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判例
4 別居中の生活費など

4−1 婚姻費用(生活費)
 夫婦は、その資産,収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する(民760条)。夫婦と未成熟子の生活費を意味する。
 具体的には、衣食住費のほかに、医療費、教育費、相当の娯楽費などを含む。
 具体的な額については、東京・大阪養育費等研究会による「簡易迅速な養育費等の算定を目指して―養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」(簡易算定表 判タ1111号285頁)によって、算定されている。ただし、特別な事情がある場合(私学の学費等)には、金額が修正されうる。


4−1−2015.8.13
@婚費の支払の始期につき、内容証明郵便をもって請求した時期とした例
A相手方が、申立人が居住する住宅のローン支払をしていることを特別の事情として考慮した例
B就学中の子ら(21歳及び19歳)の学費について、奨学金を得ていること等から、算定表によることができない特別の事情として考慮するのは相当ではないとした例
[東京家裁2015(平成27)年8月13日審判 家庭の法と裁判8号91頁、判タ1431号248頁]
[事実の概要]
夫婦は3人の子をもうけたが、2013年夫は一人で家を出て別居した。双方会社員であり、2014年の妻の給与は約364万円、夫の給与は約485万円である。長男は成人し4年制私大の4年生、長女は近く成年に達し、2年制の専門学校の2年生、次男は公立中学3年生である。妻子の住む自宅は双方の共有であり、夫は自宅の住宅ローンを返済中である。
妻から夫に対し、婚姻費用分担請求をした。
[審判の概要]
@婚姻費用の支払いの始期を、調停申立月ではなく、内容証明郵便をもって請求した月とした。
A住宅ローンの支払いにつき、資産形成の面もあるので、夫の支払うローン全額を婚姻費用分担額から差し引くのは相当でないとして、一部を控除した。
B長男及び長女は毎月12万円の奨学金の貸与をそれぞれ受けており、長男及び長女の教育費にかかる学費等のうち、長男の通う大学への学校納付金については全て、また、長女の通う専門学校への学校納付金についても9割以上、各自の受け取る奨学金で賄うことができる。これに、算定表で既に長男及び長女の学校教育費として33万3844円が考慮されていること、相手方が、現在居住している住居の家賃の支払だけでなく、本件ローンの債務も負担していること、長男及び長女がアルバイトをすることができない状況にあると認めるに足りる的確な資料がないこと、当事者双方の収入や扶養すべき未成熟子の人数その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、長男及び長女の教育にかかる学費等を算定表の幅を超えて考慮するのが相当とまではいうことはできない。
C結論として、未払い婚姻費用58万2000円及び月9万円の婚姻費用支払いを命じた。
[ひとこと]
アルバイトに関しては、学部や学年によっては、大学生だからといってアルバイト時間をとれないことも少なくない。あくまで個別の事情によるので、こうした判断の一般化には気をつけたい。

4−1−2015.6.26
夫の借金は婚姻費用分担額を左右させず、成人の大学生の学費は加算事由とせず、二女の私大学費を加算事由とし、婚姻費用分担額を算定した例
[東京家裁2015(平成27)年6月26日審判 判時2274号100頁]
[事実の概要]
父母は1992年に婚姻し、現在、父は実家に、母は私立大学3年の長女(成人)および私立大学1年(未成年)の次女と暮らしている。双方が、子らの学資のための負債をかかえている。父の年収は404万円余、母の年収は300万円、母から父に対して婚姻費用分担請求がなされた。
[審判の概要]
「本件では、二女が平成27年4月に私立大学に進学しているから、算定表で考慮されている学校教育費等を超える部分については、それぞれの収入で按分すべきである。なお、長女も私立大学の3年生であるが、アルバイトによる収入があること、長女自身が奨学金の貸与を受けていること、長女の年齢及び相手方の経済状況を考慮すると、本件では長女の私学費について加算するのは相当ではない。
そこで、一年次の学費等(入学金を除く。)119万6000円から算定表で考慮された15歳以上の学校教育費相当額一人当たり年間額33万3844円(判例タイムズ1111号285頁以下参照)を控除した82156円を申立人(父)及び相手方(母)の収入で按分すると、相手方が算定表で算出された婚姻費用に加えて負担するべき学費は月額3万0615円(86万2156円×300万円)÷(300万円+404万0225円)=36万7384円、36万7384円÷12=3万0615円(小数以下切り捨て)となる。
そして、本件審判において形成すべき婚姻費用分担の始期については、申立人が本件調停を申し立てた平成26年6月とするのが相当であるところ、二女が私立高校に通学していたこと、大学受験料及び入学金等を申立人が負担していることなどを考慮し、同月から月額3万円を加算するのが相当である。」
「相手方は、相手方母に対する借金の返済等がある旨主張するが、これらが婚姻費用分担義務に優先するとはいえず、上記婚姻費用分担額を左右するものとはならない。また、相手方には、長女及び二女の学費、留学費等のために借り入れた債務が存在していることが認められるものの、本件では、申立人も学費等のための借入金を有していることから、これらの相手方の債務の返済を理由として、上記婚姻費用分担額を減額することは相当でないというべきである。」
[ひとこと]
債務については、夫婦が本来共同で負担すべき債務については、考慮する審判もあるが、本件では、双方が子の学資のための負債を負っていることから考慮しないとした。
算定表を利用するにあたっては、成人の長女も子として子二人表を使用したが、長女について生活保持義務か生活扶助義務かをとくに明記せず、私学の学費については、長女の奨学金やアルバイト収入等を考慮して、婚姻費用の加算事由としなかった。

4−1−2015.6.17
婚姻費用分担金の支払いを定めるにあたり、義務者が、権利者が居住する自宅の住宅ローンの支払いを行っていた事情を考慮して、金額を算定した事例
[東京家裁2015(平成27)年6月17日審判 判タ1424号346頁]
[事実の概要]
夫婦は2人の子をもうけたが、不仲となり、2012年、夫が単身自宅を出る形で別居した。妻子が自宅で生活している間、夫は自宅の住宅ローン月額6万7439円(ボーナス月34万6341円)を全額負担してきた。2014年の妻の年収は約199万円、夫の年収は約763万円である。2014年、妻は夫に婚姻費用分担金の支払いを求めて調停を申し立てた。
[審判の概要]
標準算定表は、別居中の権利者世帯と義務者世帯が、統計的数値に照らして標準的な住居費をそれぞれ負担していることを前提として標準的な婚姻費用分担金の額を算定するという考え方に基づいている。しかるところ、義務者である相手方は、上記認定のとおり、2014年×月まで、権利者である申立人が居住する自宅に係る住宅ローンを全額負担しており、相手方が権利者世帯の住居費をも二重に負担していた。したがって、当事者の公平を図るためには、2014年×月までの婚姻費用分担金を定めるに当たっては、上記の算定額から、権利者である申立人の総収入に対応する標準的な住居関係費を控除するのが相当である。
そこで、2014年×月までに対応する申立人の総収入200万円を12で割ると、16万6666円(1円未満切捨)となり、これは、上記東京・大阪養育費等研究会「簡易迅速な養育費等の算定を目指して」判例タイムズ1111号285頁以下における294頁の資料2(年間収入階級別1世帯当たり年平均1か月間の収入と支出)の項目199万9999円以下の列における実収入16万4165円に近似するところ、この列における住居関係費(住居の額に土地家屋に関する借金返済の額を加えたもの)は2万7940円である。したがって、2014年×月までの婚姻費用分担金を定めるに当たっては、標準算定表より算定される婚姻費用分担金の標準額から2万7940円を控除するのが相当である。
[ひとこと]
婚姻費用分担金の算定に当たり、義務者が自宅を出て、権利者の居住する自宅の住宅ローンを支払っている場合、その事情が考慮されることがあるが、その方法についてはいくつかの考え方がある。本件は、権利者世帯の住居費相当額を、標準算定方式が前提とする家計調査年報(判タ1111号294頁)から認定し、算定表による算定結果から控除するという考え方をとっており、実務の1つの考え方として参考になる。

