【宗教活動と離婚】 　最近、夫婦の一方の宗教活動を原因とする離婚請求についての判例が増えている。夫婦であっても互いに信仰の自由は尊重しなければならないが、過度の宗教活動は離婚原因となるとされている。 　これらの事案での破綻の認定は困難であり、一審と控訴審で判断が分かれるケースが多く、判例(5)に見られるように一審では破綻に至っていないと認定されたが、控訴審判決までに相手が全く愛情を失っていることを明確に知り、離婚を決意したというケースもある。 (1)　離婚が認められなかったケース （東京地判平5･9･17判タ872号273頁） 類似判例： （名古屋高判平3･11･27判タ789号219頁） 　妻Bの宗教活動により婚姻が破綻したとして夫Aから離婚請求が提起されたケース。Bの宗教活動はAの意思を軽視または無視し、AのBに対する信頼を失わせた側面があるが、Bの宗教活動それ自体は家庭生活に特に障害となるものではなかったとして、AがBの信仰にもう少し寛容になり、Bも信仰・宗教活動を自制すれば、別居期間はまだ2年に満たず、関係修復の可能性はあるとして、離婚請求を棄却した。 (2)　端的に破綻を認定するケース （東京地判平9･10･23判タ995号234頁） 類似判例： （東京高判平2･4･25判時1351号61頁） （広島地判平5･6･28判タ873号240頁） 　妻Bの宗教活動を巡る夫婦の対立により婚姻関係が破綻したとして夫Aから離婚が請求されたケース。夫婦間の亀裂や対立は既に10数年にわたり、今後どちらか一方が共同生活維持のため、相手方のために譲歩することは期待できないとして、婚姻が継続しがたいまでに破綻しているとした。また、双方の譲歩が期待できない場合にはいずれか一方のみが有責であるとはいえず、このような場合に離婚請求を排斥して、婚姻生活を継続させるとすることは、今度は、Aについて自己の信仰しない宗教との同調を求めることになるのであって相当でないとする。 (3)　破綻の認定が地裁と高裁で分かれたケース （第一審　大阪地判平2･5･14判時1367号78頁） （控訴審　大阪高判平2･12･14判時1384号55頁） 　妻Bが宗教を信仰するようになり、集会に参加し、祖先祭祀等も行わないため、夫Aは次第にBの態度に嫌悪感を募らせ、すでに7年間別居している事案で、AからBに対し離婚請求が提起されたケース。第一審は、Bは宗教活動について、日常の家事や子どもの養育には支障がないように相応の配慮しており、Aの方でもBの信仰の自由を尊重する寛容さを持つべきであるとして、婚姻関係を修復する余地があるとして、Aの離婚請求を棄却した。これに対し控訴審は、Bには自己の宗教活動を自粛しようとの気持ちは全くなく、仮にAとBが同居を再開したとしても、Bが現に行っている宗教活動の状況からすれば日常の家事や子どもの養育に相当の支障が出てくるのは必至であり、Aがこれを受け入れるとは期待できないこと、別居期間が既に8年に及んでいることを考慮して、婚姻関係は完全に破綻しているとした。 (4)　破綻の認定が地裁と高裁で分かれたケース （名古屋高判平10･3･11判時1725号144頁） 　夫Aの妻Bが宗教に入信し、その活動に没頭するため、婚姻生活の継続が困難になったとしてAから離婚が請求されたケース。原審では、Aは宗教に対する強い嫌悪感はあるが、Bに対する情愛を未だ失っておらず、互いに譲歩すれば婚姻は回復の見込みがあるとして請求が棄却されたが、その後、BはAが自己に対し愛情を全く持っていないことを明確に知り、離婚に応じることを決心したとして、控訴審ではAの離婚請求が認められた。