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判例 その他
夫婦別姓

2021.4.21 New!
NY州で別姓のまま同州の方式に従って婚姻した夫婦につき、日本においても婚姻は有効に成立していると認められた例
[東京地裁2021(令和3)年4月21日判決 https://bessei.netに登載]
[事実の概要]
NY州で別氏で同州の方式に従って婚姻した夫婦が原告となり、主位的に、戸籍において原告らが婚姻関係にあると公証を受けることができる地位にあることの確認、予備的に国が作成する証明書の交付によって婚姻関係にあると公証を受けることができる地位にあることの確認、および立法不作為による損害賠償請求を求めた。主たる争点の1つが、原告らの婚姻関係の成否であった。
[判決の概要]
婚姻の成立については、「原告らは社会通念上夫婦であると認められる関係の設定を欲する意思を有して、前記前提事実の通り、ニューヨーク州において、ニューヨーク州所定の婚姻の方式に従い、婚姻を挙行したと認められるのであって、婚姻の成立に関し、原告らの本国法である民法上の実質的要件(民法731条から737条まで)にも欠けるところは認められないから、民法750条の定める婚姻の効力が発生する前であっても、原告らの婚姻自体は。有効に成立しているものと認められる。」として認め、公証を受けることができる地位の確認については却下した。
ただし、戸籍への記載等については、「本件不受理処分に対する不服の申立てを通じて、婚姻関係が戸籍に記載され、戸籍の謄本等の交付を請求することもできる(戸籍法10条1項)ようになり得るのであって」と付言した。

2019.10.2
民法750条及び戸籍法74条1号の各規定は、憲法14条1項、24条、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約又は市民的及び政治的権利に関する国際規約に違反することが明白であるとはいえず、その改廃等の立法措置を執らない立法不作為は国家賠償法1条1項の適用上違法とはいえないとされた例
[東京地裁2019(令和元)年10月2日判決 判時2443号55頁]
[事実の概要]
第2次夫婦別姓訴訟(複数係属している)の第一審判決である。原告らは、いずれも婚姻改姓を望まず、婚姻後の夫婦の氏として、夫は夫の氏、妻は妻の氏を称する旨を記載した婚姻届を提出したところ、民法750条及び戸籍法74条1号(以下「本件各規定」という。)を根拠に婚姻届を不受理とされた。
原告らは、本件各規定が憲法14条1項、24条又は国際人権条約に違反することが明白であるにもかかわらず、国会が本件各規定について正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠ったことにより、婚姻をするについての自由を制約され、法律上の婚姻に認められる民法や税法等の法律上の権利・利益、事実上の様々な利益を享受できず、また、夫婦であることの社会的承認をうけることができない不利益を被り、それらにより多大な精神的苦痛を受けたとして、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料各50万円の支払を請求した。
民法750条は、夫婦同氏を定め、戸籍法74条は、「婚姻をしようとする者は、左の事項を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。」と規定し、その記載事項の一つとして、同条1号で「夫婦が称する氏」と定めている。
[判決の概要]
「同規定(注:民法750条をさす。)は、夫婦となろうとする者のうちの、夫婦同氏を希望する者、夫婦別氏を希望する者、そのいずれにも属さない者のすべてに対し一律に、夫婦が夫と妻のいずれの氏を称するかの選択について、夫婦となろうとする者の間の協議に委ねるという均等の取扱いをしているのであって、法律婚に関し、同規定の法内容として、夫婦同氏を希望する者と夫婦別氏を希望する者との間でその信条の違いに着目した法的な差別的取扱いを定めているものではないから、同規定の定める夫婦同氏制それ自体に夫婦同氏を希望する者と夫婦別氏を希望する者との間の形式的な不平等が存在するわけではない。
したがって、民法750条は憲法14条1項に違反せず(平成27年最大判)、民法750条を受けて婚姻の届出の際に夫婦が称する氏を届書に記載するという手続について規定した戸籍法74条1号もまた憲法14条1項に違反するものではない。」