4−1−2014.11.26
前審判の後に事情の変更があったものとして、婚姻費用分担金の額を減額することができるかについて、判断基準を示した事例
[東京高裁2014(平成26)年11月26日決定 判時2269号16頁、家庭の法と裁判3号67頁]
[事実の概要]
1990年に婚姻し、長男と二男が生まれたが、2011年から別居している夫婦について、2012年に夫が妻に対して婚姻費用分担金として毎月10万円を支払うとの審判(前審判)がなされた。夫が前審判後に収入が減少したと主張して、2014年に婚姻費用分担(減額)調停を申し立て、審判に移行した。原審は、事情の変更があったものとして、月額7万円に減額する審判をした。これに対して、妻が抗告した。
[決定の概要]
事情が変更したとして婚姻費用分担金の審判を変更するのは、その審判が確定した当時には予測できなかった後発的な事情の発生により、その審判の内容をそのまま維持させることが一方の当事者に著しく酷であって、客観的に当事者間の衡平を害する結果になると認められるような例外的な場合に限って許される。本件においては、@夫の2013年分の年収額は前審判が前提とした年収額よりも約60万円減少しているが、その減少率は約12.5%であって、それほど大幅な減少とは認められないこと、A妻が2014年×月から×月にかけて手術を受けたために就労できず、収入が減少したことを裏付ける資料を提出していること、B現在長男は22歳、二男は19歳であるが、同人らに定期的な収入があるのか否か、妻が誰と同居しているのかなどが不明であること、C前審判時において夫の給与収入の減少がどの程度まで予測されていたのかも不明であることなどの事情が認められる。これらの事情に照らすと、前審判の後に事情の変更があったものとして婚姻費用分担金の額を減額するについては、十分は審理が尽くされていないとして、原審判を取り消して本件を原審に差し戻した。
[ひとこと]
本件は、婚姻費用分担金の額を変更することができるかどうかについて、判断基準を定立し、あてはめをしたもので、事例判断として参考になる。

4−1−2014.10.2
妻が夫に対し、婚姻費用の分担の約束があったとして婚姻費用の分担金の支払いを求めたところ、約束を認めるに足りる的確な証拠はないとして、請求を棄却した事例
[東京地裁2014(平成26)年10月2日判決 LEX/DB25522219]
[事実の概要]
1妻(1958年生)と夫(1956年生)は1985年に婚姻した。両者の間には、2人の子がいる(いずれも成人)。妻と夫は別居中であり、韓国において離婚訴訟が係属中である。
夫は、韓国の銀行に送金口座を開設し、2009年から2010年まで毎月一定の金額ではないが30万円前後を振り込んだが、2011年10月を最後に振り込んでいない。
妻は、夫との間に毎月30万円の婚姻費用が支払われるとの約束があると主張し、その約束に基づき未払い分270万円と離婚するまで月30万円の支払いを求めた。
[判決の概要]
被告が送金口座を開設した上、2009年9月から2010年10月までの間に、原告に多数回送金した事実は、婚姻費用の支払いの約束を裏づけるようにも思われる。
しかし、被告は約束をしたことを否定する陳述をし、送金の理由は、妻である原告に結婚当初苦労させたという思い等から、要求がある都度に、その使途及び金額を検討して、相当と思う金額を送金していたと供述しているところ、その供述には合理性がないとはいえない。また、送金の支払い時期や金額は必ずしも一定していない。
原告は婚姻費用の支払いの約束の存在について供述しているが、直ちに採用することはできず、他に支払い約束を認めるに足りる的確な証拠はない。
以上より、原告の請求を棄却した。

4−1−2014.8.27
標準的算定方式により試算された婚姻費用を、子の私立学校における学費等を考慮して修正した例
[大阪高裁2014(平成26)年8月27日決定 判時2267号57頁、家庭の法と裁判3号70頁]
[事実の概要]
夫婦は平成6年に婚姻し、平成10年に長男が、平成14年に長女が生まれた。平成21年から別居し、妻が夫名義のマンションで子らを監護している。長男は私立高校に、長女は市立小学校に通学している。長男の学費は年76万5000円、平成26年度の学費以外の旅行積立て等諸費用(学校へ納付するもの)は13万5500円であった。
夫は、会社員で平成25年の年収(税込)は1311万1382円、単身で暮らし家賃の自己負担額は9500円である。妻は薬剤師の資格を持つが、パニック障害の診断により通院治療を続けている。平成25年の年収(税込)は102万8369円、平成26年の途中からは、職場を変え、現在の基本給は月額29万1818円である。夫婦双方が、神戸家裁に離婚訴訟を提起している。
[決定の概要]
「標準的算定方式においては、15歳以上の子の生活費指数を算出するに当たり、学校教育費として、統計資料に基づき、公立高校生の子がいる世帯の年間平均収入864万4154円に対する公立高校の学校教育費相当額33万3844円を要することを前提としている。そして、抗告人と相手方の収入合計額は、上記年間平均収入の2倍弱に上るから、・・標準的算定方式によって試算された婚姻費用分担額が抗告人から相手方へ支払われるものとすれば、結果として、上記学校教育費相当額よりも多い額が既に考慮されていることになる。
そこで、既に考慮されている学校教育費を50万円とし、長男の□□高等部の学費及び諸費の合計約90万円からこの50万円を差し引くと40万円となるところ、この超過額40万円は、抗告人及び相手方がその生活費の中から捻出すべきものである。そして、標準的算定方式による婚姻費用分担額が支払われる場合には双方が生活費の原資となし得る金額が同額になることに照らして、上記超過額を抗告人と相手方2分の1ずつ負担するのが相当である。したがって、抗告人は、上記超過額40万円の2分の1に当たる20万円(月額1万6000円程度)を負担すべきこととなり、これ・・標準的算定方式の算定表への当てはめによって得られた婚姻費用分担額に加算すべきである。
そうすると、学費を考慮して修正した婚姻費用分担額は、平成26年○月までは27万円、同年○月以降は25万円と定めるのが相当である。」
[ひとこと]
上記の下線部の判断等を明示した点に、本決定の特色がある。従来、私立学校の授業料から公立学校の学校教育費を控除した額を算出し、これを双方の基礎収入で等分ではなく按分して負担する方法がとられてきたと思われる。本審判では、双方の収入の合算額が大きく、監護者側の生活費にも余裕があることから、上記の通り、等分とする判断になったと思われる。収入の低い夫婦の場合で私学に通学させている場合には、また別の判断がありえる。『家庭の法と裁判』の判例評釈が非常に参考になる。

4−1−2014.7.18
25歳の無職無収入の子については、婚姻費用としてではなく、親族間の扶養義務として検討考慮されるべき問題とした事例
申立人が失職したことから婚姻費用減額の必要性が認められると判断するとともに、以前の婚姻費用減額審判においては認められなかった申立人による婚外子の認知について、当該子の福祉の観点から再吟味を行って事情の変更として考慮することが相当であるとして、婚姻費用の減額を認めた事例
[大阪家裁2014 (平成26)年7月18日審判 判時2268号101頁、家庭の法と裁判3号78頁]
[事実の概要]
夫と妻の間には、長男A及び、妻の連れ子である養子Bがいる。夫は、妻と別居後、女性Cと同居し、Cとの間に子Dをもうけた(2008年5月生、2012年12月に認知)。A及びBは妻が監護している。
夫と妻との間には、夫が妻に対し婚姻費用分担金として月9万円を支払うとの審判が出された(2009年6月 以下、「平成21年審判」という)。
夫は、2013年2月、Dを認知したこと等を理由として婚姻費用の減額審判を申し立てたが、信義則ないし公平の見地から許されないなどとして、申立ては却下され、抗告棄却決定を経て確定した(以下、「前件審判」という)。
夫は、2014年3月、夫が失業したことを理由として、婚姻費用減額審判を申し立てた。
[審判の概要]
1.婚姻費用減額の要否
平成21年審判及び前件審判確定後、夫は退職し、現在は求職活動中であるが、年齢、契約社員という最近の就労形態、職歴等に照らせば、平成21年審判及び前件審判当時と同程度の収入を直ちに得られる可能性は必ずしも大きいとは認められない。
したがって、相当程度の事情の変更があったと認められ、婚姻費用減額の必要性がある。
2.その他の事情変更の有無
@Bの状況の変化について
Bは2014年に通信制高校を退学後、無職・無収入である。妻がBを扶養している状況は平成21年審判及び前件審判時と変更はない。
しかしながら、Bは疾病を有しているとはいえ、稼働能力がないとまでは証拠上評価できない。仮に、稼働能力が認められないとしても、25歳となったBの扶養義務を誰がどの程度負担するかは、親族間の扶養義務として検討・考慮されるべき問題である。
したがって、Bが高校を退学になって以降、本件においてBを未成熟子として考慮するのは相当ではなく、Bの状況の変化は事情の変更に該当する。
ADの認知について
現時点において、Dの出生から6年、認知から1年半、平成21年審判に基づく婚姻費用分担義務が定められてから5年がそれぞれ経過している。このような状態で、今後もDの存在を無視したまま婚姻費用分担義務を定めるとすれば、夫の信義則違反の責任をDのみに負わせる結果ともなりかねず、Dの福祉の観点からは相当ではない。特に、夫の収入が減少している本件においては、Dの養育に影響を与える程度は、平成21年審判当時に比しても深刻といわざるを得ない。
したがって、Dの認知も本件による事情変更として考慮するのが相当である。
3.事情変更の内容を考慮した婚姻費用の試算
いわゆる標準的算定方式において試算される婚姻費用は月額3万2000円になるところ、平成21年審判において考慮された障害者Aに関する費用を特別の事情として考慮し、婚姻費用は月額6万円と解するのが相当である。
[ひとこと]
諸事情を勘案し、子の福祉の観点から、婚外子の認知の事実についても事情変更として考慮すべきとしたものである。同種事案の解決において参考になろう。

