判例
【老人性痴呆等と離婚】
 老人性痴呆などを理由として離婚が請求されたケースがある。この事件では民法770条1項5号によって離婚が認められたが、このような場合にもある程度の将来の生活の見込みを確保する必要がある。類似の事案に老人性痴呆ではないが、脳腫瘍を原因とする植物状態にある妻の後見監督人に対して、夫が離婚を求めた横浜地横須賀支判平5・12・21判時1501号129頁がある。

老人性痴呆を患った妻に対する夫からの離婚請求が認められた事案
(長野地判平2・9・17判時1366号111頁)

〔事案の概要〕
 夫(判決時42歳)と妻(判決時59歳)は、昭和45年に婚姻し、二人の間に子どもはない。妻は昭和56年頃から、就寝中に失禁したり、自宅が分からなくなったりし始め、昭和58年にアルツハイマー病とパーキンソン病に罹患していると診断された。その後症状は悪化し、ほぼ寝たきりとなり、通常の会話もできなくなった。このため、夫は家事全般のほか、妻のおむつの取り換え、入浴等の世話をしていたが、一人では妻の世話が困難になったため、夫の実家に転居し、転職して妻の介護にあたった。その後、見かねた民生委員の努力により、妻は特別養護老人ホームに入所し、介護を受けており、離婚後には入所費用は全額公費負担となる。現在妻の痴呆の程度は重度で回復の見込みはないと診断されており、原告が夫であることもわからない状態である。このような事案において、夫が離婚を求めた。

〔判決の概要〕
 原告と妻の婚姻関係は、妻がアルツハイマー病とパーキンソン病に罹患し、長期間に亘り夫婦間の協力義務を全く果たせないでいることなどによって破綻していることが明らかであり、妻の将来の生活に対する手当等の事実を考え合わせると、原告の民法770条1項5号に基づく離婚請求はこれを認容するのが相当である。(なお、妻の罹患している病気の性質および妻に対する精神鑑定が禁治産宣告の申立事件のためになされたものであることなどの理由により、本件の場合が、民法770条1項4号に該当するか否かについては疑問が残るので、同号による離婚請求は認容し難い。)
 
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