「以上のとおり平成27年最大判後の社会の動向が認められ、原告らの主張するように、女性が婚姻及び出産後も継続して就業する傾向にあり、女性が就業することについての社会の意識も高まっている傾向にあり、氏が家族の一体感につながるとは考えていない者の割合は増加傾向にあって、制度としても選択的夫婦別氏制の導入に賛成する者の割合も増加傾向にあることが認められる。このような国民の意識を含めた社会状況の変化は、国会が婚姻及び家族に関する法制度の内容を合理的な立法裁量により定めるに当たって踏まえるべき要因の一つであって、その裁量の範囲を限定する要素となり得るものであり、また、原告らの主張する上記各傾向は、平成27年最大判の前から徐々に進行していたところであって、その後も引き続き同様の傾向が拡大していることがうかがえる。
しかしながら、これらの点において、平成27年最大判の当時と比較して判例変更を正当化しうるほどの変化があるとまでは認められず、そのような社会の変化や選択的夫婦別氏制の導入に関する国民の意識の変化は、まさに、国民の意思を託された国会(注:「に」が欠けている)おける立法政策として婚姻及び家族制度の在り方を定めるにあたり十分に考慮されるべき事柄にほかならない。これらの点を考慮しても、民法750条の定める夫婦同氏制が憲法14条1項に違反せず、また国会の合理的な立法裁量の範囲を超えるものではなく憲法24条に違反しないとした平成27年最大判の正当性を失わせるほどの事情変更があったと認めることはできない。」として、請求を棄却した。

2019.3.25
婚姻改姓した場合に,婚姻前の氏を戸籍法上の氏として称する制度が設けられていないこと(戸籍法によって選択的夫婦別氏制が認められていないこと)は,憲法13条,14条1項及び24条に違反せず,立法不作為の違法はないとして,原告ひとりあたり55万円の国に対する損害賠償請求を棄却した例
[東京地裁2019(平成31)年3月25日判決 LEX/DB25562555]
[事実の概要]
原告は,Aほか3名である。原告Aは,仕事及び日常生活において,婚姻前の氏Aを通称として使用しており,サイボウズ社の商業登記簿には,取締役及び代表取締役の氏として,「B(A)」と記録されている。Bは戸籍姓である。
原告Aは,以下のような事実を主張し,婚姻前の氏を戸籍法上の氏として称する制度が設けられていないこと(選択的夫婦別氏制が認められていないこと)は憲法違反であると主張した。
原告Aは,婚姻前にサイボウズ社を起業し,現在,同社の代表取締役を務めている。そして,原告A自身が同社の株式の約17%を所有している。上場企業の場合,信託銀行が株主リストを管理しており手数料を取る。売買される度に,株式の所有者が変わるため,それを管理する手間賃である。サイボウズ社は,三菱UFJ信託銀行に委託している。
手数料を払うのは,原告Aではなくサイボウズ社であるが,原告Aは,保有株式数が多かったため,約81万円の手数料が発生した。原告Aが株式の名義を婚姻後の氏のものに変更すると,翌月,上記信託銀行から多額の請求が来て,大変驚いた。サイボウズ社に生じた経済的損害は,株主である原告A個人の経済的損害でもある。
通称としての婚姻前の氏と婚姻後の氏を仕事で使い分ける手間が多大である。公式書類では,婚姻後の氏を使う必要がある。それぞれの書類について,氏についてのルールを確認しながら名前を書くことが必要である。サイボウズ社の契約書類についても,契約書には国内外に様々なものがあり,その都度,法務部門の指示に従って,婚姻前の氏と婚姻後の氏を使い分けて作成することが必要である。
平成27年まで,東証の指導で,IR(Investor Relations。企業が株主や投資家に対し,財務状況など投資判断に必要な情報を提供していく活動全般を指す。)関係では,戸籍上の氏を使用せざるを得なかった。・・この点について,平成28年から婚姻前の氏が使用できるようになったが,それまでに原告Aが氏の使い分けにより受けた精神的苦痛は,甚大であった。・・なお,現在においても,婚姻前の氏の使用を知らない投資家は,「サイボウズ社は,A社長が株式を全く持ってないね。」などと言い,誤解されることがよくある。株式会社にとって,投資家にそのような誤解をされることは重大であり,原告Aが受けている精神的苦痛は,甚大である。
[判決の概要]
「氏は,婚姻及び家族に関する法制度の一部として法律がその具体的な内容を規律しているものであるから,現行法における氏の性質や氏に関する具体的な法制度の内容を離れて,本件旧氏続称制度が設けられていないことが禁止される差別的な取扱いに当たるか否かを論ずることは,相当ではない。(中略)氏に,名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば,氏が,親子関係など一定の身分関係を反映し,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは,その性質上予定されているといえる(以上につき,夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決参照)。」
