判例 親子
1 親権者・監護者の指定

親権
 離婚に際して、父母の一方を親権者と定めなければなりません(民法819条1項)。協議離婚または調停離婚では、夫婦の話し合いで決まります。協議が調わないときまたは協議できないときは、家庭裁判所が協議に代わる審判をすることができます(同819条5項)。判決離婚では裁判所が親権者を決定します(同819条2項)。調停に代わる審判(裁判官がする1つの裁判です)で定まることもあります(家事事件手続法284条)。
 子の出生前に父母が離婚した場合は、親権者は母ですが、出生後に父母が協議で父を親権者と定めることもできます(民法819条3項)。
監護者
 別居中の夫婦間、あるいは協議離婚の際に、(親権者とは別に)監護者をその協議で定めることができます。監護者指定の事案は、ほとんど別居中の父母間のケースです。「子の利益」を最優先して考慮しなければなりません(民766条1項)。協議が調わないときまたは協議をすることができないときは、家庭裁判所が決定します(民法766条2項)。
親権者・監護者決定の基準
 親権者・監護者の決定の最優先基準は、「子の利益」です。しかし、裁判所で争われる事案では、父母ともに子に対する強い愛情と監護能力を有しており、何が子の利益であるかの判断は必ずしも容易ではありません。次のような事情により総合判断されています。
父母側の事情
  監護能力、監護態勢、監護の実績(継続性)、(同居時の)主た
 る監護者、子との情緒的結びつき、愛情、就労状況、経済力、
 心身の健康、性格、生活態度、直接子に対してなされたか否か
 を問わず暴力や虐待の存否、居住環境、保育あるいは教育環
 境、親族等監護補助者による援助の有無、監護補助者に任せ
 きりにしていないか、監護開始の違法性の有無、面会交流に
 ついての許容性など
子の側の事情
  年齢、性別、心身の発育状況、従来の養育環境への適応状
 況、監護環境の継続性、環境の変化への適応性、子の意思、
 父母および親族との情緒的結びつき、きょうだいとの関係など

1−2021.3.29
父母以外の第三者は事実上監護してきたものであっても、子の監護に関する処分として監護者を定める審判を申し立てることはできないとした事例
[最高裁2021年(令和3)年3月29日決定 裁判所ウェブサイト]
[事案の概要]
父・母は、2009年に婚姻、子であるAをもうけたが、2010年、母を親権者として離婚した。母は、実母(Aの祖母)宅で同居するようになり、母と祖母がAを監護していた。
2017年、母はAを残して祖母宅を出て、男性と同居し始め、それ以降、Aは祖母が監護している。2018年、母と男性とは婚姻し、男性はAと縁組した。
祖母は監護者指定の審判を申し立てた。原審は、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母なども、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を申し立てることができると解すべきであるとして、事実上、Aを監護してきた祖母として、監護者指定の審判の申立てを適法とした。
これに対して、母と養父が許可抗告を申し立てた。
[決定の概要]
民法766条「2項は、同条1項の協議主体である父母の申立てにより、家庭裁判所が子の監護に関する事項を定めることを予定しているものと解される」。
「他方、民法その他の法令において、事実上子を監護してきた第三者が、家庭裁判所に上記事項を定めるよう申し立てることができる旨を定めた規定はなく、上記の申立てについて、監護の事実をもって上記第三者を父母と同視することもできない。」
「父母以外の第三者は、事実上子を監護してきた者であっても、家庭裁判所に対し、子の監護に関する処分として子の監護をすべき者を定める審判を、申し立てることはできないと解するのが相当である」
と判断して、原審及び原原審を取り消し、申立を却下した。


1−2020.6.9
抗告人母が、相手方父に対し、自らを未成年者の監護者と定めることを求めた事案において、相手方による監護の開始には違法な点は認められず、抗告人が相手方よりも未成年者の監護者として適していると認めることはできないとして、抗告人の申立てを却下した原審判を相当として抗告を棄却した事例
[名古屋高裁2020(令和2)年6月9日決定 家庭の法と裁判37号50頁]
[事案の概要]
抗告人(母)は、未成年者(決定時小学2年の女児)の主たる監護者であったが、相手方(父)への不満などに起因するストレスから精神的に不安定な状況にあり、相手方に離婚をたびたび要求したり、未成年者を置いて出ていくと口にすることがあった。平成30年5月、抗告人は、自宅で口論の際に包丁を持ち出し、相手方は離婚を覚悟した。翌日、相手方は、抗告人と未成年者が外出している間に、自身の両親と抗告人の母に事情を説明して自宅に呼び出し、抗告人の帰宅後、自身の父及び抗告人の母の同席の下、夜遅くまで抗告人と話合いを続けたがまとまらなかった。その間、相手方母は未成年者と車中で待機していたが、話し合いが長時間に及んだため、未成年者を相手方の実家に連れ帰った。相手方は実家に転居した。3日後、抗告人は自宅を退去したが、その間、相手方は毎朝登校前に未成年者を自宅に連れて行き、抗告人に会わせていた。
翌6月、抗告人が監護者指定調停を申し立てたが、令和元年9月不調となった。移行した審判は、未成年者の監護状況に大きな問題はなく、現在の生活環境を継続することが健全な発育に資すると判断した上で、相手方が単独監護に至った契機は、申立人(抗告人)が刃物を持ち出したことにあり、相手方は未成年者の安全を確保するために未成年者を連れて別居したものと認められ、これには暴力的行為が伴っていないのみならず、むしろ未成年者の保護に必要な行為であって、違法な点は認められない等として、申立てを却下した。
[決定の概要]
当裁判所も、相手方による監護の開始には違法な点は認められず、抗告人が相手方よりも長女の監護者として適していると認めることはできないから、抗告人の申立てを却下するのが相当であると判断する。
未成年者の監護者指定の審判が申し立てられた場合に、常にその審判の主文において当事者のいずれが監護者になるべきか指定することが要求されているわけではない。


1−2020.2.18
長女を父が養育し、二女及び三女を母が養育している状況で、父母の双方が子の監護者指定、子の引き渡しを求めた事案において、いずれの監護者も父と判断した原審を変更し、長女の監護者を父、二女及び三女の監護者を母として子の引き渡しをいずれも却下した事例
[東京高裁2020(令和2)年2月18日決定 家庭の法と裁判30号63頁]
[事案の概要]
父母は、2008(平成20)年に婚姻し、両者の間には、長女(2008年生)、二女(2011年生)、三女(2014年生)がいる。
2017(平成29)年頃から母の異性関係等を理由に夫婦関係が悪化し、2018(平成30)年3月に母が子ら3人を連れて別居を開始した。しかし、別居翌日に長女は自らの意思で元の自宅に戻った。なお、別居後も、面会交流は実施され、家族5人での交流もあった。
2018年、父母双方が、自らを監護者と指定すること、他方の監護している未成年者の引き渡しを求めたところ、原審(長野家裁飯田支部)は、いずれも監護者を父と指定し、二女及び三女を父に引き渡すよう命じた。これに対して、母が抗告した。
[決定の概要]
1 長女の監護者について
同居時の主たる監護者を母と認定しつつ、長女(当時11歳)が母との同居生活を拒否する意向を示していること、父による監護態勢に問題が見当たらないことなどを理由に、長女の監護者を父と定めるのが相当であると判断した。
2 二女及び三女の監護者について
同居時の主たる監護者を母と認定した上で、現状の監護に特段の問題点が認められないことを理由として、二女及び三女の監護者を母と定めるのが相当であると判断した。その他、父には幼い二女及び三女を引き取って3人を監護する監護態勢が整っているとは評価できないこと、長女との監護者分属については一般的に低年齢の姉妹は同一監護者の下での養育した方が望ましいといい得るものの、本件では母らは長女と比較的近い距離に居住していること、姉妹での頻回の交流ができていることから、監護者が異なることの弊害は大きくないとして、二女及び三女の従前の監護環境の維持を優先した。
以上から、長女の監護者は父と指定し、二女及び三女の監護者は母と指定し、子の引き渡しはいずれも却下した。


1−2020.1.16
未成年者を事実上監護している祖母が、親権者である母及び養父に対し、自らを監護者と定めることを求めた事案において、本件は民法766条1項の法意に照らし監護者指定の申立権が認められる場合に該当するとした上で、祖母を監護者と定めた原審判を維持した事例
[大阪高決2020(令和2)年1月16日 家庭の法と裁判30号69頁]
[事案の概要]
X:未成年者の祖母(Yの実母)
Y:未成年者の実母
Z:Yの再婚相手
Yは、未成年者を連れてX宅に戻り、未成年者の親権者をYと定めて夫(未成年者の実父)と離婚した。
未成年者の監護養育について、XとYは、当初はほぼ同程度の割合で分担していたが、未成年者が小学校に入学して以降、Yはそのかなりの部分をXに委ねるようになっていた。 Yは、Zと交際するようになり、未成年者をX宅から連れ出し、Zと3人で滞在することもあった。未成年者は、Zとの身体接触や言動に嫌悪感を抱き、Zに追従するYにも反発を感じるようになり、頭痛や嘔気などの症状を訴えるようになった。さらに、YがXに大声で怒鳴り散らしたのを見て、精神状態が不安定となり、小学校に通えなくなった。
Yは、Xに対して未成年者の引渡しを求めたが、Xは未成年者が精神的に不安定になっているとして、これを拒否した。Yは人身保護請求を申し立てたが請求棄却となり、確定した。なお、この間、YはZと婚姻し、未成年者とXに伝えないまま、Yを代諾者としてZと未成年者の養子縁組をした。
Xは、Yらを相手方として、監護者指定の調停ないし審判を申し立てた。原審の大阪家庭裁判所は、Xを未成年者の監護者と指定するのが相当であるとしたため、Y・Zは抗告した。
[決定の概要]
Yらは、祖母であるXには本件の申立権が認められないと主張したが、本決定は、「子の福祉を全うするためには、民法766条1項の法意に照らし、事実上の監護者である祖父母等も、家庭裁判所に対し、子の監護者指定の申立てをすることができるものと解するのが相当である」とした上で、「当該祖父母等を監護者と定めるためには、上記親権者の親権の行使に重大な制約を伴うこととなったとしても、子の福祉の観点からやむを得ないと認められる場合であること、具体的には、親権者の親権の行使が不適当であることなどにより、親権者に子を監護させると、子が心身の健康を害するなど子の健全な成長を阻害するおそれが認められることなどを要すると解するのが相当である」との判断基準を示した。
その上で、本件では、@未成年者がYとZの3人で入浴させられる等したことからZに対する嫌悪感を抱き、Zを強く拒絶していること、AYはZに追従し未成年者に対する配慮を欠く行動を繰り返していること、Bこれが原因となって未成年者は精神的に不調をきたし小学校に通学できなくなったこと、C未成年者は決定時10歳でYらとの同居を拒否しXと二人で生活することを望んでいることなどから、「親権の行使が不適当であるため…未成年者の健全な成長を阻害するおそれが十分に認められる」とした。一方、Xによる未成年者の監護状況に特段の問題はうかがわれず、未成年者は現時点においては落ち着いた生活を送ることができている(学校にも通っている)ことなどを考慮すると、未成年者の監護者をXと定めることが相当であるとして、Yらの抗告を棄却した。
[ひとこと]
祖父母等を監護者と指定しうる要件について、子の福祉を重視し、親権喪失(民法834条)の要件よりも相当緩やかな管理権喪失(民法835条)の要件に近い基準を示した。


1−2019.12.10
当事者間で交わされた示談書に親権者の指定がある場合に、指定されていない当事者が未成年者を連れて別居をしたことが違法な子の連れ去りにあたらないと判断された事例
[東京高裁2019(令和元)年12月10日決定 家庭の法と裁判37号59頁]
[事案の概要]
妻(抗告人)は夫(相手方)に対して暴力を振るい、傷害を負わせたとして逮捕・勾留された。妻は夫との間で示談書を交わして釈放されたが、その中に、将来離婚する場合、未成年者の親権者を夫とすることを確認する、との条項があった。妻は、釈放の約1か月後、夫と協議することなく、また承諾を得ることもなく、未成年者を連れて別居した。夫は、上記条項に違反する違法な子の連れ去りにあたるとして、未成年者の仮の監護者の指定及び仮の引渡しを求めた。
原審のさいたま家裁は、夫の申立てを認容した。そこで、妻が抗告した。
[決定の概要]
抗告人が別居当時まで未成年者の主たる監護を担っていたことに照らし、相手方と協議等することなく未成年者を伴って家を出たことをもって違法な子の連れ去りにあたるとは言えず、未成年者の監護を相手方に委ねることが、抗告人の監護を継続するよりも相当であると認めることはできないとして、原審を取り消し、申立てをいずれも却下した。


1−2019.10.29
妻から子らを監護中の夫に対して監護者指定及び子の引渡しを申し立て、高裁で却下された例
[福岡高決2019(令1)年10月29日 判例時報2450・2451合併号9頁、家庭の法と裁判29号87頁]
[事案の概要]
夫婦は2009(平21)年に婚姻し、2018(平30)年、夫が子ら(別居時小学年および年長児)を連れて実家に戻り別居した。子らの乳児期の主たる監護者は妻であったが、別居までの3年間程度は妻の精神状態は不安定であり、遊興費や貴金属購入の出費と借入金増加、他の男性と親密なやりとりなどがあり、夫が主たる監護者となっていた。別居後、妻は県外の自己の実家に転居した。妻は心療内科に通院し服薬している。妻から監護者指定と子の引渡しを求める審判を申し立てた。
別居後、子らは、実家において、父とその父母及び妹と生活している。別居後の面会交流はおおむね月1回の頻度で実施されてきた。
原審(福岡家裁大牟田支部)は、父の監護に問題はないが、調査の結果、子ら、とくに長女が母と暮らしたいと発言し、母に対して、より強い好意や精神的結びつきを示しているとして、監護者を母と指定し子の引渡しを父に命じた。父が抗告した。
[決定の概要]
「現在は、相手方(注:母のこと)との宿泊付きの面会交流も安定的に実施されている状況にある。就学後の子らについて監護者を定めるに当たっては、従前からの安定した監護環境ないし生活環境を維持することによる利益を十分考慮する必要があり、乳幼児期の主たる監護者であった相手方との親和性を直ちに優先すべきとまではいえない。さらに、長女は、相手方との面会交流時にはEで相手方と暮らしたいと繰り返し発言しているが、担任教諭に対してはZ小学校や友人と離別することへの強い不安を訴えているのであって、相手方への上記発言が長女の相手方への思慕を示す表現であるとしても、本件監護者指定における位置付けについては慎重に評価・判断する必要がある…以上の事情を考慮すれば、子らにとっては、現状の生活環境を維持した上で、相手方との面会交流の充実を図ることが最もその利益に適うというべきであるから、子らの転居・転校を伴う相手方への監護者指定と子らの引渡しは相当ではない。」として原審判を取り消し、母からの申立てを却下した。


1−2019.6.21
小学校高学年の兄妹がすでに分離された状態での子の監護者指定、子の引渡し請求の事案において、原審の判断を取り消して、未成年者の意思を尊重して現状を肯定しきょうだい分離の監護者指定をした例
[大阪高決2019(令1)年6月21日 家庭の法と裁判29号112頁]
[事案の概要]
相手方(母)が未成年者ら(双子の長男長女、10歳)を連れて家を出たあと、長男(9ないし10歳)がみずから抗告人(父)宅に戻り、父による監護が行われている状況の中、母が子の監護者指定、子の引渡しの審判(民法766条2項)及び審判前の保全処分を申し立てた。原審は長男長女の監護者をいずれも母と指定し、長男を母に引き渡すよう命じた。父は長男についての判断を不服として抗告した(長女の監護者指定は原審で確定)。
[決定の概要]
原審判中長男に関する部分を取り消し、長男の監護者を父と指定し、母による長男の引渡し請求を却下した。
「相手方は、本件別居までは未成年者の主たる監護者であり、その監護状況にも特段の問題はなく、今後、未成年者を監護する監護態勢も整っているといえる。」
「他方、未成年者が抗告人宅に戻った後の、抗告人による未成年者の監護状況にも特段の問題はなく、監護補助者である父方祖母は、…高齢ではあるが健康であって、今後も監護補助を続けられる見込みである。」
「未成年者はみずからの意思に基づいて抗告人宅に戻ったのであり、抗告人から不当な働き掛けがあったことはうかがえないから、抗告人が未成年者の監護を開始したことが違法、不当とはいえない。」
「未成年者は、本件別居前から抗告人との父子関係が良好であり、抗告人との同居の継続を強く求めている。他方、未成年者は、相手方に対する不信感等もあり、相手方との同居を拒んでいる(相手方との面会交流にも消極的である。)。」
「未成年者らの兄妹関係は既に良好に形成されている。また、抗告人宅と相手方宅は、いずれも未成年者らが通う小学校の校区内にあり、相互の距離も近く、未成年者と長女は自由に交流することができる。そうすると、未成年者と長女の監護者を抗告人と相手方に分離しても、既に形成されている兄妹間の心理的結び付きに大きな影響を与えるものではないから、未成年者らの福祉が害されることにはならない。」
「以上の未成年者の従前の監護状況、今後の監護態勢、未成年者と当事者双方との心理的結び付き、未成年者の心情等を総合すると、抗告人において未成年者を監護する方が、未成年者の心理的安定が保たれ、その健全な成長に資し、未成年者の福祉に適うものと認められる。また、未成年者は、相手方に引き取られることを強く拒んでおり、従前と同様、自ら抗告人宅に戻る可能性が高いから、相手方を未成年者の監護者に指定し、その引渡しを命ずることは相当ではない。」
[ひとこと]
抗告審であらためて家裁調査官の調査が行われ、長男の意思を重視し、兄妹が自由に交流できていることも考慮してきょうだい分離の判断がなされた点に特徴がある。また、監護者を分離する判断をしていることから、「きょうだい不分離の原則」が他の考慮要素と比較すると強いものではないことを示す例であるといえる。


1−2019.4.26
9歳の子につき、子の引渡しを命じる審判を債務名義とする間接強制の申立てを権利の濫用にあたるとした例
[最三小2019(平成31)年4月26日許可抗告審決定 裁判所時報1723号3頁、判タ1461号23頁、LEX/ DB25570221、家庭の法と裁判22号67頁]
[事案の概要]
父は子ら3人を連れて実家に転居し、以来夫婦は別居した。奈良家裁審判は子の監護者を母と指定し確定した。2017年、子の引渡しの直接強制執行により、二男及び長女は妻に引渡されたが、9歳の長男は明確に拒絶して泣きじゃくり呼吸困難に陥りそうになった。妻から父に対する人身保護請求事件においても、長男は父のもとでの生活を続けたいと陳述し、請求は棄却された。妻は、間接強制執行の申立てを行い、原審(平成30年大阪高裁決定)はこれを認め、1日1万円の割合による金員の支払いを父に命じた。父が抗告した。
[決定の概要]
「以上の経過からすれば、現時点において、長男の心身に有害な影響を及ぼすことのないように配慮しつつ長男の引渡しを実現するため合理的に必要と考えられる抗告人の行為は、具体的に想定することが困難というべきである。このような事情の下において、本件審判を債務名義とする間接強制決定により、抗告人に対して金銭の支払を命じて心理的に圧迫することによって長男の引渡しを強制することは、過酷な執行として許されないと解される。そうすると、このような決定を求める本件申立ては、権利の濫用に当たるというほかない。」とし、間接強制の申立てを却下すべきとし、原決定を破棄して、原々決定を取り消した。


