判例
1  離婚原因
1-1 有責配偶者からの離婚請求
1−1−2018.12.5 離婚等請求控訴事件
別居期間が7年以上あり、話し合いを一切拒否してきた夫からの離婚請求につき、有責配偶者に準ずるような立場にあり信義則に反するとして棄却した例
[東京高裁2018(平成30)年12月5日判決 判タ1461号126頁]
[事実の概要]
夫婦は平成5年に婚姻し、長女(平成9年生、判決時21歳)、二女(同15年生、判決時15歳)、夫の実父の5人で暮らしていたが、平成23年に夫は仕事の事情を理由に単身赴任を開始した。平成23年、夫は突然離婚を切り出し、要介護の父の世話を妻に任せたまま、妻との接触を一切拒否するようになった。以来、高裁判決まで7年が経過した。夫は自身の弁護士を通じてのみ連絡をとり、子らとも実父とも会わず、婚姻費用は支払った。平成25年に遠方に転勤したがその事実も一切知らせなかった。妻は父と子の世話をしながら夫の帰りを待った。夫の父も夫に連絡を取ろうとしたが夫は無視した。夫の父は、夫の了解をえずに、妻に金銭を贈与し、妻と養子縁組をし、生命保険の受取人を夫から子らに変更し、平成28年に死亡した。
一審判決(東京家判平成30年6月20日)は、離婚を認容した。妻が控訴した。本人訴訟である。
[判決の概要]
「婚姻を継続し難い重大な事由(話し合いを一切拒絶する第1審原告による、妻、子ら、病親を一方的に放置したままの7年以上の別居)の発生原因は、専ら第1審原告の側にあることは明らかである。他方、第1審被告は、非常に強い婚姻継続意思を有し続けており、第1審原告に対しては自宅に戻って二女と同居してほしいという感情を抱いている。離婚を認めた場合には、第1審原告の婚姻費用分担義務が消滅する。専業主婦として婚姻し、職業経験に乏しいまま加齢して収入獲得能力が減衰し、第1審原告の不在という環境下で亡○○(第一審原告の父を指す)及び子2人の面倒を一人でみてきたことを原因とする肉体的精神的負担によるとみられる健康状態の悪化に直面している第1審被告は、離婚を認めた場合には、第1審原告の婚姻費用分担義務の消滅と財産分与を原因として新田のマンションという居住環境を失うことにより、精神的苦境及び経済的窮境に陥るものと認められる。二女もまた高校生であり、第1審原告が相応の養育費を負担したとしても、第1審被告が精神的苦境及び経済的窮境に陥ることに伴い、二女の監護・教育・福祉に悪影響が及ぶことは必至である。他方、これらの第1審被告及び二女に与える悪影響を、時の経過が軽減ないし解消するような状況は、みられない。第1審原告は、婚姻関係の危機を作出したという点において、有責配偶者に準ずるような立場にあるという点も考慮すべきである。…以上の点を総合すると、本件離婚請求を認容して第1審原告を婚姻費用分担義務から解放することは正義に反するものであり、第1審原告の離婚請求は信義誠実の原則に反するものとして許されない。第1審原告は、今後も引き続き第1審被告に対する婚姻費用分担義務を負い、将来の退職金や年金の一部も婚姻費用の原資として第1審被告に給付していくべきであって、同居、協力の義務も果たしていくべきである。」
なお、夫の父と妻との養子縁組が夫の同意なく行われたこと、生命保険の受取人が夫から子らに変更されたこと、妻が夫の父から贈与を受けたことは、妻側の信義則違反の事情として評価できないとしている。こうした夫の父の援助をいれても離婚後の妻や子に経済的困難があると判断したと思われる。
[ひとこと]
有責配偶者に「準ずる」として離婚請求を棄却した判決は珍しい。ただし、破綻の「発生原因は専ら第一審原告にある」とも述べているので、有責配偶者からの離婚請求の一例といえる。悪意の遺棄にも該当しうると思われる。被告側は本人訴訟であるためか、有責配偶者からの離婚請求であり信義則違反であるとの抗弁を出せていないが、信義則違反を基礎づける事実の主張があれば、裁判所が信義則を適用することは弁論主義に反しないとされている。離婚を請求する側の代理人のとるべき対応についても、教訓をもたらす判決である。
 
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