「戸籍法上の氏の規律は,民法上の氏の規律と密接不可分の関係にあり,民法上の氏の取得又は変動の原因があれば,戸籍法に規定された手続を通じて,それが戸籍に反映される関係にあるということができる。そして,このような民法と戸籍法との関係に照らせば,個人の民法上の氏と戸籍法上の氏も密接不可分の関係にあって,合わせて一つの法律上の氏を構成するものというべきであり,現行法の下において,個人が社会において使用する法律上の氏は,一つであることが予定されているものというべきである。」
「戸籍法16条3項本文が,日本人と外国人との婚姻について,婚姻の届出があったときは,その日本人について新戸籍を編製すると規定し,同法107条2項が,氏の変更届の提出を要するものとしているのは,日本人と外国人との婚姻において,民法750条の適用がなく,婚姻により民法上の氏の変動が生じる場面を想定していないからであると理解することができる。(中略)民法750条は,日本人同士の婚姻の場面において適用される規定であって,日本人と外国人との婚姻の場面において適用される規定ではないと解するのが相当である。」「外国人配偶者氏への変更制度及び日本人氏への変更制度に係る戸籍法107条2項及び同条3項の各規定は,婚氏続称に係る民法767条2項と同様に,類型的に戸籍法107条1項が規定する家庭裁判所の許可を不要とする規定であり,氏の変更の要件を緩和した規定ではないと解される。」
[ひとこと]
判決は大変長いので一部しか抜粋できなかった。最大判平成27年12月16日(夫婦別姓訴訟判決)が厳しく批判を受けた1つは最高裁の「制度優先思考」(人権を制度の枠内に閉じ込める)であったが,この東京地裁判決も,最大判に依拠しつつ,同様の思考で一貫して原告の主張を切り捨てている。民法750条を問題にせず戸籍法のみを問題とする手法は,民法の問題性を残すことになり抜本的解決にならない懸念があるが,婚姻前の氏の維持が認められてないことに対する苦痛が,これほど多くの人が訴え,人格的利益であることまでは最大判も認めた現代社会において,そのことへの配慮を何ら示さない判決には非常に落胆した。控訴がなされた。2018年,複数の夫婦別姓訴訟が提訴されたが,その最初の地裁判決である。

2017.3.16
控訴人の教員と被控訴人の学校法人の間で、学校の業務に関して、婚姻前の氏を使用することにつき、和解が成立した例
[東京高裁2017(平成29)年3月16日和解 未公表]
[事実の概要]
2016.10.11と同じ。
[和解条項]
被控訴人は、控訴人が、従前、婚姻前の氏を使用できなかったことにより困難な状況にあったことを理解し、今後、控訴人の婚姻前の氏の使用について配慮することとして、控訴人と被控訴人は、以下の合意をすることにした。
1控訴人と被控訴人は、以下のことを相互に確認する。
(1)被控訴人は、平成29年4月1日から、被控訴人が設置する学校の業務に関して、被控訴人と雇用関係にある者で婚姻に伴い戸籍上の氏を変更したが婚姻前の氏を継続して使用することを申し出た者について、婚姻前の氏を継続して使用することを認めることとし、被控訴人においても、その申し出た者に関し被控訴人が作成する文書の記載及び日常的な呼称等において、婚姻前の氏を使用することとする。
(2)ただし、被控訴人は、上記(1)の者について、税金、社会保険、年金及び雇用保険につき、法令等が戸籍上の氏の使用を義務づける場合及び外部機関との関係により必要がある場合には、戸籍上の氏を使用することがある。
2被控訴人は、控訴人に対し、上記1(1)に基づき、平成29年4月1日から、被控訴人が設置する学校の業務に関して、控訴人が婚姻前の氏である「○○」を使用することを認め、被控訴人が作成する文書の記載及び日常的な呼称等において、控訴人の呼称として「○○」の氏を使用する。ただし、上記1(2)の場合は、戸籍上の氏を使用することがある。
3控訴人はその余の請求を放棄する。
4控訴人と被控訴人は、控訴人と被控訴人との間には、本件に関し、本和解条項に定めるほか、何らの債権債務がないことを相互に確認する。
5訴訟費用は、第1、2審とも各自の負担とする。
[ひとこと]
従前、婚姻前の氏の使用を求めた裁判として、図書館情報大学事件(一審は東京地判1993年11月9日、控訴審の東京高裁で和解)、中央情報システム事件(大阪地判2002年3月20日、婚姻姓の使用を命じたことは人格権の侵害であり民法709条の不法行為にあたると認定)がある。

