』,『俺が今抱えている衝動は すぐにでも あなたに触れていたい←肉体的にね。そして,俺が勝手に我慢しているだけなのだろうけどね。』及び『欲望のままに逢いたい,セックスしたいなんて言えない,言えない。そうなったら,俺自身や二人の関係は終わるだろうなと思っています。』などのメールは,被告に対して性的な欲望を抱き性行為を望みながらも,それが実現したときには両者の関係が終了すると予想されるため,そのような事態に至らないように,性的な欲望を抑え性行為を諦める心情を示すものであり,同じく『俺は 俺の性欲と闘っているのさ。中学生ではないけれど,二人の関係を汚してはいけないと思いこんでいます。』及び『結婚を解消していない俺があなたの体を求めることはいけないことだ。と思っているのは,俺のひとりよがりなの?』などのメールも,既婚者である自分が被告に性行為を求めることは倫理的に許されないという判断の下,葛藤しながらも,性的な欲望を抑え,被告に性行為を求めることを自制しているという認識を示すものであって,いずれも本件不貞行為の存在を前提にするものとは考え難い。」
「次に,被告のメールのうち『私は恋人でも彼女でもない。シェアリングパートナーだから。』(中略)などのメールは,自分は,Zと性的な関係にはなく,あくまで相互学習における分かち合いの相手(シェアリングパートナー)という立場であって,それに徹するべきという認識を示すものであり,また,Zの前記(中略)メールに対し,被告は『境界線引いて伺っています』と返信しているが,これは,Zが反語的な表現を用いて性行為を求めるのに対し,その土俵に乗ることなく受け流しているものと理解され,これらも本件不貞行為の存在を前提にするものとは考え難い。」
ウ)「被告は,メールの中で『不倫』という言葉を使用したことについて,学習のために2人が密かにラブホテルに出入りすること自体を指し,あるいは,Zが被告を性的な関係に誘う言動に及んだときにこれを諫めるために使用したものであると主張するが,上記のようなメールのやり取りを両者の特殊な関係等を踏まえて解釈し直せば,被告の上記主張は必ずしも理解できないものではなく,被告が両者の関係について『不倫』という言葉を使用したからといって,直ちに本件不貞行為の存在を認めることはできない。
また,被告は,Zと一緒に旅行して同室に宿泊し,しかも,ダブルベッドの設置された部屋やラブホテルに宿泊することもあったことについて,その理由として,学習に関するDVDの視聴,書物の読み合わせ,ロールプレーや分かち合いを行うために,プライバシーが保障される空間や設備が必要であることや,同室にする方が料金が一室分で済むし,ラブホテルは一日単位ではなく時間単位での料金制であるため,料金を低額に抑えられることを挙げるが,Zと同室に宿泊したりラブホテルを利用したりした理由として相応のものといえるから,被告の上記主張をおよそ合理性のない弁解と断定して直ちに排斥することはできない。
さらに,被告が説明する,Zと行動をともにした目的やZとラブホテルに宿泊した目的は,「両者による相互学習の一環と捉えることができ,逆に,これを離れて両者が行動をともにした場面は特に見当たらない。」
加えて,被告は,「被告とZがラブホテルを出る際に手をつないでいたことについて,自分が羞恥心が強いため,いかがわしい場所であるラブホテルを出る姿を知合いに見られることを怖れて,出るのを躊躇しているときに,前方にいたZが被告を促す目的でその手を取って引っ張った瞬間を撮影されたものにすぎず,性的な意味合いを含む親密な接触ではない旨主張するが,(中略)両者の態勢や表情等からすれば,被告の上記主張をおよそ合理性のない弁解と断定して直ちに排斥することはできない。」
「なお,Zは,原告と離婚するに際し,原告に対し慰謝料として150万円を支払っており,これについて,Zは,離婚を早期に成立させるために名目については異議を述べなかったにすぎず,本件不貞行為を認めたものではないと供述するが,Zの上記供述をおよそ合理性のない弁解ということはできず,その信用性を否定することはできない。」
エ)「このように,本件不貞行為の存在について,一方で,前記アのとおり,これを極めて強く推認させる事情があるものの,他方で,前記イのとおり,上記推認に重大な疑問を差し挟む事情があるため上記推認は動揺することとなり,これに前記ウの事情を併せ考慮しても,その疑問は払拭されず,未だ真実性の確信を抱くには至らないから,結論として,本件不貞行為の存在については,証明不十分といわざるを得ない。」
オ)「以上のとおり,被告が本件不貞行為に及んだ事実を認めることはできず,不法行為の存在が認められないから,原告の請求はその成立要件を欠くものである。」
2019.2.19
配偶者の不貞の相手方に対する離婚の慰謝料請求は原則認められないとした例
[最高裁第三小法廷2019(平成31)年2月19日判決 最高裁ホームページ、民集73巻2号187頁、判タ1461号29頁、裁判所時報1718号3頁、家庭の法と裁判22号87頁、LEX/DB25570039]
[事実の概要]
被上告人(夫)と妻Aは、1994年に婚姻し、2人の子をもうけたが、2008年以降、性交渉はない状態になっていた。同年12月頃、上告人男性と妻Aは知り合い、2009年6月以降、不貞行為に及ぶようになった。夫は、2010年Aの不貞関係を知り、その頃、不貞関係は終了し、夫婦は同居を続けた。妻Aは、2014年別居し、半年間、夫と連絡をとらなかった。夫は2014年11月、夫婦関係調整の調停を申し立て、2015年離婚調停が成立した。原審は、不貞行為により、婚姻関係が破綻して離婚に至ったものであるから、上告人は離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うとして、慰謝料を認めた。男性は上告した。
[判決の概要]
「夫婦の一方は,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の賠償を求めることができるところ,本件は,夫婦間ではなく,夫婦の一方が,他方と不貞関係にあった第三者に対して,離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。
第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。」として、原審の上告人敗訴部分を取り消し、被上告人の請求を棄却した。
[ひとこと]
不貞行為を理由とする慰謝料請求を認める従前の解釈を変更したわけではない。ただし、不貞の相手方の責任の範囲を限定的に解した。
2015.9.29
