判例
1  離婚原因
1-1 有責配偶者からの離婚請求
1−1−2014.6.12 離婚等請求控訴事件
2人の未成熟子がいる妻からの離婚請求について、有責配偶者からの離婚請求であるとしてこれを棄却した原判決を取り消し、請求を認容した事例
[東京高裁2014(平成26)年6月12日判決 判時2237号47頁]
[事実の概要]
妻(フランス国籍)と夫(日本国籍)は日本の方式により婚姻し、2子をもうけた後、妻が子らを連れて別居した。
妻は、夫に対し、婚姻を継続しがたい重大な事由があるとして離婚を求めたが、原審は、本件の離婚の準拠法は日本法であるとした上で、@別居期間が1年半余りにすぎず、妻がその行動を改めさえすれば夫婦関係は修復される可能性があるから、婚姻関係は未だ破綻していない、A仮に、現段階において婚姻関係が破綻しているとしても、その原因は妻が他の男性との生活を望んだためで、妻は有責配偶者であるから、妻からの離婚請求は信義誠実の原則に反し許されない、として妻の請求を棄却した(横浜家判2013(平成25)年12月24日)。
[判決の概要]
原判決を取り消し、妻からの離婚請求等を認容した。
@「婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき」(民法770条1項5号)
もともとは夫が、妻が夫の言うことを聞かないとして離婚を切り出したものであり、しかも、妻に夫の言うことを聞かせようとして、妻の携帯電話やメールを使えないようにしたり、クレジットカードをキャンセルしたりしたために、妻は夫に対する信頼を失い、夫婦としての亀裂が決定的なものになったと考えられること、妻が夫と別居後、離婚調停を申し立てたことから、夫も妻に対して自宅に立ち入らないよう申し渡し、妻に対して家の鍵を返すよう要求した上、妻が残した物を全て廃棄すると通告しただけでなく、妻が交際相手の家から出てくるのを待ち構え、暴力沙汰となって警察官が臨場する騒ぎになったこと、その後現在に至るまで、妻も夫も夫婦としての関係を修復するための具体的な行動は何も取っておらず、かえって夫においても、妻の自宅への立ち入りを拒絶し、離婚に備えて未成年者らとの関係を維持するためのフランスのビザ取得の方法や内容を相談するなどして、妻との婚姻関係の破綻を前提とする行動を取っていること等からすれば、婚姻関係は破綻していたものと認めるのが相当である。
A有責配偶者である妻からの離婚請求
「有責配偶者からの離婚請求が否定されてきた実質的な理由の一つには、一家の収入を支えている夫が妻以外に女性と不倫や不貞の関係に及んで別居状態となり、そのような身勝手な夫からの離婚請求をそのまま認めてしまうことは、残された妻子が安定的な収入を断たれて経済的に不安定な状態に追い込まれてしまい、著しく社会正義に反する結果となるため、そのような事態を回避するという目的があったものと解されるから、仮に、形式的には有責配偶者からの離婚請求であっても、実質的にそのような著しく社会正義に反するような結果がもたらされる場合でなければ、その離婚請求をどうしても否定しなければならないものではない」。
本件では、婚姻関係が破綻した責任の一端が夫にもあることは明らかである。そして、妻と夫の間には、現在6歳の長男と4歳の長女がいるが、妻による養育監護の状況等に特に問題もないことを考慮すれば、離婚請求を認容したとしても、未成年者の福祉が殊更害されるものとは認めがたい。また、夫は、もともと妻との離婚を求めていた経緯があるだけではなく、平成25年度において約961万円の年収があり、本件離婚請求を認めたとしても、精神的・社会的・経済的に著しく不利益な状態に立ち至るわけでもない。そうすると、「確かに、形式的には有責配偶者からの離婚請求ではあるものの・・・社会正義に照らして到底許容することができないというものではなく、夫婦としての信義則に反するものではない」。
[ひとこと]
最大判昭和62年9月2日(民集41・6・1423)及びその後の裁判例の集積によれば、別居期間も短く、未成熟子がいる本件においては、有責配偶者からの離婚請求として離婚は認められないとの結論になりそうである。原判決も、同様の立場に立っていた。
しかし、本判決は、上記の大法廷判決を引用しつつ、これまで有責配偶者からの離婚請求が否定されてきた実質的な理由に着目して、有責配偶者である妻からの離婚請求を認容したものであり、実務上非常に注目すべき裁判例である。
 
TOP BACK