2016.10.11
教員である原告が、勤務先である被告私立学校から、婚姻後、戸籍姓の使用を強制されたことに対し、婚姻前の氏を通称として使用すること及び損害賠償を求めたところ、同請求をいずれも棄却した事案
[東京地裁2016(平成28)年10月11日判決 労働判例1150号5頁 判時2329号60頁 LEX/DB25544090]
[事実の概要]
原告Xは被告Yに就職し、教員として勤務していたところ、Xは勤続10余年の年度途中で、婚姻し、戸籍姓を変更した。Xは、Yに対し、職務上、継続して旧姓を通称使用することを希望し、Yに申し出たところ、Yはこれを拒否した。Yは、次年度よりXの氏名を戸籍姓で取り扱うようになった。
Xは、婚姻前の姓を使用することを求め民事調停を提起したが、不調に終わった。そこで、Xは、Yに対し、人格権に基づき通称使用及び損害賠償を求め、東京地裁に提訴した。
[判決の概要]
1 判決は、婚姻前の氏を使用する利益につき、下記の通り判断した。
「婚姻前の氏は、婚姻時まで個人を他人から識別し特定する機能を有し、個人として尊重される基礎、個人の人格の尊重となってきた氏名の一部であり、個人が婚姻前に築いた信用、評価、名誉感情等の基礎ともなるものであることに照らせば、その利益がおよそ法的保護に値せず、(略)いかなる場合においてもその使用の妨害に対して何らの法的救済が与えられないと解するのは相当ではない。」
「したがって、通称として婚姻前の氏を使用する利益は、人格権の一内容にまでなるか否かは措くとしても、少なくとも、上記の意味で、法律上保護される利益であるということができ、これを違法に侵害した場合には不法行為が成立し得ると解するのが相当である。」
2 次に、判決は、被告が通称使用を一律に認めなかったことの違法性について、下記の通り判断した。
「婚姻によって氏を改めた場合には、新たな戸籍上の氏を有することとなる。この戸籍上の氏は、婚姻前に使用した実績ないものであるが、出生の直後に付与された人の戸籍上の氏名が直ちに個人の識別特定機能を有し、個人の人格の象徴となるのと同様に、氏の変更後直ちにその名とあいまって上記の機能を有し、個人として尊重される基礎、人格の尊重となるものと解される。」「個人の識別特定機能は、社会的な機能であるところ、戸籍上の氏は戸籍制度という公証制度に支えられているものであり、その点で、婚姻前の使用実績という事実関係を基礎とする婚姻前の氏に比して、より高い個人の識別特定機能を有していると言うべきである。」
また、各証拠から、「婚姻前の氏の使用が広がっていることを踏まえてもなお、いまだ、婚姻前の氏による氏名が個人の名称として、戸籍上の氏名と同じように使用されることが社会において根付いているとまでは認められない」。
「したがって、本件のように職場という集団が関わる場面において職員を識別し、特定するものとして戸籍上の氏の使用を求めることには合理性、必要性が認められるということができる。」
[ひとこと]
最大判平成27年12月16日(夫婦別姓訴訟大法廷判決)では、「夫婦同氏制は,婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく,近時,婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ,上記の不利益は,このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。」とされ、夫婦同氏姓の合憲性根拠として通称使用の広がりが挙げられた。しかし、今回の判決は、職場で戸籍姓を強制することには必要性、合理性があると結論付けた。2つの判決の整合性に大きな疑問が残る。

2015.12.16
夫婦同氏強制を定める民法750条は、憲法13条、14条1項、24条に違反せず、その改正をしない立法不作為は国家賠償法上、違法ではないとした例
[最高裁大法廷2015(平27)年12月16日判決 判タ1421号84頁]
[事実の概要]
いわゆる夫婦別姓訴訟である。婚姻改姓し旧姓を通称として使用し続けている女性3人、氏の変更を回避するため婚姻届出をせず事実婚をする男女2名の合計5名が、女性差別撤廃条約の批准(1985年)から26年(提訴時)、法務省による選択的夫婦別姓を認める民法改正の法律案要綱公表(1996年)から15年(提訴時)経過しても、国会が民法750条を改廃しないことが、違法であると訴えた。
第一審判決 東京地判2013(平25)年5月29日は、
http://www.asahi-net.or.jp/~dv3m-ymsk/13_5_29hanketu.pdf