原告が、妻と不貞行為をした被告に対し慰謝料の支払いを求めた事案について、不貞行為の終了から不貞行為の発覚、その後の婚姻関係の実質的破綻までの間に相当長期間が経過していること等の事情を斟酌し、80万円の支払いを命じた事例
[東京地裁2015(平成27)年9月29日判決 LEX/DB25530797]
[事実の概要]
@1995年7月、X(夫)はA(妻)と婚姻した。
AYは、少なくとも2003年6月下旬から2005年2月ころまで、Aと不貞行為を継続した。
B2011年5月、XはAの事実を知った。
B2013年11月、XはAと別居した。その後、AはXを相手として、夫婦関係調整調停に引き続き、離婚訴訟を提起した。
C2014年、XはYに対し、慰謝料3000万円の支払いを求めて提訴した。
[判決の概要]
「Xは、Aとの間の婚姻関係が実質的に破綻するまでの約18年間、Aと婚姻関係を継続してきたものであるが、両者の間に未成熟子を含めて子はいない。
他方、YとAの間の不法行為は少なくとも約1年8か月間に及ぶものであるが、YとAの不貞行為が終了した平成17年2月ころから約6年後に、Xに上記不貞行為が発覚し、上記不貞行為終了時から約8年半後にXとAの間の婚姻関係が実質的に破綻するに至ったものであるから、不貞行為の終了から、婚姻関係の破綻の契機である不貞行為の発覚、その後の婚姻関係の実質的破綻までの間に相当長期間が経過しているし、AもYに対する恋愛感情を全く失っているのみならず、Yとの交際についての記憶が薄れ、Xに対し繰り返し謝罪してやり直しを求めていたものである。
そうすると、Xに対する慰謝料の算定に当たっては、上記の相当期間の経過の事情も斟酌するのが相当であって、Yの不法行為による慰謝料としては、80万円をもって相当と認められる。」
2015.6.23
不貞の相手方に対する慰謝料請求が一部認容された事例
[東京地裁2015(平成27)年6月23日判決 LEX/DB25530575]
[事実の概要]
原告と夫Aは、2002年に婚姻し、2人の子をもうけた。被告は遅くとも2013年には、Aと性的関係を持つに至り、Aの子を妊娠し、2014年に長男を出産した。
原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料300万円、弁護士費用30万を請求した。
[判決の概要]
原告とAは、2013年当時、例年と同様にゴールデンウイークにはAの実家へ、お盆休み及び年末年始は原告の実家へ家族で遊びに行き、秋には、小学校の運動会に夫婦で参加している。また、原告とAが、当時別居していたり、離婚の協議をしていた事情もうかがわれず、同時点で原告とAとの婚姻関係は破綻していなかったものと認められる。一方、被告は遅くとも2013年にはAと性的関係を持ち、仮にAが被告に対し、原告との婚姻関係が破綻していると説明したとしても、被告はAが原告と別居しておらず、具体的な離婚協議もなされていかなったことは認識していたものと解されるのであり、少なくともAと性的関係をもったことについて過失が認められるとして、被告の不貞行為による慰謝料130万円、弁護士費用13万円を認めた。
2015.4.30
不貞の相手方に対する慰謝料請求の一部が認容された事例
[東京地裁2015(平成27)年4月30日判決 LEX/DB25525668]
[事実の概要]
原告と妻Aは、2003年に婚姻し、2人の子をもうけたが、Aは2010年12月、自宅を出て原告と別居した。Aは、2012年10月、Aが勤務する会社の代表者である被告とラブホテルに滞在した。その後、原告とAは、2013年に調停離婚した。原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料300万円、不貞行為の調査等に要した費用197万2500円及び弁護士費用49万7250円を請求した。
[判決の概要]
Aは、2010年12月に離婚届を置いて自宅を出て以降、原告の元に戻っていないが、自殺念慮を生じていたAの身体状況からして、実家療養もやむを得ないと考えられ、現に実家で療養することにより身体状況が改善して自宅に戻ったこともあったこと、原告は、Aに仕送りをし、連絡を取り続け、家族で交流を持つように努力し夫婦関係の継続を望んでいたことが窺えること、Aが原告に送付した手紙やメールからはAにも夫婦関係を修復する意欲が窺えることからして、2010年12月の別居時に原告の夫婦関係が破綻していたとはいえない。他方で、Aが被告の会社に勤務するようになってからは、Aが実家に不在がちになり、Aの原告に対する連絡も絶えたのであって、2012年10月の調査報告におけるAと被告との接触が頻繁であり、月に2度のホテル利用をしていることからすれば、Aと被告は、同月より相当前から男女交際を開始していたと推認でき、原告とAの夫婦関係は、Aと被告との交際も原因となり破綻し、離婚に至ったものとするのが相当であるとして、被告の不貞行為による慰謝料150万円、調査等のための費用50万円、弁護士費用20万円を認めた。
[ひとこと]
別居開始時に婚姻関係が破綻していたか否か争われた事案である。
2015.4.27
不貞の相手方に対する慰謝料、調査費用及び弁護士費用等の請求につき、公示送達、欠席裁判の事案において、請求額の一部である合計352万円を認容した例
[東京地裁2015(平成27)年4月27日判決 LEX/DB25525651]
[事実の概要]
原告(女性のようである)から、不貞の相手方に対し、慰謝料500万円、調査費用約140万円(調査会社の費用)、駐車場代など雑費、弁護士費用約64万円を請求した。
被告は、裁判前の交渉では、親密な関係にあることを認めながら、「(夫のことを)嫌いになれません」などと述べ、不貞行為の中止に応じなかった。裁判では、被告は公示送達による呼び出しを受け、出頭しなかった。
[判決の概要]
「原告とC(夫のこと)との婚姻期間、被告の不貞行為の態様と発覚後の態度、それが原告の心身や家庭生活に及ばした影響等、本件に顕われた諸事情を考慮すると,被告の不法行為により原告が受けた精神的苦痛を慰謝するためには、250万円の慰謝料を認めるのが相当である。また、証拠によれば、原告は調査会社に対して合計140万4260円を支払ったことが認められるところ、不貞行為に関する被告の態度等に鑑みると、このうち70万円が被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認められ、弁護士費用については、32万円を相当因果関係のある損害と認める。」
2015.4.24
妻が夫及び夫の不貞の相手方に対して、不貞行為による慰謝料等請求をし、半額が認容された例
