判例
2−2−2015.2.20
原告(元夫)からの親子関係断絶の長期化等についての慰謝料請求が棄却され、被告(元妻)からのDV等についての慰謝料請求の一部が認容された事例
[東京地裁2015(平成27)年2月20日判決 LEX/DB25523778]
[事実の概要]
原告(元夫)と被告(元妻)は、1997年に婚姻し、1998年に長女を、2001年に二女を、2004年に長男をもうけたが、不和になり、2009年諍いを直接の原因として別居した。諍いの際に臨場した警察官の通告により、子らは児童相談所に一時保護された。同年元妻が申し立てた元妻への接近禁止命令は発令されたが、子らへの接近禁止命令の申立ては却下された。元妻への接近禁止命令について元夫が抗告したが、東京高裁は抗告を棄却した。
2010年10月、元夫と元妻は、離婚、長女・二女の親権者を元妻、長男の親権者を元夫、子らの監護者を元妻とすること、元妻は元夫と子らについて月2回以上(うち1回は宿泊付き)の面会交流を認めること等を内容とする調停を成立させた。
裁判所(保護命令か夫婦関係調整調停か判決文中不明である)に元妻が子らが元妻にあてた手紙を提出したことを契機に、2009年9月、元夫は児童相談所との間で、元妻に秘して、元夫又は元妻は子らとの面会、文通、電話等による連絡を当分の間行わないことが元夫と元妻の共通認識である旨の記載等がある確認書を交わした。元夫と元妻は4ヶ月以上子らに面会できず、その後も子らが児童養護施設を退所するまでの間も、元夫と元妻が合意した内容に沿って月1回1時間の面会ができただけであった。
子らは、調停成立後の2010年11月、養護施設を退所し、元妻と同居することになった。
子らと元夫は、2010年11月、日帰りの面会を行い、2011年7月から2012年11月までの間、月1回ないし2か月に1回程度面会した。
元夫は、2011年11月に再婚し、2012年三女をもうけた。2013年、英国へ転勤した。
元夫と元妻はそれぞれ2012年ころ、調停のうち面会交流に係る部分の変更を申立てた。東京家庭裁判所は、元夫の英国赴任を踏まえて、長女及び二女については手紙のやりとりを、長男については手紙及び電話のやりとりを行う等の形の面会交流を定めた。元夫はこれに抗告をしたが、棄却された。
[判決の概要]
争点1 被告の行為が不法行為を構成するか。
1 極めて良好であった親子関係の一方的な破壊について
原告・反訴被告(元夫、以下原告)は被告・反訴原告(元妻、以下被告)を投げ飛ばして頭部外傷の傷害を負わせ、二女を放り投げ左耳後部打僕の傷害を負わせ、長女にも平手打ちして鼻血を出させ右耳介打撲の傷害を負わせるなどした。子への接近禁止命令が却下されたのは、子らが児童相談所に保護されていることを斟酌されたものであり、被告が申立てを認容されないと認識しながら申し立てたとはいえない。また、児童相談所への入所にまで至ったのも、原被告間で子らの監護にかかる対立の先鋭化が児童相談所にも明らかになったことによるものであり、被告のみに責任があったとはいえない。
2 親子関係断絶の長期化
被告が児童養護施設に入所することになった子らを思いやり、子らのためにも復縁に向けた努力をしていたのであり、原告との復縁を諦めたのも、子らの原告の言動に接して復縁が子らのためにならないと判断したことによるものであり、被告のその判断はやむを得なかった。よって、被告が夫婦関係調整に至る過程等をいたずらに混乱させたとはいえない。よって、この点の被告の一連の行為も不法行為とはいえない。
3 不当な面会制限について
原告が、被告が面会を不当に制限していると一方的に判断し、被告及び被告代理人に大量かつ大部のメールを送り、この一部を長女の携帯電話にも送ったりしたこと、子らに直接養育費を渡すようになり、被告がやめるよう告げてもやめなかったこと、原告が再婚後将来子らを引き取る可能性があるとして学校や面会場所に再婚相手を連れて行ったこと等を認めた上で、原告は自らの意向のみを優先させ、子らの心情を配慮することなく面会を行っていたとした。原告が望むような面会ができないのは、子らが原告から配慮されていないと思う状況を原告がつくったことに原因がある。よって、被告が遵守するつもりもないのに調停を成立させたとか、調停の条項を無視して子らと面会を認めなかったということはできない。
4 親権の不当な妨害について
教育に関する事項は監護と密接不可分のものであり監護権の対象になる事項であり、被告が長男を一時期幼稚園に通わせなかったことは、親権の不当な妨害とはいえない。原告の姓を長男に使用させたことも、監護権の範囲内の事柄である。また、被告が長男を一時期幼稚園に通わせなかったのは、原告が長男に原告の姓を使うことに固執したためである。
以上によれば、原告の請求(請求額1,200万円)には理由がない。

争点2 原告の行為が不法行為を構成するか
1 原告の暴力、精神的DV、経済的DVについて
原告の被告に対する2回に渡る暴行を不法行為と認めた。長女、二女に対する暴力は、被告に対する不法行為と認めることはできない。
2 面会交流権の侵害について
被告は、原告が警察官に被告が子らを虐待したと告げたこと、被告に秘して児童相談所と合意書を交わしたこと等から、被告と子らの面会交流を侵害したと主張したが、警察が通告したのは総合的に判断したもので、原告の説明にのみよるものではない。調停において原告が様々な要望をしたことは、紛争の一回的解決を図ることが望ましいことから、社会的相当性を欠くとまではいえない。被告と子らの面会交流権が侵害されたとの主張を退けた。
3 名誉毀損、プライバシー侵害、平穏な生活の妨害について
原告は、親権者であること等に固執し、抽象的な言葉を並べ立て、被告と被告代理人に対し、長男を被告の姓で幼稚園に通わせたいという被告の意向を一顧だにしない大量かつ大部のメールを送り被告に対応を余儀なくさせたり、面会に関しても、被告が子らを虐待したとして児童相談所や警察に通報したなどと連絡をし、被告の不安感をあおり、平穏な生活を妨害した。
長男が小学校に入学する前後から、原告は、A小学校やB市教育委員会に対し、長男を原告姓で通学させることを求める書面を提出したが、その中には、被告の精神が不安定で子らの心身を危険にさらしているなどの記載があった。これらは、被告の社会的評価を低下させるに足りるものであり、小学校や教育委員会の構成員の目に触れる可能性が高いものであり、被告の平穏な生活を妨害するものであった。
よって、被告の行為は不法行為を構成する。
4 損害額 慰謝料70万円、弁護士費用10万円
以上より、原告の請求(慰謝料1,200万円)を棄却し、被告の請求(請求額880万円)のうち80万円の限度で認容し、その余を棄却した。
 
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