第二審判決 東京高判平成2014(平26)年3月28日は、
http://www.asahi-net.or.jp/~dv3m-ymsk/hanketu14_3_28.pdf
[判決の概要]
1 憲法13条について
「氏に、名とは切り離された存在として社会の構成要素である家族の呼称としての意義があることからすれば、氏が、・・婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改められることがあり得ることは、その性質上予定されているといえる。」「本件規定(民法750条のこと)憲法13条に違反するものではない。」
2 憲法14条1項について
「夫婦となろうとする者の間の個々の協議の結果として夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めることが認められるとしても、それが、本件規定の在り方自体から生じた結果であるということはできない。」「本件規定は、憲法14条1項に違反するものではない。」
3 憲法24条について
「仮に、婚姻及び家族に関する法制度の内容に意に沿わないところがあることを理由として婚姻をしないことを選択した者がいるとしても、これをもって、直ちに、当該法律が、婚姻をすることについて憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。」
「氏は、家族の呼称としての意義があるところ、・・その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。そして、夫婦が同一の氏を称することは、上記の家族という一つの集団を構成する一員であることを対外的に公示し、識別する機能を有している。・・また、家族という一つの集団を構成する一員であることを実感することに意義を見いだす考え方も理解できるところである。さらに、夫婦同氏制の下においては、子の立場として、いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる。加えて、・・夫婦がいずれの氏を称するかは、夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている。・・(婚姻改姓の)不利益は、・・氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものであう。・・上記のような状況の下で直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であるとは認めることはできない。したがって、本件規定は憲法24条に違反するものではない。」

個別意見の要点は、以下のとおりである。
1 岡部喜代子裁判官の意見(櫻井龍子裁判官及び鬼丸かおる裁判官が同調)
「氏は・・当該個人の背景や属性等を含むものであり、氏を変更した一方はいわゆるアイデンティティを失ったような喪失感を持つに至ることもあり得るといえる。そして現実に96%を超える夫婦が夫の氏を称する婚姻をしているところからすると、・・女性の社会的経済的な立場の弱さ、家庭生活における立場の弱さ、種々の事実上の圧力など様々な要因のもたらすところであるといえるのであって・・その意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用しているのである。その点の配慮をしないまま夫婦同氏に例外を設けないことは、多くの場合妻となった者のみが個人の尊厳の基礎である個人識別機能を損ねられ、また、自己喪失感といった負担を負うこととなり、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚した制度とはいえない。
2 木内道祥裁判官の意見
「問題は、夫婦同氏であることの合理性ではなく、夫婦同氏に例外を許さないことの合理性なのである。・・同氏でない婚姻をした夫婦は破綻しやすくなる、あるいは、夫婦間の子の生育がうまくいかなくなるという根拠はないのであるから、夫婦同氏の効用といて点からは、同氏に例外を許さないことに合理性があるということはできない。」「未成熟子に対する養育の責任と義務という点において、夫婦であるか否か、同氏であるか否かは関わりがないのであり、実質的に子の育成を十全に行うための仕組みを整えることが必要とされているのが今の時代であって、夫婦が同氏であることが未成熟子の育成にとって支えとなるものではない。」
3 山浦善樹裁判官の反対意見