1−2018.8.2
父が母に対し、未成年者らの監護者の指定及び引渡しを求めた事案において、母による現在の監護状態に特段の問題はないものの、その他の事情を考慮して、父を監護者と定め、子の引渡しを認容する原審を相当と判断し、母からの抗告を棄却した事例
[大阪高決2018(平成30)年8月2日 家庭の法と裁判28号119頁]
[事案の概要]
X父とY母は、2009年に婚姻、2011年にA1が、2013年にA2がそれぞれ出生した。
2016年6月〜12月、Yが一人で自宅を出て、Xもそれを承諾する形で別居生活を過ごした。この期間、Yが週末自宅に戻る形での母子交流を行った。
2017年1月、Yは経済的理由から一度は自宅に戻ったものの、その後、週3日を交際相手宅で過ごすようになり、同年3月に再び一人で自宅を出て、別居を開始した。再度の別居開始後は、週2回程度、Y宅で子らと宿泊付面会を実施した。
同年8月、Xが母子の宿泊付面会時にYの交際相手も一緒に宿泊していることを知り、Yに対して暴力を加え、Yが被害届を提出した。翌日、Yは自宅から子らの荷物を運び出し、警察署の前でXから子の引渡しを受け、子らの監護を開始した。
Xは子らをYに預けたのは一時的なものであり、子の監護者指定及び引渡しを申し立てた。原審である京都家裁はXを監護者と指定し、子らの引渡しを認容した。これに対し、Yが抗告した。
[決定の概要]
「抗告人による現在の監護状態に特段の問題はなく、子らも安定した生活を送っており、母子の情緒的繋がりや継続性の観点からも相手方を監護者と指定することも十分考えられる。」
「しかしながら(略)抗告人の監護状態は将来的には不安定なもので、抗告人と(交際相手)との関係が解消されればたちまち行き詰まること、相手方には子らの監護実績があり、監護態勢も安定しており、従前の監護の問題点も今後は改善される可能性が高いこと、そして、何よりも、子らにとって父母双方との愛情深い関わりが必要不可欠であるところ、相手方においては従前の別居自体におけると同程度の内容のある泊付面会交流を認めることを明言しており、従前の実施実績に照らし、これが実現される可能性は極めて高いのに対し、抗告人においては、父子の面会交流について極めて消極的態度に終始しており、抗告人が監護者となった場合には、父子の面会交流が果たして円滑に実現されるか疑問が残る。」
として、相手方である父を監護者と指定した原審を維持した。

1−2018.3.9
離婚の際に一方を親権者とした場合でも、子の監護者に関する協議が整わない状況にあった場合には、家庭裁判所において子の監護者を定めることができるとして、主たる監護者は母である等として、監護者指定と子の引渡しの申立てを却下した原審判を取り消し、母の申立てを認容した事例
[大阪高裁2018(平成30)年3月9日決定 家庭の法と裁判18号63頁]
[事案の概要]
母と父は、2011年に婚姻し、子(2012年生)をもうけた。2010年父は単身赴任となった。それ以前から子の主たる監護者は母であった。
父は、2010年母に離婚を申し入れ、それ以後の母との話し合いでは、子の親権と監護権を分属させる話も出た。
2017年、父母は子の親権者を父と定めて協議離婚したが、引き続き母が子の監護をした。同年、母は、ゴールデンウィーク明けまでには帰すとの約束のもと、子を父に引き渡した。しかし、父は子を母に戻さなかった。同年、母は監護者指定と子の引渡しを求めて審判を申し立てた。
同年、父は再婚し、再婚相手と、子と、再婚相手の連れ子と4人で生活している(いずれも養子縁組はしていない)。専業主婦である再婚相手が子を監護している。子と再婚相手との関係は良好である。家裁での親子交流場面観察では、子は父母の双方とも親和している。
原審の大阪家裁2017(平成29)年10月31日審判は、母が主張するような親権と監護権を分属させる合意は認められないとしながらも、本件の事情では、子を母が監護する方が父に比べて子の福祉に適うことが明らかと認められる場合には、監護者を母と指定する必要があるとした上で、本件ではそのような評価は難しいとして、申立てを却下した。
[決定の概要]
父母が協議離婚をするとき、その協議で一方を親権者と定めた場合でも、その時点で子の監護者に関する協議が調わない状況にあった場合には、家庭裁判所において、子の監護者を定めることができる(民法766条1項、2項、4項、819条1項)。
本件では、協議離婚の際、親権者を父とする合意をしたが、監護者については協議中であった。そこで、家庭裁判所は、子の監護者を指定することができる。
本件では、@従前の主たる監護者は一貫して母であり、その監護状況に問題はなかった、A子の占有移転の経緯が、父は子を引き取り監護する意図を秘して、ゴールデンウィーク明けには返還するとの虚偽の説明により敢行されたもので、その態様は著しく不相当であり、そのため子が一方的に従前の監護者のもとから約10か月間引き離されたことは子の福祉の観点から問題が大きい。B双方の監護環境それ自体はいずれも問題がないが、子が学齢期を迎えたばかりであること(6歳)からすると、この時点で主たる監護者母の監護を再開することが、子の福祉に適う。
以上より、母の抗告を容れ、原審判を取り消し、子の監護者を母に指定した上、父に子を母に引き渡すよう命じた。

1−2017.12.5
親権者父による、母を債務者とし、親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として子の引渡しを求める仮処分の申立てに関する抗告棄却決定を不服とした許可抗告の申立について、親権に基づく妨害排除として子の引渡しを求めることを肯定しつつ、子の利益を害する親権の行使は権利の濫用として許されないとして、申立てを棄却した事例
[最高裁第三小法廷2017(平成29)年12月5日決定 裁判所時報1689号13頁、判タ1446号62頁、民集71巻10号1803頁、家庭の法と裁判15号97頁、LEX/DB25449093]
[事案の概要]
父と母は、2010年、長男をもうけ、婚姻の届出をした。2013年、母は長男を連れて父と別居し、以後単独で長男を監護している。2016年3月、父と母は、長男の親権者を父と定めて協議離婚した。同年12月、母は東京家庭裁判所に、父を相手方として、長男の親権者を母に変更することを求める調停を申し立てた。
2017年4月、父は母を債務者として、親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として、長男の引渡しを求める仮処分命令を申し立てた。
[決定の概要]
1 原審は、本件申立ての本案は、家事事件手続法別表第2の3の項所定の子の監護に関する処分の審判事件であり、民事訴訟の手続によることができないとして、申立てを却下した。しかし、離婚の際に親権者となった父母の一方は、民事訴訟の手続により、非親権者である他方に対して、親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができると解される(最三小判昭和35年3月15日等)。
2 もっとも、親権者は、子の利益のために子の監護を行う権利(民法820条)を有するから、子の利益を害する親権の行使は、権利の濫用として許されない。
本件においては、7歳の長男を、4年以上母が単独で監護しており、その監護が長男の利益の観点から相当でないとの疎明はない。仮に父に長男が引き渡された後親権者が変更され(母は既に調停を申し立てている)、長男が母に引き渡されることになれば、短期間で養育環境を変えられることになり、長男の利益を著しく害する。また、父が、子の監護に関する処分としてではなく、親権に基づく妨害排除請求として長男の引渡しを求める合理的な理由を有することは認められない。
以上の事情の下においては、父が母に対して親権に基づく妨害排除請求として長男の引渡しを求めることは、権利の濫用に当たる。
3 以上より、本件申立ては却下すべきであり、原審の判断は結論において是認することができるとして、裁判官全員一致で、抗告を棄却した。
なお、父母間における子の引渡請求においては、子の利益(家庭裁判所調査官調査による調査その他の適切な方法による子の意思の把握と考慮がなされ、子に意思能力があれば裁判所が職権で子を利害関係人として参加させ、子の手続代理人として弁護士を選任するなどして子の意思を手続きに反映させることも可能であることを指摘し)、当事者の負担、手続の実効性という各点から、家庭裁判所における手続こそが本来的なものとしてもうけられているところ、父はあえてその方法によることなく、民事保全処分としての子の引渡しを求めているものであり、子の利益のためにする請求とはいえず、権利濫用として許されない、との詳細な木内道祥裁判長裁判官の補足意見が付されている。

1−2017.2.21
別居中の夫であり子を事実上監護している夫に対する妻が申し立てた子の監護者指定・引渡しを認容した原審に対する夫の抗告を棄却した事例
[東京高裁2017(平成29)年2月21日決定 LEX/DB25545290]
[事案の概要]
母と父は2012年に婚姻し、長女が生まれた。長女の監護は、専業主婦であった母がほとんど行っていた。2014年、母が働きに出るようになり、長女は保育園に預けられるようになった。2015年から母は店長を任され、帰宅が遅くなった。しかし、父は仕事を変えて収入を増やすという約束を果たさなかったため、母は勤務時間を短くしたかったものの正社員として遅くまで働くこととなった。そのようなことから夫婦関係は円満ではなかった。2016年4月下旬、このような状態に耐えられなくなった母が、父の反対を押し切って勤務時間を短縮した。ところが、同年5月下旬、父が突然置き手紙を残し、長女を連れて家を出て転居した。なお、父からの強い勧めで、同年4月、母は母名義でローンを組んで住宅を購入したばかりであった。
出奔後、父は母に全く連絡せず、住所も教えなかった。
同年5月から、父は賃貸アパートで長女と2人暮らしであり、別居後しばらく無職であったが、同年8月に就職した。同年7月から長女は新たな保育園に通園している。
同年8月25日早朝、近隣住民から児童相談所に、「父が転居してから度々子の泣き声と男性の怒鳴り声が聞こえていた。今日も聞こえる」と通報があり、児童相談所が父宅を訪ねたが、一時保護措置を執るまでの緊急性はうかがわれなかった。
同日、家庭裁判所の調査官が父宅を訪れた。調査時は、長女は父及び父方祖母に自然に触れ合っていた様子が観察された。母について、長女は当初「覚えていない」と言ったが、そのうち小さな声で母と遊びたいと呟いた。
原審である横浜家裁横須賀支部審判2016年11月9日(LEX/DB25545289)は、長女の監護者を母と指定するとともに、父に対し、母に長女を引き渡せと命じた。
[決定の概要]
相手方(母)が、抗告人(父)と同居中、長女の主たる監護者であったと認められる。母と長女の関係は良好で、長女が順調に成育していたこともあわせると、母には監護者としての実績、継続性があり、十分な適格がある。
抗告人は、相手方が長女の前でも抗告人に暴力をふるい暴言を吐き、長女にも影響を及ぼしたと主張したが、相手方が抗告人に対し感情的なメールを送った事実は認められるものの、「配偶者からの暴力(DV)」に該当するような暴言、暴力があったとは認められない。長女と相手方の関係が希薄であったとの抗告人の主張も、そのような事情は認められないと斥けた。
抗告人は相手方から暴言暴力の危害から守るとともに長女の健全な育成のために別居したと主張したが、決定は、相手方の暴言暴力は認められず、抗告人が相手方とのいさかいに耐えられずに長女を巻き込んで家を出たものとし、その行動は、長女の監護養育を第一に考え、夫婦間で真摯に話し合い、関係の修復に努力しようとする姿勢はみられないとした。その結果、長女に環境を激変させる負担を与えたほか、相手方と連絡を絶ったことも、長女の成育にとって極めて不適切である。その後の監護の実績や継続性を尊重することはできない。
児童相談所に通告された事情について、抗告人は児童相談所職員に長女がトイレでぐずっていたと述べたこと、近隣に聞こえるほどの怒鳴り声をたびたび浴びせていることにつき、監護者として適切な行為とは認められないとした。
監護の補助態勢も、相手方は日常的に両親の補助が受けられるが、抗告人の両親は日常的な援助や緊急の対応は困難である。
以上より、原審判は相当であり、抗告には理由がないとして、棄却した。

1−2017.1.26
年間100日間の面会交流の計画を提示した父親を長女の親権者と定めた原判決を変更し、母を親権者と定めた事例
[東京高裁2017(平成29)年1月26日判決 判時2325号78頁、ジュリスト1518号(臨時増刊号/平成29年度重要判例解説)81頁]
[事案の概要]
夫と妻は、2006年に婚姻した夫婦であり、両者の間には長女(2007年生)がいる。
妻は、2010年5月、夫に対し、体調が悪いから実家に帰る旨メールし、長女を連れて実家へ身を寄せた。妻は、夫の要望に応じて、同月、6月、7月に長女と夫との面会交流に応じた。
2010年9月上旬、離婚後一方の親と会えなくなる子どもの現状を特集した番組で、夫が提供した長女の映像(目の部分にぼかしが入ったもの)が放映され、妻はそれを見てショックを受けた。同月、妻は長女と夫の面会を実施したが、その後は面会を拒んだ(合計で8回実施)。その後、妻は夫と長女が週1回電話で話すことを認めたが、2011年3月、夫が妻方を訪れ、長女との面会を要求し、警察を呼ぶ騒ぎになった後は、電話も拒むようになった。
2011年、夫は千葉家庭裁判所松戸支部に子の監護者指定・子の引渡し申立事件及びこれらを本案とする保全処分を申し立てた。2012年、同支部は、長女の監護者を妻と定め、夫の申立てをいずれも却下した(その後確定)。その後、夫は2度、監護者の変更を申し立てたが、いずれも却下された。
妻が、離婚及び慰謝料、親権、養育費、年金分割を求めて訴訟を提起した。夫は、離婚請求棄却と、予備的に親権者について夫に定めるべきと主張し、附帯処分として、長女の引渡しと、年間100日に及ぶ面会交流等の養育計画に沿った面会交流の時期、方法を定めることを求めた。
原判決(千葉家裁松戸支部2016年3月29日判決判時2309号121頁)は、離婚請求を認容し、妻が今後面会交流を月1回程度の頻度とすることを希望する一方、夫は緊密な親子関係の継続を重視して上記養育計画を提示していること等を総合して、夫を親権者と指定するのが相当とし、妻の慰謝料請求を斥け、年金分割按分割合0.5を認めた。
[判決の概要]
親権者の指定について、控訴審は、まず、以下のように述べた。
「父母が裁判上の離婚をするときは、裁判所は、父母の一方を親権者として定めることとされている(民法819条2項)。この場合には、未成年者の親権者を定めるという事柄の性質と民法766条1項、771条及び819条6項の趣旨に鑑み、当該事案の具体的な事実関係に即して、これまでの子の監護養育状況、子の現状や父母との関係、父母それぞれの監護能力や監護環境、監護に関する意欲、子の意思(家事事件手続法65条、人事訴訟法32条4項参照)その他の子の健全な成育に関する事情を総合的に考慮して、子の利益の観点から父母の一方を親権者に定めるべきものであると解するのが相当である。父母それぞれにつき、離婚後親権者となった場合に、どの程度の頻度でどのような態様により相手方に子との面会交流を認める意向を有しているかは、親権者を定めるに当たり総合的に考慮すべき事情の一つであるが、父母の離婚後の非監護親との面会交流についての意向だけで親権者を定めることは相当ではなく、また、父母の面会交流についての意向が他の諸事情より重要性が高いともいえない。」
以上の観点から本件をみると、同居中も、長女の主たる監護者は控訴人であった。2ヶ月ほど、被控訴人が長女を監護養育し、保育への送迎やベビーシッターの利用などもしたが、短期間であった。別居後も一貫して控訴人が長女を監護養育し、長女は健康で順調に生育し、控訴人との母子関係に特段の問題はない。
双方、強い監護意欲を示し、相応の収入があり、勤務時間に融通が利き、それぞれの両親の支援を受けることができ、住宅環境も決定的な差がない。
長女は、控訴人と一緒に暮らしたいという意向を示している。
控訴人と被控訴人は片道2時間半離れた距離関係にあり、現在小学校3年生の長女が年間100日の面会交流のたびに双方の自宅を往復することは、身体の負担、学校行事への参加、友だちとの交流等にも支障が生ずるおそれがあり、必ずしも長女の健全な成育にとって利益になるとは限らない。控訴人が想定する被控訴人と長女との面会交流の回数は月1回程度であるが、当初この程度の頻度で面会交流を再開することが長女の利益を害すると認めるに足りる証拠はない。
長女の利益の観点からみて長女に転居・転校をさせて現在の監護養育環境を変更しなければならない必要性があるとの事情は見当たらない。
以上を総合的に勘案し、長女の利益を最も優先して考慮すれば、親権者は控訴人と定めるのが相当である。
なお、控訴人が長女を連れて別居したことが被控訴人の意に反するものであったが、当時2歳4月の長女の監護を業務多忙な被控訴人に委ねることは困難であったし、婚姻関係も破綻に瀕していたので、今後の監護についてあらかじめ協議することも困難であった。別居後面会交流の場を設けたものであり、面会交流に応じなくなった背景には、被控訴人がマスメディアに提供した面会交流時の長女の映像が放映されたことで控訴人が衝撃を受けたことがある。面会交流の在り方について当事者間で考え方が大きく異なるが、その具体的な内容は協議が整わないときは、家庭裁判所で定められるべきである。
以上より、親権者を控訴人と定めた上、慰謝料請求を棄却し、養育費月5万円、年金分割按分割合0.5と定めた。
[ひとこと]
2017年7月12日、最高裁第2小法廷は、父の上告を受理しない決定をした。

1−2016.11.30
父が未成年者を連れて別居した母に対し監護者指定及び子の引渡しを請求した事案において、未成年者(17歳)の意思は尊重されるべきであるとしつつ、未成年者の福祉を害する母の監護環境は看過できぬ程度に至っているとして、申立てを認容した事例
[福岡家裁八女支部2016(平成28)年11月30日審判 消費者法ニュース111号305頁]
[事案の概要]
父と母は婚姻後、長女、長男、二女(いずれも成人)及び未成年者である三女をもうけた。三女の出生以来、主として母が監護していた。
母は、2003年ないし2005年頃、父との関係悪化などに悩み、Tの会という特定の教義に基づく宗教的活動を目的とした法人格なき団体に参加するようになった。2006年、母は長女、長男、三女を伴い、父方を出て別居した。
審判時、福岡家裁八女支部には、母が申し立てた離婚を求める裁判と、父が申し立てた面会交流の調停が係属中である。
[決定の概要]
Tの会で相手方(母)は中間的リーダーであるBに未成年者らの前で長机の角に頭を打ち付けられるなど繰り返し暴力をふるわれた。
相手方に対するBの暴力を目にした二女がTの会に参加しなくなると、相手方は二女に弁当を作らなくなったり、小遣いを渡さなくなったりした。二女は自宅での生活が辛くなり、家出をし、それを契機に申立人(父)は、相手方や三女らがTの会に参加していること、同会で暴力行為があることを知った。申立人が知った10日後、相手方は、長女、長男、及び三女を連れて父と別居した。
大工見習いをしていた長男は、Bの指示により日中の大工仕事の後深夜までコンビニでバイトをし、その後朝方3時4時までBのもとで別居し、1、2時間の仮眠後大工の仕事をする、という生活をした。その上、長男はBから何度も暴行をふるわれたり、頻繁に電話連絡等を受けたりもした。長男はその生活に耐えられなくなり相手方の住居から出て、長女と三女に追跡されるなどしたが、連れ戻されはしなかった。現在、長男は相手方に居所を秘匿している。
相手方は、長男がBに暴力をふるわれている間、怯えるばかりで、制止しなかった。
相手方は、今後もTの会に参加し、三女もこれまで通り一緒に連れて行こうと考えている。
三女は、同居中も申立人とはほとんど会話もしなかった等として、今後も相手方による監護を強く希望している。
従前の主たる監護者は相手方である。しかし、三女は、相手方が熱心に参加するTの会においてBによる暴行行為を度々目にしており、それが子の福祉を害することは明らかである。しかも、三女は、Bの暴行について、「(被害者に)落ち度があるから仕方のないことだ」と述べるなどしていることから、社会的な許容限度を超える程度に価値観が変容したといえる。同居する相手方と長女は、三女のかかる価値観を矯正させる状況にはないし、申立人のみならず長男、二女との面会交流も全く拒絶されている現状に鑑みれば、三女の価値観を矯正する機会は見当たらない。
三女は17歳の女子で、相手方との同居を強く望み申立人による監護を拒絶している。申立人には同居中も別居後も相当でないところがあった。しかし、長男と二女は申立人に対し恐怖心を抱いていないこと、別居後、相手方と長女から申立人の問題点等を一方的に聞かされている様子があること等の事情がある。家事事件手続法65条において、「審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。」とあり、17歳の三女の意思は本来尊重されるべきである。しかし、相手方がTの会への参加を続ける以上、三女の福祉を害する相手方の監護環境は、もはや看過できぬ程度にまで至っている。相手方はTの会に参加するか否かは三女の意思に委ねるとするが、Bの指示に盲従し、Bが長男に暴行をしていたときも母として長男を守るすべを見いだすことができなかったこれまでの相手方の言動からすると、現実的にはTの会に三女を参加させないことは難しく、三女の福祉を害する環境が継続する蓋然性は極めて高い。家事事件手続法65条も、子の意思に必ず従って審判しなければならないとするものではなく、「子の意思に従って審判すると、かえって子の利益に反する結果になりかねない場合には、子の利益の観点から別途後見的に考慮する必要ある」。
相手方の監護環境に看過できない問題がある現時点においては、その問題が解消されるまでの間は、ひとまず申立人の下で監護がなされた方が三女の利益に合致するとして、申立人を監護者として指定し、三女は申立人に引き渡されるべきとした。
[ひとこと]
監護の継続性、監護能力、母との親和性、子の意思を踏まえても、宗教活動を目的とする団体のもと暴行行為をたびたび目にしそれを是認する価値観を抱くようになりその価値観を矯正する機会が母のもとではないことを詳細に示した上で重視した判断である。
母は抗告したが、福岡高裁2017(平成29)年3月30日決定(消費者法ニュース112号334頁)は抗告を棄却した。

