判例
【その他】

・妻が夫の暴力を避けるため別居した場合において、夫からの離婚請求について、婚姻を継続し難い重大な事由があるとはいえないとして離婚請求を棄却した例
(東京地判98(平10)年1月30日、判タ1015号232頁)

・年間数えるほどしか掃除をしない、火災が怖くてストーブをつけられない、年収が6〜700万円なのに子供の習い事に年額400万円以上当てるなどの非常識な妻の行動で結婚生活が維持できないとして夫から請求した離婚が認められ、妻に200万円の賠償を命じた例。
(大阪地判平成13年7月5日 法学教室252号175頁)

1−7−2017.6.28
控訴人(妻)主張の事実は夫婦間で日常的に生じ得る不満であるとして離婚請求を棄却した原判決を取り消し、夫婦のいずれかに一方的に非があるというわけではないが両者の諍いは夫婦喧嘩の範疇に留まるものではないとして、離婚請求を認容した事例
[東京高等裁判所2017年(平29)年6月28日判決 家庭の法と裁判14号70頁]
[事実の概要]
妻は9歳上の職場の先輩である夫と2004年に結婚し、長女(2006年生)と長男(2008年生)を出産した。長女出産前と長男出産後の2回流産を経験したが、その際の悲しみや罪悪感を夫と共有できず、孤独を感じた。また、長女と長男の妊娠中悪阻に苦しんだが、夫にはその苦しみが伝わらなかった。育児のつらさを訴えても、夫は理解を示さず、また家計をめぐり口論になった際には、「お前に稼げるのか。稼げもしないくせに」等と述べることがあった。看護学校に入学した妻が、夫に家事の負担を求めても、夫は「結婚する際に家事は一切しないと言ってある」などと言い、分担しなかった上、妻の作った食事に対する不満をカレンダーに書き込むようになった。2014年、長女の発言を契機に、妻は夫婦の不仲が子どもにも悪影響を及ぼしていると感じ、離婚を決意し、子らを連れて別居した。
原審は、妻の離婚請求を棄却した。妻は控訴した。なお控訴審において、妻は養育費及び財産分与の附帯処分の申立てを取り下げ、夫は取り下げに同意した。
[判決の概要]
被控訴人(夫)は両者間の諍いを夫婦喧嘩に過ぎず、離婚原因は存在しないと主張したが、判決は、以下の通り、双方で夫婦の役割等に関する見解を克服でないまま、控訴人は離婚意思を強固にし、その意思に翻意の可能性はなく、このような事情に照らすと、夫婦喧嘩という範疇に留まるものではなく、離婚原因を形成するとした。
・被控訴人が控訴人の心情に思いが至らず、夫婦の役割分担を変更する必要を認めずに、被控訴人と控訴人の気持ちがすれ違うようになった。
・被控訴人が控訴人の不在中に子らを厳しく叱るなどが続き、控訴人が婚姻関係の継続は子らにも良くないと思って別居するに至り、別居期間が3年5ヶ月以上に及んでいる(同居期間は約10年)。
・別居期間中、復縁に向けた具体的な動きはない。
「控訴人・被控訴人のいずれかに一方的な非があるというわけではないが」、婚姻関係は破綻しているとして、原判決を破棄し、離婚請求を認容した上、未成年者らの親権者を控訴人に指定した。
[ひとこと]
妻は夫によるモラルハラスメントを主張したと捉えられるが、原判決のみならず本判決でも「一方的な非があるというわけではない」としており、また、『家庭の法と裁判』14(70頁)の解説でも、夫の言動の「一つ一つを取り上げると、さほど特異なものではなく、夫婦の一方に明確な有責性がない」、「破綻を認定するには微妙なケース」と評価しており、モラルハラスメントを原因とした離婚請求の困難をうかがわせる。
本件では、妻が控訴審において附帯処分(養育費、財産分与)を取り下げているが、上記『家庭の法と裁判』の解説では、「それ自体、離婚意思の強さを窺わせるものである」としているが、附帯処分の申立てを取り下げることが離婚意思の強さを示すことにはならないだろう。上記解説も述べるとおり、養育費の請求の取り下げは未成年者らの福祉を考えると疑問が残る。