「少なくとも、法制審議会が法務大臣に『民法の一部を改正する法律案要綱』を答申した平成8年以降相当期間を経過した時点においては、本件規定が憲法の規定に違反することが国会にとっても明白になっていたといえる。・・本件立法不作為は、・・国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものである。」
[ひとこと]
多くの反響をよんだ訴訟である。
裁判のすべての準備書面、各意見書、第一審から上告審までの各判決及び弁護団のコメント、弁護団長のコメントが、「別姓訴訟を支える会」のサイト
http://www.asahi-net.or.jp/~dv3m-ymsk/saibannews.html
に掲載されている。

2013.6.3
人事異動の新聞発表で旧姓使用が認められず精神的苦痛を被ったとする裁判で和解が成立した事例
[横浜地裁平成24年(ワ)第1469号 2013(平成25)年6月3日 和解 未公表]
[事実の概要]
元高校教諭の男性は、長年旧姓を使用し、定年を迎えた。男性は、2012年3月の定年退職時に、教員異動の新聞発表に際して旧姓での掲載を県教育委員会に求めたが、県教育委員会は「取扱要綱に該当しない」との理由で拒否し、戸籍名を掲載した。
そのため、精神的苦痛を被ったとして、男性は同年4月に神奈川県を被告として損害賠償を求め提訴した。
裁判の途中の2012年12月、神奈川県教育委員会は、旧姓使用取扱要綱を改正し(2013年1月施行)、教員異動の新聞発表での旧姓使用を認めた。2013年5月21日、神奈川県議会は、和解のための議案を可決した。
[和解の概要]
1原告と被告は以下の各事項を確認した。
・原告が退職を前に被告に対し職場で36年半にわたって使用してきた旧姓での発表を要請したこと
・被告が職員旧姓使用取扱要綱に該当しないとして拒否したこと
・退職時の新聞報道に戸籍姓が表示されたこと
・原告が被告の行為は憲法上の人格権等を侵害する不法行為であるとして損害賠償請求訴訟を提起したこと
・被告が2012年12月要綱を改正し、旧姓使用することができる文書に新聞発表資料を追加したこと、2013年1月1日から要綱が施行されたこと
2「被告は、今後、要綱に定める文書以外のものについても、職員から旧姓使用の申出があった場合には、個別に旧姓使用の範囲を拡大することも含め相談に応じるものとし、職員の旧姓使用を要望する心情に十分配慮した対応をするよう努める。」
[ひとこと]
要綱改正直後の2013年春の教員異動で38人(女性35人、男性3人)から申し出があり、旧姓で新聞に掲載されたとのことである(東京新聞2013年5月22日webニュース)。

2011.11.24 別姓取消訴訟高裁判決
婚姻届不受理処分にかかる争訟に公開裁判が保障されるか否かが争われた事案
[東京高裁2011(平成23)年11月24日判決]
判例評釈:渋谷秀樹「訴訟と非訟―婚姻届不受理をめぐる紛争を非訟事件として扱う憲法上の問題点―」立教法務研究第5号2012年
[事実の概要]
X(夫)とY(妻)は,婚姻届に,婚姻後に夫婦が称する氏として,Xの氏及びYの氏いずれの欄にもチェックを入れてZ区に届け出たところ,Z区長は,夫婦の氏が選択されていないとの理由でこれを不受理とした。そこで,X及びYは,夫婦同氏を定めた民法750条の規定は憲法13条,24条,女性差別撤廃条約16条1項(b)(g)に違反して無効であるから,同規定に従ってなされた上記不受理処分は違法であるとして,その取消しを求める訴えを提起した。
一審の東京地方裁判所は「戸籍法121条,戸籍法122条,特別家事審判規則13条以下等の規定は,戸籍事件についての不服の申立てに関しては,行政事件訴訟の方法による救済よりも,戸籍事件に係る事柄にふさわしい態勢を備えて常時関与している家庭裁判所による救済の方が適切であるとの立法政策上の判断の下に定められたもので,上記の戸籍法の規定は,行政事件訴訟法1条にいう「特別の定め」に該当するものと解される。」として,本件は家事審判手続きにおいて判断されるべきであり,行政事件訴訟法に基づき取消訴訟を提起して争うことはできないとして,本件訴えを不適法であるとして却下した(平成23年2月24日判決 平成23年(行ウ)第82号)。