1−2016.8.31
別居前の主たる監護者である母の監護態勢に問題があったかどうか、母が監護者と定められた場合の監護態勢と父による現状の監護態勢のいずれかが子らの福祉に資するかについて審理を尽くすべきとして、監護者指定と引渡しを却下した原審判を取り消し、差し戻した事例
[大阪高裁2016(平成28)年8月31日決定 判タ1434号127頁、家庭の法と裁判11号90頁]
[事案の概要]
母と父は2007年に婚姻し、両者の間に長男(2008年生)、二男(2010年生)、長女(2013年生)が生まれた。母は結婚後専業主婦となり、父は新聞記者であり、2013年から単身赴任した。
母は2015年春頃から、長女を母の実家に預け、長男と二男を自宅に残したまま、出会い系サイトで知り合った男性と会うために夜間外出・外泊を繰り返すようになった(頻度については父母間に争いがある)。母はその理由について、父が子育てに協力してくれなかったことや父が浮気をしていたことをあげた。父は母の夜間外出について警察に相談した。警察は、子ども家庭支援センターへ虐待通告した。
2015年、父が異動となり、単身赴任が解消された。しかし、同年、母からの「死にたいいやや。こどもらもすてたい」とのメールを受信した父は、父方祖父母に子らを預けた。父から説明を受けた母方祖父は子らが父の実家で暮らすことに同意した。母は母方祖父と一緒に自宅に帰った。
母が父に対し、子らの監護者を母と定めるとともに、子らの引渡しを求めたところ、原審の奈良家審2016年5月31日(判タ1434号128頁)は、従前の母による子らの監護は適切さを欠き、父による子らの現状の監護態勢を変更する必要があるとは認められず、これを維持することが子らの福祉に資するとして、母の申立てをいずれも却下した。
[決定の概要]
「別居中の夫婦間において子の監護者を定めるに当たっては、子の出生以来主として子の監護を担ってきた者(主たる監護者)と子との間の情緒的な交流や精神的なつながりを維持して子の精神的安定を図り、別居による子への影響をできるだけ少なくすることが子の福祉に適うものであるから、従前の主たる監護者による別居前の監護や同人が監護者に定められた場合の監護態勢に特に問題がない限り、従前の主たる監護者を監護者と定め、同人による監護を継続するのが相当である。」
本件では、別居前までの主たる監護者は母(抗告人)である。夜間外出という母の不適切な行為が子らの監護に具体的にどのような悪影響を生じさせたかは明らかでない。また、別居前の普段の生活についての客観的な状況やその適否も明らかでない。この不適切な行為のみで母による監護が将来的にも不適切だとし、子らを主たる監護者である母から引渡し、父による単独監護に委ねるのは、子の福祉の点からの検討が不十分である。「死にたいいやや。こどもらもすてたい。」というメールは、母が子らを連れて入院中の母方祖母を見舞いに行くにあたってイライラが募った際のものであり、これをもって監護を放棄した等とは認められない。
原審は、母が監護者に指定された場合の監護態勢について検討することなく、父による現状の監護態勢を維持することが子らの福祉に資するとするが、現状では日中の監護の大部分は父方祖父母が担うものであるところ、その監護の実情は明らかにされていない上、母による監護に比較して父による監護が子らの福祉の点で資するということも明らかにされていない。
以上より、原審判は相当ではなく、別居前の主たる監護者である母による監護に問題があったかどうか、母が監護者と定められた場合に予定している監護態勢と父による監護態勢のいずれが子らの福祉に資するかさらに審理を尽くすべきであるとして、原審判を取り消して、奈良家庭裁判所に差し戻した。

1−2016.6.10
審判前の保全処分として子の引渡しを命じる場合には、審判前の保全処分により子の急迫の危険を防止するため必要があることなどを要するとし、本件ではそのような疎明がないとして、子らの監護者を原審申立人と指定した上、子らの引渡しを命じた原審を取り消し、申立てを却下した事例
[東京高裁2016(平成28)年6月10日決定 家庭の法と裁判12号91頁]
[事案の概要]
母(原審申立人)は、父(原審相手方)との間の長男(2006年生)と二男(2008年生)を連れて家を出た父に対し、監護者の指定及び子の引渡しを求める本案及び審判前の保全処分の申立てをした。原審は、2016年、子らの監護者を仮に母と定め、父に対し母に子らを仮に引き渡すよう命じる審判をした。これに対し、父が即時抗告をした。
なお、父は併せて家事事件手続法111条に基づき、原審判の執行の停止の申立てをしたが、東京家庭裁判所は、却下した。
母は、原審判の審判書正本に基づいて、子らの引渡しについて直接強制の執行の申立てをし、執行は着手されたが、執行不能となり終了した。
[決定の概要]
「審判前の保全処分として子の引渡しを命ぜられると、確定を待たずに、強制執行が可能となり(家事事件手続法109条2項)、かつ、その方法も直接強制によることが可能とされることから、子の生育環境に大きな影響を与え、子に精神的苦痛を与える可能性が生じる上、後の裁判において審判前の保全処分と異なる判断がなされれば、数次の強制執行により上記の不都合が反復されるおそれがある。すなわち、本件においても、審判前の保全処分の後、本案の審判が予定されており、さらには、本案の審判が確定した後に離婚訴訟が提起され、審判で定められた監護者とは異なる者を監護者と定める判決が言い渡される可能性もある。
そうすると、審判前の保全処分として子の引渡しを命じる場合には、現に子を監護する者が監護に至った原因が強制的な奪取又はそれに準じたものであるかどうか、虐待の防止、生育環境の急激な悪化の回避、その他の子の福祉のために子の引渡しを命ずることが必要であるかどうか、及び本案の審判の確定を待つことによって子の福祉に反する事態を招くおそれがあるかどうかについて審理し、これらの事情と子をめぐるその他の事情を総合的に検討した上で、審判前の保全処分により子の引渡しの強制執行がされてもやむを得ないと考えられるような必要性があることを要するものというべきである。」
本件では、@抗告人父が子らを強制的に連れ去ったと評価されるものではないこと、A抗告人父の下における生育環境は、従前の環境に秘すると建物の広さや習い事に必要なピアノの有無などで劣後するものの、虐待がなされているとか、劣悪なものになったとは認められないこと、Bそれゆえに、本案の審判の確定を待つことによって子らの福祉に反する事態を招くおそれがあるとは認められないこと、C同居中に父と母との間で平日と週末の区分による食事の準備、習い事の送迎等による共同監護が行われ、監護の状況に主従の差を認めることはできないこと、D直接強制の執行は不能となり終了したが、本案が審理中であって、今後審判がされる可能性が高く、本抗告審の判断の後の本案の判断の内容如何により、子らの生育菅家洋に多大な影響を与えるおそれが高く、現状を維持することが子らの福祉に反するとはいえず、子の急迫の危険を防止する必要があるとは言い難い。
以上より、原審判を取り消し、母(原審申立人)の申立てを却下した。
[ひとこと]
家庭の法と裁判の本事案の解説によれば、本事案の本案に対する抗告審においては、子の引渡しを命じる原審が維持されたとのことである。当事者としては、早期の引渡しを求める意向が強いであろうが、同解説にあるように、「判示にあるように、本案がほとんど保全と間を置かずに発令される場合には、数次の執行による子の行き来の結果が生じないように配慮することが強く求められる」。

1−2016.4.7
一種の共同監護(交替監護)の状況下にある未成年者につき、審理を尽くし、そのうえで、監護者指定の要否を見極める必要があるとした例
[名古屋高裁2016(平成28)年4月7日決定 判タ1431号121頁、家庭の法と裁判10号92頁]
[事案の概要]
抗告人(父か母かは不明、原審申立人)と、被抗告人間には、長女約11歳、長男約8歳の2人の子がいる。抗告人からは離婚調停が、被抗告人からは円満調停が申し立てられている。いずれの調停申立て時も、まだ4人で同居していたが、2014年に、申立人は家を出て実家に戻り別居がはじまった。その後も、平日は、子らは被抗告人方で起床し、小学校に行き、学童保育で過ごし、午後6時半頃には抗告人の父母または抗告人が学童に迎えに行き、その後は抗告人宅で夕飯、入浴、着替えなどを済ませ、午後9時頃に抗告人が子らを被抗告人宅に送り届ける、といった生活をしている。休日も共同監護的生活をしている。
抗告人より、監護者指定を申し立てたところ、原審の金沢家裁七尾支部2016年2月8日審判は、子らの意向調査もふまえ、双方が未成年者らとの関係が良好で、双方に監護態勢に大きな問題はなく、監護態勢の変更に強く未成年者らが反対していることなどから、「現在の諸事情を前提とする限り、監護者を父母いずれかに指定することは未成年者らの福祉の見地から相当でないと言うべきである」「監護者を指定する必要はない」として、申立てを却下した。そこで抗告がなされた。
[決定の概要]
「両親の諍いの激化を受けて、未成年者らの様子にも変化が現れ、長女においては、両親の板挟みになって心を痛める度合いが明らかに強くなっているし、長男においては、心身に変調を来しており、両親の諍いに日常的にさらされて、その葛藤による悪影響が顕在化していることが懸念される」「かえって現時点では監護者を指定する必要性が生じていると考えられるところである」とし、「そこで、原審判後の状況も踏まえた当事者双方の監護状況及び監護者としての適格性、両者間の紛争の現状及び未成年者らに与える影響、未成年者らの意向・心情等について、特に家庭裁判所調査官の専門的な視点による調査も含めて、更に審理を尽くし、その上で監護者指定の要否等を見極める必要がある」として、原審判を取り消して、差し戻した。

1−2016.2.2
別居中の夫婦間において、妻が子の監護者の指定及び子の引渡しを求めたが、斥けられた事案
[最高裁第三小法廷2016(平28)年2月2日決定 原審:広島高裁2015(平27)年9月16日決定 原々審:山口家裁宇部支部2014(平成26)年12月15日審判 判時2348号11頁]
[事案の概要]
父母は2003年に婚姻し、長男(2004年生)と二男(2007年生)をもうけたが、母が父と別居し、子らは父のもとにいる。母は父に対して、子らの監護者を母と指定すること及び子の引渡しを求めた。
原審は、本件における具体的事実関係の下、母に子らを監護させることが、現在の父による監護を継続するよりも子らの福祉に適すると認められないとして、申立てをいずれも却下した。
[決定の概要]
抗告人が原審の判断には民法766条1項の「子の利益」の解釈適用の誤りがあるとして、抗告許可の申立てをした。
本決定は、「所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。」として許可抗告申立てを棄却した。
[ひとこと]
判時2348号11頁には、本件の争点は、父母のいずれを監護者に指定することが「子の利益」に資するかという点であり、母の主張の実質はその具体的当てはめに関する認定非難であり、抗告の許可には検討の余地がある、と解説されている。

1−2015.12.2
イタリア人父から、日本人の母方祖父に対する、親権に基づく子の引渡請求が認容された事例
[静岡地裁2015(平成27)年12月2日判決 判時2292号79頁]
[事案の概要]
イタリア人男性(以下、「父」という)は、日本国籍の女性(以下、「亡母」という)とイタリア共和国の方式で婚姻し、平成19年6月、同国で未成年者をもうけた。
一家はイタリア共和国で生活していたが、亡母は、平成23年8月、がんの治療のため、父の同意の下で未成年者を連れて日本に帰国した。
平成26年3月、亡母は死去した。父は、当時未成年者と同居していた亡母方祖父に未成年者の引渡しを求めたが、祖父は拒否した。
そこで、父は、同年5月、静岡家庭裁判所浜松支部に未成年者の引渡しを求めて調停を申し立てたが、同年9月、不成立に終わった。そこで、父は、祖父を被告として、親権及び監護権に基づき、未成年者の引渡しを求める訴訟を、静岡地方裁判所浜松支部に提起した。
未成年者は、日本国とイタリア共和国の二重国籍者であり、口頭弁論終結時における年齢は8歳であった。
[判決の概要]
@準拠法について
未成年者が平成23年8月に来日して祖父方で生活するようになったのは、父と亡母の合意による。亡母のがん治療が続く限り未成年者も我が国にとどまることについて父も同意していた。同意していた期間中、未成年者は幼稚園に通っていた。以上の事実に照らせば、「未成年者について、通則法32条にいう常居所地とは、我が国であり、準拠法は日本法である」。
A亡母から祖父に対する監護委託の効力
祖父は、亡母との間で、同人の死後の未成年者の監護につき監護委託契約を締結したと主張する。しかし、監護委託契約については共同親権者である父の同意が必要であるが、
・現代の通信事情の下で、父が事実上親権を行使することができない状況にあったとは認められないこと、
・父は、亡母の生前、亡母の死亡後の監護を祖父に委ねることはしない旨、書面により表明していたこと、
から、同意はなかったものである。したがって、同契約に基づき未成年者の引渡しを拒むことができる旨の祖父の主張は採用できない。
B親権濫用の有無
祖父は、未成年者が臨床心理士との面接で、父から50回以上たたかれた経験を語っていると指摘して、父が未成年者に対し虐待をしていたと主張する。しかし、
・上記面接は、未成年者が祖父から言い含められた後に行われたものであること、
・亡母は、日本とイタリア共和国のどちらの小学校に未成年者が通学するのか、未成年者の意思が尊重されるように証書を作成してもらいたいとの意向を有していたが、深刻な虐待が存するのであれば、未成年者の意向を尊重するまでもないこと、
等からは疑問である。
また、父は法に則った手続きを行っていること等から、「(父の)感情統制に問題がある」との祖父の主張も採用できない。
父は、未成年者の引渡を求めているに留まり、未成年者をイタリア共和国に連れてくることまでは求めていないが、仮にこれを前提に検討したとしても、
・現在の未成年者は、本来形成されるべき父との親和的関係の形成及び維持が妨げられており、健全な成長に必要な家族関係に深刻な危機を抱えていること、
・イタリア語がほとんど話せないことから健全な成長が阻害されるとまでいうことはできないこと、
・未成年者の意思は一定程度斟酌すべきものではあるが、親権者には居所指定権があり、父と共にいることを指定することが親権の濫用となるべき他の事情がうかがわれないこと、
・父の経済力から未成年者をイタリア共和国で監護する能力は十分にあり、父の母親や妹も協力を申し出ていること、
から、父の引渡請求が親権の濫用である旨の祖父の主張は採用できない。
C結論
父の請求には理由があるので、認容する。
[ひとこと]
家事審判手続きによらず、民事訴訟手続きにより、子の引渡しが認められたケースである。親権濫用の判断においても、丁寧な事実認定がなされ、評価できる。

1−2015.2.26
「強制執行を保全し、又は子のその他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」(家事事件手続法157条1項)との要件を充足するものではないとして、抗告人(夫)から相手方(妻)への未成年者の仮の引渡しを認めた原審を取消し、妻からの申立てを却下した事例
[東京高裁2015(平成27)年2月26日決定 判タ1423号199頁]
[事案の概要]
抗告人(夫)と相手方(妻)とは、2010年に婚姻したが、2014年に別居して以降、抗告人は両者間の長男である未成年者とともに実家に、相手方も実家にそれぞれ居住している。相手方は2014年に抗告人に対し、未成年者(申立時2歳)の監護者を相手方と定める審判を申し立てるとともに、未成年者の引渡しを求める審判前の保全処分を申し立てた。原審は、抗告人が未成年者を実家に連れ帰り、以後、相手方との面会交流を行うことなく監護していることは相当でないし、相手方と離れていることによる未成年者の精神的な打撃は大きいものと考えられるから、相手方による監護の下に未成年者を戻すことがその福祉のために必要であり、未成年者の年齢等から特に早期に実現させるべきであるとして、相手方の審判前の保全処分の申立てを認容した。抗告人がこれを不服として抗告した。
[決定の概要]
相手方は、家事事件手続法157条1項に基づき、審判前の保全処分として、未成年者の引渡しを求めるものと解されるところ、同項は「強制執行を保全し、又は子その他の利害関係人の急迫の危険を防止するため必要があるとき」に、保全処分を命ずることができるとしている。抗告人が、相手方と未成年者との面会交流の必要性、重要性を否定し、近いうちにこれを実現する可能性がないといった事情があればともかく、本件においては、このような事情があることを認めるに足りる証拠はなく、2015年○月○日には、相手方が居住するF市内において、同人と未成年者との面会交流が実現されたものと窺われる上、抗告人は今後も定期的な面会交流を実施する意向を示している。そして、別居後、面会交流が実現されなかったのは、抗告人及び未成年者がD県内に、相手方がE県内にそれぞれ居住していたことや、相手方が出産を控えていたといった事情が背景にあったものと推測される。したがって、面会交流が実現されていないことを理由に、上記の要件を肯定することは相当でない。相手方は未成年者の監護者としての適格性に欠けるものではなく、未成年者の年齢等を踏まえると、監護者の問題は早急に解決されるべきであるものの、これは本案の迅速な審理によって対処すべき事柄であり、未成年者の現在の監護状況等について、家庭裁判所調査官による調査を実施することなく、審判前の保全処分を命ずるのは、少なくとも本件においては相当でないし、また、適正な結論とこれに対する当事者双方の理解等を得るために、この調査が必要となることは、本案においてこれが予定されていることからも明らかである。以上から、原審判は相当でないから、これを取り消して、相手方の申立てを却下する。

1−2015.1.29
別居中の夫婦間において1週間交代で子を交互に監護する旨の合意がされていたが、その合意は子の福祉に反しない方向で柔軟に変更されうるもので、その遵守が法的に強制されるものとは認められず、妻が合意に違反したことに違法性はないとして不法行為責任が否定された事例
[東京地裁2015(平成27)年1月29日判決 判時2270号62頁]
[事案の概要]
X夫とY妻は、2012年に婚姻、同居して長男を共同監護していたが、2013年2月から別居を開始した。別居後の長男の監護状況は、X・Yともに東京都内に居住していたため、3〜4日の頻度でそれぞれが引き取り監護していた。その後、同年6月にXは就職のためなどから新潟県に転居したため、新幹線で行き来をして一週間交代で長男を監護することとなった。
Xは、さらに二、三週間交代の交互監護を提案したが、Yはそれを拒否し、新潟への連れ去り行為を警戒するなどして、Xへ誓約書の作成を求めるなどした。その間、Yは同年7月に夫婦関係調整調停を申し立てた。
同年9月、長男引渡を受けた際に、Yの叔母が長男とX自身の顔に傷を見つけ、不可解に思い、そのことを発端に、10月以降、YはXへ長男を引き渡さなかった。Xは、長男の交互監護が阻害された精神的損害などについて、不法行為に基づく損害賠償を求めた。
なお、2013年11月〜2014年10月までの間、Xは長男と10回以上の面会交流を行っている。また、Xは、Yに対し、子の監護者指定、子の引渡し事件を申し立てているが、却下されている。
[判決の概要]
判決は、長男の1週間交代の交互監護の合意について、「当事者の合意(本件合意)に基づくものと評価できる」として、合意の存在について認めたものの、「もっとも、そうであるとしても、本件合意に従わなかった場合の効果については、その性質や拘束力について、当時の原告・被告間の合理的意思や、子の福祉にかんがみ検討を要する」として、以下の通り認定した。
「Xが新潟県に拠点を移すことに関しては、長男にとっても生活環境が激変する事柄と考えられるが、Xが独断で決定し、長男を引き取り新潟に連れて行く当日にYに告げて、Yに半ば事後的に承諾を求めたと評価できるもので、Yとしては不服だったものの、これを無碍に拒否することもできず、Xがさらに二、三週間交替を要求するのに対し、一週間交代が限度として応じたものと解される。このような本件合意の成立過程にかんがみれば、正式に期間を定めてその間は余程のことがない限り変更が許されない、というような性質のもとは認めがたいと言わざるを得ない。」また、Xが新潟県に拠点を移したことがX自身の都合、意向を強く反映したものであることから長距離間の交互監護が子の福祉に沿うものとは言い難く、合意に従わなかった経緯もY側の主張に一定の合理性があるとして、「本件事案の下については、その遵守が法的に強制されるものとは認められない。」として、Yの不法行為の成立を否定し、Xの請求を斥けた。