4−1−2014.2.13
婚姻費用の未払金債権について、債務全部についての弁済能力がなくとも、一部につき弁済能力があれば、その限度で間接強制が認められるとした事例
[東京高裁2014(平成26)年2月13日決定 金融法務事情1997号118頁]
[事実の概要]
1996年、債務者(夫)が抗告人(妻)に対し、婚姻費用として月25万円(毎年6月と12月はさらに10万円ずつの加算)を支払うこととする調停が成立した。なお、夫からの申立てにより、2012年3月から婚姻費用を月14万円に減額する旨の決定がされている。
2011年、妻は、夫に対し、婚姻費用の未払金(請求額は1892万5000円)の支払いを受けるため、民事執行法167条の15第1項に基づく間接強制を申し立てた。
しかし、原審(東京家裁2013年12月26日決定)は、債務者(夫)の流動資産等を総合的に勘案すると、民事執行法167条の15第1項但書所定の事由(債務を弁済することによってその生活が著しく窮迫する)が認められるとして、申立てを全部却下した。妻がこれを不服として、執行抗告を申し立てた。
[決定の概要]
「扶養義務等に係る金銭債権は、…債権者の生計の維持に不可欠なものであって保護の必要性が高いことから、‥・民事執行法167条の15第1項は、新たにこれに係る間接強制も認めることと」された。「このような法の趣旨等を踏まえると、債務者が債務名義上の債務の一部について弁済する資力は有しているものの、全部を弁済する能力がない場合においては、間接強制の申立てをすべて却下するのではなく、弁済の資力を有している限度でこれを認めることができると解するのが相当であり、このように解することが申立人である抗告人の意思にも合致するものである。」
そこで、本事案においては、少なくとも942万5000円の未払金がある認定した上で、債務者は預金及び保険の解約返戻金として約367万円の資産を有しており、少なくとも360万円程度について支払能力に欠けるものではないとして、原決定を取り消し、360万円の限度で間接強制の申立てを認容した。

4−1−2013.6.10
婚姻費用分担額の算定につき、義務者が第三者に対して有する損害賠償請求権を考慮しなかった事例
[福島家裁郡山支部2013(平成25)年6月10日審判 家月65巻7号198頁]
[事実の概要]
申立人(妻)及び相手方(夫)は、1991年に婚姻した夫婦であり、両者の間には長女(1993年生)及び長男(1995年生)がいる。
相手方は、1997年に同県にて歯科医師として開業したが、2011年、東日本大震災による津波被害を受け、同医院は損壊した。住居及び同医院所在地区が警戒区域に設定されたことから、申立人及び相手方らは、家族での転居をやむなくされた。転居後、相手方は歯科医師としてのアルバイトを開始した。
2011年、異性関係を疑う申立人に対する不満を募らせ、相手方が自殺未遂を図る等の事態となり、相手方が自宅を出る形で別居が開始した。
相手方の収入は、2008年は2859万0530円、2009年が2385万1937円であったところ、東日本大震災後の収入は、2011年が467万9000円、2012年の収入見込みが約900万円程度であった。
申立人は、婚姻費用の支払いを求めて、婚姻費用分担請求調停を申し立てた。申立人は、震災に関連して、相手方は歯科医院の営業損害につき、損害賠償請求ができる地位にあり、かつ、その行使が容易であるのだから、申立人及び長男の(なお、審判時、長女は成人している。)生活保持義務を負う相手方は、その確保に努めなければならず、婚姻費用の算定にあたっても、同歯科医院での営業所得に相当する額を前提として、相手方の収入を算定すべきであると主張した。一方、相手方は、算定の基礎となる自己の収入を実際の900万円とすべきであると主張した。
[審判の概要]
「相手方が、○○に対して損害賠償請求できる地位にあるとしても、その具体的な支払額及び支払時期が確定していない以上、これを相手方の基礎収入に加算することは困難であるといわざるを得ない。」とし、実際に請求権が行使されていない以上、基礎収入に含めることはできないと判断した。ただし、
「もっとも、相手方が上記の地位にあることの他に収入の見込みがなく、婚姻費用を一切負担しないと主張するような事情がある場合には、たとえ具体的な支払額及び支払時期が確定していないとしても、その推計額等を基礎収入として婚姻費用を算定することも考えられる」とした。
その上で、本件では、相手方の年収を実際の900万円であることを前提に、算定額を月額22〜24万円であるとし、別居後の事情の一切の事情(婚姻費用の支払い実績、婚姻費用に関する口約束など)を考慮した上で、月額28万円の支払い義務を認めた。

4−1−2012.12.28
面会交流を機に3か月間子らを返さなかった夫に対する婚姻費用分担請求事件において、信義則を理由に、当該期間における養育費相当額を婚姻費用から控除することは許されないとした例
[東京高裁2012(平成24)年12月28日決定 判タ1403号254頁]
[事実の概要]
父母は別居し、妻が長男及び長女(いずれも保育園在園。年齢不明)を監護していた。母は父に対し、1泊との予定で子らを委ねたところ、父は母に対する連絡を断ち、3か月余にわたり子らを母の下に戻さなかった。母から父に対し婚姻費用の分担を申し立ていた。
原審は、3か月余にわたる長男及び長女の養育費相当額を含めた婚姻費用分担額を定めて、父から母への支払を命じた。父から抗告した。
[決定の抜粋]
「一件記録によれば、平成24年4月27日から同年8月3日まで、長男及び長女は、S区所在の「A保育園」に入園・通学していたものと認められる。しかしながら、その経過は、相手方が1泊の予定で長男及び長女を抗告人に委ねたところ、抗告人は、連絡も断ち、長期間、長男及び長女を相手方のもとに戻すことを拒んできたことによるものであるから、この間の事実上の養育が抗告人によってされたからといって、その間の費用を減額したり、支払を拒むことは、信義則上許されないものと判断される。当該期間における養育費相当額を婚姻費用から控除することは許されない。」
[ひとこと]
有責配偶者からの婚姻費用請求の際に、信義則を理由に認めず、子らの養育費部分のみを認める場合があるが、本件は、養育していない期間についての請求につき信義則により認めた珍しい例である。

4−1−2012.12.5
婚姻費用の支払義務の始期を調停申立時ではなく、その1か月前の別居時からとした例
[最高裁第二小法廷2012(平成24)年12月5日決定 判時2206号19頁 原審名古屋高決平成24.8.24]
[事実の概要]
夫婦は1996年に婚姻し、3人の子をもうけたが、妻は、2011年、子らを連れて実家に戻り別居した。
[決定の概要]
原審は、「夫婦間の婚姻費用分担義務は、夫婦相互間の協力扶助義務に基づく生活保持義務によるものとして、一方の要扶養状態の発生により当然に発生するものであるが、権利者が要扶養状態となった時点以後の婚姻費用を当然に請求できるとすると、その期間によっては義務者が一時に支払うべき婚姻費用の額が非常に多額となり、義務者にとって酷な場合があることに加え、権利者においても義務者に対して婚姻費用を請求するまでの間は、その支払を受けることなく生活を維持してきている事実をも考慮すれば、原則として婚姻費用分担の始期を請求時以後とするのが相当である。しかし、本件についてみると、Xは、平成23年8月下旬、子らと共に自宅を出ており、その時点でのXの収入が月額10万円に満たなかったことからすれば、Yは、Xが要扶養状態にあったことを当然に認識すべきであったといえる。また、別居時から請求時(調停申立時)までの期間が僅か一箇月余りであることからすれば、Yに同年9月からの婚姻費用を負担させたとしても酷であるとはいえない。」 とし、別居時からとした。
最決は、原審の判断を正当として是認し、抗告を棄却した。