[東京地裁2015(平成27)年4月24日判決 LEX/DB25525878]
[事実の概要]
原告(妻)と被告(夫)は平成12年に婚姻し、長女(平成14年生)及び長男(平成19年生)を設けた。夫は平成24年3月頃家を出た。夫は平成25年に離婚調停を申し立て不調となり、同年、離婚訴訟を提起した。妻は、夫及びその交際相手に対し、慰謝料300万円及び弁護士費用相当額30万円の合計330万円を請求した。
[判決の概要]
フェイスブックの記述などから遅くとも平成24年4月頃には、被告らは同棲し不貞関係にあったと認め、一方、同年5月初旬頃には、被告夫は、原告の要請に応じて子らの面倒をみるために自宅に帰ったことがあったこと、帰宅しないようになってからも月25万円を送金しつづけていたこと等の事実より、不貞行為時に婚姻関係が破綻していたとは認められないとし、金150万円の慰謝料及び金15万円の弁護士費用の合計165万円の支払いを被告らに命じた。
[ひとこと]
本件において、上記ほかの判決が認定した諸々の事実より、不貞行為時に破綻していなかったとの認定は賛同できるが、破綻していなかったことの根拠に、生活費を送金しつづけていたことを挙げる点には賛同できない。破綻していても、婚姻費用支払義務はあるし、その支払いは奨励されるべきであり破綻認定にかかわらせるべきではないと思われる。
2015.4.14
妻が、亡夫と不貞関係にあった被告が、亡夫ががんにり患した後亡夫から妻を遠ざける等したために精神的苦痛を受けたとして損害賠償を求めたところ、一部認容された事案
[東京地裁2015(平成27)年4月14日 LEX/DB25525606]
[事実の概要]
原告妻は亡夫と2002年婚姻した。原告と亡夫は婚姻後、原告と死別した前夫との間の子らと亡夫との間の一女(2001年生)はいったん亡夫所有マンションで同居したが、原告の勤務先に通勤することが体力的に困難であったこと等から、2003年9月、再度原告と子らは原告所有のマンションに転居した。その後、原告は平日は原告所有マンションで生活し、週末(金曜日)に亡夫所有マンションで亡夫と過ごしたが、2010年8月ころから、亡夫は週末にも仕事があるとして原告の訪問を断ることが多くなった。
2010年、亡夫は被告と知り合い、交際を開始し、2012年まで、2人で、又は被告の子を連れて計5回の宿泊旅行をした。
2012年、亡夫は大腸がん手術を受けたが、肝臓にも転移している等して、入退院と手術を繰り返した。亡夫は原告に事前には知らせず、手術や退院後に連絡した。
原告は、被告が亡夫と不貞関係にあり、亡夫ががんにり患した後原告を夫から遠ざけ、亡夫が死亡後も多くの嫌がらせ行為をしたために精神的苦痛を受けたとして、不法行為に基づき損害賠償を請求した。
[判決の概要]
1 不法行為の成否
亡夫と被告が不貞関係にあったかは明らかでないとしつつ、「相当程度親密な関係にあり、その結果、亡夫と原告との間の健全な婚姻関係の継続を妨げた」。しかも、亡夫のがんが発覚した後は、被告は原告に対し亡夫所有マンションへの訪問を拒絶する内容のメールを送信する等、積極的に亡夫と原告の関係を積極的に阻害した。以上より、不貞関係になく、原告を遠ざけたのは亡夫の意思であったという被告の主張を斥け、不法行為を構成するとした。
2 損害額
被告の行為により、原告が亡夫との間の健全な婚姻生活を阻害され、更には病身の亡夫を見舞ったり、介護したりする機会や、生前に会う機会を失ったことによる苦痛は多大である。原告が精神科病院への通院治療を受けていること、休業を余儀なくされたこと等を踏まえ、慰謝料相当額を250万円とする一方、通院治療費や休業損害の主張は相当因果関係の存在が必ずしも明確ではないとして斥けた。
さらに、被告が亡夫死亡後に亡夫の自転車を使用し放置したことにより原告が支払わざるを得なかった放置違反金と駐車場使用料金合計7万6000円も被告が負担すべき原告の損害であるとした。
2015.3.27
夫が妻の不貞相手に慰謝料及び不貞の調査費用を請求したところ、調査費用は不貞行為と相当因果関係にある損害とは認められず、慰謝料算定にあたって考慮すれば足りるとされた事例
[東京地裁2015(平成27)年3月27日判決 LEX/DB25524906]
[事実の概要]
原告X(夫)と妻Aは、1999年8月に婚姻し、3人の子をもうけたが、2009年頃Aは被告Yと知り合い、その後懇意な関係になった。Xは、2014年1月、Aの行動を不審に思い、調査会社にAの素行調査を依頼した。同社はAとYがホテルの部屋で過ごした直後の写真を撮り、Xに報告した。XはYに対し、慰謝料300万円、弁護士費用30万円、調査費用168万円の合計498万円を請求した。
[判決の概要]
XはYとAの不貞行為を疑うようになる前においては、Aとの間で夫婦喧嘩をしたことはあったものの、離婚話にまで至ることはなく、婚姻以来通常の夫婦としてAと一緒に生活してきたが、不貞行為を知ったために、思い悩んだ末にAとの離婚を考えるようになってAに対して離婚話しをするに至っており、不貞行為が主たる原因となってXとAの婚姻関係が破綻に瀕していると評価されること、XがYとAの調査に合計168万円の費用をかけたことが認められ、これらの事情に加え、XとAの婚姻関係が短いとはいえないこと、XとAとの間に年少の子を含む未成年の子が3名いること、YがXからAと会うことを禁じられてもなおAと不貞行為をしており、悪質といわざるを得ないことに鑑みると、不貞行為の回数が多くはないことを考慮しても、これによりXの被った精神的苦痛を慰藉すべき金額は200万円、弁護士費用は20万円とするのが相当である。Xが調査会社に支払った調査費用は、本件不貞行為から通常生じる損害とは認め難いから、本件不貞行為と相当因果関係にある損害とは認められない。調査費用については、慰謝料算定にあたって考慮すれば足りる。
2015.3.25
不貞の相手方に対する慰謝料請求の一部が認容された事例
[東京地裁2015(平成27)年3月25日判決 LEX/DB25525406]
[事実の概要]
原告は1990年、夫A(米国籍)と婚姻し、2人の子をもうけた。被告はAと不貞関係に至り、Aとの間で子をもうけた。原告は2015年、Aと調停離婚した。原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料500万円を請求した。
[判決の概要]
原告は、Aと結婚して以来、2人の子をもうけ、日本語を母国語としないAに代わって、墨絵画家として活動するAの営業活動を助けてきたこと、被告とAは、10年近く交際を継続し、子までもうけていること、2013年原告にAと被告の不貞行為が発覚した後も不貞関係を継続していること、原告はAと調停離婚していることが認められるとして、被告の不貞行為による慰謝料250万円を認めた。
