判例
1  離婚原因
1-1 有責配偶者からの離婚請求
1−1−2010.11.26 離婚等請求控訴事件(高松)
重度の障がいを負う成人の子の介護をしなければならないことなどを理由に、有責配偶者からの離婚請求が信義則に反して許されないとされた事例
[裁判所]高松高裁
[年月日]2010(平成22)年11月26日判決
[出典]判タ1370号199頁
[事実の概要]
夫X(医師)と妻Yは1984(昭59)年に婚姻、控訴審結審時に別居期間7年5ヶ月、娘Aは25歳である。Aには重度の障がいがあり、Yが24時間介護にあたっている。従前、YとYの母が介護を行ってきたが、Yの母は老齢になり今後も介護を続けるのは困難である。破綻の原因はXの不貞行為にあり、Xは有責配偶者である。
XはYに対し、離婚の条件として、現在の自宅の無償使用の継続(所有権は、Xが理事長である団体)、月額43万円の送金の継続等を申し出ている。
[判決の概要]
「被控訴人と控訴人との間には、成人ではあるものの、複数の障害により24時間の付添介護が必要である秋子が存在しており、秋子はその状況からすれば、上記未成熟子あるいはこれに準じるものというべきである。・・・・・・秋子の介護は、これまで控訴人とその実母によって行われてきたところ、同人自身が高齢になってきており、近い将来、これまでと同様に秋子の介護を行うことが困難になることが予想され、介護士等の第三者に賃金を支払って秋子の介護を行わなければならない事態も多分に想定されることからすると、従前の婚姻費用額よりも多額の生活費が必要になることも考えられるところである。また、被控訴人の提案が信用できるものであるとしても、時の経過によって、控訴人と被控訴人及び秋子を取り巻く環境の変化が生じ得ることや、被控訴人の提案内容について永続的にその実現を保障する手だては講じられていないことを考慮すると、被控訴人が、離婚後も秋子の父親として扶養する義務を負うとしても、将来的に被控訴人と控訴人の離婚により、控訴人が経済的に過酷な状況に置かれる可能性を否定することはできない。
また、精神的な影響についてみると、被控訴人の不貞行為により、見知らぬ土地で、重い障害を抱えた秋子の介護に明け暮れながら築いた家庭を失うことになった控訴人の精神的な苦痛は察するに余りある上、離婚後、被控訴人は、乙川と婚姻して新家庭を築くことを考えていることからすると、被控訴人が離婚後も秋子の父親であることは変わりがないとしても、控訴人において、被控訴人に対し、秋子の介護についてこれまでと同様に負担を求めることが事実上困難になることも考えられるところであって、さらに、上記のとおり、現在、控訴人とともに秋子の介護を行っている控訴人の母の協力が、近い将来に得られなくなることが予想されること等の事情に鑑みれば、控訴人は、離婚によって、秋子の介護に関する実質的な負担を一人で抱え込むことになりかねず、離婚によって精神的に過酷な状況に置かれることも想定されるところである。
以上の、諸点を総合的に考慮すると、被控訴人の本件離婚請求は、未だ信義誠実の原則に反しないものということはできず、これを棄却するべきものである。」として、離婚を認容した原審判決を取り消して、離婚請求を棄却した。
[ひとこと]
成人はしても重度の障がいを持つ子につき、「未成熟子あるいはこれに順ずるもの」とし、将来の介護の重さやYの重責を考慮し、有責配偶者からの離婚請求につき、信義則違背の有無につき、高裁は慎重な判断をした。別居期間がさらに長くなった場合には、また違う判断がありえるかとは思われる。
 
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