4−1−2012.6.28−1、2
自営業者については、事業収入から経費及び社会保険料等を控除した金額を総収入とすることを前提とするとした例
[最高裁第一小法廷2012(平成24)年6月28日決定 判時2206号18頁]
@平成23年(許)55号・原審大阪高決平成23.9.29
A同第56号原審大阪高決平成23.9.29
[事実の概要]
事案の詳細は不明
[決定の概要]
「基礎収入を推計するために原審が用いた上記の標準的な割合は、自営業者については、事業収入から経費及び社会保険料等を控除した金額を総収入とすることを前提とするものである。したがって、事業収入から社会保険料を控除しない金額を総収入とし、上記の標準的な割合により税金等を控除して基礎収入を推計し婚姻費用分担額を算定した原審の上記判断は、上記の標準的な割合を使用して基礎収入を推計する際の前提を誤ってされた不合理なものであって、その判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この点をいう論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。」

4−1−2012.5.28
出産育児一時金を婚姻費用の未払い分の算定に考慮した例
[横浜家裁2012(平成24)年5月28日審判 家月65巻5 号98 頁]
[事実の概要]
夫婦は平成23年に婚姻し、同年長男をもうけた。夫婦は同居したことがなく、妻が長男を監護している。妻は妻を被保険者とする健康保険から出産育児一時金(42万円)の給付を受けた。
夫は平成23年、離婚調停と嫡出否認の調停を申し立て、妻は同年婚姻費用分担の調停を申し立てた。いずれの調停も不成立となった。
妻は、育児休業中であるが復職予定である。平成22年分の収入は約505万円であった。 夫の平成22年の年収は、約922万円である。
[審判の概要]
算定表(判タ1111号)に基づき、長男誕生月の前月までの婚姻費用の分担額を月額6万円、長男誕生月以降の婚姻費用の分担額を月額10万円と算定した。理由もなく同居を拒んでいる申立人(妻)は有責配偶者であり婚姻費用請求は許されないとの相手方の主張については、別居について一方的に申立人に責任があると認めることはできないとして退けた。
他方、「出産育児一時金は、少子化対策の一環等として支給される公的補助金であり、それが支給される以上、出産費用はまずそれによって賄われるべきである」として、相手方が出産費用として交付した55万円から、出産一時金では不足する出産費用のうち相手方の負担すべき金員を控除した金額は、婚姻費用の前払いとみなされるべきであるとの相手方の主張については、理由があるとした。
神奈川県における出産費用の平均額であるとして相手方が主張する48万円から出産一時金42万円を差し引いた不足金6万円のうち、相手方の負担すべき割合を2分の1とし、相手方は出産費用として3万円の負担義務を負うのみだったとして、55万円から3万円を控除した52万円は、婚姻費用の前払とみなすのを相当とした。
[ひとこと]
夫(相手方)は即時抗告したが、棄却された(東京高裁2012年8月8日決定家月65巻5号102頁)。
なお、簡易算定方式(同じ判タ1111号記載の算定式と松本元判事作成の基礎収入割合表・家月62-11-56を使用)で念のため計算したところ、長男出生後は、10万2396円と算定され、本審判が算定表によるとした数字は若干低いように思われる。
出産一時金では足りない出産費用の負担割合を、収入比に応じた按分ではなく2分の1としている点や、妻が育児休業期間中の婚姻費用についても、休業以前の収入を前提に算定している点などに、疑問が残る。

4−1−2012.3.28
婚姻費用の分担額を決定するに当たり、収入から自動車ローン及び住宅ローンによる支出を直ちに控除したり按分すべきでなく、決定の際の一事情として考慮すれば足りるとした例
[最高裁第二小法廷2012(平成24)年3月28日決定 判時2206号19頁 原審名古屋高決平成23.9.12]
[事実の概要]
夫婦は2001年に婚姻し、2003年に長女をもうけた。妻は、2010年長女を連れて別居した。妻の2010年の収入は213万円、夫の2010年の収入は735万円、2011年の収入は354万円であった。夫は自ら使用する自動車のローン月約5万円、及び居住する自宅の住宅ローン月11〜12万円を支払っている。
原々審は、夫の負担すべき婚姻費用の額を2010年は月6万円、2011年は月2万5000円とした。これに対し、夫は、自動車ローン及び住宅ローンの支払額を按分負担とすべきと主張して即時抗告した。
[決定の概要]
原審は、「上記各ローンの支払は、Y(夫)の資産の維持形成のための支出という側面もあり、これらの支出を直ちに所得から控除したり按分して婚姻費用の分担額から差し引いたりするのは相当ではなく、上記各ローンの支払によりX(妻)の別居後の住宅費等の負担が軽減されているともいえないなどとし、上記各ローンの支払は、婚姻費用分担額を決定する際の一事情として考慮すれば足りる」として、Yの抗告を棄却した。
最決は、原審を支持し、抗告を棄却した。

4−1−2011.10.27
@別居していた夫婦のうち、婚姻費用の支払い義務者が、権利者と子の住居(同居時の住居)で寝起きするようになったことを「当事者の別居状態の解消」に当たるとした事例
A婚姻費用分担の支払義務を免れるために自宅に戻ったことを,故意に条件を成就させたとして,民法130条を類推適用して条件不成就とみなし,婚姻費用審判に基づく強制執行に対する請求異議を斥けた事例
[裁判例]名古屋家裁岡崎支部2011(平成23)年10月27日判決 判タ1372号190頁
[事実の概要]
夫と妻の間には二子(判決時17歳,13歳)がいる。夫と妻は自宅不動産(土地建物)を共有し,同居していたが,平成19年6月,夫は,自宅を出て別居した。同年7月に夫が離婚調停を申立てたが,その後不成立となった。他方,同年9月,妻は婚姻費用の調停を申し立てたが,その後こちらも不成立となり、平成20年3月,夫が妻に対し「当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで,毎月○万円支払え」との審判をした(確定)。
平成21年,夫が離婚訴訟を提起したところ,一審は夫の請求を認容したが,妻が控訴した。控訴審は,婚姻関係は修復不可能とまではいえない,仮に婚姻関係が破綻していても,夫の離婚請求は有責配偶者からの離婚請求であるとして,原判決を取消し,夫の請求を棄却した(夫は上告受理申立をしたが,不受理決定がなされ,平成23年2月高裁判決が確定)。
夫は平成20年4月から,自宅の電気,水道,電話等のライフラインを解約し,同年7月分から住宅ローンを支払わなくなり,妻に対し不動産の売却を要求するようになった。妻が夫名義の住宅ローンの引き落とし口座に入金したローンの返済資金全額を,夫が払い戻したこともあった。
平成22年10月初旬,夫は事前に妻に連絡することなく自宅に戻った。妻が生活費を負担してほしいと頼んでも,夫は断った。同月中旬,長女が私立高校に進学する際の学費の援助をしてほしいと頼んだが,夫はこれも拒否した。夫は長女が使っていた部屋を使用し,扉につっかえ棒をし,クローゼットの扉にチェーンを巻いた状態で,妻子とほとんど会話をしなかった。夫は部屋の片づけなどの家事を行ったが,妻や子が望まない態様であった。また,夫は行った家事について逐一メモを取り,写真を撮った。
夫は不動産の購入資金として夫の母から借金をしているとして,妻との別居後,母に返済をしていた。同年10月,夫の母が自宅を訪れた際,金員を出したのだから「ここにいる資格がある」旨言ったところ,妻が「以前はお金は貸したものではなく,あなたたちにあげたものだと何度もおっしゃっていましたよね」と言い返し,両者は険悪な状態になった。同年12月,夫の母は,夫に対して自宅不動産の購入資金を貸し付けたとして,自宅不動産の夫の持分(10分の9)につき強制競売開始決定を得て,差押えた。夫は事前に知っていたが,妻に知らせず,対応について話し合おうとしなかった。同月から,夫は自宅で寝起きはするものの,実家で夕食,入浴を済ませた。
平成23年3月,妻は,前記の婚姻費用分担審判に基づき、夫の給与,賞与及び退職金を差し押さえる旨の債権差押命令を得た。
同年7月,夫の持分は,夫の知人であるAに競落された。Aは,夫と妻を相手方として,自宅不動産の引渡しを求めた。同月,Aの夫に対する自宅不動産の引渡命令の申立ては認容されたが,妻に対する申立ては却下された。同月,夫は自宅を出て行き,Aが夫が使用していた部屋に荷物を運び入れた。
本件は,夫が妻に対して,婚姻費用分担申立事件の審判の解除条件である「当事者の別居状態が解消」が成就したとして,前記の婚姻費用分担審判に基づく債権差押命令の執行力の排除を求めた請求異議訴訟である。
[判決の概要]
以下の理由で,夫(原告)の請求を棄却した。
婚姻費用審判の主文の「当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで」とは,解除条件に当たるとした上で,「別居状態の解消」とは,夫婦の協力扶助義務が履行される状態になったというのではなく,単に別々の場所で居住するという状態が解消されることを意味すると解すべきであるとし,本件では,平成22年10月に夫が自宅に戻ったのは,「別居状態の解消」という解除条件に当たるとした。
しかし,夫は,妻との婚姻生活を修復するために自宅に戻ったのではなく,自宅に戻ることが,「別居状態の解消」という解除条件を充足することになることを認識しながら,あえて,婚姻費用の支払義務を免れるために,戻ったものと認められると事実認定し,条件成就によって利益を受ける夫が故意に条件を成就させたといえ、民法130条の類推適用によって,条件不成就とみなすことができるとした。夫が鬱状態による傷病欠勤のため婚姻費用を支払うことができないと主張した点については,婚姻費用減額の調停や審判を申立てることができるのに,そのような手続きをとらずに婚姻費用の支払義務を免れるために,別居状態を解消するのは,信義則に反するとし、よって審判に基づく夫の婚姻費用支払い義務は消滅しないとした。
[ひとこと]
思春期の子がいる状態にありながら、子をまさに巻き込んで不安にさらしながら、激しい紛争となったことが読み取れる。競落して夫の部屋に荷物を運び込んだAも、夫との協力関係にあることが推測される。このような状況で、Aと妻の関係を解消するのは、共有物分割請求(民法256条)しかないと思われるが、その後の行方は不明である。