2015.3.25
原告が配偶者とその不貞相手に対し、不貞行為による慰謝料を請求したところ一部認容された事例
[東京地裁2015(平成27)年3月25日判決 LEX/DB25524973]
[事実の概要]
原告と被告Y1は同僚として知り合い、2012年に婚姻した。Y1は被告Y2と職場で出会い、2013年12月頃から不貞関係に至った。2014年に、Xが異性関係に疑念を持ち、Y1に尋ねたところ、Y1は不貞行為を認め、両者は同年別居し、離婚に至った。Y1とY2は、その後、同居している。原告は、Y1とY2に対し、慰謝料300万円を請求した。
[判決の概要]
被告は、原告とY1の夫婦関係が、既に平成25年12月には破綻していたとしたが、判決は「被告Y1が原告に対して種々の不満を持っていたことは窺われるものの、平成25年12月31日にはそろって同被告の実家に宿泊していることが認められる上、同日までの間に同被告と原告との間で諍いが生じていたことを窺わせる証拠は全く存しない」として、同主張を認めず、150万円の慰謝料をY1とY2が連帯して支払うことを命じた。
2015.3.24
原告が夫と不貞関係にある被告に対し400万円の慰謝料を請求したところ、被告が期日に出頭せず自白したものとみなされた上で、請求の一部である100万円を認容した事例
[東京地裁2015(平成27)年3月24日判決 LEX/DB25525099]
[事実の概要]
原告と夫Aは2007年に婚姻し、二人の子をもうけた。被告は、Aの経営する飲食店の客であり、Aの家族構成を把握しながら、2013年頃から8か月に渡り不貞関係を継続した。原告とAは、不貞行為を原因として離婚を前提に別居し、原告は就労困難な状況になった。
原告は、被告に対し、不貞行為についての謝罪と慰謝料350万円の支払等を求めるメールを送付し、被告はそれに応じる旨回答した。しかし、その後音信不通となり、原告が申し立てた調停にも出頭しなかった。
そこで、原告は被告に対し、精神的損害に対する慰謝料として400万円を請求した。
[判決の概要]
被告は、呼び出しを受けながら、口頭弁論期日にいずれも欠席し、書面も提出しないことから、請求原因事実について、いずれも争わないものと認め、自白したものとみなされた。しかし、損害の認定部分において「原告とAが離婚を合意するに至った具体的経過は明らかではなく」「夫婦関係が悪化した時期や具体的生活状況等も不明であって、上記夫婦関係が悪化したことと不貞行為との因果関係も明らかではない」として、「原告が被告の行為により被った精神的苦痛を慰謝するためには、100万円をもってするのが相当である。」とされ、請求のうち一部である100万円のみに認容された。
2015.3.24
妻から不貞の相手方に対する慰謝料請求につき、金500万円が認められた例
[東京地裁2015(平成27)年3月24日判決 LEX/DB25524827]
[事実の概要]
同居中から原告の夫A(クリニックを経営する医師)と被告は交際を開始し、6人の子をもうけ、不貞発覚により夫婦関係は決定的に破綻した。
Aと被告は無断で離婚届を作成し、届け出て、婚姻届をした。被告との第一子出産後、Aと被告は協議離婚をし、被告は、Aと被告の子が自分と同姓になることが好ましいと考え、戸籍法77条の2の届出(離婚の際に称する氏を称する届出)をした。原告と被告は偶然名前が同じであったので、同姓同名となった。クリニックでは、Aは原告の出入りを禁じ、被告が妻としてふるまっていた。原告とAの離婚確認無効の審判が確定した。被告とAは同居している。
[判決の概要]
不貞について、共同不法行為に基づく損害賠償義務を認めたほか、離婚届の無断作成、婚姻届などの一連の手続きにも被告が関与したとして、損害賠償義務を認めた。
[ひとこと]
被告が原告の夫とすでに同居し事実婚を営んでいること、夫が医師であり資力があること、離婚届の無断作成などに関与したことなどが、慰謝料を高額にしたと思われる。
2015.3.17
不貞の相手方に対する慰謝料請求が一部認容された事例
[東京地裁2015(平成27)年3月17日判決 LEX/DB25524918]
[事実の概要]
X(夫)とA(妻)は、1996年に婚姻し、2人の子をもうけたが、Aは遅くとも2013年2月ころまでには勤務先のクリニックの医師Y(既婚)と不貞関係をもつようになった。Xは2013年5月頃、調査会社に対してAYの行動調査を依頼し、その結果両名の不貞関係を知った。XはYに対し、2013年7月、1000万円の慰謝料を請求する通知書を送付した。Yは不貞を認めたが、慰謝料の金額等で争い合意には至らなかった。2014年6月、Aは子を連れて家を出てXと別居し、XとAは夫婦関係調整調停で離婚を前提とする協議を行っている。XがYに対し、慰謝料1000万円と弁護士費用100万円を請求した。
[判決の概要]
YはXとAとの間の婚姻関係が、Aがクリニックに勤務を開始した2011年2月より前に破綻していたと主張する。しかし、XとA及び子らは、XがAとYとの不貞関係を認識するまでは、少なくとも外形上、その婚姻生活に変化のあることは認められない。これに対して、Aは2012年8月、Xから暴力を振るわれて離婚を申し出たことがあり、Xからも離婚届用紙を渡された旨証言する。しかしながら、XとAがそのころに口論などのけんかをしたことは認められるものの、2012年8月以降も、XとAとの婚姻生活関係に客観的な変化があったことはうかがわれないから、2012年8月時点において、XとAとの婚姻共同生活が修復困難な程度に破綻していたということはできない。
結論として、慰謝料300万円、弁護士費用30万円と遅延損害金の支払いを求める限度で請求を認容した。
2015.3.17
不貞の相手方に対する慰謝料請求の一部が認容された事例
[東京地裁2015(平成27)年3月17日判決 LEX/DB25525419]
[事実の概要]
原告と夫Aは、2006年に婚姻し、2人の子をもうけたが、Aは、同じ会社で稼働する被告と不貞行為に及んだ。2013年12月Aは自宅を出て、原告と別居している。
原告は被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料300万円、弁護士費用30万を請求した。
[判決の概要]
被告は、被告がAと肉体関係を持った2013年5月下旬ころより以前に、原告とAとの婚姻関係は既に破綻していたと主張する。しかし、原告は、Aとの婚姻後、2013年中旬ころまでの間、Aと喧嘩をした際、離婚届を渡したことが数回あったが、原告とAとはそのようなことがあった後も婚姻生活を継続してきたことに鑑みると、原告がAとの婚姻関係が同年中旬ころまでに破綻していたと認めることはできない。
