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逸失利益―損害賠償額の男女差
2010.5.27
顔などに著しい傷跡が残った場合の障害等級認定について、性別で差別することは違憲であるとした事例
[裁判所]京都地裁
[年月日]2010(平成22)年5月27日判決
[出典]労働判例1010号11頁、判時2093号72頁
[事案の概要]
精錬会社に勤務していたA(30代男性)は、金属を溶かす作業中に顔や腹に大やけどを負った。労働者災害補償保険法は、顔などに著しい痕跡が残った場合の障害等級について女性は7級、男性は12級と規定しているところ、Aについては他の症状とあわせて11級と認定された。Aはこれを不服として再審査を求めたが、国に退けられた。そこでAは、男性を女性より低い障害等級と認定するのは憲法14条に違反するとして、国を被告として障害補償給付処分の取り消しを求める訴訟を提起した。
[判決の概要]
労災の障害等級表について「年齢や職種、利き腕、知識などが障害の程度を決定する要素となっていないのに、性別だけ大きな差が設けられている。この差を合理的に説明できる根拠は見当たらず、性別により差別的扱いをするものとして憲法14条違反と判断せざるを得ない」、として国の処分を取り消した。
[ひとこと]
労災の障害等級(※交通事故も同様)について、憲法14条の禁止する性別による差別にあたるとした、おそらくは初の判例である。今後の判例・実務の動向が注目される。
なお、同年6月10日、「男女差を設けることについて、合理性を立証するのは困難」として、国が控訴を断念する方針を決めたことが報じられた(朝日新聞2010.6.10夕刊ほか)。違憲判決が一審で確定することは極めて異例である。厚生労働省は、「今年度中に労災の障害等級の基準見直しを検討する」としている。
2010.3.31
12歳の女子が塾講師により殺害され、その逸失利益の算定に当たり、基礎収入額を賃金センサスの男性労働者の全年齢平均賃金によるべきであるとの主張が排斥され、全労働者の賃金センサスが採用された例
[裁判所]京都地裁
[年月日]2010(平成22)年3月31日判決
[出典]判時2091号69頁
[事案の概要]
原告ら夫婦の長女春子12歳が、被告法人の経営する進学塾に通塾していたが、その講師により塾内で監禁され殺害されたという痛ましい事案である。講師は、窃盗および傷害の前科があった。
[判決の概要]
近年、男女の賃金格差が縮小傾向にあり、今後もそのような傾向が続くと予想されることに加え、春子が死亡当時12歳であり、多様な就労可能性を有していたことに鑑みると、春子の逸失利益を算定するにあたっての基礎収入については、全労働者平均賃金を採用するのが相当である(賃金センサスは、最新のもの(平成20年)を用いるべきである。)。
なお、原告は、男子全平均賃金を採用すべきと主張するが、上記のとおり男女の賃金格差が縮小傾向にあるとはいえ、春子の稼動するであろう期間において、女子の平均賃金が男子と全く同等になるとまでは必ずしもいえないし、春子は死亡当時12歳であり、将来男子と全く同等の賃金を得るかどうかは不確実としかいいようがないから、原告ら主張の男子全平均賃金ではなく、全労働者平均賃金を採用するのが妥当である。
[ひとこと]
年少女子の逸失利益に関して、裁判例は、女性の賃金センサスではなく全労働者の賃金センサスで算定する方向にあるが、それでも、男性の平均賃金は、女性を含めた全労働者平均賃金を上回るので、いつまでも命の値段の男女差は埋まらない。本件は、男性の賃金センサスで算定をと原告らが果敢にいどんだ事案である。原告らの主張では、長女が私学の中学に進学し成績も良く今後も高度な教育を受け将来相当の収入が得られる見込みであったとある。学校の成績で命の評価が変わるのも首肯しにくいが、なんとか男性の逸失利益に近づけようとする代理人の努力は理解できる。
2008.12.22
[裁判所]名古屋高裁
[年月日]2008(平成20)年12月22日
[出典]LLI
[事案の概要]
控訴人が、運転操作を誤り、カーブを曲がり切れずに車両を横転させ、対向車等に激突させる事故を起こし、同乗者の一人であった被害者を死亡させたとして、被害者の夫と父母から損害の賠償を求めた事案であり、控訴人は、女性労働者全年齢平均賃金を用いるのが相当である旨主張した。
[判決の概要]