1−7−2016.5.25
別居期間4年10か月余りで婚姻関係の破たんを認め離婚請求を認容した事例
[東京高裁2016(平成28)年5月25日判決 判タ1432号97頁、家庭の法と裁判9号90頁]
[事実の概要]
控訴人妻と被控訴人夫は、2002年に婚姻し、同年長男をもうけた。2006年ころ、夫が家探しを始めたが、妻は転居に消極的であった。結局、自宅を購入し転居することになったが、妻があまり動かないことに夫は苛立ち、口論となった。同年に自宅を転居した後、夫と妻の間で、掃除洗濯などをするしない、そのやり方などにつき、言い争いが増えた。妻は夫の帰宅時間が近づくと息苦しくなるようになり、2011年ころから神経科で受診し始めた。しかし、夫は妻の状況を深刻なものととらえなかった。2011年、長男が行方不明になり、妻は休みで家にいた夫に一緒に探してほしいと頼んだが、夫は具体的な行動をとることがなかった。妻は夫の対応に失望し、同月中に長男と共に自宅を出て、以後夫とは別居している。
別居後、妻は多少落ち着いたが、夫からメールが来ると辛くなるとして、継続的にカウンセリングを受け、全般性不安障害と診断された。
夫は、長男の出生後、おむつを換えたりミルクを飲ませたり、お風呂に入れたりし、休日などには遊び相手にもなって養育に関与してきた。保育園や学校行事には夫と妻は揃って出席した。夫は別居後長男と月1、2回面会交流をしていて、関係は良好である。
原審(東京家裁立川支部2015(平成27)年1月20日判決判タ1432号99頁)において、妻は、夫による暴言や暴力等により全般性不安障害に陥り、別居に至ったもので、婚姻関係が破たんしているとし、離婚及び離婚慰謝料等を求めた。しかし、原審は、妻の主張する事実は認められないか、「存在するとしても、性格・考え方の違いや感情・言葉の行き違いに端を発するもので、被告のみが責を負うものではない」、「同居期間が約10年に対し別居期間は約3年5ヶ月と短い」等と指摘して、離婚請求等をいずれも棄却した。
妻は慰謝料請求については控訴せず、離婚請求についてのみ控訴した。
[判決の概要]
1 離婚について
4年10月余りと別居期間は長期に渡っている。
被控訴人は修復の努力をすると供述するが、具体的な行動はうかがわれない。かえって、審判により命じられた婚姻費用分担金の支払いを十分にしない。
「別居期間(4年10月)が長期間に及んでおり、その間、被控訴人より修復に向けた具体的な働き掛けがあったことがうかがわれない上、控訴人の離婚意思は強固であり、被控訴人の修復意思が強いものであるとはいい難いことからすると、控訴人と被控訴人との婚姻関係は、既に破綻しており回復の見込みがないと認めるべき」である。
2 親権者の指定について
調査官報告書及び証拠から、長男の親権者を被控訴人と定めるのが相当である。
以上より、原判決中離婚請求に係る部分を取り消した上認容し、長男の親権者を被控訴人と定めた。