4−1−2011.2.10
子らが毎週一定期間義務者のもとで生活している場合に、標準的算定方式を修正し、義務者の負担する費用相当額を控除して婚姻費用を算定した事例
[裁判所]広島高裁岡山支部
[年月日]2011(平成23)年2月10日決定
[出典]家月63巻10号54頁
[事実の概要]
XとYは別居中の夫婦である。子らは、X方で養育されていたが、毎週金曜日の夕方から日曜日の夕方まではY方で生活し、その間の子らの食費や被服費、おもちゃ代はYが負担していた。
XがYに対し婚姻費用の支払いを求めたのに対し、原審(岡山家裁 H22.4.5審判)は、上記の事情を考慮することなく、算定表によって婚姻費用の額を算定した。
[決定の概要]
Yが週末金曜日夕方から日曜日夕方まで子らとともに生活し、その間の食費等の費用を負担していることについては、婚姻費用のうち子らに係る費用分として推定できる、標準的な生活費の割合のうち、2割弱程度に相当する額をYが負担しているものとし、算定表に基づく婚姻費用分担額から差し引くのが相当である。
[ひとこと]
本件のように、別居中の夫婦が子どもの養育を分担しあうことは少なくない。本決定は、その実態を考慮して婚姻費用の額を定めており、常識的かつ妥当なものと評価できる。

4−1−2010.11.24
義務者が権利者の居住する自宅のローンを支払っていることを考慮し,標準的算定方式を修正して婚姻費用を算定した事例
[裁判所]東京家裁
[年月日]2010(平成22)年11月24日審判
[出典]家月63巻10号59頁
[事実の概要]
夫(申立人)と妻(相手方)は,婚姻後,長女(平成3年生)と長男(平成4年生)をもうけたが,平成19年ころから離婚協議を開始し,平成20年ころ夫が自宅を出て以来,別居している。妻と長女,長男が居住する自宅及びその敷地の所有者は夫であり,住宅ローンの債務者も夫である。妻は別居後も夫の給与振込口座を管理し,同口座から住宅ローン,固定資産税等が引き落とされている。夫は,妻に対し,住宅ローンについては妻が支払うことを前提として,夫が分担すべき婚姻費用の額を月額31万円とするよう求める調停を申し立てたが,不成立となった。
[判決の概要]
申立人の収入を1568万円(平成19年から平成21年の平均収入)と認定し,相手方の収入を大学非常勤講師の給与収入84万円と認定した。申立人は,相手方はより多額の収入を得るための努力をすべきであり,相手方の学歴に照らせば賃金センサス上少なくとも375万円の年収を得られるとし,実収入を前提とすべきでないと主張したが,学歴等を活かして大学非常勤講師として稼働しているのだから,潜在的稼働能力に従った努力をしていないとは言い難いとして,申立人のこの点の主張を斥けた。
標準算定方式に基づく婚姻費用分担金額は月額30万円から32万円と試算されるが,「本件では義務者が権利者の居住する自宅の住宅ローンを負担しており,(略)当事者の公平を図るには,試算結果から,権利者の総収入に対応する標準的な住居関係費を控除するのが相当である(判例タイムズ1208号30頁以下参照)。」「そして、相手方の総収入に対応する標準的な住居関係費は、月額3万円弱であるから(判タ1111号294頁資料2の表中、実収入16万4165円の欄を参照)、本件においては、上記試算結果の下限30万円から3万円を控除した27万円を申立人が負担すべき婚姻費用分担金の額とするのが相当である。」とした。
申立人は住宅ローン全額の控除を主張したが,「住宅ローンの支払いには,その資産を形成する側面があり,申立人の年収からして,上記婚姻費用分担金のほかに住宅ローン全額を負担させることが過大な負担とは言い難いこと・・申立人の基礎収入の算定にあたり,総収入から住居関係費として10万円以上控除されていることからすれば・・・3万円の控除に留めることが、当事者間の公平に反するとはいえない。」として、申立人の主張を斥けた。
[ひとこと]
義務者が権利者の居住する自宅のローンを負担している場合,権利者の総収入に対応する標準的な住居関係費を控除するが,資産形成に関わることから全額控除するものではないことは,実務上も定着している。

4−1−2010.9.29
1子ども手当は夫婦間の協力扶助義務に基礎を置く婚姻費用の分担額には影響しないとした事例
2公立高等学校の授業料の無償化は婚姻費用分担額に影響しないとされた事例
[裁判所]福岡高裁那覇支部
[年月日]2010 (平成22)年9月29日決定
[出典]家月63巻7号106頁
[事実の概要]
XとYは夫婦であるが、Yが長女・長男を連れて別居し、養育している。YはXに対して婚姻費用分担調停を求めたが不調に終わり、審判手続に移行した。
原審がXに婚姻費用の支払いを命じたところ、Xは、以下を理由に抗告した。
@賃貸アパートのローン等多額の債務を負担しているから、原決定の婚姻費用の支払いは負担能力を超える。
AYは長男にかかる子ども手当を受給しているから、これをYの収入に含めるべきである。
B長女が通う公立高等学校の授業料が無償化されたから、Yの生活費がそれだけ減少した。(※)
[決定の概要]
以下を理由に,Xの抗告は棄却された。
@婚姻費用の支払い義務は自分の生活を保持するのと同程度の生活をさせる義務であって、債務の支払に劣後するものではない。
A子ども手当制度は、次代を担う子どもの育ちを社会全体で応援するとの観点から実施されるものであるから、夫婦間の協力、扶助義務に基礎を置く婚姻費用の分担の範囲に直ちに影響を与えるものではない。
B公立高等学校の授業料はそれほど高額ではないから、授業料の無償化は婚姻費用の額を減額させるほどの影響を及ぼすものではない。また、これらの公的扶助等は私的扶助を補助する性質のものであるから、この観点からも婚姻費用の額を定めるにあたって考慮すべきものではない。
[ひとこと]
子ども手当や授業料の無償化について、その制度趣旨等の観点から婚姻費用の分担額に影響しないと判断したものである。子ども手当は今後児童手当へ名称が変更になると報じられているが,児童手当となっても,本決定は、今後の実務の参考になると思われる。
(※賃貸とローン、双方の住居がいずれかなどの関係が公表部分からは不明であるが、そのまま掲載します)