1−2014.12.24
7歳の子(被拘束者)の両親が、被拘束者の祖父母に対し、人身保護法に基づき被拘束者の引渡しを求め、これが認容された事案
[東京地裁2014(平成26)年12月24日判決 LEX/DB25523098]
[事案の概要]
2007年10月15日、夫X1・妻X2の間に、Aが生まれた。
2004年6月頃から、X1・2間で離婚の話が出るようになった。X1は、X2の不貞を疑い、同人に暴行を加えた。
同年9月5日、X2は、同人の母(Y2)から離婚話が進まないと責められたと感じ、書き置きを残して自宅を出て、一時所在不明となった。
X2の父母であるY1・Y2(Aの祖父母)は、Aを自分たちが引き取るべきだと判断し、戻ってきたX2とともに、同月6日、AをY宅に連れ帰った。
同月8日、X2はY宅を出て、X宅に戻った。以降、Y1・Y2がAを監護養育している。
同月9日、X2は、Y2に対し、X1との婚姻を継続すると連絡した。
同年11月17日、X1・X2は、Y1・Y2に対し、Aの引渡しを求めて、人身保護請求を行った。
[判決の概要]
1 拘束の有無について
「被拘束者は7歳であって、意思能力を欠くことは明らかであり、親権及び監護権を有しない拘束者らは、被拘束者を事実上監護しているから、人身保護法及び同規則にいう『拘束』があると認められる」
2 拘束の違法性について
(1)法律上監護権を有しない者が子をその監護のもとにおいて拘束している場合に、監護権を有する者が人身保護法に基づいて子の引渡しを請求するときは、被拘束者を監護権者である請求者の監護のもとに置くことが拘束者の監護のもとに置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものでない限り、非監護権者による拘束は権限なしにされていることが顕著である場合(人身保護規則4条)に該当し、監護権者の請求を認容すべきものとするのが相当である(最高裁平成6年(オ)第1437号同年11月8日第三小法廷判決・民集48巻7号1337頁参照)。
(2)Aは、Y宅で安定した生活を送っていることが認められる。
しかしながら、
・Xらの夫婦仲は従前は悪かったが、今後家族でやり直すことを決意していること、
・2004年6月より前は、XらによるAの監護養育には特段の問題はなかったこと、
・Xらの住環境等に特段の問題は見受けられないこと、
・X1はパニック障害に罹患しているが、薬も減らしながら定期的に通院しており、X2は従前うつ病になったこともあるが、現在は問題が見られないこと、
から、AをXらのもとにおいても、Aを安定的に監護養育することが十分可能である。
(3)したがって、YらによるAの拘束は、「権限なしにされていることが顕著である場合に該当する」

1−2014.8.15
母から父に対する監護者指定の申立てについて、子らの心情や、現在、父母がほぼ共同監護のような状態であることなどを考慮し、父母のいずれかを監護者として指定することは相当でないとして、却下した例
[大阪家裁2014(平成26)年8月15日審判 判時2271号111頁]
[事案の概要]
A(母)とB(父)は、平成17年に婚姻し、同年に長男C、平成18年に長女Dが生まれた。Bには前妻との間の子E及びFがおり、AからFの6人で暮らしていた。ABは不和となり、Aは家を出て、近くにあるAの母親宅で暮らすようになった。Aは、Aを監護者として指定するよう申し立てた。
Aは、月曜から土曜までのうち、Bの帰宅が遅い日は、B方に行き夕食を用意して子らに食べさせ一緒にすごし、夜Aの母親宅に戻っている。Aの帰宅が遅い日は、子らはAの母親宅でAの母親が作った夕食をたべ、A帰宅後、Aが子らをB宅に送り届けるといった生活を続けている。土日も子らと過ごす時間を、ABは同程度に分け合っている。
調査官調査によれば子らはいずれも、きょうだい4人は離れたくなく、家族の和合を希望しているようであった。
[審判の概要]
「・・現在は、申立人と相手方がほぼ同じ程度に未成年者らの養育監護をしているということができ、共同監護のような状態であるといえる。そして、申立人は、相手方の生活態度等について不満を述べるが、本件記録を検討しても、相手方の未成年者らに対する監護養育に大きな問題があるとは認められず、現在の共同監護のような状態はそれなりに安定していると評価できる。家庭裁判所調査官の調査において、E及びFは、家族が元どおりになるのが最も良いが、少なくともきょうだい四人は離れたくないと言い、未成年者らも元どおりを希望している。
こうした子らの心情や現在の共同監護のような現状からすると、現時点において、未成年者らの監護者として申立人と相手方のいずれかを指定することは、未成年者らが申立人と相手方の双方と触れ合える現状を壊しかねず、相当でないということができる。」として、 申立てを却下した。
[ひとこと]
監護者指定の必要性を判断した珍しい例である。

1−2014.3.14
別居時までは相手方(母)が主たる監護者であったが、別居後の監護意欲、監護態勢その他の事情を比較して申立人(父)を子らの監護者として指定するとともに、相手方に対し子らの引渡しを命じた事例
[福岡家裁2014(平成26)年3月14日審判 家庭の法と裁判2号82頁]
[事案の概要]
申立人(夫)と相手方(妻)は、2007年に婚姻し、同年長女を、2010年に長男をもうけた。2013年まで家族4人で同居していたが、妻は離婚を求めるようになり、子らを連れて実家に戻り、以後別居している。
夫は、2013年、妻の精神状態が不安定だが病識がなく、子らの養育に大きな不安があるとして、福岡家裁に離婚及び子らの親権者を夫と定めることを求めて、調停を申し立てた。妻は第1回期日には欠席したが、第2回、第3回期日には出頭した。しかし、対話性幻聴等により協議が可能な状態ではなく、夫は調停の申立てを取り下げた。
夫は、2013年、子の監護者の指定及び子の引渡しを求める調停を申し立てたが、2014年不成立により終了し、審判手続へ移行した。
調査官が妻と面接した結果によれば、妻には対話性幻聴はみられるものの、審判手続を理解するに足る意思能力はあった(福岡家裁技官の意見を参照している)。妻は第1回審問期日には出頭せず、書面も提出しなかった。
[審判の概要]
審判は、相手方(妻)について、以下の事情を認めた。@別居時までは、子らの主たる監護者であり、その監護に特段問題はなかった。Aしかし、別居後は、約半年以上に渡り、子らの監護をもっぱら相手方家族に任せて、自らはほとんど関わっていない状態にあり、監護意欲が著しく低下している。B相手方家族についても、子らの生活全体を通してその生活や躾をしている者はなく、そのため、子らは起床・就寝時間が食事時間が遅く、菓子で食事を代替するなどの不規則な生活を送り、日中もほとんど子ら2人でテレビやゲームで遊ぶという生活が日常化している。C長女は2014年小学校に入学すべきところ、相手方はその手続をしておらず、相手方の現在の精神状態に照らして今後もその手続がされる見込みはない。
一方で、申立人(夫)については、以下の事情を認めた。@別居時までは主たる監護者ではなかったが、休日等にはその監護に関わっていたもので、その監護内容に問題をうかがわせる事情はない。A子らを保育園や小学校等に通わせる手続を済ませ、自らの勤務内容等も調整して、適切な監護態勢を具体的に整えており、監護意欲が高い。B別居後も面会交流を継続し、子らとの関係は良好である。長女は小学校入学及び申立人との同居に積極的な意向を示している。
その上で、両者の監護意欲、監護態勢その他の事情を比較すれば、「相手方の監護状況は適切ではなく、申立人の監護意欲及び監護態勢の方が優っているというべきであり、申立人を未成年者らの監護者として指定することが未成年者らの利益に最も適うものと認められる。」
その上で、相手方が未成年者らの引渡しを拒否するような態度を示していることを理由として、相手方に対し、子らを申立人に引渡すよう命じた。
[ひとこと]
監護者指定及び子の引渡しは、諸事情を総合的に考量して「子の利益」を基準に判断される。諸事情の中で「主たる監護者」(従前、誰が監護していたか)の要素は重視されるが、その他に重視すべき事情が存在する場合、主たる監護者であった者以外の者が監護者と指定されている。本審判でも、別居時までの主たる監護者は相手方であると最初に認定しつつ、別居後の監護意欲の著しい低下、監護態勢の問題点等具体的な事情を重視して、判断したものであり、最近の実務の傾向に沿う一事例であるといえる。

1−2013.9.27
未成年の子を仮に引き渡すよう命じた執行力ある審判正本にもとづく間接強制の申立てを認容した事例
[最二小2013(平成25)年9月27日決定 判時2255号22頁]
[事案の概要]
妻(X)が、別居中の夫(Y)に対し子ら(2003年生及び2006年生)の監護者指定及び子らの引渡しを求める審判の申立てとともに審判前の保全処分を申立てたところ、保全処分につき、京都家裁は、子らをXに引き渡すよう命ずる審判(本件審判)をした。
しかし、Yは子らの引渡しを拒絶したほか、京都地裁執行官による子らの引渡しの直接強制についても、子らを他所へ移動させて執行不能とさせた。
その後Xは面会交流を希望したが、子らが拒否するなどしたため、実現しなかった。
Xは、執行力ある本件審判正本にもとづき、子らの仮の引渡し及び引渡しを履行しないときはそれぞれの子につき一日当たり3万円の支払いを命ずる間接強制の申立てをした。
[決定の概要]
原審大阪高裁2013年3月28日決定、原々審京都家裁2012年11月21日審判は、Yに対し、子らの仮の引渡し及び引渡しを履行しないときはそれぞれの子につき一日当たり5,000円の支払いをすべきものとした。その理由の概要は、以下の通りであった。子らの引渡しを拒絶する態度を示しているが、子らの年齢や経過すると、父であるYの影響を受けている可能性が高く、Yの働きかけで改善できる可能性があるにもかかわらず、Yはその努力をしているとは認められない。むしろ、本件審判等がされた直後、子らを自宅から他所に移動させたり、面会交流の実施にも協力的でなかったことなどから、Yには、Xが子らを引き取ることを妨害するおそれがあると認められる。
Yは、原審の判断には、民事執行法172条1項、家事事件手続法65条の法令解釈の誤り及び判例違反があると主張して、抗告許可の申立てをした。
本決定は、原審の判断は正当として是認できるとして、抗告を棄却した。

1−2013.1.10
子らを残して相手方と別居に踏み切った申立人からの子の引渡しと監護者指定の申立てが認められた事例
[神戸家審2013(平成25)年1月10日 未公表]
[事案の概要]
父母は2007年に婚姻し、その後長男と長女をもうけた。母は父から料理等について文句を言われることが多く、2011年、喧嘩口論の際に過呼吸発作を起こし救急搬送されることもあった。同年、抑うつ状態と診断を受けた。
2012年6月下旬、父が母を注意したことを機に喧嘩口論となり、母は過呼吸発作を起こした。母は父との離婚を決意し、同月末日別居に踏み切った。この際に、父が子らを連れて出ることを承諾しなかったので、母は気が動転して過呼吸発作を起こし、ひとまず単身で自宅を出た。同年7月初旬、母は幼稚園に赴き子らの引渡しを求めたが断られ、やってきた相手方と喧嘩口論になり、過呼吸発作を起こして病院に運ばれた。
その後、代理人弁護士を通じて子らの引渡しを求めたが、相手方が応じないので、同月、神戸家裁に、子の監護者の指定と子の引渡しを求めて本案審判を申し立てるとともに、審判前の保全処分を申し立て、子の仮引渡しも求めた。
[審判の概要]
1申立人は、未成年者らの出生から別居までの3、4年にわたり、未成年者らの主たる監護者であったといえる。
 なお、この間の申立人の監護養育につきしつけの範囲を超える厳しいものであったとの相手方の主張を、裏付ける資料はない上、裁判所における約2か月ぶりの面会交流の際の未成年者らの様子等からして特に申立人の監護養育が不適切ではなかったとして、退けた。
2申立人は、現在子らを引き取るため賃貸住宅に居住し幼稚園の下見等をして生活環境を整え、仕事にも就き収入も得て、両親の監護補助も得られる。もっとも、この点及び監護養育に対する意欲能力、愛情等について、申立人と相手方に優劣はない。
3子らは、別居後しばらくの間、精神的に不安定な様子を示していた。相手方や相手方の母に親和しているが、申立人にもよく懐いている。
4子らの年齢(4歳と3歳)、申立人が主たる監護者であったこと、子らが申立人に懐き良好な母子関係を維持していること等を総合考慮して、子らの監護者を申立人と定めたうえ、申立人に引き渡すよう相手方に命じるものとし、申立てをいずれも認めた。
[ひとこと]
検討・判断のところではなく事実認定のところで、父母ともに他方と子らとの面会交流に応じる考えであることについて言及されている(ただし、父は母からの2012年11月の時点での申し入れに応じなかった)。
同日、本案の判断と同日に、保全処分の申立ても認めた。東京高裁2012(平成24)年10月18日決定(判時2164号55頁)のような厳格な要件が検討されていないが、本案と異なる判断をすることはありえない本件では、上記東京高裁の枠組みからしても、本案を認容する相当性があるというだけで足りるかもしれない。

1−2012.10.31
子の連れ去りに加担した等の理由で不法行為に基づき損害賠償等の支払いを求めた事案において、同請求が一部認容された事例
[東京高裁2012(平成24)年10月31日決定 LEX/DB25498511]
[事案の概要]
X夫及びA妻は、Aの不貞を理由として別居し、別居以降、Xが長男及び二男を養育していた。離婚訴訟係属中、X及びAは、Aと子らとの面会交流について合意したが、Aがその合意に反して長男を連れ去った。Xは、子の監護者の指定及び子の引渡しの審判、審判前の保全処分を申立てたところ、裁判所は監護者をXと定め、長男の引渡しを命ずる審判及び仮の監護者指定及び仮の引渡しを命ずる保全処分を出した。そこで、Xは代理人とともに長男の引渡しを求めてAの親族宅(Y1宅及びY2宅)を訪問し、長男の引渡しを求めたが、実現せず、その後、執行官による引き渡しがされた。
Xは、Aの親族である被告Y1(Aの母)、Y2(Aの妹)、Y3(Bの兄)に対し、前記連れ去りに加担したほか、長男を取り戻そうとしたXを妨害し、Xに対し暴言を吐いた等と主張して、民法709条に基づき損害賠償を請求した。
[決定の概要]
「原告は、…長男の引き渡しを受けるべく弁護士を同道して被告Y1宅を訪問したこと、その際、同行した弁護士は、被告らに対し、本件審判等の写しを見せ、長男の引き渡しについて、裁判所において何らかの決定がされたことを説明したこと、これに対し、被告Y1は、『いやらしいねえ』、『いやらしい男だねえ』、などと複数回にわたり発言し、被告Y3もこれに同調して『いやらしいねえ。』などと発言したことが認められる。」
「以上の認定の経緯によれば、原告が上記同日、長男の引き渡しを求めて被告B宅を訪問するのは当然であって、上記発言は、原告をいわれなく誹謗・中傷するものであることは明らかである。・・被告Y1及びY3の上記発言は、原告の心情を全く顧みないものであり、社会相当性を逸脱するものとして不法行為を構成するものと言うべきである。」と判示し、被告らの侮辱的発言のみに不法行為の成立を認めた。その他、連れ去り行為への加担、引渡しの妨害に関しては、それを根拠づける証拠がないとして請求を退け、500万円の請求のうち、10万円のみ請求を認めた。

1−2012.10.18
夫婦間の子(高裁決定時4歳)の引渡しをめぐる争いについて,審判前の保全処分として子の引渡しを命じる場合の必要性の要件と判断基準を判示した事例
[東京高裁2012(平成24)年10月18日決定 判時2164号55頁]
[事案の概要]
母(相手方)は、2012年3月、子(平成20年生)を連れて父(抗告人)方を出て母の実家に帰り,父が母の実家に面会に来ていた。同年5月下旬,父が子を連れて自宅に帰り子を宿泊させたところ,子が父方にいたいと希望を述べ,母も数日の宿泊を了解した。父が父の両親の協力を得て自宅から子を保育園に通わせ監護を継続した。母が母の両親とともに自宅に入ったところ,父は母の両親に対し出て行くように述べ,母の両親は退出した。母は4年間ほとんど一人で子を育ててきたのに,子が「ママ」と言わず,笑顔のひとつすら見せなかったことに衝撃を受けた。同年6月,母は子の監護者の指定と子の引渡しを求める審判の申立てをするとともに,審判前の保全処分として仮の監護者の指定と子の引渡しを求める申立てをした。
原審判(前橋家裁太田支部平成24年8月9日審判判時2164号59頁)は,生後主たる監護者が一貫して母であったこと,別居期間中の監護者について母とすることが父母間で了解されたこと,子を父が預ったのは面会交流のためであったが,その目的が終了した後も父が子を返すことを拒み,「連れ去りに等しい状況にあること」,母によるこの監護に不都合な事情等はなかったこと等から,母を仮の監護者に指定し,父に対し,子を母に引き渡すよう命じた。父が抗告。
[決定の概要]
「審判前の保全処分としての子の引渡命令は、仮の地位を定める仮処分に準じた命令であるから、著しい損害又は急迫の危険を避けるために必要とするときに限り発することができるものである(家事審判法15条の3第7項において準用する民事保全法23条2項、家事事件手続法115条)」「審判前の保全処分により未成年者の引渡しを命じる場合は,後の処分によりこれとは異なる判断がされて複数回の未成年者の引渡しの強制執行がされるという事態を可能な限り回避するような慎重な配慮をすることが必要である。」「審判前の保全処分として未成年者の引渡しを命じる場合には,監護者が未成年者を監護するに至った原因が強制的な奪取又はそれに準じたものであるかどうか,虐待の防止,生育環境の急激な悪化の回避,その他の未成年者の福祉のために未成年者の引渡しを命じることが必要であるかどうか,及び本案の審判の確定を待つことによって未成年者の福祉に反する事態を招くおそれがあるといえるかどうかについて審理し,これらの事情と未成年者についての引渡しの強制執行がされてもやむを得ないと考えられるような必要性があることを要するものというべきである。」
そして,本件で認定した事実からは,必要性があると認めることはできないとし,また原審判が認定した子の監護に関する合意・了解があったとは認められないとして,原審判を取り消し,母の審判前の保全処分の申立てを却下した。
[ひとこと]
審判前の保全処分として子の引渡命令を発する場合の必要性を限定的に解した判断である。本案の確定まで長期化し、監護の実績が積み重ねられていくことも考えると,引渡しを求める申立人にとっては非常に厳しい基準といえよう。「たとえ自身が同居中の主たる監護者であったとしても、別居後に監護者が法的に決定されるまでは、面会交流に寛容になってはいけない」という誤ったメッセージを残してしまう決定ではないか、と疑問が残る。