結論として、被告の不貞行為による慰謝料250万円、弁護士費用25万円を認めた。
2015.1.7
妻と別居中の男性が、既婚者であることを告げず、職場の未婚女性と交際し、妻との婚姻関係修復後も、それを隠して性的関係を維持した行為について、当該女性に対する人格権侵害の不法行為の成立を認めた事例
[東京地裁2015(平成27)年1月7日判決 判時2256号41頁]
[事実の概要]
Yは職場の未婚女性Xと知り合った当時、妻とは別居し連絡もとっていない状態であったが、離婚はしていなかった。しかし、Yは独身であるかのように装い、Xに交際を申し込み、性的関係を持った。その後、Yは妻との婚姻関係を修復し、妻が妊娠したにもかかわらず、約半年間、それをXに告げないまま性的関係を維持し、婚姻の約束までした。Yから婚姻の具体的な段取りの話がなく、Yの言動に不信感を抱いたXが調査したところ、Yに妻がおり、第1子を出産したという事実が判明した。そこで、XがYに対し、人格権侵害の不法行為に基づく損害賠償を求めた。
[判決の概要]
Yは、2011年春以降、妻との関係を修復する一方、その間、Xから別れ話を持ち出されても、「大切な〇〇ちゃん」「愛しているよ」などとメールを送り、Xとの性的関係を維持することを望み、Xが結婚を念頭においてYと交際していることを知りながら、既婚者であることを隠し、虚偽の真実を述べ、結婚を望むXに対しても曖昧な態度をとり続け、Xとの性的関係を続けたものである。このようなYの一連の言動は、遅くとも、Yが2011年3月の東日本大震災を契機に妻との関係を修復し、妻との性交渉を持った2012年5月以降は、Xに対する関係で、その人格権を侵害する不法行為を構成するというべきである。したがって、Yは、不法行為により原告が受けた損害を賠償する責任を免れないとして、慰謝料100万円を認めた。
[ひとこと]
本件は貞操権侵害ではなく、人格権侵害を認めているが、これは交際当初には、Yに真剣に交際する意思があり、Xを欺罔して性的関係を結んだとまではいえないことを踏まえたものと推認される。
2014.12.22
妻が夫の不貞の相手方に対して、慰謝料等の支払いを求めた事案について、金120万円の慰謝料が認められた例
[東京地裁2014(平成26)年12月22日判決 LEX/DB25523047]
[事実の概要]
原告(妻)とC(夫)は、1993年に婚姻し、6人の子をもうけた。原告とCは、子ども5人の英語教育のため、子どもらを沖縄にあるインターナショナルスクールに通わせることとし、2011年冬頃から、原告は沖縄県内で暮らし、Cは埼玉県内で暮らしていた。被告とCは、紹介クラブで出会い、2012年5月から同年10月までの間に10回会い、そのうち5回ほど肉体関係を持った。原告は、同年11月、Cと被告の不貞を知り、同年末頃自殺を図ったが未遂に終わった。原告は、Cに離婚の意思を示して別居している。
原告は、被告に対し、慰謝料300万円を請求した。
[判決の概要]
@原告とCとの婚姻関係が破綻していたか否か
「被告がCの不貞行為の相手方となったときには、Cと別居した状態となっていたことが認められる。しかしながら・・・子どもらに沖縄で英語教育を受けさせることや原告が子どもらと共に沖縄で暮らすことは原告とCとの合意に基づいたものである上、原告が沖縄に暮らしている間も、原告が自宅に戻ることがあったこと、メールやスカイプなどにより連絡を取っていたことが認められることからすれば、原告とCとの婚姻関係が破綻していたとは認められない。」
A原告が被った損害
「弁論に顕れた諸事情を考慮すると、原告の被った精神的苦痛に対する慰謝料は120万円が相当である」
2014.12.11
不貞の相手方女性に対する慰謝料及び弁護士費用等の損害賠償請求につき、一部を認容し、金110万の支払いを命じた例
[東京地裁2014(平成26)年12月11日判決 LEX/DB25523106]
[事実の概要]
原告と夫Cは、2005年に婚姻し、子2人をもうけた。Cは婚姻前にも交際したことのある被告と、2006年頃から再度連絡をとりあい2人で会うようになった。原告がCに問い詰めたところ、Cは不貞を認めたが、本件裁判で被告は不貞を否認している。原告は、将来的にCと離婚することを希望しており、夫婦は修復困難な状況となったと主張している。
[判決の概要]
被告とC間のメールの記載などから不貞行為を認め、慰謝料請求額300万円のうち100万円及び実損としての弁護士費用30万円のうちの10万円を認め、合計110万円の支払いを被告に命じた。
2014.12.9
元妻が元夫の不貞行為について元夫の上司らにメールを送付した行為が名誉棄損に該当するとして損害賠償の支払いが認められた事例
[東京地裁2014(平成26)年12月9日判決 LEX/DB25523005]
[事実の概要]
原告(夫)と被告(妻)は、1989年に婚姻し、2人の子をもうけたが、原告は同じ会社の従業員Aと不貞関係になり、2013年7月Aは被告に対し不貞を認めて謝罪し、慰謝料として300万円支払い、その後は原告と不貞関係を持たないことを確約する等の内容の和解契約を締結した。同年12月原告と被告は協議離婚した。離婚後、被告は会社のB部長及び総務部に対し、原告が会社の従業員と不倫をしていること等を内容とするメール(メール1)、原告はB部長、C部長、総務部のE及び総務部採用グループメーリングリストに対し、原告が社内不倫をしていること等を内容とするメール(メール2)、B部長、Eに対し、原告と被告の社内不倫についてと題するメール(メール3)、合計3通のメールを送付した。
原告が被告に対し、メールの送付により名誉を棄損されたとして慰謝料200万円と弁護士費用20万円を請求した。
[判決の概要]
(1)本件各メールは,[1]原告は,妻子があるのに20歳年下の職場の同僚と不倫をしていたこと,[2]原告が自ら不倫をしながら被告の暴力を主張して被告を家から追い出そうとしたこと,[3]原告が被告に不倫相手が発覚するのを恐れて若い女性を目で追いかけていたこと,[4]原告が不倫発覚時に証拠の奪い合いをして被告の左腕を傷つけたこと,[5]原告が,Aとともに,財産分与をいかに減らすかについて,会社のセキュリティがかかったエクセルファイルで管理し,婚姻の計画を立てていたこと,[6]原告が事務所には週に1,2度しか出勤せず,自宅から通えるのに,単身赴任用のアパートを借り,Aと交際していたこと,[7]原告は,原告の社内不倫により被告や子が深く傷ついても,幸せを感じることができること等を摘示するところ,[1][3]は,原告が自分の娘と大差ない年齢の女性と社内で不倫をし,それを隠そうとする倫理観の欠如した男性であること,[2]は,原告が被告を虚言により誹謗中傷したこと,[4]は,原告が被告に傷害を負わせる暴力的な人物であること,[5]は,原告が被告と婚姻中に不倫相手と婚姻する計画を立てている男性であること,[6]は,原告が勤務時間中も不倫女性と過ごし業務を怠けていること,[7]は,原告が家庭を壊し子供を不幸せにしても自分が幸せを感じるような身勝手かつ冷酷な男性であることを摘示するから,原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
