【熟年離婚】 　最近の離婚の傾向として、長年連れ添ったいわゆる熟年夫婦の離婚が目立つ。有責配偶者からの離婚請求でなければ、破綻していると認められれば離婚は認容されるが、判例の中には破綻の認定に慎重な態度を採るものがある。離婚が認められるケースでは、離婚給付として退職金や年金が問題となってくる。 (1)　離婚が認められなかった例 （名古屋地判平3･9･20判時1409号97頁） 　婚姻生活約30年の熟年夫婦の離婚について、子どもが独立した現在夫婦は老後を迎えるべく転換期に来ているといえ、夫が反省すべき点を改めれば、婚姻生活の継続は可能であるとして民法770条2項を適用して妻からの離婚請求が棄却されたケース。（なお、控訴審で和解して協議離婚が成立し、夫から慰謝料も支払われた） [コメント] 　夫について、家庭を顧みることが少なく、怒鳴ったり暴力をふるったことがあったことも事実認定されており、請求棄却は妻に酷な印象がある。裁判所の家庭内暴力に対する理解がまだ不十分だったかもしれない。 (2)　長年会社人間的な生活をしてきた夫の定年退職後に妻が離婚を求め認められた例 （横浜地相模原支判平11・7･30判時1708号142頁） 〔事案の概要〕 　妻Aと夫Bは昭和35年に婚姻し、二児（すでに成人）をもうけ、婚姻生活は約40年に及んでいる。Bは長年会社員として勤務し、家庭での仕事を全面的にAに任せ、会社での仕事に全力を注いだ。婚姻期間中、妻は次々に病気に罹患して手術を受け、次第に体力が衰え、身体的障害もあったが、Bはこのことについてあまり配慮をしなかった。長男が婚姻し独立した後の平成4年、夫婦は寝室と食事を別にするように成り、夫が平成7年に定年退職したのち、Aは離婚を考えるようになり、平成9年8月からは、食事の支度も拒否し、同年10月から長女の下に身を寄せ、別居している。 　妻は、妻にとって夫との婚姻生活は、自身の感情や望みは押し殺して、趣味を楽しむことも許されず、ひたすら夫の意を迎えることのみに心を砕く生活であり、子どもが一人前になるまでは必死で我慢してきたが、夫の思いやりのなさに耐えられず、婚姻生活を継続する意思を喪失したと主張し、離婚を請求した。 〔判決の概要〕 　夫は、自分は会社の仕事に全力を注ぐから、妻は家庭でそれを支えるべきである、これは普通の考えであるとして妻に接し、これに応じた妻の行動を求めてきたものであるところ、妻はそのような考えを当然と受け入れることができず、夫の考えに基づく行動に同調できず、特に幾度となく入院手術を受けることで体力が衰え、障害を抱えた身体では家事を十分にこなすこともできないと思うようになり、またそのような、妻の状態に十分な配慮をしてくれない夫と共に暮らしていく意思を失ってしまったものである。また、家庭内別居が始まってから7年、妻が自宅を出て別居してから2年近くが経過している。 　現時点において、妻は夫との婚姻継続意思を完全に喪失しているといわざるをえず、今後夫婦関係が修復する見込みはなく、もはや原告と被告との婚姻を継続しがたい事情があるというほかない。 　清算的財産分与(4000万円)、離婚慰謝料(200万円)のほか、扶養的財産分与として、今後夫の受領する年金のうち妻の受領額との差額の4割相当額について夫から妻に支払わせることが相当であるとして、妻の死亡まで月額16万円の支払を命じた。 (3)　離婚を認めなかったケース。(2)の控訴審判決。 （東京高判平13･1･18判タ1060号240頁） 〔判決の概要〕 　妻が主張するように夫との婚姻生活が当初から苦しいことのみであったとは認めがたいこと、夫に特に婚姻関係を破綻させるような行為があったわけではないこと、妻が自らの置かれている立場や老後の生活について適切な判断ができていないふしがあること、夫が年齢などを理由に離婚は避けるべきであるとして、婚姻関係の継続を強く望んでいること、離婚には夫との確執がある長女の意向が強くかかわっていること等を考慮して、現段階で婚姻関係が完全に破綻しているとまで認めるのは相当でないとした。 　なお、本判決は、夫は相応の社会的経験を有し、社会の良識に従った対応が期待できるものと思われ、この訴訟の結果を受けて、今一度和合のための努力が試みられるべきであり、それでも、なお、関係の修復が図れず、いずれかが離婚を選択したいと考える場合は、その段階で、再度、離婚の当否について検討するという道筋をとるべきである、と付け加えている。 〔コメント〕 　熟年離婚に慎重な裁判所の態度がうかがえるが、事実認定をみても妻には酷な判断か。