1―2012.10.5
審判前の保全処分の執行により子の引渡しがなされた事案の抗告審において、審判前の保全処分及び本案の審判に対する母からの抗告がいずれも棄却された事例
[東京高裁2012(平成24)年10月5日決定 判タ1383号327頁]
[事案の概要]
母(抗告人)と父(相手方)は、共稼ぎで、育児を分担していたが、夫婦仲が悪くなり、2011年10月、母は父の実家で養育されていた子(抗告審当時4歳、性別は不明)を引き取って母の実家に連れ帰った。同年11月、父は子の監護者を父と定め、子の引渡しを求める審判の申立てと審判前の保全処分として子の引渡しを求める申し立てをした。
原審(さいたま家裁川越支部2012年5月10日審判)は、父の審判及び審判前の保全処の申立てをいずれも認める審判をした。
2012年5月、審判前の保全処分の執行により、子は母から父に引き渡された。
[決定の概要]
本件は、「まず抗告人が相手方の実家から未成年者を強引に引き取って抗告人の実家に連れ帰って養育することとなり、これに対して相手方が審判前の仮の処分の執行により、未成年者の引渡しを受けて、養育しているものであり、未成年者の年齢が4歳であって、一般的には母親のもとで養育されるのが自然な年齢である。しかし、未成年者をめぐっては、原審判も認定するとおり、父子関係及び母子関係とも良好であり、未成年者にとって、双方とも、よき父、よき母であることから、」監護者の決定には慎重を期するものである。
抗告審は、再度家庭裁判所調査官2名による調査を実施した上で、双方の経済状態、抗告人の監護環境が突然形成されたものであること、双方の従来の監護状況等から、相手方を監護者に指定するのが相当として、本案に対する抗告を棄却するとともに、原審判を全面的に引用する方式により保全処分に対する抗告を棄却した。
[ひとこと]
本件は、東京高裁2012年10月18日決定が示した厳格な保全の必要性までは認められないが、調査官による足調査の実施など本案を含めた慎重な審理を行い、その相当性を検討した上で抗告を棄却したもので、数次の強制執行をできる限り避けるという趣旨に沿っているものといえる(判タ1383号328頁の解説及び本山敦監修・執筆、梅澤彩執筆「家族法判例総評2013年[第1期]」戸籍時報699号46頁の解説参照)。

1―2012.6.6
審判前の保全処分の執行に基づく子の引渡しの強制執行が不能に終わった事案について、保全処分同様に子の引渡しを命じた本案の審判を相当と認め、抗告を棄却した例
[東京高裁2012(平成24)年6月6日決定 判タ1383号333頁]
[事案の概要]
母(相手方)が父(抗告人)の同意を得ずに、長男と二男を母の両親の家に連れて行き別居を開始したところ、父は、面会交流の機会に子らを父のもとに連れ帰ることを計画し、両親や親戚に協力を依頼し、母やその父の抵抗を排除して子らを車に乗せて連れ去った。
原審判(さいたま家裁川越支部2012年4月26日審判)は、母を子らの監護者と定め、父は母に対し、子らを引き渡さなければならないとの判断をした。
2011年10月に行われた審判前の保全処分としての未成年者らの引渡し命令の強制執行は、長男(執行時9歳)、二男(同5歳)について、執行を不能として終了した。
[決定の概要]
強制執行の結果によれば、「未成年者らの引渡しの強制執行が不能となったのは、未成年者らの意向を配慮した執行官の判断に基づくものであり、抗告人の妨害行為があったものではないこと及び強制執行は抗告人による未成年者らの連れ去りの約2か月後に行われていることを考えると、仮に原審判確定後、未成年者らの引渡しの強制執行が再度行われたとしても、強制執行が再度執行不能になる可能性が相当程度あるといえる。そして、強制執行が不能となった原因が抗告人の妨害行為によるものでない場合には、抗告人が債務名義により命じられた義務の履行を怠っていると認めることは困難であるから、債務者が不作為義務に違反するおそれを欠くものとして間接強制は認められないこととなる。にもかかわらず、当裁判所も、原審判と同様に、抗告人に対し、未成年者らを相手方に引き渡すよう命ずるものであり、抗告人において、未成年者らの福祉について配慮した上、裁判所の判断に従うことを求めるものである。」
抗告を棄却。
[ひとこと]
判例タイムズ1383号328頁には、「この判断も、後に離婚に伴う親権者の指定をめぐり、さらに裁判が継続するという、子の引渡しをめぐる争いの特殊性を考慮にいれたものであるといえる」と解説されている。
村重慶一・戸籍判例ノート256・戸籍時報699号102頁は、「子の直接強制が子の意思により不能と判断された場合に、間接強制により引渡しを命じることができるかどうかが問題となる。子の意思により執行が不能である場合には、債務者に引渡義務に関する不履行があるとはいえないとして、間接強制を認めないのが実務の運用である(東京高裁平成23年3月23日決定・家月63巻12号92頁)。そうすると本件事案のように、監護者を指定し、監護者に引き渡すよう命じたとしても、直接強制の方法によっても、間接強制の方法によっても、これを強制的に実現する手段がない場合が生ずる。この場合においても、・・母に引き渡せとする子の引渡命令は相当であるとするのが本決定である。…本決定は家庭裁判所の命令が強制執行困難なものであっても肯認されることを、子の引渡命令の場面で判示した抗告審の裁判例である。これは家族関係の調整を長いスパンで考えようとする姿勢の表れであり、本決定の履行状況は後の離婚の場面での親権者の指定の考慮要素の1つとなるであろう」とする。

1−2012.2.28
主たる監護者であった妻が、夫の両親の反対により子を置いて家を出たが、その後、監護者指定を申立てたところ、現状の監護に問題はないとして認められなかった例
[福岡高裁2012(平24).2.28決定 判時2206号19頁 許可抗告の実情より]
[事案の概要]
夫婦と長男A(平成16生まれ)、二男B(平成18生まれ)は、夫(Y)の実家で夫の両親と共に暮らしていた。夫の不貞の疑惑が原因で、妻(X)は子らを連れて出ようとしたが、夫の両親に否定され、単身で出て実家へ戻った。妻から子らの監護者指定及び引渡しを申立てた。別居までの7年間、子らの監護は主として主婦である妻がしていた。子らは父母いずれにも親和しており有意な差はない。Aは父方での居住を望み、Bは母方での居住を望んでいた。
原審は、妻の監護の実績を評価し、妻の申立てを認容した(福岡家久留米支審平成23.12.8)。
[決定の概要]
双方の監護養育環境や監護姿勢について有意な差異は認められず、Yでの現状の監護状況に問題があるとも認められない。いずれにおいて生活するかについて、AとBの意向が異なっていると認められるが、原審が、Aが現住所での生活継続を望む理由やこれに反する判断をした場合の影響につき十分検討したかについては、疑問が残る。子らの意向が明らかに異なる場合でも、兄弟を分離しないという原則を維持することが相当であるかについても、同様である。原々審の判断は、監護養育環境等につき特段の差異がない場合でも親権者の指定を義務付けられる離婚時においては、裁判所の合理的裁量に基づく判断とされる可能性もあるが、現状の監護状況に問題が見当たらず、監護者指定による影響等についてなお慎重な検討を要する本件において、現時点で当事者の一方を監護者として指定して子の引渡しを行うことは、拙速に過ぎる。Xと子らとが長期間引き離されることの弊害については、継続的な面会交流の実施により回避することが可能であるとして、原審を取り消した。
[ひとこと]
妻から特別抗告したが、棄却された(最決2012(平成24)年6月28日前掲判時)。

1−2012.1.12
親権者に対する子の引渡しを命じた審判に基づく間接強制の申立てを,既に履行によって引渡し債務が消滅したとして却下した事例
[東京家裁2012(平成24)年1月12日審判 (未公表)]
[事案の概要]
父(債権者)と母(債務者)は2011年裁判離婚した。その際,長男(1999年生)と二男(2002年生)の親権者は父と指定された。父は,同年中に,母に対し,長男と二男の引渡しを求めて審判を申し立てたところ,同年中に引渡しを命ずる審判が確定した。父は,審判の確定後間接強制を申立て,間接強制の審尋期日に,母は出頭しなかったが,母の代理人弁護士が長男と二男を連れて出頭し,その場で父に引き渡した。長男と二男は,父のもとから小学校に登校し,父宅に帰宅したが,その翌日,父宅に帰宅せず母宅に帰宅した。その後,父は小学校で長男と二男と面会したが,長男二男ともに父の自宅に帰宅することを拒絶した。その後長男二男は母宅で生活している。
[決定の概要]
以下のように述べて申立てを却下した。 「非親権者に親権者に対する子の引渡しを命じる旨の債務名義が存する場合において,その履行がなされたか否かの判断は,非親権者が未成年者を親権者の支配領域に移転したことをもって足りると解される。」 現に父に引き渡されて,父の自宅で宿泊したことから,長男二男が親権者である父の支配領域に移転したことは明らかであり,引渡債務は既に債務履行によって消滅している。 父は,母が当初から長男二男を手元に留め置く意思だったのであり引渡しとは言い難いと主張したが,当時12歳,9歳という年齢を考慮すると,「いったん債権者に引き渡された後,自らの意思で戻ったと認めるのが相当である。」
[ひとこと]
父は抗告したが,東京高裁2012(平成24)年3月27日決定(未公表)は抗告を棄却した。

1−2011.3.23
別居中の夫婦間の子の引渡を命じた審判に基づく間接強制の申立てが却下された事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2011 (平成23)年3月23日決定
[出典]家月63巻12号92頁
[事案の概要]
父母は婚姻中でありその間には長男(平成13年生)及び長女である未成年者(平成15年生)がいるが,平成21年以降,母が長男と未成年者を連れて実家へ帰り,別居状態にある。同年中に未成年者は父に引き取られ,以後父のもとで生活している。母は約20回未成年者と会うなどしており,父は母と未成年者との交流を妨害していなかった。
母が父に対し申立てた未成年者の引き渡しを命じる審判の確定後(甲府家裁,平成22年確定),未成年者の引渡執行(直接強制)が実施されたが,母が小学校校舎内で未成年者を迎えたところ,未成年者は強く拒否し,母が執行官らとの待ち合わせ場所に連れて行こうとした際に,未成年者は左膝打撲傷を負い,執行官らの前でも激しく泣くなどしたため,母は直接強制の申立てを取り下げた。
その後、母は父に対し、間接強制執行の申立をし、原審(甲府家)は,次の通り間接強制を命じた(甲府家裁平成22年12月24日決定)。
1父は,母に対し,未成年者を引き渡せ。
2父が、この決定の告知を受けた日から7日以内に前項の債務を履行しないときは、父は、母に対し、上記履行期限の翌日からその履行に至るまで、1日につき金3万円を支払え。
父より即時抗告がなされた。
[決定の概要]
監護権に基づく子の引渡請求権である間接強制申立ての執行債権は,「監護権を行使することについて,これを妨害することの排除を抗告人に対して求めるものであり,これにより抗告人の妨害が排除されるとしても,未成年者に対し相手方の監護下に入ることを強制し得るものではないのであるから(最高裁昭和35年3月15日第三小法廷判決参照),抗告人に対し相手方の子の引取りを妨害しないことを求める不作為請求権であると解すべきである。」
「不作為を目的とする債務につき間接強制決定(民事執行法172条1項)をするためには,債権者において,債務者が現にその不作為義務に違反していることを立証するまでの必要はないものの,債務者がその不作為義務に違反するおそれがあることを立証することを要するというべきである(最高裁平成17年12月9日第二小法廷決定)。」
直接強制の際に未成年者が母宅へ行くことを拒否し説得に応じる気配もなかったこと,父は裁判所の決定に従って未成年者を母に引き渡さなければならないことは理解しており,未成年者が母のところへ行きたいのであればその気持ちを尊重する旨,一貫して述べており,母が子を説得する環境作りに協力する旨も述べているなどの事情のもとでは,父が母による子の引き取りを妨害しないという不作為義務に違反するおそれについての母の立証がないといわざるを得ない。
以上の理由により,原決定を取り消し,母の申立てを却下するのが相当であるとした。
[ひとこと]
間接強制申立ての執行債権である子の引渡請求権を,子の引き取りを妨害しないことを求める不作為請求権であると確認した上で,子の引渡請求権につき間接強制決定をするためには,債務者が子の引渡を妨害することまでの立証は必要がないが,妨害するおそれがあることの立証を要するとした。

1−2010.8.4
子の父から母に対する人身保護請求事件についての特別抗告を棄却したが,理由中で人身保護法11条1項に基づく決定によるのではなく,審問手続を経た上で判決により判断を示すべきであると判断した例
[裁判所]最高裁第二小法廷
[年月日]2010(平成22)年8月4日決定
[出典]家月63巻1号97頁
[原審]大阪高裁2010年2月18日
[事案の概要]
アメリカ在住でありニカラグア共和国国籍のXが、その元妻で日本に居住するY1及びその両親Y2Y3に対し、XY1間の7歳の子Aを、不当に拘束していると主張して、人身保護法により、子の釈放と引渡しを求めた。XとY1は、アメリカで婚姻し、Aをもうけた。XからY1に対し、アメリカで離婚訴訟を提訴したが、提訴直後にY1はAを日本に連れて帰り、以来、実家でY2Y3と同居している。アメリカのウイスコンシン州裁判所は、平成20年6月、XをAの単独監護者として離婚判決を言渡した。
[主文]
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
[判決の理由]
民事事件について特別抗告をすることが許されるのは,民訴法336条1項所定の場合に限られるところ,本件抗告理由は,違憲をいうが,その実質は原決定の単なる法令違反を主張するものであって,同項に規定する事由に該当しない。
なお,人身保護法11条1項にいう「請求の理由のないことが明白なとき」とは,人身保護規則21条1項1号から5号までに規定する場合のほか,これらに準ずる程度に請求に理由のないことが明白な場合(同項6号)に限られる。本件は,子の父親である抗告人が子を拘束している母親及びその両親である相手方らに対して人身保護法に基づき子の引渡し等を求める事案であるところ,抗告人は,アメリカ合衆国ウィスコンシン州ミルウォーキー郡巡回裁判所の確定判決により子の単独監護権者に指定され,原決定によれば,上記確定判決は民訴法118条各号所定の外国判決の承認の要件を満たしているというのであって,その他の当事者の主張内容等に照らしても,被拘束者を請求者の監護の下に置くことが拘束者の監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当なものであることが一見して明らかであるとすることはできない(最高裁平成6年(オ)第1437号同年11月8日第三小法廷判決・民集48巻7号1337頁参照)。そうであれば,原審は,本件請求につき,決定によりこれを棄却するのではなく,審問手続を経た上で,判決により,その判断を示すべきであったといわざるを得ない。しかし,原決定にこのような問題がある場合であっても,上級審においてこれを是正するのではなく,改めて請求がされたときにこれを審理する裁判所において審問手続を経た判断が行われることが,法の予定するところである。よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
[ひとこと]
国際結婚をした夫婦間の子の監護をめぐる事案である(既に離婚しているか否かは不明)。
わざわざ,なお書きを付して,地裁からあらためてやり直せば請求者の勝訴の余地があることを指摘しており,最高裁は,実質,破棄差戻決定と同様な効果をもたらそうとしている。日本は批准していないが,ハーグ条約も意識した判例と思われる。

1−2010.8.4
人身保護法による釈放の請求を却下又は棄却した高等裁判所の決定は,許可抗告の対象とはならないとされた事例
[裁判所]最高裁第二小法廷
[年月日]2010(平成22)年8月4日決定
[出典]家月63巻1号99頁
[原審]大阪高裁2010年2月18日
[主文]
本件抗告を却下する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
[判決の理由]
人身保護法による釈放の請求を却下又は棄却した地方裁判所の決定については,これに対する不服申立てについて人身保護法及び人身保護規則に特段の規定が置かれておらず,人身保護法による釈放の請求を却下又は棄却した高等裁判所の決定は,許可抗告の対象とはならないというべきである(民訴法337条1項ただし書)。
したがって,本件請求を棄却した原決定に対する本件抗告は,不適法であって,却下を免れない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
[ひとこと]
同日の前記最決と同じ事件についての判断である。

1−2010.7.20
別居中の夫婦間の子の引渡を命じた審判に基づく間接強制の申立てが認容された事例
[裁判所]和歌山家裁
[年月日]2010 (平成22)年7月20日決定
[出典]家月63巻3号120頁
[事実の概要]
XY間の夫婦関係が悪化し(XYのいずれが夫か妻かは不明)、Xは未成年者である子ら(いずれも小学生)を連れて家を出たが、翌日YがXの実家に赴いて未成年者らを連れ帰り、以後未成年者らはYのもとで生活している。
家庭裁判所は、未成年者らの監護者をXと指定するとともに、未成年者らの引渡しをYに命じる審判(本件審判という)をした。その間、審判前の保全処分審判を債務名義として、未成年者らの引渡執行(直接強制)が実施されたが、未成年者らが強い拒絶の意思を示したため、執行不能であった。
Xは、本件審判を債務名義として、間接強制を申し立てた。
[判決の概要]
 以下のとおり認容した。
<主文>
1 Yは、Xに対し、未成年者らを引き渡せ。
2 Yが、この決定の告知を受けた日から31日以内に前項の債務を履行しないときは、 Yは、Xに対し、上記履行期限の翌日からその履行に至るまで、1日につき未成年者1 人当たり金1万円を支払え。
<理由>
 本件審判がYに命じている義務は、単にYにおいて、Xの許に赴くか否かを未成年者らの意思に任せ、未成年者らがXの許に赴くことを積極的に妨害するような行為さえしなければ足りるとするものではなく、現在Yの許にいる未成年者らがXの許に赴くことを拒んでいる場合には、Y自ら、少なくとも、未成年者らがXの許に赴くための障害を除くべく、未成年者らの上記意思が形成される原因となった環境を改善し、また、側面から未成年者らに働きかけるなどして、未成年者らの引渡しが円滑に実現するように努めるべきことを含む。本件審判に基づきYが負っている未成年者らの引渡義務は速やかに実現されるべきものであり、これを強制することがYに不可能を強いることとも言い難いのであるから、間接強制の必要性はある。
[ひとこと]
子の引渡しを命じた審判を債務名義として、直接強制のみならず間接強制をすることができるとした決定である。


1−2010.5.25
父からの監護者指定の申立てに対し、子の生活基盤及び心情の安定を重視して、母を監護者と定めた事例
[裁判所]東京家裁
[年月日]2010(平成22)年5月25日審判
[出典]家月62巻12号87頁
[事実の概要]
父と母は別居中で、8歳の男児は現在母のもとで監護養育されている。
父は、母が別居前から子を虐待している疑いが濃厚である、母が○△に罹患していることを考えると、子の安定した生活状況が将来的に続くかどうか分からないと主張して、子の監護者を父に指定すること、及び父への子の引渡しを求めた。
[審判の概要]
子は父について、「会いたくない。」、「叩くから。暴れそうで。気に食わない時、大体15回くらい叩く。いっぱいやられた。あいつ来たらぶち殺してやるんだ。」等述べた。一般的に、一方の親と同居し、その監護下にある未成年者は、監護親から受ける影響や監護親に対する忠誠心等から、非監護親について否定的な評価を表明することがある。そこで検討するに、子は父との面接交渉について消極的な意向を示していたが、母が子に積極的に働きかけた結果、当庁の児童室において父と面会し、自然に交流することができたこと、子は、父との面会終了後、当庁の児童室にある大きなぬいぐるみを両腕で思い切り殴り続けるという行動を取ったことが認められ・・・子は、その心の根底には父に対する愛情や信頼を有しているものの、現在は、両親の不和という心理的に辛い状況の中にあって、過去に父から受けた体罰等の影響から、父に対して非常に複雑な感情を持っていることがうかがわれる。
母は、自己の病気について十分な認識を持ち、必要な医療措置を受けていること、母の両親は母宅の近隣に居住しており、いつでもその援助を受けることが可能であること等からするならば、○△に罹患していることをもって直ちに子の監護者としての適格性を否定することにはならない。また、母が○△に罹患していることを考えると、子に対する叱り方等において不適切な対応があった可能性を否定しきれないが、それが虐待に当たる程度であり、今後母が子を虐待する可能性が高いということまでは困難である。
父母双方とも、子の監護者としての適格性を有するということができるが、子の生活基盤及び心情の安定を図るという観点から、現段階では、子の監護者としては母を指定するのが相当と解される。子の引き渡しの申立てを認めることはできない。
[ひとこと]
子の生活基盤及び心情の安定を重視して監護者を指定した審判である。 非監護者に対する未成年者の否定的な評価について、面会交流の状況等を踏まえて慎重に検討していることも注目される。