(2)各事実は,いずれも公共の利害に係る事実とはいえないし,被告がこれらの事実を記載したメールを送信した目的が公益を図る目的であったとはいえず,むしろ,被告は,原告が不貞行為を行ったことに対して報復する目的で,本件会社の関係者に対し,原告の社会的評価を低下させる内容の本件メールを送信したことが認められるから,被告が本件各メールを送信した行為は,不法行為を構成する。
(3)電子メールは,転送が容易で,相当期間にわたり,アクセス可能な状態で保存される可能性が高いから,被告が本件メール1及び3を本件会社内のメーリングリストを含む複数のアドレスに送信したことにより,原告の社会的評価を低下させる事実が本件会社内の不特定人の閲覧可能な状態に置かれたといえる。したがって,仮に,被告の主張のとおり,被告が意図的にメーリングリストに本件メール2を送信したわけでなかったとしても,結果として,原告の被害は相当程度大きかったといえる。
(4)しかしながら,他方,各事実は,いずれも真実であるか,被告が真実であると信じることについて相当の理由があることが認められる。
各事実は,被告及び子の感情を著しく傷つけるものであり,社会倫理に違反し,被告に対する不法行為を構成する。したがって,被告が原告の本件会社内の不貞行為について,上司に相談して被告への指導監督等を求めることは,社会通念上許容される行為と考えられ,本件各メールは,原告との離婚及びAとの和解契約の成立後に,本件会社内の不特定人に送付したという点で,不法行為に該当すると言わざるを得ないものである。
(5)慰謝料の額は、本件メール1及び2について各20万円、本件メール3について5万円、弁護士費用は、本件メール1及び2について各2万円、本件メール3について5000円と認めるのが相当である。
2014.8.20
独身であると偽って交際し、婚約の証として高級時計を贈らせた行為につき、不法行為による損害賠償請求が認容された事例
[東京地裁2014(平成26)年8月20日判決 LEX/DB25521187]
[事実の概要]
原告(女性)と被告(男性)は、独身者限定のお見合いパーティーで知り合った。
被告は、既婚者であったにもかかわらず独身と偽って本件パーティーに参加し、原告と知り合った。被告は原告に、指輪と時計の交換話を持ち掛け、同人に高価なロレックスの時計を購入させ(108万円)、自らは鑑定書のないネックレスを原告に贈った。被告は、再度原告にロレックスの時計を贈るように求め、原告がその購入をしなかったことから、同人を冷たくあしらうようになった。
原告は、調査会社に被告の身元調査を依頼し、被告に妻子がいることを知った。そこで、被告による欺罔行為により損害を被ったとして、時計購入費用や慰謝料等の支払いを求めて訴訟提起した。
[判決の概要]
「被告は、既婚者であることを隠して本件パーティーに参加し、結婚願望を有する原告に、指輪と時計の交換話を持ち掛け、あたかも婚約の証であるかのように思わせて高価な本件時計を贈らせたものと認めることができる」として被告の不法行為責任を認め、時計購入費用、調査費用の全額と、慰謝料の一部(30万円)、弁護士費用の支払いを命じた。
なお、被告は、本件ネックレスの額を控除すべきであると主張したが、「専ら本件時計を詐取する手段として、原告に本件ネックレスを贈与したと認められることから、不法原因給付によって生じたものというべきであ」るとして排斥された。
また、被告は、過失相殺についても主張したが、「原告が被告の言動を容易く信じて本件時計を贈与した事実はあるとしても…公平の見地から、前記事情を原告の過失として斟酌し、損害賠償額を定める必要があるとはいえない」として排斥された。
2014.7.30
不貞の相手方に対する慰謝料請求の一部が認容された事例
[東京地裁2014(平成26)年7月30日判決 LEX/DB25520822]
[事実の概要]
原告は2004年に夫Aと婚姻し、2006年に子をもうけた。被告は2003年にAと知り合い交際を開始し、Aが原告と婚姻後も交際を継続した。被告は2006年ころAが婚姻していることを知ったが、2013年までAとの交際を継続した。原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料450万円、弁護士費用45万円を請求した。
[判決の概要]
被告との不貞関係を継続しようとするAが、被告に対して、原告との婚姻関係がうまくいっておらず、原告とは必ず離婚して被告と再婚する旨告げたとしても、これを直ちに信用することができないのは明らかであり、Aと原告の婚姻関係が破綻していると信じるについて、被告に過失がなかったと認めることはできない。また、被告とAの本件不法行為により、原告とAとの婚姻関係は悪化したものの、破綻するには至っていないこと、被告は、Aと原告が婚姻する前にAとの交際を開始し、Aが原告と婚姻した後も、しばらくはその事実を知らずにAとの交際を続けていたこと、その後も、被告は、Aから、原告との婚姻関係はうまくいっておらず、原告とは必ず離婚して被告と再婚する旨告げられていたために、Aとの不貞関係を継続したことがうかがわれること等から、慰謝料100万円、弁護士費用10万円とした。
2014.4.14
クラブのママないしホステスが顧客と性交渉を反復継続した場合でもそれが「枕営業」と認められる場合には、顧客の妻との関係で、不法行為を構成するものではないとして、妻からの慰謝料請求を棄却した事例
[東京地裁2014 (平成26)年4月14 日判決 判タ1411号312頁]
[事実の概要]
X(妻)は、夫AがクラブのママであるYと7年以上にわたり月1、2回不貞行為を繰り返したとして、Yに対して慰謝料(400万円)を請求した。
Yは、Aとはクラブのママと客の関係であり、それ以上ではないとして、不貞行為自体を否認した。
[判決の概要]