これに対し,原告らは,「婚姻の届出につき不受理とする処分は,婚姻が有効に成立したかどうかという法律上の実体的権利義務関係に関わるものであるから,その適否については,戸籍法121条による家事審判手続という非訟手続により司法判断を受ける方途とは別に,公開法廷における対審及び判決によって裁判されるべきものであり,行政事件訴訟を提起して争うことができる。本件においては,控訴人らが提出した婚姻届は,婚姻後に夫婦が称する氏として夫の氏と妻の氏のいずれをも記載したという点を除いてはその要件をすべて満たしており,荒川区長としては,民法750条に従い,不受理とするほかなかったのであるから,同条の違憲性判断はともかく,本件不受理処分について家庭裁判所が後見的民事監督作用を果たす余地はまったく存在せず,非訟事件性のない事案である。むしろ,本件は,民法750条の規定が憲法上認められるか否かについての判断を前提として,本件不受理処分の適否を判断すべきであり,公開法廷において対審構造の下で当事者に十分な主張立証を行わせるべき要請,すなわち,訴訟事件性が非常に強い事案である。」「仮に,・・・行政事件訴訟を提起して争うことができないとすれば,戸籍法の上記規定は,法律上の実体的権利義務自体につき争いがあるにもかかわらず,これを確定するために,公開の法廷における対審及び判決による裁判を受ける権利を奪うものであり,憲法32条,82条に違反して違憲無効であり,市民的及び政治的権利に関する国際条約14条に違反して無効である。」等として控訴した。
[判決の概要]
(1)戸籍法は,同法に基づく各種の届出の不受理を含む戸籍事件(同法124条に規定する請求に係るものを除く。以下同じ。)については,市町村長の処分を不当とする者は家庭裁判所に不服の申立てをすることができる旨(同法121条)及び,上記の不服の申立ては,家事審判法の適用に関しては,同法9条1項甲類に掲げる事項とみなす旨(戸籍法122条)を定めており,・・また,同法に定めるもののほか,審判又は調停に関し必要な事項は,最高裁判所がこれを定める旨(同法8条)を定めており,これに基づき,特別家事審判規則13条以下の規定が定められている。
これらの法律の規定は,戸籍事件についての不服の申立てに関しては,行政事件訴訟の方法による救済よりも,戸籍事件に係る事柄にふさわしい態勢を備えて常時関与している家庭裁判所による救済の方が適切であるとの立法政策上の判断の下に定められたものであり,上記戸籍法の規定は,行政事件訴訟法1条にいう「特別の定め」に該当するものと解される。したがって,婚姻の届出につき不受理とする処分の適否は,家事審判手続において判断されるべきものであって,行政事件訴訟を提起して争うことはできないものというべきである。
(2)・・・戸籍の届出の受理・不受理に関し,戸籍官吏が届出の受理に際して行う審査は形式的審査にとどまるものであり,戸籍官吏は,提出があった届出や申請書等の書類の記載が民法や戸籍法等の関係法規に照らして適式なものか否かを審査して受理の拒否を決するものである。婚姻届出の受理に関してみれば,戸籍官吏は届出書類を婚姻の実質的要件の一部(当事者が婚姻適齢に達していること等)を含めて形式的に審査するものであり,婚姻届出が受理された場合でも,婚姻の成立・不成立の効果を確定させるものではないし,また,現行の戸籍法は,民法における夫婦同氏(同法750条),親子同氏(同法790条)等を前提に,氏を戸籍の編製基準とし,戸籍は,一組の夫婦及びこれと氏を同じくする子を単位として編製することを原則としている(戸籍法6条本文)のであって,戸籍官吏が民法750条等の規定の憲法適合性について判断する権限を有するものでないことは明らかである。そして,婚姻の届出の不受理処分に対する不服の申立てを審理する家事審判手続では,戸籍官吏がその権限の行使として当該婚姻の届出を受理すべきであったか否かを監督的立場から審査するものであって,当該家事審判手続における家庭裁判所の審判は,終局的に事実を確定し,当事者の主張する実体的権利義務の存否を確定するようなものではない。・・婚姻の届出の不受理に対する裁判所に対する不服申立ての手続においては,戸籍官吏のした上記の形式的審査が関係法規に照らして適法か否かが審査されるにとどまるものであり,その手続の中で届出に係る婚姻の成否が実体的に審理されるものではなく,その審理に基づく裁判所の判断も,婚姻の成否を確定させるものではない。したがって,婚姻の届出の不受理処分について家庭裁判所の非訟手続による司法判断しか受けられないとしても,このことが憲法32条,82条に違反して違憲無効であり,市民的及び政治的権利に関する国際規約14条に違反して無効であるということはできない。・・・民法750条が違憲無効であるとすれば,これを前提とする戸籍法の定めや民法790条等関連する法令も違憲状態にあるといわざるを得ないが,これらの関係法令が全体として是正されることなく,荒川区長において控訴人らの婚姻届出を受理し,関係法令に整合する適法な手続に乗せることは法制度上できないことである。そして,関係法令の全体的な是正を立法によることなく法令の解釈・運用によって行うことはおよそ不可能というべきであるから,本件不受理処分に対する不服申立ての審理を担当する裁判所が,民法750条を違憲無効であると判断しても,荒川区長に控訴人らの婚姻の届出を受理すべき旨の内容の命令を出すことはできない筋合いである。結局のところ,現行法制の下では,控訴人らについて別姓のままでの婚姻の成否を確定することが裁判上可能であるとはいえず,これが可能であることを前提とする控訴人らの主張は理由がない。・・・として,控訴を棄却した。