4−1−2010.3.3
勤務先を退職して収入が減少したことを理由とする婚姻費用分担額減額の申立てが認められなかった事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2010(平成22)年3月3日決定
[出典]家月62巻11号96頁
[事実の概要]
抗告人妻甲と相手方夫乙は、平成18年に婚姻し、翌年には長女をもうけたが、その後夫婦関係が悪化し、甲乙は別居し、長女は甲が監護するようになった。平成20年、甲より離婚調停及び婚姻費用分担調停が申し立てられ、婚姻費用については、乙が甲に対して毎月6万円を支払うとの調停が成立した。離婚調停は平成21年に不成立となり、平成22年、離婚を認容する判決が確定した。
その後、平成21年、乙は婚姻費用分担金を月額1万円に減額することを求める調停を申し立てたが、調停不成立。原審判は乙の給与が減ったことなどを理由に婚姻費用を月額1万円に減額することを認めたため、甲が抗告したのが本件である。
なお、乙は歯科医であり、最初の婚姻費用調停成立時は病院に勤務していたが、平成21年に病院を退職し、大学の研究生として勤務しながら病院でもアルバイトをするという生活をしていた。簡易算定表によれば、病院退職後の乙と甲の年収を判明している限りであてはめると、婚姻費用は毎月1万円程度となる事案であった。
[判決の概要]
調停において合意した婚姻費用の分担額について、その変更を求めるには、それが当事者の自由な意思に基づいてされた合意であることからすると、合意当時予測できなかった重大な事情変更が生じた場合など、分担額の変更をやむを得ないものとする事情の変更が必要である。本件についてみると、乙の収入は、本件調停成立時に比して約3割減少しているが、乙が病院を退職したことが仮にやむを得なかったとしても、その年齢、資格、経験等からみて、乙には病院での勤務時代と同程度の収入を得る稼働能力はあるものと認めることができる。したがって、乙が大学の研究生として勤務しているのは、自らの意思で低い収入に甘んじていることとなり、その収入を生活保持義務である婚姻費用分担額算定のための収入とすることはできない。以上により、乙の転職による収入減少は、婚姻費用分担額を変更する事情の変更とは認められない。
[ひとこと]
退職理由の如何にかかわらず、婚姻費用の分担義務を負う者の潜在的稼働能力を認め、婚姻費用分担額の減額を認めなかった事例。

4−1−2009.9.28
前年より年収が減少するかどうか、減少するとしていくら減少するのかは予測が困難であるとして、前年分の年収に基づいて婚姻費用分担額を算定した事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2009(平成21)年9月28日決定
[出典]家月62巻11号88頁
[事実の概要]
相手方(妻)が抗告人(夫)に対し婚姻費用分額の支払いを求めた事案。原審は、夫の前年分の年収に基づき標準算定表にあてはめて婚姻費用分担額を算定した。これに対し、夫が、本年は前年分より減収になることは明らかであるとして、抗告を申立てた。
[判決の概要]
抗告人について、超過勤務手当が支給対象外となったこと及び賞与が減少したことは認められるが、ベース給月額が増加していること及び課長職に昇格していることからすれば、抗告人の年収が減少するのかどうか、減少するとしていくら減少するのかは予測が困難であり、本年分の年収を推計することができないから、婚姻費用分担額は前年分の年収に基づいて算定するほかない。
[ひとこと]
算定表をあてはめる場合に、義務者が収入の減少を主張するケースがあるが、減収するか否か不確実なことも多い。本件は、そのようなケースの1つとして参考になる。

4−1−2009.4.21
婚姻費用分担審判において特別児童扶養手当の返還を命ずることはできないとした事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2009(平成21)年4月21日決定
[出典]家月62巻6号69頁
[事実の概要]

X女はY男と婚姻し,Y男は,X女と前夫との間の子甲と養子縁組をした。しかしながら,X女とY男との夫婦関係はうまくいかず,間もなくX女は甲を連れて実家に戻った。Y男は,養子縁組の後に甲の特別児童扶養手当の受給資格を得て,同手当の支給を受けていた(その後,Y男は,甲を監護していないとして受給資格を喪失している)。
X女は,Y男に対して,夫婦関係調整(離婚)調停及び婚姻費用分担調停を申し立てたが,婚姻費用についての話合いがまとまらず,調停は不成立。移行後の婚姻費用分担審判の中で,X女は,Y男に対し,Y男が支給を受けた甲の特別児童扶養手当を甲に対して返還することを求めた。1審は,甲への返還を認めた。Y男が抗告。
[判決の概要]
@ 特別児童扶養手当は、障害児を監護するその父又は母等に対して支給される公的扶助としての国の手当であるが、受給資格の認定を受け,所定の手続の下に同手当の支給を受けた者は,障害児の生活の向上に寄与するために支給されるものであるとの趣旨に従って用いる義務を負うものの,これを保管費消することができるとともに,他方配偶者が同手当の支給を受けた父又は母に対しその引渡しや支払を当然に請求することができるとは解されない。
A 婚姻費用分担調停において,婚姻費用の分担に係る乙類事項だけでなく一般に家庭に関する紛争事項として特別児童扶養手当と同額の金員を支払うことの合意が成立した場合には,この部分を含めて上記調停を成立させることはできるが,婚姻費用分担調停の不成立により家事審判に移行するのは,婚姻費用の分担に係る乙類審判事項の申立てだけに限られるから,当該審判手続において,Y男に対しX女への同手当の返還又は支払を命じる審判をすることは家事審判法上困難である。
[ひとこと]
原審の千葉家裁松戸支部は、特別児童扶養手当分の返納を審判で命じたが、抗告審は,@特別児童扶養手当の性質及び、A婚姻費用分担事件の審判事項の対象外であるとの理由から,甲に対する特別児童扶養手当の返還を認めなかった。地方裁判所への不当利得返還請求訴訟であれば認められる余地はあるが、当事者にとっては手続きとしては、かなり過酷である。

4−1−2008.10.8
相手方(妻)に潜在的稼働能力がないこと、また、別居は一方的に相手方に非があるともいえないこととして婚姻費用分担額を算定した事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2008(平成20)年10月8日決定
[出典]家月61巻4号98頁
[事実の概要]
抗告人(夫)が、相手方(妻)は、現在、子らがそれぞれ幼稚園と保育園に在籍しており、就業が可能であるから、 少なくとも年収125万円程度の潜在的稼働能力があるとして、これを標準算定表に当てはめると月額8万ないし10万円となり、また、相手方が一方的に別居したことを考慮すれば、抗告人が負担すべき婚姻費用は月額8万円を超えることがないとして、原審判の取り消しを求めた事案。
[決定の概要]
権利者である相手方(妻)の基礎収入について潜在的稼働能力を考慮すべきであるとの抗告理由について、潜在的稼働能力は、就労歴や健康状態、子の年齢や健康状態など諸般の事情を総合的に検討して判断すべきところ、相手方は婚姻前に就労歴はあるが現在は専業主婦であり、別居期間は短い上、子らの幼稚園・保育園への送迎があり、子らの年齢から病気・事故等の予測できない事態が発生する可能性もあるなど、就職のための時間的余裕は必ずしも確保されていないから、相手方に稼働能力が存在するとはいえない。また、抗告人は、相手方が一方的に別居したことを考慮すべきであるとも主張するが、一件記録によれば、夫婦間の口論あるいはののしり等が高じた末、相手方が腹に据えかねて自宅を出て行った面もあり、一方的に相手方に非があるともいえない。
[ひとこと]
標準算定表は、権利者と義務者の収入が算定の基礎となるが、本件は義務者について、専業主婦で、子が幼稚園や保育園に通っていて事実上収入がない場合に、潜在的可能能力があるか否かを判断した1つの事案である。

4−1−2008.7.31
有責配偶者からの婚姻費用分担請求の一部が,権利の濫用であるとされた事例
[裁判所]東京家裁
[年月日]2008(平成20)年7月31日審判
[出典]家裁月報61巻2号257頁
[事実の概要]
妻が別居後不貞相手と同居し,長女も自宅を出て妻のところに転居した。妻(平成20年の年収見込み247万2000円)が,夫(平成18年年収351万4400円)に対し,婚姻費用を支払う旨の審判を申し立てた。
[判決の概要]
別居の原因は主として申立人(妻)の不貞行為にある場合には,申立人自身の生活費に当たる分の婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず,同居の未成年子の監護費用に当たる部分を請求しうるにとどまると解するのが相当である。
[ひとこと]
従来の判例理論を踏襲した判断であるが,判例集に掲載される事例は少ないので,参考となる。