判決は、YとAとの間に不貞行為があったか自体に争いがあるが、仮に不貞行為が認められるとしても、と前置きして、以下のように判断した。
「第三者が一方配偶者と肉体関係を持つことが他方配偶者に対する不法行為を構成するのは、(略)当該不貞行為が他方配偶者に対する婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益に対する侵害に該当することによるものであり、ソープランドに勤務する女性のような売春婦が対価を得て妻のある顧客と性交渉を行った場合には、当該性交渉は当該顧客の性欲処理に商売として応じたにすぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、たとえそれが長年にわたり頻回に行われ、そのことを知った妻が不安感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で不法行為を構成するものではないと解される。」
「クラブのママやホステスが、自分を目当てとして定期的に通ってくれる優良顧客や、クラブが義務付けている同伴出勤に付き合ってくれる顧客を確保するために、様々な営業活動を行っており、その中には、顧客の明示的又は黙示的な要求に応じるなどして、当該顧客の明示的又は黙示的な要求に応じるなどして、当該顧客と性交渉をする「枕営業」と呼ばれる営業活動を行う者も少なからずいることは公知の事実である。」
「枕営業」の場合には、ソープランドに勤務する女性の場合との違いは、「対価が直接的なものであるか、間接的なものであるかの差に過ぎない。」
「そうすると、クラブのママはいしホステスが、顧客と性交渉を反復・継続したとしても、それが「枕営業」であると認められる場合には、売春婦の場合と同様に、顧客の性欲処理に商売として応じたにすぎず、何ら婚姻共同生活の平和を害するものではないから、たとえそれが長年にわたり頻回に行われ、そのことを知った妻が不安感や嫌悪感を抱いて精神的苦痛を受けたとしても、当該妻に対する関係で不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」
請求棄却(確定)。
[ひとこと]
不貞行為の第三者の責任について消極説が学説上主流であるが、本判決は、否定説に立つものではなく、「枕営業」として顧客と性交渉を反復・継続した場合、売春婦と同様で、婚姻共同生活の平和を害するものではないとして請求を否定した。最二小昭和54年3月30日(民集22巻2号303頁)が「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず」、慰謝料を支払う義務があるとしたことと、整合性があるのか、疑問が提起されている(判例タイムズ1411号313頁)。
なお、マスメディア等では、裁判所が「枕営業は公知の事実」としたことなどが注目を集めた。
2013.5.30
不貞の相手方に対する慰謝料請求訴訟において、原告が損害として主張する興信所の調査費用につき、相当因果関係のある損害であるとしつつ、内容、弁護士費用との対比などから、その一部のみを認容した事例
[東京地裁2013(平成25)年5月30日判決 LEX/DB25512779]
[事実の概要]
原告は、妻P3と同棲した被告に対し、不貞行為に基づく損害として、慰謝料600万円及び調査費用207万9000円の合計金807万9000円の支払いを求めた。
[判決の概要]
判決は慰謝料として200万円、調査費用の一部である10万円を損害として認めた。調査費用に関しては、「…原告は、株式会社ジェット調査事務所にP3に関する浮気調査を依頼したこと、その結果、被告とP3がP6×××号室から出かけ、行動を共にしていることやその際の様子が判明したこと、原告は、同社に対し、調査費用として207万9000円を支払ったことが認められる。上記調査費用は、被告の不法行為を立証するための支出であり、不貞行為の事実を明らかにするためには必要なものというべきであって、不法行為と相当因果関係のある損害であることは否定できないものと解される(本訴においても、被告は、同棲の事実を否認し、争っており、上記調査の結果が証拠として一定の意味を有しているといえる。)。もっとも、上記調査費用は立証方法の一つにすぎないこと、原告が支出した額は一般に相当因果関係の認められる弁護士費用相当額の損害と比べても多額であること、証拠及び弁論の全趣旨によると、上記調査内容は、被告やP3を尾行することによりP3の行動を調査し、書面(写真を含む)により、原告に報告するというものであり、それほど専門性の高い調査とまではいえないことに鑑みると、上記調査費用のうち、10万円について、被告の不法行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。…」と述べた。
[ひとこと]
興信所の調査費用は過大になることがしばしばあるが、損害としては一部のみを認容するという穏当な判断である。
2012.11.14
元夫と女性に対する元夫の暴言暴力と元夫らの不貞により婚姻関係が破綻し離婚に至ったことを理由にした慰謝料請求が棄却され、当該慰謝料請求訴訟が不当訴訟であり元妻の主張が名誉棄損に当たるとする女性からの慰謝料等の反訴が一部認容された事例
[東京地裁2012(平成24)年11月14日判決 LEX/DB25497480]
[事実の概要]
原告Aは、元夫である被告B及び被告Cに対し、被告Bの暴言、暴力と、被告らの不貞によりAとBの婚姻生活が破たんし、離婚に至ったとして、不法行為に基づき慰謝料300万円を求めた。Cは、根拠のない本訴提起が不当訴訟にあたり、本訴におけるAの主張が名誉棄損に当たるとして、不法行為に基づき慰謝料200万円と弁護士費用40万円の支払いを求める反訴を提起した。
[判決の概要]
被告Bは暴力を否認したが、判決はそうであるとすれば、DVを前提とするようなカウンセリング等に同行することは考え難いなどとして、Bの原告に対する暴力的な言動により両者の婚姻関係が破綻したと認定した。
しかし、BとCが不倫関係にあったとする点については、Bが不倫関係にあったと原告に伝えたという原告の供述しか証拠がない等として、斥けた。
「訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が客観的、法律的根拠を欠くものである上、提訴者が、そのことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したことなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られる」と最高裁昭和63年1月26日第三小法廷判決、最高裁平成11年4月22日第一小法廷を引用した上で、本件の事実認定によれば、BCが不貞関係にあるとする具体的な根拠を示さずに訴訟を提起した本訴は、訴えの提起が「裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く」として不法行為が成立するとした。またCは応訴を余儀なくされ、訴訟資料をみられたことが一因となって自身も離婚に至ったことから、慰謝料50万円、弁護士用10万円を認めた。