1−7−2009.10.7
離婚を求めた夫婦関係調整調停申立事件につき家事審判法24条による離婚の審判をした事例
[裁判所]福井家裁
[年月日]2009(平成21)年10月7日審判
[出典]家月62巻4号105頁
[事実の概要]
申立人A(妻)と相手方B(夫)は,婚姻したが,5年後にAが2人の間の子Cを連れて別居。別居後,Bとの行き来はなく,BからAに対して生活費やCの養育費が渡されることもなかった。別居開始後25年程経過し,AがBに対して離婚を求める夫婦関係調整調停を申し立てたが,Bは何の連絡もせず期日不出頭を繰り返し,家庭裁判所調査官の調査期日の呼出しにも応じず,同調査官の複数にわたる自宅訪問に対しても,応対しなかった。また,Aの複数の自宅訪問にも応対しなかった。
[判決の概要]
AとBの同居期間は約5年に過ぎないのに比して別居期間は約25年に及んでいること,別居期間中Bから生活費等の支援が為されたことはないことなどの事情から,AとBの婚姻を継続し難い重大な事由があることを認めた。そして,Bが正当な理由もなく調停への不出頭を繰り返し,誠実にAからの離婚の話合いに応じようとしないことも勘案し,家事審判法24条の調停に代わる審判によりAとBを離婚させるとした。
[ひとこと]
離婚につき家事審判法24条の調停に代わる審判がなされた珍しいケース。従前の経過からみれば、離婚審判が出てBから異議申立がなく確定することが十分予想される事案であり、提訴の負担を申立人に負わせるまでもなく審判することが望ましいと考えられたと思われる。

1−7−2008.4.8
別居から3年3か月の夫婦につき,妻のうつ病が治癒する等して婚姻関係が改善することも期待でき,未だ破綻しているとまではいえないとして,夫の請求を認容した原判決を破棄し,請求を棄却した事例
[裁判所]名古屋高裁
[年月日]2008(平成20)年4月8日判決
[出典]家月61巻2号240頁
[事実の概要]
平成14年に婚姻した夫婦の夫が,妻に対し,平成16年以降別居状態が継続していて,婚姻関係が破綻していると主張して,民法770条1項5号に基づき離婚を求めるとともに,長男の親権者を夫と定めることを求めた事案である。妻は,婚姻関係は破綻していない,仮に破綻していたとしても,嫁いびりにより精神的虐待を受け,夫に助力を求めても夫が理解を示さず,その結果,妻は抑うつ状態に陥って婚姻関係が悪化したものであり,婚姻関係破綻の責任は夫にあり,有責配偶者である夫からの離婚請求は許されない旨主張して,争った。
原審は,婚姻関係破綻を認めるとともに,婚姻関係破綻につき,夫に離婚請求が許されないほどの有責性があるとはいえなとして,夫の離婚請求を認容し,長男の親権者を妻とした。
妻は,不服として控訴した。なお,妻は,控訴審にて,予備的に附帯処分として財産分与を求める旨の反訴請求をした。
[判決の概要]
控訴人と被控訴人の婚姻関係は破綻に瀕しているといえるが,控訴人は,現在も婚姻関係を修復したいという真摯な気持ちを有していること,3年余りの同居期間中円満に婚姻生活が営まれていたことから,今後控訴人のうつ病が治癒し,あるいは控訴人の病状についての被控訴人の理解が深まれば,婚姻関係が改善することも期待できるとし,それらの事情を考慮すれば,婚姻関係はいまだ破綻しているとまではいえない。
[ひとこと]
同居3年余り,別居3年6月という事案で,夫にも「感情に流された行動」があり,夫が離婚原因と主張する妻の言動は,うつ病の影響を受けたものである可能性があるから,妻の治癒を待ち,夫に家族に向き合う機会を持たせるべきとし,破綻を認めなかった。

1−7−1986.12.22
婚姻の破綻を理由とする離婚の本訴、反訴が提起されている場合には、夫婦関係の内容に立ち入って判断するまでもなく、本訴、反訴の離婚請求をともに認容することができるとした事例
[裁判所]東京地裁
[年月日]1986(昭和61)年12月22日判決
[出典]判時1249号86頁
[事実の概要]
原告は、本訴において被告の不貞及び婚姻の破綻を理由に離婚を求め、被告は、反訴において婚姻の破綻を理由に離婚を求めていた。
[判決の概要]
「婚姻の破綻を理由とする離婚の点において双方の意思は一致しており、婚姻の継続が望めないことは明らかであるから、協議離婚制度を採用する法の趣旨に則って考えてみると、特段の事情のない限り、夫婦関係の内容に立ち入って判断するまでもなく、婚姻を継続し難い重大な事由があるものとして、本訴、反訴共に離婚請求を認容することができると解するのが相当である。」

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