有職者の逸失利益は、従前、死亡前の現実の収入を基礎として算定することを原則とし、その現実の収入が死亡当時における男女別の学歴計・全年齢平均賃金を下回るときは、同平均賃金を得る蓋然性が認められる場合、同平均賃金を基礎収入として推計する例が多い。特におおむね30歳未満の若年者については、年齢、職歴、実収入額と平均賃金との乖離の程度・原因等を考慮の上、後者が採用される例が多かったということができる。そして、後者において、男女別の平均賃金が採用されてきた理由は、現に男女間の賃金格差が存在し、その格差が容易に解消ないし縮小しない以上、これが逸失利益に反映すること自体はやむを得ないとの考え方に基づくものと考えられる。
しかしながら、確かに、賃金センサスに示されている男女間の平均賃金の格差が、ある面で、現時点における現実の労働市場の実態を反映していることは否定しがたいとしても、本来、人が有する労働能力は、個人による差はあるとしても、性別に由来する差が存在するわけではなく、現実に存在する上記のような格差は、男女間の役割分担についての従来の社会通念の下において、女性が家事労働(育児のための負担を含む)の負担との関係で、男性に比べて相対的に就労期間や労働時間の制約を受けやすく、したがってまた就労可能な職務内容も制約される場合が多かったことに由来するものというべきである。
しかし、近時の法制度や社会環境、意識の変化等、女性の就労環境をめぐる動向に鑑みれば、通常の能力と意欲があれば、女性であっても、全労働者の平均賃金程度の収入を得ることは、さほど困難ではない環境が整いつつあり、また、そのような趨勢自体が将来変わるとも考えられない。そして、そのような状況の下では、若い女性が婚姻後も就業を継続し、実際に男女格差のない、しかも当該年齢に応じた全労働者平均賃金に近い賃金を得ておれば、将来的にも、全労働者平均賃金と同等の賃金を得、同等の就労可能年数労働を継続することについて特段の支障も認められない。それ故、様々な個体差の中で性差のみに着目して基礎収入を算定することには、もはや合理的な理由は見出しがたいというべきである。
したがって、本件においては、全労働者の平均賃金を基礎収入としてAの逸失利益を算定するのが合理的であり、損害の公平な分担という観点からみても、このように解することによって、過大な逸失利益を認定することにはならないというべきである。
2008.10.22
[裁判所]仙台地裁
[年月日]2008(平成20)年10月22日判決
[出典]LEX/DB25421284
[事案の概要]
青信号で横断歩道を渡っていた2歳の女児が右折してきたトラックにはねられて死亡し,遺族である両親が,運転手とその使用者に損害賠償請求をした事案である。
[判決の概要]
たしかに近時において男女共同参画社会や男女雇用機会均等法施行といった社会情勢や法制度等に変化が生じてきているところではあるが,本件事故発生当時の男女の賃金格差が将来どの時点で解消されるかを予想するのは不可能であるとして,賃金センサスによる男女別平均賃金を基礎収入とみるのが相当であるとした。
[ひとこと]
女児の逸失利益をめぐり,男女の全労働者平均賃金に基づく下級審判決が相次いでいるにも関わらず,全労働者平均賃金を基準とすることを退けた判断であり,問題である。
本件については,2009年4月13日,仙台高等裁判所で和解が成立した。報道によると,和解協議で,仙台高裁が,全労働者平均賃金を基準としたため,被告側が一審判決での認容額を上回る和解金を支払うかたちとなったという。仙台高裁も,男女別の平均賃金を基礎とすることを問題視したものであり,妥当な解決を図るため軌道修正したものといえる(河北新報2009年4月14日)。
2008.5.30
[裁判所]さいたま地裁
[年月日]2008(平成20)年5月30日判決
[出典]LEX/DB28141856
[事案の概要]
被告が運転する車両が徒歩で通園中の保育園児らの列に突入し、保育園児らを死亡させた交通事故につき、保育園児らの親である原告らが、被告に対し民法709条に基づき、被告会社に対し、自動車損害賠償補償法に基づき連帯して損害賠償を求めた事案である。
[判決の概要]
判決は、本件事故の責任が、被告に全面的にあるとして、原告らの請求を認めた。逸失利益については、若年女子の基礎収入の算出においては、現在では女性の社会進出が進み、女子であっても男子並みの収入を得る可能性が十分に期待されることから、女子労働者計の賃金センサスではなく、全労働者計の賃金センサスによるのも可能というべきであるとした上、女子に対し全労働者計の賃金センサスを用いる場合には、生活費控除率については、収入の増額に比例して自己の生活費に充てる割合も増額する可能性があること、もともと生活費控除率は相当な逸失利益額を算出するための調整係数としての機能があることなどから、一般的に女性に対し適用される生活費控除率よりも高くするのが相当であるとし、死亡した被害者はいずれも女子であったが、基礎収入については、賃金センサス平成17年産業計全労働者計の487万4800円を用い、生活費控除率は45%とするのが相当であるとした。
