判例
1  離婚原因
1-1 有責配偶者からの離婚請求
1−1−2004.8.26 離婚請求控訴事件(福岡)
 有責配偶者からの離婚請求が認められなかった事例
[裁判所]福岡高裁
[年月日]2004(平成16)年8月26日判決
[出典]家事月報58巻1号90頁
[事実の概要]
夫A(55歳)と妻B(54歳)は、昭和48年に婚姻した夫婦であり,二人の間には子が2人(男・女)がいる。AとBは,Aが平成6年6月に転勤のため単身赴任して以来,別居生活が継続している。Aは,同年8月頃にCと男女関係を有するに至り,同年11月頃にBに対し離婚を申し入れた。AはCと同居せず月に1回程度それぞれの家を行き来していた。Bはパート勤務で1ヶ月の収入が約7万円であり,原告から受け取る1ヶ月20万円(毎年7月と12月に各30万円を加算)の婚姻費用によって生活を維持していた。AはBに対して平成12年に離婚訴訟を提起したが,有責配偶者からの離婚請求であって信義則に反するとして請求は棄却された。Aは子が成人したことを契機に平成14年に再度離婚訴訟を提起した。Aは,離婚給付額800万円のほか子の学費や養育費の負担を申し出たが,原審ではAの離婚請求が棄却されたため,Aが控訴した。
[控訴人の請求]
前訴は請求が棄却されたが,事情の変化により,控訴人の請求を認容することが著しく社会正義に反するとはいえないとして,原判決を取り消し離婚することを請求
[判決の概要]
有責配偶者である夫からの離婚請求事件の控訴審において、夫婦の別居期間が約9年余であるのに対し、同居期間が約21年間に及ぶことや双方の年齢等も考慮すると、別居期間が相当の長期間に及ぶとまで評価することは困難であること、夫とその交際相手との間に子がいないことに加え、その交際の実態に照らすと、夫と交際相手との間の新たな婚姻関係を形成させなければならないような緊急の要請もないこと、他方、妻は、離婚によってたちまち経済的に困窮する事態に追い込まれることが容易に予測されることなどの事実関係の下においては、夫による離婚請求は、信義誠実の原則に照らし、なお容認することはできないとして、離婚請求を棄却した原判決を維持した。
[ひとこと]
「妻が夫の帰るのを待ち続けているのはいささか非現実的で当事者双方の再出発という観点からは疑問なしとしない」とまで判決理由中で述べながら請求棄却したのは、離婚後の妻の生活の見込みがたたないことにつきるようである。
 
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