[ひとこと]
最高裁判例によれば,訴訟事件については憲法32条・82条(裁判の公開原則)の保障が及ぶが,非訟事件についてはこれらの保障は及ばないとされる(最大決昭和35・7・6 民集14巻9号1657頁等)。本判決の論理によれば,民法が,婚姻について違憲の条件を付していたとしても裁判所が違憲であると判断して是正する方法はないということにもなろう。なお,本件については,2011年(平成23年)12月6日付で上告及び上告受理申立がなされている。
一審判決についての評釈として,片山智彦・新・判例解説Watch(法学セミナー増刊)11号23頁「婚姻届不受理処分に係る行政事件訴訟の提起の不許と公開裁判の保障」。

2006.4.25 別姓婚姻届不受理事件
[裁判所]東京家裁審判
[年月日]06年4月25日
[出典]未公表
[事実の概要]
別姓で届け出た婚姻届が不受理になり、夫婦がその不受理処分の撤回を求めた。
[判決の概要]
戸籍法74条を理由に不受理は違法でないとし、原告らは民法750条について憲法13条、24条違背を主張するが、民法750条(夫婦同氏制)の是非は立法政策の問題であることは確定した解釈であるとして、申立を却下した。
[ひとこと]
「確定した解釈」というのはいいすぎではないだろうか?同種事案(公表例)は過去に1件(岐阜各務原の事案)しかないと思われる。

2001.3.29
会社が、女性取締役に対し、女性の夫が当該会社を退職したことに伴い、婚姻姓を名乗っても支障がなくなったとして婚姻姓を名乗ることを命じたことにつき、女性の人格権を違法に侵害するものであるとして、女性の精神的苦痛に対する慰謝料が認められた例
[裁判所]大阪地裁
[年月日]2001(平成13)年3月29日判決
[出典]労働判例829号91頁
[事実の概要]
原告X(妻)は、Xの夫と共に、Y会社(被告会社)の取締役であった。夫は、経理部責任者Aとの間に確執を背景にY会社を退職し、Xも、Aの経理ミスのチェックをしてAを解雇しようとしていたことを理由に、Y会社より、降格、配置転換、昇給停止、減給などの処分を受けた。また、Y会社は、Xに対し、婚姻姓を名乗ること等を内容とする通告書を交付した。
Xは、昇給停止処分、配置転換、減給処分を争うほか、婚姻姓の使用を命じたことにつき、人格権侵害として、不法行為に基づく損害賠償を求めた。
[判決の概要]
そもそも自己に対しいかなる呼称を用いるかは個人の自由に属する事項であるから、合理的な理由もなくこれを制限することは許されないとした上で、Y会社の業務において、特に婚姻姓を名乗らなければならない必要性は証拠上認められないから、Y会社が、Xに対し婚姻姓の使用を求める合理的な理由はなく、通告書という形式で婚姻姓の使用を命じたことは、Xの人格権を違法に侵害するものであるから、Y会社らのXに対する不法行為となるとして、Xの精神的苦痛に対する50万円の慰謝料を認めた。
[ひとこと]
婚姻前の姓を通称として使用することが、法的保護に値する利益であることを認めた初めての判例。国立大学での通称使用請求事件(東京高判1993.11.19)では否定されていた。

1993.11.19
[裁判所]大阪高裁
[年月日]1993(平成5)年11月19日判決
[出典]判時1486号21頁、判タ835号58頁
[事案の概要]
国立大学の女性教授が国に対し、人事記録その他の文書において旧姓名を使用すること及び戸籍名の使用を強制されることについての損害賠償請求をした例。判決は「通称名であっても、個人がそれを一定期間専用し続けることによって当該個人を他人から識別し特定する機能を有するようになれば、人が個人として尊重される基礎となる法的保護の対象たる名称として、その個人の人格の象徴ともなりうる可能性を有する。」としたが、「氏名保持権が憲法13条によって保障されているものと断定することはできない」とし、公務員の同一性を把握する方法として戸籍名で取り扱うことは合理的」であるとした。
[ひとこと]
選択的夫婦別姓の議論をまきおこした裁判。東京高裁では和解が成立し、その後、01年には国家公務員の旧姓使用が幅広く認められ、裁判で争われた文部省の科研費についても旧姓使用が認められるようになった。
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