4−1−2008.5.8
婚姻費用分担審判に対する抗告審の変更決定に対する特別抗告事件
[裁判所]最高裁三小
[年月日]2008(平成20)年5月8日決定
[出典]判時2011号116頁、家月60巻8号51頁
[事実の概要(争点)]
婚姻費用の分担に関する処分の審判に対する抗告審が、抗告の相手方に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず、反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことが憲法第32条(裁判を受ける権利)及び31条(法廷手続の保障)に反するか。
[判決の概要]
1憲法32条違反について
 憲法32条の裁判を受ける権利は、性質上純然たる訴訟事件につき裁判の判断を求めることができる権利をいう(最高裁昭和26年7月6日大法廷判決、同昭和37年6月30日大法廷判決)。
 したがって、本質的に非訟事件である婚姻費用の分担に関する審判に対する抗告審において手続に関わる機会を失う不利益は、同条所定の「裁判を受ける権利」とは直接関係がないというべきであるから、原審が抗告人に対し抗告状及び抗告理由書の副本を送達せず、反論の機会を与えることなく不利益な判断をしたことが同条所定の「裁判を受ける権利」を侵害したものであるということはできない、と判示し、憲法32条には反しないとした。
2憲法31条違反について
 本件抗告理由は、その実質は原判決の単なる法令違反を主張するものであって民訴法336条1項に該当する事由に該当しない。
3その他の点について
 「家事審判手続の特質を損なわない範囲できる限り抗告人にも攻撃防御の機会を与えるべきであり」、「少なくとも実務上一般に行われているように即時抗告の抗告状及び抗告理由書の写しを抗告人に送付するという配慮が必要であった」とし、「原審の手続には問題があるといわざるを得ないが、この点は特別抗告の理由に当たらない」と判示した。
[ひとこと]
多数意見は、憲法32条の適用範囲を「純然たる訴訟事件」と形式的に判断したが、那須弘平裁判官の反対意見にもある通り、「家事審判法9条の定める乙類審判事件の中にも強い争訟性を有する類型のものがあり」「婚姻費用分担を定める審判もこれに属」し、「純然たる訴訟事件でない非訟事件についても憲法32条による裁判を受ける権利の保障の対象になる場合がある」のではないだろうか。実務における運用も、審問請求権及び手続保障を尊重する方向にある。「決定に影響を及ぼすべき法令の違反があったことを理由として、職権で原決定を破棄することが最低限必要」(少数意見)であったのではないだろうか。

4−1−2008.2.28
配偶者の不貞と父子関係が存在しないことを知らずに支払った婚姻費用分担金等が不当利得となるとした事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2008(平成20)年2月28日判決
[出典]速報判例解説3号109頁
[事実の概要]
被控訴人(元妻)Y1は,控訴人(元夫)Xとの婚姻前から,不貞相手Y2と交際しはじめ,Xとの婚姻後のY2との性交渉で,Aを出産した。AはXとY1の長女として戸籍に記載された。当初,XはY1とY2の不貞の事実を知らなかった。
Xが自宅を出てY1と別居し,離婚調停を申し立てたが,不成立となった。離婚調停中に,Y1は,婚姻費用分担の調停を申し立てた。Xは,婚姻費用の審判に従い,合計376万5000円,さらに,別居開始の翌月から,家賃として,金553万9000円を支払った。
その後,Xは,離婚訴訟を提起したが,XとY1は当分の間別居し,その間,XとAと面接交渉を行う旨の和解が成立した。
他方,Y1は,Xに秘して,Y2との男女関係を継続し,Xとの別居中の2か月ほどY2と同居生活もしていた。
Xが再び申し立てた離婚調停で,調停離婚する,Aの親権者をY1とする,XはY1に対し,Aの養育費として,毎月金10万円等を支払うなどを内容とする調停が成立し,その後Xは養育費合計金105万円を支払った。
その後XはAとの親子関係不存在確認の調停を申し立て,鑑定を経て,XとA間に父子関係が存在しないことにつき,合意に相当する審判がなされ,同審判は確定した。
Xは,(1)Y1に対し,Y2との情交関係の結果妊娠し,また不貞の事実を隠して婚姻費用や養育費を釣り上げた等の行為につき,不法行為に基づく損害賠償を求め,(2)同時に,支出したAの養育費,別居開始翌月からの家賃,婚姻費用分担金等が不当利得にあたるとして,返還を求めた。また,(3)Y2に対しても,Y1との不貞行為につき,不法行為に基づく損害賠償を求めた。
奈良地方裁判所は,(1)(3)は認容したが,(2)については,養育費については不当利得にあたるが,Y1は善意の受益者であるとし,婚姻費用については,不当利得にならないとして,退けた。
そこで,Xが控訴。
[判決の概要]
@Xは,Y1の夫としての責任を負う趣旨で,家賃を含む婚姻費用分担金を出捐したものであること,Aしかし,Xは,Y1がY2と不貞関係を続け,Aをもうけた事実を知っていれば,上記の出捐をするはずがないこと,BY1は,当事者として真実を知りつくしていたばかりか,CXに事実を告知してしまえば,Xが出捐しないことをわかっていたので,事実について沈黙していたこと,がそれぞれ推認できる。
これらの事情を総合すれば,Xが真実を知らないために,配偶者としての責任を負う趣旨でY1に交付した金銭は,Y1がXに真実を告げさえすれば交付されるはずがなかったものであり,上記のような事情の下に支払われた金員は,たとえ審判に基づき支払われたものであるとしても,これをY1において保持することを適法とするのは,著しく社会正義に反し,信義則に悖るものである。したがって,婚姻費用分担金,家賃については,不当利得を構成するものと解するほかない。調停調書に基づき支払われた養育費についても同様である。
[ひとこと]
Y1の有責性を考慮した場合でも,夫婦である以上,XがY1に対して一定の婚姻費用を負担しなければならない場合もあり,この限度での費用も不当利得と構成することについては,疑問視する見解もある。
また,親子関係不存在確認の効果を出生時に遡及するとすれば,提訴期間が1年に制限される嫡出否認の訴えに比し,莫大な養育費の返還請求の可能性等,影響が大きく,検討を要する。
(以上,参考文献 冷水登紀代「有責配偶者に支払った婚姻費用分担金等の返還の可否」『速報判例解説』3号109頁ないし112頁)

4−1−2007.1.10
婚婚姻費用分担事件の執行力ある調停調書正本に基づき、一時金及び1日につき2000円の間接強制金の支払を命じた事例
[裁判所]横浜家裁川崎支部
[年月日]2007(平成19)年1月10日決定
[出典]家月60号4巻82頁
[事実の概要]
債権者は、平成2年に債権者と婚姻、同年に長女、平成7年に長男をもうけ、その後2人の子を連れて別居、平成8年に婚姻費用分担の調停を申立てた。平成10年、1ヶ月20万円、債務者の収入が50万円未満に減少したときは収入の40パーセントを、上記金額が12万円に満たない場合は12万円を支払うことを骨子とする調停が成立した。平成14年暮れころ、債務者から支払額を12万円とすることが伝えられた。平成18年4月以降、支払がなされなくなったため、債権者の申出により履行勧告がなされたが、履行はなされなかった。
[決定の概要]
養育費の支払がなされないと債権者は生活が困窮するなど大きな不利益をこうむることは明らかであり、債務者が支払を停止したのは、債権者と債務者とが離婚問題を巡って喧嘩したことが直接の契機で、債務者の支払能力等に変化があったことではないとして、債務者に対し、決定の送達を受けた日から30日以内に決定日までの未払い婚姻費用120万円の支払を命じるとともに、期限までに支払がないときは、24万円と支払期限の日の翌日から4ヶ月間、遅滞1日について2000円を支払うことを命じた。

4−1−2006.7.31
一方当事者が外国に居住している場合に、日本との物価を比較して生活費指数を修正した上で標準的算定方法を用いて婚姻費用を算定した事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2006(平成18)年7月31日決定
[出典]家月59巻6号44頁
[事実の概要]
夫Aは妻Bとの別居後、タイ国人の女性Cとの間に2子をもうけ、同国に居住し子らを扶養している。BがAに対して婚姻費用の分担を求めた。
[判決の概要]
標準的算定方法における生活費指数は、日本国内で生活していることを前提とするが、夫及び夫が扶養義務を負う内妻との間の子らはいずれもタイ王国に生活の本拠を置いており、タイ王国の物価が日本に比べて格段に安いことは公知の事実であり、同国では日本の半額程度の費用で生活することが可能であると推認されるから、夫及び内妻との間の子らの生活費指数をいずれも標準的算定方法に示された数値の2分の1とした上で、標準的算定方法を用いて婚姻費用を算定すべきである。
[ひとこと]
当事者の居住国の物価を考慮して生活費指数を変えることは公平の観点から妥当である。渉外家事事件が増えており、当事者の一方が海外に居住しているケースも少なくない。参考になる事例である。なお、本件は渉外的家事事件であるが、本件に顕れた事実関係から、国際裁判管轄は日本に属し、準拠法も日本の民法が適用されると解されている。