1−2010.1.12
外国裁判所で米国人父と日本人母の離婚と共同親権を認める判決がされた後に,日本の家庭裁判所で未成年者の親権者が母と指定された事例
[裁判所]横浜家裁小田原支部
[年月日]2010(平成22)年1月12日審判
[出典]家月63巻1号140頁
[事実の概要]
X(日本人母)とY(米国人夫)との間の長男(平成14年生,小学1年)は,アメリカで出生したが,生後2か月で日本に転居して以来,日本で生活していた。Yは海外へ長期出張が多く,Xが主として子の監護養育をしていた。
平成17年,YはXの了承を得ずに突然子を連れて渡米しネブラスカ州に渡り,アメリカにおいて法定別居と子の監護に関する仮処分の申立てを行い,監護者として認められた。Xは,同年,○郡州地方裁判所にて,面接交渉の許可を求める申立てを行い,許可された。同裁判所は,XYが共同親権及び監護権を持つとし,子を州外に移動させることを禁止した。そのため,XとYは○州において別居生活を送りながら交替で子を監護した。平成19年,同裁判所は,XYの離婚と子の共同親権を決定した。Xは,親権に関する国際裁判管轄がネブラスカ州にないとして控訴し,平成20年○月,ネブラスカ州最高裁判所は,○郡州地方裁判所に子の監護の問題について裁判管轄を有しないとして,共同親権について定めた部分を取り消した(この結果,親権が定められていない状態になった)。
その後,同年同月,Xが子を連れて日本に帰国し,親権者指定を求める審判を申し立てた。Yは,審問期日に出頭せず,書面による特段の主張もしていない。
[判決の概要]
親権者指定に関する国際裁判管轄は,原則として子の常居所地国(帰国後約1年間経ている)に認められるところ,子は日本に住民登録されて住所地において生活しているから,日本の国際裁判管轄権が認められる。
Xは子を監護する意欲が高く,子は現在の生活環境に適応している。他方,Yは,子が帰国してから,子とほとんど関わりを持っていない。
したがって,子の親権者としてXを指定するのが相当である。
[ひとこと]
アメリカの○州最高裁判所で子の監護に関し国際裁判管轄が否定された後,Xは子と帰国したが,その前に,米国に約3年滞在し裁判を続けたことは,Xにとって,相当負担だったものと察せられる。

1−2009.4.28
7歳9か月の児童を執行対象とする子の引渡しの直接強制を是認した事例
[裁判所]東京地裁立川支部
[年月日]2009(平成21)年4月28日決定
[出典]家月61巻11号80頁
[事実の概要]
申立人(妻)は婚姻し、子(男)を出産した。その後、妻の不貞等が原因で夫と不仲になり、夫が離婚調停を申し立てたが、子の親権者について合意が得られず、不調に終わった。妻は夫に無断で子を連れて別居したので、夫は、子の監護者指定、子の引き渡しの申し立てをした。裁判所は、子の監護者を夫と定め、妻に対し子の引き渡しを命じる審判をした。夫は、子の引渡しの強制執行の申立てをした(執行当時、子は7歳9か月)。執行官は、妻の住所地付近路上で子を確認し、同所で執行に着手した。同執行については、夫及びその代理人弁護士が立ち会い、執行官は同所で子を夫に引き渡した。執行現場で、子が妻に電話を掛け、執行官から妻に対し、審判書に基づき子を夫に引き渡す旨の告知をした。妻は、執行官の行った子の引き渡し執行は違法であるとして、民事執行法11条に基づき、執行処分の取り消しを求めて、執行官の処分に対する執行異議の申立てをした。
[判決の概要]
1 親権ないし監護権に基づく子の引渡請求の法的性質は、妨害排除請求権としての引渡請求権の行使と解するべきであり、その実現のためには、民事執行法169条の類推適用により直接強制を行うことが許されるが、執行対象が人格の主体である児童である以上、執行官は直接強制にあたり、児童の人格や情操面に最大限配慮した執行方法を採るべきである。
2 一般的に、小学校低学年の年齢程度の児童は、客観的に善悪、適否の判断能力を備えているとはいいがたく、意思能力を有していないと解するべきであるところ、本件児童は、執行当時7歳9か月であって、一般的には、意思能力を有していたものと解することはできず、その他意思能力を有していたと認め得る特段の事情もうかがわれず、執行官が行った本件処分は、方法及び態様を含め、違法又は不当なものとはいえない。
[ひとこと]
申立人は、直接強制の可否、7歳9か月の子の意思能力の有無のほかに、本件執行が申立人に対し履行の勧告もせずに、子が一人で帰宅するところを路上で連れ去っているから、子の人権を無視する違法なものであることなどを主張したが、いずれも採用されなかった。本決定は、一般的な基準として、小学校低学年の年齢程度の児童あれば意思能力がなく直接強制が可能と判断している。

1−2008.12.18
共同親権者の一方の監護下にある未成年者(決定時3歳)を他方が違法に連れ去った場合における子の引渡しを求める審判前の保全処分の申立てを認めた事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2008(平成20)年12月18日決定
[出典]家月61巻7号59頁
[事実の概要]
1−2008.11.7(甲府家裁2008(平成20)年11月7日審判)と同じ事案。
各申立てを却下された申立人が,抗告した。
[判決の概要]
相手方による違法性の顕著な未成年者の連れ去りがあった場合,人身保護法による請求の場合における法的枠組みをも考慮して,申立ての当否を判断することが,最高裁平成6年4月26日第三小法廷判決(民集48巻3号992頁)の趣旨に沿う。本件は,最高裁平成11年4月26日判決(判タ1004号107頁)の事案と比しても違法性が顕著である。
「共同親権者である夫婦が別居中,その一方の下で事実上監護されていた未成年者を他方が一方的に連れ去った場合において,従前未成年者を監護していた親権者が速やかに未成年者の仮の引渡しを求める審判前の保全処分を申し立てたときは,従前監護していた親権者による監護の下に戻すと未成年者の健康が著しく損なわれたり,親権行使の態様として容認することができない状態となることが見込まれる特段の事情がない限り,その申立てを認め,しかる後に監護者の指定等の本案の審判において,いずれの親が未成年者を監護することがその福祉にかなうかを判断することとするのが相当である。」
[ひとこと]
違法な連れ去り行為により作出された事態を維持する判断は,違法行為の結果の既成事実化に手助けすることになり,自力救済を容認し,未成年者の福祉にも反することになるとして,原審の判断を厳しく批判している。「違法な奪取」に厳しい最近の判例の1つであり,「母」の奪取にも厳しいこと,保全処分の判断に人身保護法による判例の基準を取り込んだこと等に特徴がある。子どもは決定当時3歳であり,「母親尊重」の後退の一例である。
法的判断としてはやむを得ないものの,母子の関係が良好であること,父の監護下にあったといっても1年に満たず(家裁月報からは父の正確な監護期間は不明)「父の監護」が確立していたか疑問が残ること,保全の結果は本案にも大きく影響を及ぼすことなどを踏まえると,高裁の判断は,長男にとって苛酷であり,事案の解決に果たして適切だったのか,悩ましいものがある。

1−2008.11.27
離婚訴訟が係属中の夫婦において、子の監護者の指定及び引渡しの審判の申立てがなされた事案について、早急に子の監護者を指定する必要性が認められないとして却下された事例
[裁判所]福岡高裁
[年月日]2008(平成20)年11月27日決定
[出典]判時2062号71頁
[事実の概要]
相手方(妻)は抗告人(夫)と別居後、実家で長男及び長女を監護養育していたが、抗告人は相手方の実家に赴き長男を連れ去った。そこで、相手方は抗告人に対し、長男の監護者を相手方と指定すること及び長男の引渡を求める審判を起こしたところ、1審は相手方の申立てをいずれも認めた。抗告人は、原審判の取り消しを求めて即時抗告した。本決定は、原審判を取り消し、相手方の申立てをいずれも却下した。
なお、本決定当時、離婚訴訟において親権者指定等が争われていた。
[判決の概要]
婚姻中の夫婦についても、婚姻関係が既に破綻しており、親権の共同行使が事実上困難であるという事情が存する場合には、民法766条1項の準用ないし類推適用により、夫婦の一方を子の監護者に指定し得る。しかしながら、子の親権者ないし監護者の指定の裁判は、本来、夫婦が協議離婚をする場合においてこの点の協議が調わないときや、裁判上の離婚の場合になされることが予定されている。したがって、離婚訴訟が係属中の夫婦につき、監護者の指定の審判がなされた場合には、同審判とその後になされる離婚訴訟の判決とで、子の監護権に関し、矛盾した判決がなされることもあり得ることになる。そうであれば、離婚訴訟が係属中の夫婦において、それに先立って子の監護者の指定の審判を求めることができるのは、子の福祉の観点からして早急に子の監護者を指定しなければならず、離婚訴訟の帰趨を待っていることができないというような場合に限られる。
本件では、長男は、連れ去り以降既に1年半以上もの間、抗告人の下で監護養育され、心身共に順調に成長している。相手方と長男の面接交渉も徐々に実のあるものになってきており、母子間の交流が完全に遮断された状況にあるとはいえない。今後の連れ去り等のおそれも認めがたい。
したがって、「子の福祉の観点から、係属中の離婚訴訟の帰趨を待つことなく、子らの監護者を夫婦の一方に指定すべき必要性が存するとまではいえない」から、本件申立てはいずれも理由がない。
[ひとこと]
離婚訴訟係属中の夫婦の一方による子の連れ去りのケースはまま見られる。その際における、子の監護者指定及び引渡しの適否について基準を示したものである。
本件では父による「違法な連れ去り」が認定されている。違法な「連れ去り」の場合には、一刻も早く元に戻すことを裁判所が援助すべきとして、その後の「監護」が定着したとしても、最近の判例は違法な連れ去りを認めずに厳しい判断をする方向に動いてきていたが、本件は、その流れにはのらなかった。最初に妻が子らを連れて出てからわずか2ヶ月半後に、父が子のうち一方を連れ去っており、妻による子の監護が定着していたともいえなかった点も影響しているのではないかと思われる。

1−2008.11.7
一方の共同親権者の監護下にある未成年者を他方が違法に連れ去った場合における子の引渡しを求める審判前の保全処分の申立てを却下した事例
[裁判所]甲府家裁
[年月日]2008(平成20)年11月7日決定
[出典]家月61巻7号65頁
[事実の概要]
父と母は平成17年に長男をもうけた後,いったん母を親権者と定めて離婚したが同じ当事者間で再婚した。再婚後父の実家で,父と母,長男と父の両親で同居したが,母は心療内科を受診するようになり,医師に環境を変えるように勧められ,平成20年の長男の3歳の誕生日祝いの後,一人で母の実家へ帰った。母と父の間で離婚調停が行われたが不成立で終了した。母は長男との面接交渉を望んだが,父が調停で面接条件等定めなければ応じないと回答した。母は,保育所から長男を連れ出し,相手方に居所を伏せて長男を監護養育している。父が,監護者の指定と子の引き渡しの仮処分を申し立てた。
[判決の概要]
子の引き渡しは,未成年者の保護環境を激変させ,子の福祉に重大な影響を与えるので監護者が頻繁に変更される事態は極力避けるべきであり,保全の必要性と本案認容の蓋然性については慎重に判断すべきである。
別居当時は,母は静養して戻ってくることが予定されていたと思われ,離婚までの別居期間中,事実上父が監護することを了解していたとはいえないこと等から,母の不法性が極めて顕著である場合に当たるとはいえない。
従前監護の中心が相手方(母)であること,相手方と未成年者との関係が良好であること,相手方の不法性が極めて顕著である場合とはいえないことから,保全の必要性と本案認容の蓋然性は認められない。
[ひとこと]
子の連れ去りの違法性よりも,家庭訪問において母と子の関係が良好であることが観察されたことや,家裁での交流面接について,長男が母と離れて父と面接することを拒んだなどの事実を重んじた判断と思われる。抗告審(東京高裁2008(平成20)年12月18日決定)で厳しく批判されている。

1−2008.7.4
子の引渡事件の執行力のある債務名義の正本に基づき、引渡しがなされるまで1日3万円の間接強制金の支払を命じた事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2008(平成20)年7月4日決定
[出典]家月61巻7号52頁
[事実の概要]
夫婦間に、長女(以下、「未成年者」という。上記決定時約10歳)及び二女(同6歳)がいる。債権者は平成17年に離婚調停を申立て、子らを連れて別居した。同年、債務者は下校途中に未成年者を抱きかかえて実家に連れて帰り、以来、未成年者は債務者と暮らした。平成19年、債務者に対する未成年者の仮の引渡し請求の審判前の保全処分が最高裁で確定、同年、子らの監護者を債権者と定め、債務者に対して引渡しを命じる高裁決定が確定した。平成20年、債権者は間接強制執行の申立をし、家裁の審尋期日に審判廷にて未成年者の引渡しを行うこととし、債務者は未成年者を裁判所近辺まで連れてきたものの、結局、期日に出頭せず引渡しはなされなかった。未成年者は債務者の下で一応安定した生活を送っている。債務者の年収は600万〜650万円である。原審の横浜家裁決定平成20.3.18は、引渡しの履行済みまで1日10万円の間接強制金の支払いを債務者に命じた。
[判決の概要]
主文(参考になるのでそのまま紹介)
「債務者(抗告人)が原決定送達の日から7日以内に前項記載の債務を履行しないときは、債務者(抗告人)は債権者(相手方)に対し、上記期間経過の翌日から履行済みまで1日あたり金3万円の割合による金員を支払え。」
裁判所の判断の抜粋
「執行裁判所は、民事執行法172条1項の「債務の履行を確保するために相当と認める一定の額」を定めるについては広い裁量を有しており、殊に、債務の内容が、債務者の意思のみによって容易に履行され得るものであれば、その額が相当額となっても、やむを得ないということができる。しかしながら、記録によれば、本件においては、未成年者が相手方の下に行くことについて拒否的な態度をとっている面があることが認められ、未成年者の態度が抗告人に影響されているところがあるとしても、既に10歳という未成年者の年齢から考えると、本件債務名義の命じる義務は、その性質が上記2のようなものであることをしんしゃくしても、抗告人がその意思だけで履行するのは困難な面があるものであることは否定できない。そのような抗告人の債務の内容等に照らすと、原審の定めた上記金額は著しく過大であると言わざるを得ず、抗告人の主張はその点で理由がある。そして、本件記録に現れた一切の事情に照らすと同金額は1日3万円と定めるのが相当である。」
[ひとこと]
判例集からは深い事情はわからず、いずれが父か母か、子の真意はどこにあるかもわからない。なお、山口亮子京都産業大学教授のレビュー(判タ1312号61頁以下)によると、債務者が父、債権者が母とのことである。父・母・子、いずれの立場にたっても胸の痛い事案であり、もっと初期のリーガルサービス、あるいはその他第三者の解決機関の存在の必要性を感じる。引渡しについての間接強制決定の判例が公表されるのは珍しい。

1−2008.4.3
親権者母から認知した父に対する子の引渡しの保全処分を認容した事例
[裁判所]さいたま家裁
[年月日]2008(平成20)年4月3日審判
[出典]家月60号11巻89頁
[事実の概要]
X(フィリピン国籍の女性)とYとは、Xには元夫Aとの間に子Bが,Yには妻がありながら交際を開始し,平成17年に未成年者をもうけた。Yは,同年に未成年者を認知し,未成年者については,平成18年3月に嫡出否認の審判が確定した。
Yは,自身でアパートを借りてXと未成年者を住まわせていたが,生活費を十分に援助しなかったため,Xは来日した姉の援助などを受けながら自身も仕事をして未成年者の世話をしていた。
その後XとYとの関係が険悪となったため,平成20年1月,YがXに無断で未成年者を連れ出したが,その後Xの下に戻されたということがあった。ところが,さらに同月,XがYに対し,未成年者の薬が無くなったため,同人を病院に連れて行くよう依頼したところ,Yは,病院から帰宅して「未成年者はストレス性障害にかかっている。」「従姉妹が看護婦なので,そこでしばらく治療させる。」などとXに申し向けたため,Xは,これを信用して未成年者をYに預けてしまった。しかしながら,その後Yとの連絡が取れなくなったため,Xが上記病院に問い合わせたところ,Yの言は虚偽であることが判明した。
YはXが未成年者と会うことを拒否しているため,Xが子の引渡しを命じる保全を分を申立てた。
なお,Yは,自宅で事情をすべて知った妻とともに未成年者の世話をしており,収入もある。Xは,姉が帰国したため,Aの援助を受けながら,Bと未成年者とを監護してゆく意向である。
[判決の概要]
1親権者の監護状況が劣悪で,その監護の状況から緊急に離脱させる必要があるなど子の福祉に反することが明らかな特段の事情がある場合を除いては,親権者が未成年者を監護養育することが相当である
2Xの養育態度,監護能力に格別問題とすべき点は認められず,又Yが補うことが可能であるので,Xの経済的事情を重視することはできない。Aの存在が養育環境として問題があることも窺われない
3仮に未成年者が安定した現状にあるとしても,Yは,Xの親権を侵害した違法状態を継続しているものであって,安定した現状を主張することは許されない
4 本案申立て認容の蓋然性は高く,本案審判確定までには相当な日数を要することがあるから,保全処分の必要性があると認められる
として,申立を認容した。

1−2008.2.27
子の親権者を母として提出された離婚届書及び同時に提出された離縁届書について、認定した事実関係の下では、離婚及び離縁については、追認により有効であるが、親権者の指定については、協議がなく無効とされた事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2008(平成20)年2月27日判決
[出典]判タ1278号272頁
[事実の概要]
A(夫)とB(妻)は平成9年に婚姻の届け出をし、AはBと前夫との子Cと養子縁組をした。AB間には、その後二人の子DEが生まれた。平成17年12月9日、市長にABの離婚の届書が提出された。DEの親権者はBと記載されていた。同日、離縁の届書も提出され、AとCの協議者をB(親権者母)として協議離縁した旨の記載がされていた。Aは離婚及び離縁の意思及び各届け出意思がないとして、離婚及び離縁の無効の確認を求めた。原判決は、Aの請求をいずれも棄却したことから、Aが控訴した。控訴審において、仮に離婚が無効でないとしても、本件離婚届書における親権者の指定協議が無効であると主張して、予備的にその旨の確認を求める請求を追加した。
[判決の概要]
離婚無効については、本件離婚届書の提出による離婚については、届出の時点ではAに離婚の合意があったものとは認められない、しかし、諸事情に照らすと、少なくとも離婚そのものについては、平成18年3月ころには、やむを得ないものとして、これを追認したものと認めるべきである、として控訴を棄却した。予備的請求については、本件離婚届書の提出までに、AB間で親権者の指定についての協議・合意があったということはできない、また、親権者をBに指定したことを追認したとは認めることができない、としてこれを認容した。離縁無効については、Aは少なくとも離婚について追認した時点でCとの離縁も追認したものと認めるべきである(代諾の点についても追完されるとともに、離縁自体も追認したものと認められる)とし、控訴を棄却した。
[ひとこと]
今回の確定判決によって、戸籍法116条により、子の親権者の記載を消除したうえで、改めて親権者指定の協議をするか、あるいは、審判を求めて、親権者を指定することになるのであろう。