[ひとこと]
子ども(女子)の死亡事案について、逸失利益の算定については、全労働者平均の賃金センサスによった上、生活費控除率については、女子の生活費控除よりも高くして、逸失利益の算定をした。
2007.7.5
[裁判所]秋田地裁
[年月日]2007(平成19)年7月5日
[出典]判時1982号130頁
[事案の概要]
自転車に乗って横断中の被害者(当時9歳の女子)を前方に発見し、急制動等の措置を講じたが間に合わず、自転車に車両を衝突させて転倒させたところ、被害者が死亡するに至り、両親及び兄が、加害者に対して損害賠償を認めた事案。
[判決の概要]
年少女子の逸失利益の算定については、従来、被告主張のように女子労働者平均賃金を基礎収入とする立場が実務上有力であった。この立場は、逸失利益の算定は、将来の収入額の蓋然性という事実認定の問題であり、年少者の一人一人に男女を問わず等しい就労可能性があるからといって、一般的に女子が将来男子と同じ収入を得られる蓋然性があるということにはならないということを根拠とするものと考えられる。
しかしながら、最近では女性をめぐる法制度、社会環境・就労環境が大きく変化し、その結果、男性の占めていた職業領域に女性が進出しつつあることからすると、むしろ、基礎収入としては全労働者の平均賃金を採用することに合理性がある。
そして、生活費控除率としては、年少男子との均衡や女性の消費支出の動向等にかんがみ、45%とするのが相当である。
2007.4.26
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2007(平成19)年4月26日
[出典]判時1988号16頁
[事案の概要]
事故当時小学6年生女子の控訴人が乗用車にはねられて、高次脳機能障害を負い、損害賠償を請求した事案。
[判決の概要]
基礎収入は、症状固定当時に控訴人が義務教育課程に就学していたことやその性別等に加えて、同控訴人が五級二号に該当する高次脳機能障害を後遺症として残しながらも、学校での勉学・部活動に励み、高校・大学に進学し、現在も懸命に大学での就学に努力していることから窺われる同控訴人の本来有していた能力、意欲、家族の支援からすれば、本件事故に遭わなければ大学を卒業して就職し得たであろうことが容易に推認されること等に照らせば、控訴人の主張にかかる全労働者平均賃金を基準とするのが相当であって、賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計の全労働者・全年齢の平均賃金を基準とするのが相当であるとした。
2007.1.24
[裁判所]前橋地裁
[年月日]2007(平成19)年1月24日判決
[出典]判タ1246号264頁
[事実の概要]
交差点内において歩行者(事故当時26歳の女性)が、四輪車と衝突し、即死した事案で、逸失利益の算定について、被害者は、父の経営する株式会社X電機において、50歳までには社長に就任することが見込まれ、それに伴った昇給が見込まれると、原告ら(被害者の父母)が主張した事案である。
[判決の概要]
逸失利益の算定に当たっては、客観的に相当程度の蓋然性をもって予測される収益の額を算出しうる場合には、その限度で損害の発生を認めるべきであるところ、被害者については、本件事故当時は26歳と若年であって、X電機での勤務歴も3年に満たないものであったほか、同社に勤務する前は、短期大学を卒業後、同社の業務とは基本的に関連性の薄い看護師として勤務していたものであり、同社における業務遂行能力等について不確定要素が極めて多いと言わざるを得ないし、一企業における賃金ないし報酬は、将来における、その企業をとりまく経済環境や企業内での個人の実績によって大きく左右されるものでもある。そうすると、春子が将来にわたってX電機で就労していくであろうことは認められるとしても、X電機において昇進し、かつ原告ら主張の昇給を遂げたであろうとまではなお認められないと言わざるを得ないとした。その上で、本件事故当時の実収入が全女子労働者平均賃金と比較しても多額であることを考慮し、男子労働者を含む全労働者の平均賃金である賃金センサスの産業計、全労働者、全年齢平均の年収額を基礎収入として逸失利益を算出することが相当とした。
2006.11.24
[裁判所]山形地裁米沢支部
[年月日]2006(平成18)年11月24日