名誉棄損の主張については、Aの主張は、訴訟上必要な内容にとどまっており、Cの名誉を棄損することを目的としたものとは解されないとして、違法性を欠き名誉棄損の成立を認めなかった。
2011.12.13
既婚男性と不貞関係をもった女性からの慰謝料請求と子の認知請求を認容した事例
[長野家裁諏訪支部2011(平成23)年12月13日判決 LEX/DB25445569]
[事実の概要]
子Aと母Bが、父Cに対しAの認知を求めるとともに、Bが、Cに対し、@Cの妻Dとの婚姻が破綻しており、離婚してBと婚姻するとの詐言を弄して妊娠させ、交際を継続させた上に、Aの出産を積極的に後押しした、Aその後態度を翻して認知請求等に対して不誠実な対応に終始した、BCの妻DがBを訴えた慰謝料請求事件において、Bを誹謗する内容の陳述書を提出したとして、慰謝料300万円を請求した。
なお、DがBを訴えた事件は一審で150万円の慰謝料が認容されたが、Bが控訴し、控訴審において、裁判所から、@CがAを認知する、ACがA養育費として相当額を支払う、BBがCを訴えた本件訴訟とDがBを訴えた別件訴訟のいずれも慰謝料のやりとりなし、という和解案が示されたが、Bが難色を示したため、和解協議が決裂した。
[判決の概要]
@ 認知請求
被告Cは通常に比し早産であるなどとして争ったが、判決は、DNA鑑定の結果のほか、原告Bの妊娠中Cは原告Aについて自らの子であることを認める言動に終始していたことなどから(多数のメール等により認定)、AとCの血縁上の父子関係を認め、請求を認容した。
A 不法行為請求
「配偶者ある者の婚姻外性関係は、一夫一婦制という善良の風俗に反する行為であり、情を通じた女性は、夫の妻に対する貞操義務違反に加担する共同不法行為責任を負う。したがって、男性に妻があることを知りながら情交関係を結んだ女性が、そのために損害を被ったとしても、その復旧としての慰謝料等を請求することは、一般的には、民法708条に示された法の精神に反して許されないと考えられる。」
「もっとも、女性が、男性に妻のあることを知りながら情交関係を結んだとしても、情交の動機が主として男性側の詐言を信じたことに原因している場合で、情交関係を結んだ動機、詐言の内容程度及びその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し、女性側における動機に内在する不法の程度に比し、男性側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、貞操等の侵害を理由とする女性の男性に対する慰謝料請求は許される(最二判昭和44年9月26日・民集23巻9号1727頁)。」
CのBに対する言動を詳細に認定した上で、BがCとの関係を継続させたのは、Cの詐言を信じたためであり、その詐言の内容程度も著しいから、Bの違法の程度に比べてCの違法性が著しく大きいとして、BのCに対する慰謝料請求は許されるべきとした。
そして、損害額の認定に当たり、Cが出産直後に態度を翻しBとの交信を絶ったこと、「別件訴訟において、自己保身のために、」Bと別の男性との性的関係の疑惑を指摘する内容の陳述書を提出したり、DNA鑑定後も任意認知に応じない態度をとるなど、「それまでの言動と矛盾に満ちた挙動に終始している」被告の態度も、一事情として考慮するのが相当である。
Bが受けた精神的苦痛は大きいといえるとしながら、民法708条に示された法の精神に照らして、Bにも違法性が認められることも、一事情として考慮する必要もあるとして、慰謝料の額を75万円とした。
[ひとこと]
不貞関係をもった男性の関係解消時の態度のほか、男性の妻から女性への慰謝料請求訴訟での男性の陳述書の内容等も、慰謝料額算定の一事情としている。
不貞行為の相手方が、共に不貞行為をはたらいた配偶者を訴え、損害賠償請求が認容される事案は極めて少ないし、金額も低く、多くは裁判にいたる前に解決していることが多いと思われ、公表されるものは珍しい。
妻のDが女性Bを訴えた事案での控訴審の上記和解案は、事案の最終解決として、特に子の存在を考えるとき、非常に適切なものであったと思われる。
2004.12.22
不貞又は婚姻破綻の主たる責任は不貞をはたらいた配偶者にあり、不貞の相手方の責任は副次的なものであるとして、不貞の相手方につき金50万円の慰謝料を認めた例
[裁判所]東京地裁
[年月日]2004(平成16)年12月22日判決
[出典]LLI/DB(L05935217)
[事実の概要]
被告は、原告の妻Aに対して、路上で声をかけ、翌月より交際を開始し、合計6回、男女関係をもった。情交中に、Aのコートのポケット内の携帯電話のボタンが偶然押され、登録されていた原告の携帯電話番号宛発信され、原告は、まさに進行中の被告とAの情交中の声を聞くことになり、不貞が発覚した。離婚には至っていない。
[判決の概要]
「被告の本件男女関係は不法行為であると認められるから、被告は、原告の精神的損害を賠償する義務があるが、そもそも婚姻関係の平穏は、第一次的には配偶者相互間の守操義務、協力義務によって維持されるべきものであり、この義務は配偶者以外の第三者の負担する婚姻秩序尊重義務とでもいうべき一般的義務とは質的に異なるから、不貞または婚姻破綻の主たる責任は、原則として不貞を働いた配偶者にあり、不貞の相手方の責任は副次的なものと見るべきである。」「A(不貞をはたらいた妻)自身において、被告との交際について積極的であったと認められること、原告とAの婚姻共同生活は、危機に瀕することとなったとしても、口頭弁論終結時において、原告とAは同居中であり、離婚にまでは至っていないと認められること及び前記前提となる事実並びに弁論の全趣旨によれば、本件における原告の慰謝料は50万円をもって相当と認められる。」とした。
[ひとこと]
不貞の発覚の発端が現代的である。路上で声をかけられて初めて知り合ったのにわずか9日後に男女関係に至っているという事実も、責任はまずは配偶者(妻)自身にあるとした根拠の1つになっていると思われる。
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