1−2008.1.30
未成年者の祖父母による子の監護者指定の申立てを、家事審判事項に当たらず不適法として却下し、未成年者の親権者母による祖父母を相手方とする子の引渡しの申立ても家事審判事項に当たらないとした事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2008(平成20)年1月30日判決
[出典]家月60巻8号59頁
[事実の概要]
未成年者と同居し養育している祖父母が、未成年者の監護者を祖父母と指定することを求め、一方で未成年者の親権者である母が、祖父母に対し、未成年者を引き渡すことを求めたところ、原審判(さいたま家庭裁判所)は、未成年者の監護者を祖父母と定め、母の申立を却下する旨の審判をした。母が、原審判を不服として抗告を申し立てた。
[判決の概要]
抗告審は、民法766条1項等の規定による子の監護者の指定その他子の監護に関する処分とある家事審判法9条1項乙類4号の文言を重視し、民法766条が離婚等に際し夫婦間の子の監護者指定等を家裁に委ねられていることを受けた規定であるとし、未成年の子の父母以外の親族が自らを監護者と指定することを求めることは、家事審判法9条1項乙類4号に定める審判事項には当たらず、その他これを家庭裁判所の審判事項として認める法令の規定はないとして、申立てを不適法却下した。さらに、親権者による未成年者を現に監護する者に対する引き渡しの申立ても、家庭裁判所の審判事項として認める法令上の規定は存しないとして、原審判の却下の結論を支持し、この点に関する母の抗告については、棄却するものとした。
[ひとこと]
祖母による子の監護者指定の申立は、福岡高裁平成14年9月13日決定(判タ1115(2003年5月15日)208頁)で認容されているが、本件では、民法766条及びそれを受けた家事審判法9条1項乙類4号の文言を重視し、祖父母の申立てを斥けた。しかし、現実には子の監護を父母に委ねることが相当でない場合があり(父母の監護能力が著しく低い、あるいは、子が父母方を嫌がり自身で祖父母方に何度も戻っていく等)、民法766条1項の文理解釈のみで第三者からの申立を一切封じることは、子の福祉の観点から、相当でない場合もあり得る。高裁判断が分かれており、なお検討を要する問題である。

1−2007.2.21
離婚後単独親権者となった元夫が事実上子を監護している元妻に対してした人身保護法に基づく子の引渡請求が棄却された事例
[裁判所]大阪地裁
[年月日]2007(平成19)年2月21日判決
[出典]判タ1251号339頁 速報判例解説3号81頁
[事実の概要]
XとYは、子ABCDをもうけ、平成12年5月、子らの親権者をいずれもXとして協議離婚した。子らはXの実家で生活したが、Xの実母が子らを養育していた。平成13年11月、ACの親権者をYに変更する調停が成立し、平成14年7月ころには、Xの実母が入院したため、子らはYが引き取った。平成14年10月、XとYとは復縁に向けて協力することを約し、Xと子らはY宅にて同居したが、XとYとの関係は修復されず、翌年3月ころ、Xは単身でY宅を出た。XはYに対し、人身保護法に基づきBDの引渡しを求めた。BDの陳述書によれば、Xの印象は薄く、Xとその実母がYの悪口をさかんにいう点に強い嫌悪感を有し、今後もYの下で生活したいとの強い希望を表明し、ACも兄弟そろって生活することを希望する旨述べている。
[判決の概要]
Bは現在13歳で、自己の境遇を認識し、将来を予測して適切な判断をするにつき十分な意思能力を肯定できるところ、Yの下に留まる意思を表明しているので、YがBの看護にあたっていることは、特段の事情がない限り、人身保護法上及び同規則上の拘束には該当しない。Bは、Yを通じてしかXの情報を与えられないような状況にはなく、Xに対してことさらに嫌悪感を抱いているわけでもなく、Xと別居後にYによって変更した情報を与えられているような状況もないことから、特段の事情は認められない。
Dは現在8歳で、意思能力を有していないので、Dの意思にかかわらず、YによるDの監護は、人身保護法上及び同規則上の拘束にあたり、XがDの親権者であることから、DをXの監護の下に置くことがYの監護の下に置くことに比べて子の幸福の観点から著しく不当でない限り、拘束の違法性は顕著といわざるを得ない。本件についてみると、Dは心身ともに安定し、Yの実父等が積極的に援助する姿勢にあるなどYの経済的事情が重大な懸念となる可能性はさほど高くない一方、Dの気持ちに反してXの看護の下に置かれれば、精神的負担を受け成長過程において好ましくない影響が及ぶ懸念があること、Yが申立てている親権者変更審判次第ではDの生活環境が短期間に2度も変更されるおそれがあること、Xの監護養育能力に疑問があることなどからすれば、DをXの監護の下に置くことは、Dの幸福の観点から著しく不当である。

1−2007.1.22
離婚訴訟係属中の夫婦間における子の監護者の指定申立事件において、当該申立てを却下せずに申立ての趣旨と異なる監護者を指定した事例
[裁判所]広島高裁
[年月日]2007(平成19)年1月22日決定
[出典]家月59巻8号39頁
[事実の概要]
A(妻)とB(夫)はAの連れ子C(決定時10〜11歳)とともに同居を開始し、長男D(決定時2〜3歳)をもうけたことから婚姻届出をし、その後長女E(決定時1〜2歳)をもうけた。CはBと養子縁組をした。BがCに暴力を振るい、AがCを病院に連れて行っている間に、BはDEを自分の実家に連れて行き、以後DEの監護養育は、BとBの両親が行っている。Aは離婚調停を申し立てたが、Bがやり直したいというので取り下げた。しかしBから暴力をふるわれたので、Cを連れて別居し、再度調停を申し立てた。調停は不成立となり、Aは離婚訴訟を提起した。他方、AはBに対し、CDにつき監護者指定と子らの引き渡しを請求。原審(広島家裁呉支部2006(平18).11.18審判家月59巻8号45頁)は、離婚訴訟で親権者が指定されるまでは、引き続きBのもとで養育監護するのが子らの福祉にかなうとして、Aの申立てをいずれも認めなった。そこで、Aが即時抗告をした。
[判決の概要]
抗告人(母)からの子の監護者の指定申立てを却下した審判に対する即時抗告審において、子の監護に関する処分は、子の福祉に直接関係し、裁判所による後見的関与の必要性が高いこと、監護の基本的な事項についても抗告人と相手方との間で対立していること、抗告人と相手方との間で離婚訴訟が係属中であってもその確定に時間を要することに照らすと、監護者の指定申立てを受けた裁判所としては、監護者の指定をせずに放置するのでなく適切な監護者を定めるべきであるとして、相手方を監護者として指定した。
「抗告人は、幼児期における母親の存在は、子の健全な成長発育には不可欠なものであるとして、抗告人を監護者とするのが適当であると主張するが、相手方の母によって母性的な監護もなされているのであって、抗告人が母親であるという点は、上記の判断を覆すほどに重視すべきものではない」とした。
[ひとこと]
子らは幼児であるが、監護者決定に際して、母親であることや兄弟不分離を必ずしも重視しなかった点、監護者指定の対象となった事件本人ではないが他の子(養子)や母に対する父による暴力を父の監護者適格の判断要素とされていない点等が,注目される。

1−2006.7.20
協議離婚後の子の引渡しをめぐる紛争において、協議離婚の際の親権者の指定合意をめぐる紛争が顕在化するに至った事例
[裁判所]福岡高裁
[年月日]2006(平成18)年7月20日決定
[出典]判タ1233号294頁
[事実の概要]
X女とY男は、婚姻中長女、次女、長男をもうけたが、協議離婚した。その際、離婚届には3人の子の親権者はXと記載されていた。しかし、実際は長女次女はYが長男はXが監護養育していた。Xは、長女次女の引渡しを命ずる審判を申し立てた。
原審は、Xの申立てを認めたが、理由中においては、上記の事実経過が認定されているにとどまり、双方の監護者としての適格性の有無に言及した部分はない。Yが抗告し、同時にXY間で親権者指定の合意はないのに、Xが無断で離婚届を出したとして、親権者指定協議無効確認の訴え(別件訴訟)を提起した。
[判決の概要]
Yは別件訴訟を提起し、Xの親権を争う姿勢を明らかにした以上、Xの親権は絶対的なものではなく、その所在は、別件訴訟の判決確定を見なければならない事態になったとして、Xに親権があることを前提とした原審判は相当でないとした。その上で、別件訴訟の提起によって、親権の所在が顕在化した以上、Xとしては別件訴訟で親権の所在を確定させるか、本件で監護権者としての適格性を主張して子の引き渡しを求めるかする必要があるとして、原審判を取り消し、原審に差し戻した。

1−2006.10.12
祖父母による孫の連れ去りが未成年誘拐罪に問われたが、実刑は重過ぎるとして執行猶予が言い渡された例
[裁判所]最高裁第一小法廷
[年月日]2006(平成18)年10月12日判決
[出典]判タ1225号227頁
[事実の概要] 娘の再婚に反対し、祖父母(57歳と56歳)が札幌市内の転居先から孫娘(8歳)を連れ戻したとして、未成年者誘拐罪に問われた。
[判決の概要] 「孫の将来を案じ、娘の交際相手から虐待されることを憂慮していた被告らの心情を踏まえれば強い指弾は適切でない。親族間の紛争は本来、当事者間の話し合いで解決すべきで、刑事司法の介入は慎重にする必要がある」「実刑は重すぎ破棄しなければ著しく正義に反する」として、それぞれ懲役十月の実刑とした一、二審判決を破棄し、懲役十月、執行猶予三年を言渡した。

1−2005.12.6 未成年者略取被告事件
妻と離婚係争中の夫が,妻の監護養育下にある2歳の子を有形力を用いて連れ去った行為につき,未成年者略取罪が成立するとされた事例
[裁判所]最高裁二小
[年月日]2005(平17)年12月6日決定 平成16年(あ)第2199号
[出典]民集59巻10号1901頁、離婚判例ガイド第2版218頁
   法セミ2006年2月号123頁
   家裁月報58巻4号59頁
[判決の理由]クリックしてください。

1−2005.6.28
子の監護者指定申立事件の即時抗告審において,周到な計画の下に行われた父及びその両親による子の奪取は,極めて違法性の高い行為であり,子の監護者を父と指定しなければ子の福祉が害されることが明らかといえるような特段の状況が認められる場合に限って,子の監護者を相手方(父)に指定することが許されるとした上,本件においては,特段の事情を認めるに足りる証拠はないとして,父を監護者と定めた原審判を取り消し,母を監護者と定めた事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2005(平成17)年6月28日決定
[出典]家月58巻4号105頁
[事実の概要]
母は父の暴言,父が精神的暴力で母を威圧すること等に耐えられないとして,長男(7歳)を連れて実家に戻り父と別居するに至った。父は,母の帰宅を促し,長男との面接交渉を求めたが,拒否されたことから,夫婦関係円満調整調停,子の監護者の指定の審判及び審判前の保全処分を申し立てた。調停の席上で,父は,調停委員会から,自力救済をしないように指導を受けていたが,長男が祖母とともに通園バスを待っていたところ,自動車で待ち伏せし,奪取し,以後父の自宅で長男を監護養育していた。父は,奪取後,審判前の保全処分を取り下げたが,奪取事件当日,母は,子の監護者指定の審判及び審判前の保全処分の申立てをし,その後離婚調停も申し立てたが,いずれも不成立で終了した。原審東京家裁が父の申立を認容し,母の申立てを却下したので,母が即時抗告をした。
[決定の概要]
原審(東京家裁)は,@抗告人が職業を有していること,A抗告人が審問の際,「長男が生まれたのは,脅されて関係を持ったからです。」と供述していることをとらえて,抗告人が果たして長男に対して母性を発揮することができるか疑わしいと判断しているが,本決定は,@については,何ら合理的根拠を有するものではないとし,Aについては,これは相手方に対する思いから出た発言にすぎないとし,長男は「現在7歳とまだ幼少の年齢であり,出生以来主に実母である抗告人によって監護養育されてきたものであって,別居後相手方らによる本件奪取時までの抗告人側の長男に対する監護養育状況に特に問題があったことをうかがわせる証拠はないとした。
相手方及び同人の実父母による長男の実力による奪取行為は,調停委員等からの事前の警告に反して周到な計画の下に行われた極めて違法性の高い行為であるといわざるを得ず,この実力行為により長男に強い衝撃を与え,同人の心に傷をもたらしたものであることは推認するに難くないとした。
面会を実現する見込みの立たない状況の下でいわば自力救済的に本件奪取行為が行われた旨の相手方の主張については,相手方が申し立てた夫婦関係円満調整調停等において,面接交渉についての話し合いや検討が可能であったもので,それを待たずに奪取する行為に出たことは何らの正当性も見出すことはできないとした。
このような状況の下で長男の監護者を相手方と定めることは,奪取行為を追認することになるのであるから,そのようなことが許される場合は,特にそれをしなければ長男の福祉が害されることが明らかといえるような特段の状況が認められる場合に限られるというべきであり,本件においては,このような特段の事情を認めるに足りる証拠はないとして,相手方を監護者と定めた原審判を取り消し,抗告人を監護者と定めた。
[ひとこと]
子の奪取という実力行使を極めて違法性が高いとし,その追認になるような判断について,特段の状況が認められる場合(母が子を虐待する蓋然性が高いとか,母が監護養育を放棄する事態が容易に想定される場合等)に限られるとして,実力行使に対して極めて厳しい態度をとった本決定は,是認できる。
母が職業を有していること等をもって母性を発揮することができるか疑わしいとした原審判は問題がある。

1−2005.6.22
子の監護者指定申立事件及び子の引渡し申立事件の即時抗告審において,子の監護者を母と指定し,母に無断で子を連れ去った父に対し,子を母に引き渡すよう命じた原審判の判断は適正なものであるとして,父からの即時抗告を棄却した事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2005(平成17)年6月22日決定
[出典]家月58巻4号105頁
[事実の概要]
母は父から暴力を受けたとして,子(4歳)を連れて実家に戻り,別居をした。母は,夫婦関係調整調停と婚姻費用分担調停を申し立てたが,いずれも不成立に終わった。父は,面接交渉を求める調停を申し立てる意向を示したが,申し立ててはいなかった。父は,幼稚園内の遊具で遊んでいた子を,母に無断で連れ去り,以後,父の実家で監護を開始した。
母は,子の監護者の指定及び子の引渡審判と審判前の保全処分の審判を申し立てた。保全処分につき,神戸家裁伊丹支部は,子の監護者を仮に母と定め,子を母に仮に引き渡すよう父に命じる審判をした。父の抗告は,棄却された。しかし,父は,家裁調査官による子の引渡しの履行勧告にも応じず,母がした3度の強制執行も執行官が待機している際に父が子を抱いて逃走するなどしたため,執行不能により終了した。
原審神戸家裁伊丹支審平17.4.5は,子の監護者として母を指定し,子を母に引き渡すべきことを命じた。原審判に対して父は即時抗告した。
[決定の概要]
本決定は,以下のとおり,原審判を正当として,抗告を棄却した。
父の親子の情愛から,子の連れ去り行為はやむを得ない行動であったとの主張については,以下の通り退けた。子との面接については,夫婦関係調整調停事件が不成立になった後も,引き続き協議することが予定され,抗告人は,面接交渉を求める調停を別途申し立てる意向を示していた。それにもかかわらず,抗告人は,調停の申し立てをすることなく,相手方の膝下で平穏に監護されていた子を実力で連れ去ったものであり,この行為をもって,子を見かけて思わずとってしまったもので,偶然に発生したことなどと評価することはできない。このような抗告人の行為は,たとえそれが子に対する愛情に基づくものであったという面があるとしても,法的手続を軽視するものと評されて当然のものであるだけでなく,親密平穏な母子関係を事実上断絶させるという深刻な結果をもたらす点においても看過しがたいものというべきであって,これを正当化するいささかの事情も認められない。
[ひとこと]
本決定は,「審判前の保全処分審判に基づく数次の強制執行における抗告人の態度は極めて遺憾であり,今後の法的手続において,抗告人の人的評価,親権者適格等にかかわる重要な事情として考慮されるべきこと」ともあえて付記し,法的手続を軽視する父に厳しい評価を強調した。実力行使を安易に追認しない判断であり,相当である。

1−2005.6.3
母の監護権を侵害した違法な状態を継続している父が子の安定した状態を主張することは許されないとして,子の監護者を母と指定し母の子の引き渡しの申立を認容した原審判に対する即時抗告を棄却した事例
[裁判所]札幌高裁
[年月日]2005(平成17)年6月3日判決
[出典]家月58巻4号84頁
[事実の概要]
母(相手方)は,父(抗告人)の不貞を疑い,子(2歳)を連れて実家に戻った。父は,不貞を否定しているが,別居は渋々同意した。母が離婚を求め調停を申し立てた直後,母と祖母が子を連れて買い物をしている最中に,父が現れ,子を奪い,子が泣くにもかかわらず離さず,近くの派出所で長時間押し問答となった。父の要請に母が折れ,父が連れて帰ることを認めたが,翌日母が子の引き取りを申し入れたところ,父は拒んだ。
母が申し立てた子の監護者の指定及び子の引き渡しの調停は不成立になり,審判に移行し,本決定の原審判(札幌家苫小牧支審平成17年3月17日)は,母の申立を認容した。
[判決の概要]
抗告人は,未成年の安定した状態,抗告人の実母の協力による監護態勢,抗告人の資力等,子の福祉という観点から,監護者は抗告人が適当であると主張する。しかしながら,相手方の監護権を侵害した違法状態を継続している抗告人が現在の安定した状態を主張することは到底許されるものではない。また,未成年者がいまだ2歳の女児であり,本来母親の監護が望ましい年齢であること,相手方が育児することについて不適格な事情が認められないことから,監護者として相手方が相当であることは明白であるとして,原審判は相当であるとした。
[ひとこと]
本決定は特別抗告されたが,最決平成17年9月15日(家月58巻4号90頁)は抗告を棄却した。

1−2005.6.2
別居中の母が公然かつ平穏に子らをその監護下に置き、監護を継続していたにもかかわらず、父が子らを無断で連れ去り、その監護下に置いたため、母が子らの引き渡しを求めた事案の即時抗告審において、父に引き続き子らを監護させる場合に得られる利益が母に子らを監護させる場合に得られる利益をある程度優位に上回ることが積極的に認められない限り母による引き渡し請求を認容すべきであるとした上、本件では両者の利益に優位な差異は認められないとして、母の申立てを却下した原審判を取り消し、認容した事例
[裁判所]仙台高裁秋田支部
[年月日]2005(平成17)年6月2日判決
[出典]家月58巻4号71頁
[事実の概要]
母(抗告人)は,父(相手方)の暴言、暴行が続いたため、実家に子ら(6歳、5歳、3歳)を連れて行き、以後、父とは別居した。別居後、父は週に1,2度子らと面接交渉を行ったりしていたが,母に対して,子らを引き渡すよう求めたり,そのために法的措置をとることを検討することはなかった。父母はそれぞれ離婚等を求めて調停を申し立てたが,その後父は子らが通園する保育園に赴き,母に無断で,子らを自宅に連れ帰った。離婚等調停は不成立に終わり,母は,子の引き渡しを申し立て,ほぼ同時に,離婚等請求事件を提起した。
原審(青森家裁弘前支審平17.3.1家月58巻4号78頁)は,父が母に無断で子らを連れ去った際,暴力的であったとか威嚇的であったといった事情は伺われず,父が子らに対し暴力的に接しているという事情は窺えないとした。さらに,父の監護状況について母のそれに比し劣悪とは言えず,本案訴訟における訴訟における証拠調べの結果を待つまでもなく母が親権者として指定されることが明らかであるともいえない。したがって,父における子らの監護養育を継続することが子らの心身の安定に資し,子の福祉に合致するとし,母の申立てを却下した。母が即時抗告。
[判決の概要]
別居中の夫婦のうち一方配偶者甲が公然かつ平穏に子をその監護下に置き,監護を継続していたにもかかわらず,他方配偶者乙が子を無断で連れ去るなど,違法にその監護下に置いたため,甲が家庭裁判所に子の引渡しを申し立てた場合には,子の福祉の観点から,乙に引き続き子を監護させる場合に得られる利益と甲に子を監護させる場合に得られる利益を比較し,前者が後者をある程度有意に上回ることが積極的に認められない限り甲による子の引渡し請求を認容すべきものと解される。
なぜなら,乙が,違法な連れ去りによらず,正当に家庭裁判所に子の引渡しを申し立てていれば,乙の監護によって得られる利益の方がある程度優位に甲の監護によって得られる利益を上回ることを明らかにしない限り,その申立ては認められないはずにもかかわらず,違法に子を連れ去ったことによって,甲がその監護によって得られる利益の方がある程度優位に乙の監護によって得られる利益を上回ることを明らかにしなければならなくなってしまうとすれば,乙が法的な手続を選択するよりも自力救済を選択することによってかえって有利な地位を獲得することを許すことになり,違法行為を助長する結果を招き,家庭裁判所の審判によって子の奪い合いを抑え,平穏に子の監護に関する紛争を解決することが困難となるからである。
本件では,抗告人と相手方との間に有意な際は認められないので,抗告人の引渡し請求を認容すべきであるとして,原審判を取り消し,認容した。
[ひとこと]
本決定は,法的手続を選択するよりも自力救済を選択した親に有利になる判断は違法行為を助長することになるとして,原審判を斥け,自力救済を選択した側に有利にならない判断枠組みを採るべきことを明確に示した。父による子の無断連れ去り行為について厳しい態度をとったもので,相当である。