[出典]判タ1241号152頁 判時1977号136頁
[事案の概要]
飲酒運転中に制限速度を大幅に超過し、赤信号を無視した車両よる交通事故で、当時20歳の大学生を出血性ショックで死亡するに至り、大学生(女子)の父母(原告ら)が、運転していた被告乙と被告乙と飲酒を共にし、同情していた被告丙に対し、損害賠償を請求した事案である。
[判決の概要]
被告乙は、基礎収入として、賃金センサス産業計、企業規模計、女子労働者、大卒の全年齢平均賃金を採用すべき旨主張したが、判決は、大学生の被害者が、大学院進学も視野に入れて専門的な研究を開始していたこと等を考慮して、少なくとも、賃金センサスの産業計、企業規模計、男子労働者、大卒記載の全年齢平均賃金と、同女子労働者、大卒記載の全年齢平均賃金との平均賃金の収入を得る蓋然性があったということができるとした上、生活費控除率については、基礎収入の認定につき、大卒男性の収入も考慮したこととの均衡から、40パーセントとするのが相当であるとした。
2006.3.2
[裁判所]東京地裁
[年月日]2006(平成18)年3月2日
[出典]判時1960号53頁
[事案の概要]
交差点の車両同士の衝突事故で、自賠責保険で後遺障害併合3級と認定される等の損害を被った被害者(事故当時25歳の女性)、その両親、弟が、加害者等に損害賠償を請求した事案。
[判決の概要]
原告、大学を卒業後、有限会社に就職していたところ、当時の収入は、症状固定の年である平成13年の賃金センサス産業計・企業規模計・女性労働者大卒の25歳から29歳までの平均賃金にも満たないが、就職してからまだ間がなく、若年であり、将来的には収入が増加する可能性もあるので、基礎収入は、賃金センサス産業計・企業規模計・女性労働者大卒・全年齢の平均賃金とするのが相当である。なお、原告の本件事故前の収入からすれば、将来にわたって男性の平均賃金と同程度の収入を得られる蓋然性は認め難い。
2004.8.6
[裁判所]さいたま地裁
[年月日]2004(平成16)年8月6日
[出典]判時1876号114頁
[事案の概要]
自転車に乗って走行中の小学生(事故当時8歳女児)が違法な駐車車両を避けるためセンターライン付近まで進出し、対向車両と衝突して死亡した事故につき、被害者の母が、対向車両を運転していた乙と、違法駐車をしていた丙に対して、損害賠償を請求した事案。
[判決の概要]
判決は、以下の理由により、未就労の年少女子が死亡した場合における逸失利益算定の基礎としては、男女の労働者全体の就労を基礎とする全労働者平均年収額を採用することが合理的であるとして、賃金センサス産業計・企業規模計・産業計全労働者平均年収額を基礎年収額とした。
(ア)未就労年少者は、現に労働に従事している者とは異なり、多様な就労可能性を有しており、将来の逸失利益算定にあたり、現在就労する労働者の労働の結果として現れる男女間の賃金格差を直接的に反映させるのは、合理的とは言えない。むしろ、近時の雇用機会均等法や労働基準法等の法制度の整備、それに伴う社会の意識の変化や女性の社会進出等の女性をとりまく労働・社会環境の変容や男女平等の理念からすると、未就労年少者の将来の逸失利益算定にあたり、性別の違いだけを理由として、現在の労働市場における男女間の賃金格差と同様の差異を設けることは適当ではない。
(イ)近時、現に賃金センサスにおける女性労働者の平均年収額の上昇率は、男性労働者のそれに比べ高まっており、その差が縮小しつつあり、今後もこのような傾向が継続するものと予測できる。
2003.6.26
[裁判所]東京地裁
[年月日]2003(平成15)年6月26日
[出典]判時1828号50頁
[事案の概要]
スロープからスケートボードに乗って飛び出した11歳の女子小学生に四輪車が衝突し、女子小学生が死亡した交通事故において、女子小学生の両親が、加害者に対し、損害賠償の請求をした事案。
[判決の概要]
被害者は、本件事故に遭わなければ18歳から67歳まで49年間就労し、その間、事故前年の賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計による全労働者の全年齢平均年収を得ることができたと認めるのが相当であるとした。
[ひとこと]
年少女子について全労働者の平均賃金を基礎収入とすべきことにつき、東京高裁平成13年8月20日判決・判例時報1757号38頁などを参照とした。
2003.3.20
[裁判所] 松山地裁宇和島支部
[年月日] 2003(平成15)年3月20日判決
[出典] 判例時報1839号140頁
[事案の概要]
4歳の女児の後遺症害による逸失利益を算定する場合、賃金センサスの全労働者の全年齢平均賃金を基礎収入とするのが相当であるとされた事例。平成11年の交通事故で労働能力喪失率35%、逸失利益は総額1678万6571円とした。
2002.5.31
[裁判所] 最高裁二小
[年月日] 2002(平成14)年5月31日判決
[出典] 交通事故民事裁判例集35巻3号607頁、LEX/DB28081913
[事案の概要]
未就労女子の逸失利益につき、「今日、被控訴人の主張するように、雇用機会均等法の制定により広い就業領域で女性労働者の進出確保が図られ、これを支援する形で、労働基準法上、女性の勤務時間等に関する規制が緩和されると共に、男女共同参画社会基本法が制定され、女性の労働環境をめぐる法制度、社会環境はそれなりに大きく変化しつつある。その結果として、今日の上記賃金格差の原因ともいうべき従来型の就労形態にも変化が生じ、女性がこれまでの女性固有の職域だけでなく、男性の占めていた職域にまで進出する状況が現実のものとなりつつあることは否定できない。そうすると、男女の賃金格差が完全に解消される蓋然性はないとしても、女性も男性並みに働き、かつ、男性と同等に扱われる社会的基盤が形成されつつあることは確かな事実であり、このような社会状況等の変化を踏まえるならば、逸失利益の算定においても、女性が将来において選択し得る職域の多様さを反映する方法が選択されて然るべきである。かかる観点からいうと、特段の事情のない限り、労働者全体の就労を基礎とする全労働者の平均賃金の方が、未就労年少女子にとって、可能な限り蓋然性のある額を算出しうる、より合理的な算定方法であると考えられる。」とした大阪高裁2001(平成13)年9月26日判決(判例時報1768号95頁、一審は奈良地裁葛城支判2000(平成12)年7月4日)に対する上告を棄却し、女性年少者の逸失利益について全労働者の平均賃金を基礎として算定することが確定した事例。
[ひとこと]
この論点について、地裁、高裁レベルでの最近の判例を最高裁がはじめて認めて確定したもの。かつて1986(昭和61)年には、最高裁は「男女の平均賃金格差を前提として逸失利益を算定しても不合理とは言えない」(最高裁三小判86年11月4日)と言っていたのですから、変わりましたね。
2001.8.20
死亡の場合の逸失利益の算定について、男女別の平均賃金を使用する従来の方法を合理的理由のない差別であるとした例
[裁判所] 東京高裁
[年月日] 2001(平成13)年8月20日判決
(原審東京地判平成13年3月も同旨)
[出典] 判時1744号91頁
[事案の概要]
交通事故で小学6年の娘を亡くした父親から加害者に対する損害賠償請求がなされた事案で、「本来、労働能力には性別による差は存在せず、少年や少女には多様な就職の可能性がある。少女の交通事故に際して女子労働者の平均賃金を採用するのは理由のない差別で合理性を欠く」「女児の逸失利益に全労働者の平均賃金を用いても、少年に男子労働者の平均賃金を用いると、なお男女差が残る。今後は、男女とも全労働者の平均賃金を用いるのがわかりやすく適当と考える」として、全労働者の平均賃金を基準にして逸失利益を算定した一審判決を支持した。
[ひとこと]
従来、未就労の女子の逸失利益について、判例は女性の平均賃金を基準にしてきたが、男女の賃金格差が反映し、命の値段にも男女差が生じていた。こうした計算方法をあらためた最初の高裁判例。同様の判例 として、奈良地裁葛城支判平成12年7月(交通事故)がある。医療事故訴訟でも同様の計算方法が用いられはじめている。損害額の算定では他に、顔に傷を残した場合、女性の損害額が男性のそれより高いなど、ジェンダーフリーとはいえない問題が残されている。
2000.3.23
神戸大医学部3回生の女子学生が、交通事故で即死した事案で、逸失利益について、賃金センサス医師(男)経験年数計の平均賃金を使って計算し、9586万0582円と算定した例
[裁判所] 京都地裁
[年月日] 2000(平成12)年3月23日判決
[出典] 判例時報1758号108頁
[ひとこと]
小中学生と違って、具体的に職業が決まっていると、高額の認定になりうる例。
01年の司法研修所の損害賠償実務研究会の要旨には、年少者(中学生まで)についてだが、女子が男女平均賃金、男子が男子平均をとっていると、やはり男女間格差は残るので、女子について男子の基準を採用することも考えられるとしている(判例タイムズ1070号11頁の要旨は実践的にも示唆に富みます。弁護士におすすめ)。
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