1−2005.3.11
1子の祖母からの監護者指定の申立てを認めた例
2祖母を子の監護者に指定した例
[裁判所]金沢家裁七尾支部
[年月日]2005(平成17)年3月11日審判
[出典]家月57巻9号47頁
[事実の概要]
本件子は相手方である父と母の子であるが、相手方である父は子の姉である次女を虐待を加えて死亡させ、服役した。相手方父の出所後、本件子は申立人である子の祖母のもとに、相手方である子の母により預けられた。その後、子の祖母は本件申立に及んだ。
家庭裁判所の調査官の調査によると、子は、「パパに何も食べさせてもらえなかった。」と述べ、相手方らに対して好感情を有していないことが推測された。一方、相手方らは、本件審問期日に出頭しないなど、本件審判手続に積極的に関与しなかった。
[判決の概要]
<家庭裁判所が子の祖母からの監護者指定の申立を認めた点について>
協議離婚の場合の民法766条を家庭裁判所の権限につき監護者等を決定する権限をも定める趣旨の規定と解し、また、父母に関する親権喪失についての民法834条を一定の範囲の者の請求がある場合には父母の監護権を制限する趣旨の規定と解することにより、父母が子の監護権に関する合意を適切に成立させることができず、子の福祉に著しく反する結果をもたらしている場合には、家庭裁判所の権限につき民法766条を、申立権者の範囲につき民法834条をそれぞれ類推適用し、子の親族は子の監護に関する処分事件の申立権を有すると判示する。その上で、同申立に基づいて、家庭裁判所は、家事審判法9条1項乙類4号により子の監護者を定めることができると判示した。
<家庭裁判所が祖母を子の監護者に指定した点について>
裁判例は、父母が親権をその本来の趣旨に沿って行使するのに著しく欠けるところがあり、父母に親権を行使させると子の福祉を不当に阻害することになると認められるような特段の事情がある場合には、父母の意思に反してもこの父母ではない者を子の監護しに指定することができる(東京高裁昭和52年12月9日決定・判例時報第885号127頁)と判示した。
その上で、本件については、祖母は、子と同居して子を適切に監護しており、子も祖母に対し自然な愛情を感じており、申立人である祖母が子の監護を継続することが子の福祉に合致すると判示した。その一方で、子は父母に対して好感情を有しておらず、父母は子の姉である次女に虐待を加えて死亡させ、相手方である子の母は子を申立人に預けると述べ、相手らは本件審判手続に積極的に関与しないなど、相手方らは子の親権者としての責任ある養育態度や監護に対する意欲を見せていないので、上記特段の事情があると認められると判示し、祖母を子の監護者に指定した。
[ひとこと]
本件は、相手方である子の父が、子の姉を虐待して死亡させ、実刑判決を受け服役氏出所後にさらに本件子も虐待していたというすさまじい事案であり、子の祖母が子の監護者として指定されたという判決は、まさに子の福祉に合致する判決であるといえるだろう。

1−2003.7.15
父が監護する6歳女児及び4歳男児につき,父方での監護につき母性の欠如の点を除き養育環境に何らの問題はないと認めながらも「現下の最善の利益は母性に日常的に接すること」として母を監護者に指定した例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2003(平成15)年7月15日決定
[出典]判タ1131号228頁
[ひとこと]何ら緊急の事実が窺われないのに敢えて監護者を母とした点につき裁判官の意識に母親優先の先入観が垣間見えるとして批判されている(判タ1131号228頁)。

1−2003.3.12
離婚後,親権者母からの引渡し請求の事案であるが,きょうだいを分離した原審を取り消し,揃って養育監護することが好ましいとした例
[年月日]2003(平成15)年3月12日
[出典] 家月55巻8号54頁

1−2002.10.28
3歳女児につき、夫の違法な奪取を追認せず、母への引渡しが命じられた例
[裁判所]横浜家裁
[年月日]2002(平成14)年10月28日審判
[出典]未公表
[事案の概要] 夫婦は平成8年婚姻。平成11年に男子出生。申立人妻は平成12年4月に子をつれて実家に帰り、同年9月以降は夫のところに戻らず。申立人から家裁に離婚調停が申し立てられ調停中であった。夫は強引に子を連れていくことはないと言っていたにもかかわらず妻の元から子を連れ去った。妻から監護者の指定と引渡しの審判の申立、引渡の保全処分の申立がなされ、夫からも監護者指定の審判の申立がなされた。家裁での申立人と子の試行的面接では、子(約3歳)は申立人のところで2ヶ月前まで安定的に監護されていたにもかかわらず、大泣きをした。決定は、「表面的には、相手方の家庭や保育園に適用しているかに見える未成年者の中に、よって立つ大地が揺らいでいるような人間関係の基本的なところでの不安や怯えが存在しているために、面接試行時のような反応になった」ものとして、子を申立人に引き渡せとの保全処分の決定を下した。
[ひとこと]違法な奪取行為を裁判所が追認しないとする好例

1−2002.9.13
子らの祖母から申し立てた子2人の監護者の指定を本案とする審判前の保全処分を、いずれも却下した審判に対する即時抗告審において、2人の内、1人の子についての保全処分を却下した部分について、度重なる両親の暴力を伴った紛争、父親による暴力や性的虐待が加えられている可能性が極めて高いこと等が否定できないから、親権の行使が子の福祉を害すると認めるべき蓋然性があるとして、原審判を取り消し、監護者を仮に抗告人である祖母と定めて仮の引渡を命じた。
[裁判所]福岡高裁
[年月日]2002(平成14)年9月13日決定
[出典]家月55巻2号163頁
[事実の概要]
被抗告人である両親の間に長女(H2年生まれ)と次女(H3年生まれ)が誕生した。両名の母親は、平成13年8月に夫婦喧嘩や自分や子らへの暴力が原因で一旦、子ども達を連れて実家に戻り、抗告人(子らの母方の祖母)と同居した。しかし、その後平成14年4月に両親はよりを戻し同居を開始し、子ら連れて行こうとしたことから、子らは児童相談所に一時保護されることになった。その後、同年5月に子らは同相談所から逃げ出し、祖母方に戻ったが同年6月に両親が子らを連れ出し一緒に生活を始めた。ところが、長女は両親のもとから逃げ出して祖母と一緒にいたところを警察に保護され、児童相談所に一時保護された。一方、次女は両親のもとにとどまっている。
子らの祖母は、父は子らに対して暴力や性的虐待を加えているとして、子の監護者の指定を求める(祖母に指定を求める)審判を本案とする審判前の保全処分を申し立てた。
原審は、申立をいずれも却下した。
[判決の概要]
抗告審では、長女について、原審判を取り消し、監護者を仮に抗告人である祖母と定めて仮の引渡を命じた。一方、次女については本件抗告を棄却した。
[判決の理由]
第三者が申し立てた子の監護者の指定が認められるためには、親権者に親権を行使させることが子の福祉に反するような特段の事情が必要である。本件では、度重なる両親の暴力を伴った紛争、長女に対する被抗告人である父親による暴力や性的虐待が加えられている可能性が極めて高いことから、被抗告人らの親権の行使が長女の福祉を害すると認めるべき蓋然性がある。また、長女の相手方に連れ戻されるのをおそれて学校にも登校することができない状況は子の福祉に反することは明らかであり、保全の緊急性も認められる。以上から、本件保全処分のもいずれも認めることができると判断した。
一方、次女については、父による性的虐待を否定はできないが、相手方らと生活しており、保全の必要性を判断すべき的確な資料がなく、現段階における保全の必要性の疎明に欠けると判示し、抗告を棄却した。なお、本案については久留米支部で確定した。
[ひとこと]
長女については、父母ではない祖母を監護権者としたことは、民法766条の適用範囲を広く解する判例として画期的な判断である。しかし、次女については、父母のもとに留まっていることから、性的虐待があながち否定できないとしつつ、抗告が棄却された。虐待が否定できないのに放置したとすれば、判断が消極的すぎるようにも思われる。

1−2002.7.23
父には借金,破産宣告,うつ病等の事情があり,母も養育能力が十分でなく一時的にパチンコ,浪費などを行い,里親が監護中であるという事案で,監護能力の対比では父が劣ることは明白であるとして,母が児童相談所の指導を受けることを前提として母を監護者とした例
[裁判所]新潟家裁
[年月日]2002(平成14)年7月23日審判
[出典] 家月55巻3号88頁

1−2000.6.29
5歳の男児について,親権の適格性については父母双方に大きな差異はないとしながら,子の生活状況や監護状況に問題があるか否か等から総合判断するとして監護中の父を親権者としたもの
[裁判所]千葉地裁佐倉支部
[年月日]2000(平成12)年6月29日判決
[出典] 未公表
[ひとこと]父が監護中とはいえ、5歳で父親を親権者とした点に判例の意義。

1−1999.9.20
6歳女子につき,母からの監護者指定及び引渡し請求につき、父が無断で子を連れ去り,引渡しの保全処分にも従わず,人身保護手続にも出頭しなかった点等を挙げ,その後子の生活・現状が安定しかたらといって現状追認しないとするもの
[裁判所]大阪高裁
[年月日]1999(平成11)年9月20日決定
[出典]家月52巻2号163頁
[事実の概要]
[判決の概要] 原審は、子の生活環境が安定し、試行面接で子が母に激しい拒否的態度を示したことから、父を監護者に指定したのに対して、抗告審は、父が裁判所の決定に従わないこと等を指摘し、安易に現状を追認することは相当でないとして、6歳女児の母に対する拒否的な態度は驚くほど強いとしながら,「これ以上両親の不和に巻き込まれて不安定な状態になりたくないのでともかく現状の変更は望まないという気持ちの表れ」として、監護中の父を監護者とした原審判を取り消した。

1−1998.9.16
人工授精子についてであるが,4歳7ヶ月の男児につき,双方の合意で1週間のうち平日は母方、週末は父方で暮らしており,双方親権適格があり環境にもさほどの差がないという事案において、原審は父を親権者,抗告審では母親の細やかな愛情が必要として母を親権者とした例。人工授精子であることは考慮に入れなくてもとしている。
[裁判所]東京高裁
[年月日]1998(平成10)年9月16日判決
[出典] 家月51巻3号165頁

1−1998.3.30
「母親」とは必ずしも「生物学的な母親」を指すのではなく「母性的な関わりを持つ対象となった養育者」という広い意味としても理解するとした例
[裁判所]新潟家裁長岡支部
[年月日]1998(平成10)年3月30日審判
[出典] 家月51巻3号179頁

1−1996.3.28
別居中の妻が夫に対して子(5歳と2歳)の引渡しを求めた事案において、各申立てを認めるとともに、子の年齢並びに子の引渡しの仮処分及びその履行勧告、間接強制に対する夫の拒否的な対応等を考慮して、引渡しを実現する方法としては直接強制によるべきである旨の付言をした事例
 東京家審96(平8)年3月28日、家月49巻7号80頁

1−1996.2.9
父につき,アルコールや睡眠薬に依存する傾向,情緒不安定で子を虐待することがあり,予防接種や定期健康診断を受けさせないなどから,保護者として適切ではないとして監護中の母に親権を認めた例
[裁判所]大阪家裁
[年月日]1996(平成8)年2月9日審判
[出典] 家月49巻3号66頁

1−1993.10.19
共同親権者間における幼児の人身保護請求について、人身保護規則4条の拘束・監護の違法性が顕著な場合とは、被拘束者が拘束者に監護されることが請求者による監護に比べて子の幸福に反することが明白であることを要するとした事例
[最高裁1993(平成5)年10月19日第三小法廷判決 民集47巻8号5099頁、家月45巻10号33頁]
[事案の概要]
母(請求者)と父(拘束者)は1985年に婚姻し、間に二女(1985年生と1989年生)がいたが、次第に不和となっていた。父は子らを1992年8月に田舎の墓参りに連れて行き、そのまま子らとともに父の両親のいる実家で生活するようになった。
これに対し母が父の実家を訪ね、子を連れ出そうとし、そこで父、その両親と子らを奪い合ったが、結局子らは父の実家に連れ戻された。
母は、離婚調停を申し立てたが親権者等につき協議が整わず、不調に終わったため、父及びその両親に対し人身保護請求による子の引渡しを求め提訴した。
原審は3、4歳の幼児は特段の事情がない限り、父親よりも母親の下で監護・養育されるのが適切であるとの前提に立ち、@母の方が幼児らとの接触の時間が多くとれることが想定されること、A母は自活能力に欠けるもののその両親が援助を申し出ていることを挙げ、父による拘束・監護の顕著な違法性を認め、請求を認容した。
[判決の概要]
共同親権者間の幼児の引渡しは、「夫婦のいずれに監護させるのが子の幸福に適するかを主眼として」判断すべきであり、人身保護規則4条にいう拘束・監護の顕著な違法性が認められるためには、「幼児が拘束者の監護の下に置かれるよりも、請求者に監護されることが子の幸福に反することが明白であることを要するもの、いいかえれば、拘束者が右幼児を監護することが子の幸福に反することが明白であることを要するものというべきである。」なぜなら、「夫婦がその間の子である幼児に対して共同で親権を行使している場合には、夫婦の一方による右幼児に対する監護は、親権に基づくものとして、特段の事情がない限り、適法であるというべきであるから、右監護・拘束が人身保護規則4条にいう顕著な違法性があるというためには、右監護が子の幸福に反することが明白であることを要するものと言わなければならないからである」と判示し、原審が認めた事情ではその要件を満たさないとして、請求を認めた原審を破棄、差し戻した。
[ひとこと]
これ以前、乳幼児の引渡し請求に多用されていた人身保護請求につき、認容される場合を限定し、以降、実務では、共同親権下での紛争については、もっぱら家庭裁判所における審理(監護者指定)の方法によることとなっていった。

1−1993.9.6
高裁で、分属を認めた原審判を取り消した例
[裁判所]東京高裁
[年月日]1993(平成5)年9月6日決定
[出典] 東高決平5・9・6家月46巻12号45頁
[事案の概要]9歳女子と7歳男子を母が監護中の事案で,原審の横浜家審平5・3・31(家月46巻12号53頁)は未成年者らの健全な人格形成のために父母が協力することが可能である場合には,協力関係が形成されることが望ましく,本件においてはそれができるとして長男及び長女につき母・監護者,父・親権者として分属ざせたが,抗告審では,両者の性格,関係に鑑みて適切な協力は期待できないとして分属させず母を親権者とした。

1−1988.4.25
15歳女子と12歳男子をいずれも約5年間父が養育してきたが,父は第2子に対して折檻を加えるなど暴力をふるっており,第1子は母親との同居を必ずしも望んでいないが第2子はいずれとの同居がよいか迷っているという事案で,「一般に,複数の未成年の子はできるだけ共通の親権に服せしめる方が望ましいが,ある程度の年齢に達すれば,その望ましさは必ずしも大きいものではないと考えられる」として現状を尊重した原判決を取り消し,第1子は父,第2子は母を親権者とした例
[裁判所]東京高裁
[年月日]1988(昭和63)年4月25日判決
[出典] 判時1275号61頁

1−1984.11.27
別居している妻のもとから子どもを連れ去った夫に対して妻が監護者指定・子の引渡しを求めた審判前の保全処分が認められた事例
[神戸家裁1984(昭和59)年11月27日審判 家月37巻8号61頁]
[事案の概要]
長女(1年3か月)が出生した以後、父母相互に家事育児をめぐって期待が裏切られることが重なり、父は1984年ころから父の実家で寝泊まりするようになった。また父から離婚調停を申し立てた。別居後、母が長女を監護養育していたが、父が母宅を訪ねた際に口論の上母の制止もきかず長女を実家に連れ帰った。以後、主として父方祖母が長女を監護養育している。
[審判の概要]
「事件本人は現在1年3月足らずの乳幼児であり、年齢的にみてその精神的発達上ことのほか母親である申立人の監護養育が緊要である年代であり、かつその監護を逸することは事件本人にとり将来の発育上重大な禍根を残すことになりかねない。そのうえ、事件本人は出生以来母なる申立人の許で監護養育されていたところを突然母親の許から引離され、育児の不得手な相手方の実母に養育されているのであって、事件本人の情緒の安定を確保する必要がある」として、母の申立てを認めた。
[ひとこと]
理由中、上記の通り母の監護養育が緊要とされている点で、ジェンダー平等が志向される現在は、批判されうる。しかし、本件事案の経過からすれば、殊更母ということを指摘しなくても、監護の継続性や監護能力等の要素から同様の判断になったと思われる。

1−1981.5.26
8歳の男児を父が監護する事案で,母を親権者とした原判決を取り消し,現状を尊重し父を親権者として指定した例
[裁判所]東京高裁
[年月日]1981(昭和56)年5月26日判決
[出典] 判時1009号67頁
[事実の概要]妻は夫方から出る際に子らの意思を確認したところ,第1子(男)は母親と同行することを希望し第2子(男)は父方に残ることを希望したので,第1子のみを連れて実家に戻り,以来約3年間妻が第1子を,夫が第2子を監護してきた。夫は子煩悩で約8歳の第2子は夫によくなついており,その近所には実姉や兄夫婦が住み第2子の監護に協力している。一方,11歳半の第1子は妻の実家の家族によくなついている。原判決は子らの親権者をいずれも妻と指定した。
[判決の概要]離婚に際して子の親権者を指定する場合,特に低年齢の子どもの身上監護は一般的には母親に委ねることが適当であることが少なくないし,前記認定のような夫側の環境は,監護の条件そのものとしては,妻側の環境に比し弱点があることは否めないところであるが,夫は,前記認定のとおり,昭和53年8月以降の別居以前にも,妻の不在中,4歳前後のころの次男を約8カ月間養育したこともあって,現在と同様な条件の下で次男と過ごした期間が長く,同人も夫によくなついていることがうかがえる上,長男についても,次男についても,いずれもその現在の生活環境,監護状況の下において不適応を来たしたり,格別不都合な状況が生じているような形跡は認められないことに照らすと,現在の時点において,それぞれの現状における監護状態を変更することはいずれも適当でないと考えられるから,長男の親権者は妻,次男の親権者は夫と定めるのが相当である。
[ひとこと]審理が長引くほど監護の実績が優先される現実は否めない。

1−1978.11.2
現在は母に収入はないが保母の資格を有し,母方の祖父からの援助と父(夫)からの婚姻費用分担金により母が5歳と6歳の2子を育てている事案で,経済的条件は他の事情に劣後するものであり,総合的には母が監護する方が子に利益をもたらすとし,経済的条件は父親が相応の養育費を負担し支払うことで,ある程度解決できる問題であるとした例
[裁判所]東京高裁
[年月日]1978(昭和53)年11月2日判決
[出典] 判タ380号150頁

1−1970.12.25
幼児期においては,兄弟が生活をともにすることによってお互いに得る経験は人格形成上得がたい価値があり,分離して養育すべきではないとして,1歳と3歳の子両名につき母を親権者としたもの
[裁判所]仙台家裁
[年月日]1970(昭和45)年12月25日審判
[出典] 家月23巻8号45頁
[ひとこと] 実際には母親優先の基準がはたらき,きょうだい不分離の結果になったという面もある。

1−1965.10.7
乳幼児につき、母親を優先した例
[裁判所]静岡家裁沼津支店
[年月日]1965(昭和40)10月7日審判
[出典] 家月18巻3号81頁
[判決の概要] (乳幼児については)母が監護養育するのを不適当とする特段の事情のない限り,母を親権者と定め,監護養育させることが子の福祉に適合するものと考えられる。なぜならば,子の幼児期における生育には,母の愛情と監護が,父のそれにもまして不可欠であるからである

1−1981.5.26
8歳男児につき母親を親権者とした原判決を取り消し、現状を尊重し父を親権者とした
[裁判所]東京高裁
[年月日]1981(平成56)年5月26日判決
[出典]判時1009号67頁
 
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