4−1−2006.4.26
婚姻費用の分担額につき、いわゆる標準的算定方式による算定が是認された事例
[裁判所]最高裁第三小法廷
[年月日]2006(平成18)年4月26日決定
[出典]家月58巻9号31頁、判タ1208号90頁、判時1930号92頁
[事実の概要]
妻Xが別居中の夫Yに対し、婚姻費用の分担を求めた事案。XとYには3人の未成熟子がいるが、Yが単身自宅を出て別居し、Xが3人の子を監護養育している。Yは独立開業している税理士であり、XはかつてYの税理士事務所に勤務していたものの、解雇され、以来無収入で、生活保護を受けながら生活している。第1審は、Yの婚費分担額について、東京・大阪養育費等研究会「簡易迅速な養育費等の算定を目指してー養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案」に係る算定方式(いわゆる標準的算定方式)によって算定することとし、Yの総収入を前年の収入に基づき738万1130円程度、Xの総収入を賃金センサスに基づき119万3129円であると認定した上、Yの婚姻費用分担額はおおむね月額21万円から23万円の範囲内になるところ、Xと子が居住する自宅のローンをYが負担することでXが住居費の負担を免れている点を考慮し、月額21万円とした。これに対し、Yは婚姻費用分担額の算定に際しては所得税、住民税、事業税を所得から控除すべきであるとして抗告した。原審はYの抗告を棄却し、Yが許可抗告を申し立て、許可された。
[判決の概要]
原審は、Yの所得金額合計から社会保険料等を差し引いた金額をYの総収入と認定し、この総収入から税法等に基づく標準的な割合による税金等を控除してYの婚姻費用分担額算定の基礎となるべき収入(基礎収入)を推計した上、Yの分担すべき婚姻費用を月額21万円と算定したものであり、以上のようにして婚姻費用分担額を算定した原審の判断は合理的なものであって、是認することができる。
[ひとこと]
標準的算定方式は、既に実務に定着しているが、最高裁がその合理性、相当性を一般的に肯定したことで、今後さらに算定方式による算定が一般化するであろう。

4−1−2005.12.6
婚姻費用の診療報酬債権に対する確定期限未到来分(将来分)の差押え
[裁判所]最高裁
[年月日]2005(平成17)年12月6日決定
[出典]民集59巻10号2629頁、判時1925号103頁、ジュリスト1313号142頁
[事実の概要]
X(申立人・抗告人・抗告人)は、歯科医師Y(相手方・相手方・相手方)に対し婚姻費用の分担として、@確定期限が到来した確定額のほか、A離婚又は別居状態の解消まで「毎月末日限り5万2000円ずつ」を支払うよう命ずる確定決定を取得した。Xがこれを請求債権として、社会保険診療報酬債権について差押を申立てたところ、原々審は、確定期限未到来の「平成17年3月から当事者の離婚又は別居状態の解消に至るまで、毎月末日限り5万2000円ずつの婚姻費用分担額」の債権を請求債権とする、Yの支払基金に対する平成17年3月4日から平成18年3月3日までの診療報酬に係る債権に対する差押えの申立て部分について、却下した。Xが執行抗告したが、原審は棄却した。さらに、Xが許可抗告。
[判決の概要]
保険医療機関、指定医療機関等の指定を受けた病院又は診療所が支払基金に対して取得する診療報酬債権は、基本となる同一の法律関係に基づき継続的に発生するものであり、民事執行法151条の2第2項に規定する『継続的給付に係る債権』に当たるというべきである。
[ひとこと]
民事執行法の改正により、将来分の差押えが認められるようになって以降、地裁間で社会保険診療報酬債権に対する差押えについては、結論が異なっていたようである。ちなみに東京地裁では当初将来1年分のみ認めていたが、本決定のあと、将来分につき1年分というような限定もとりはらい、認めるようになっている。

4−1−2005.9.27 間接強制申立事件(旭川)
間接強制申立事件において、婚姻費用分担申立事件の執行力ある審判正本に基づき、婚姻費用分担金の未払分及び弁済期の到来していない6か月分の各金員の支払を命じるとともに、一定の期間内に各金員の全額を支払わないときは、支払済みまで各一定の日数を限度として、1日につき3000円の間接強制金の支払を命じた事例
[裁判所]旭川家裁
[年月日]2005(平成17)年9月27日決定
[出典]家月58巻2号172頁
[事実の概要]債権者Xと債務者Yは昭和51年12月に婚姻。平成15年7月より別居している。平成16年2月、1ヶ月9万5000円の婚姻費用の支払が審判で命じられた。子3人は成人している。Yは会社代表者のようである。Yは任意の支払を全くしないので、Xは、役員報酬差押えや取立て訴訟などにより、回収してきた。
[判決の概要]
1日あたり3000円の間接強制金を命じ、「間接強制金の累積によって債務者に過酷な状況が生じるおそれのあることを考え、平成17年2月から同年6月までの婚姻費用分担金については150日間を、同年7月以降の婚姻費用分担金については、各月分ごとに30日間をそれぞれ限度とすべきである。」とした。
[ひとこと]
間接強制の判例が公表されたのは、おそらくこれが初めてである。

4−1−2005.3.15
有責配偶者である妻の提起した離婚訴訟の係属中に、妻が婚姻費用分担調停の申立をすることは信義則に照らして許されないとした例
[裁判所]福岡高宮崎支
[年月日]2005(平成17)年3月15日決定
[出典] 家月58巻3号98頁
[事実の概要]
夫婦は婚姻24年目に別居、2人の間には成人した3人の子がいる。有責配偶者である妻(相手方)から破綻を理由とする離婚訴訟が提起され、その一審係属中に同人から婚姻費用分担調停の申立がなされ、審判に移行し、原審判は夫に対し毎月5万円の婚姻費用の支払いを命じた。夫(抗告人)が即時抗告した。抗告審係属中に離婚認容判決が出ている。
[判決の概要]
本決定では妻の不貞により婚姻が破綻したことを認定し、その有責配偶者である「相手方(妻)が婚姻関係が破綻したものとして抗告人(夫)に対して離婚訴訟を提起して離婚を求めるということは、一組の男女の永続的な精神的、経済的及び性的な紐帯である婚姻共同生活体が崩壊し、最早、夫婦間の具体的同居協力扶助の義務が喪失したことを自認することに他ならない」として、このような相手方から抗告人に対して婚姻費用の分担を求めることは信義則に反して許されないとした。
[ひとこと]
最1小決平成17年6月9日特別抗告審で棄却され、確定した。

4−1−2004.9.21
夫経営の法人の妻への専従者給与を実態に照らし夫の収入と認定して婚姻費用を算定した例
[裁判所]那覇家裁
[年月日]2004(平16)年9月21日審判
[出典]家月57巻12号72 頁
[事実の概要]
夫は医療法人の代表者理事長であり,妻に対して専従者給与を支払っていたが,妻が理事を辞職し,別居したことをしたことを契機に,同給与は支給されなくなり,一方で同医療法人では新たな雇用もされていないため,その利益分は医療法人に帰属している場合に,妻が夫に対し,婚姻費用の分担を求めた事案
[審判の概要]
同法人は、夫により設立され、自ら理事長となって業務を総理していることからすると、同法人の財産は、現在、実質的に夫に帰属し、最終的にも夫が取得する可能性が高いと評価できることなどから、妻が理事を退任するまで支給されていた専従者給与に相当する額を夫の収入に加算した上で婚姻費用の分担額を定めた
[ひとこと]
婚費の算定にあたり,実質的に夫に帰属している経済的利益を加算して夫の基礎収入を認定したもので妥当といえる。

4−1−2004.2.25
[裁判所]仙台高裁
[年月日]2004(平成16)年2月25日決定
[出典] 家月56巻7号116頁
[決定の概要]
原審判がこの算定表の算定方式によった点は相当であるが、当時者双方がともに負担すべき自動車ローン支払に関して、原審が、抗告人(夫)の給与収入からローン年額を控除した上でこの算定方式を適用したのは相当ではなく、抗告人の給与収入を直接適用して算定された金額から相手方(妻)が負担すべきローン月額(ローンの半額)を控除した額をもって婚姻費用分担金とすべきであったとして、原審判を変更し、分担金を減額した事例
[ひとこと]
自動車を2台同居中から保有。ローンのある車は夫には不用、妻も不使用。しかし、売却処分を夫がいっても妻は協力しないという事情があった。このため、自動車ローンを共通の負債としたようである。一般には、債務は、共同生活に必要であった債務以外は婚姻費用にあたって考慮されない。

4−1−2004.1.14
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2004(平成16)年1月14日決定
[出典]家月56巻6号155頁
[決定の概要]
夫に対して妻への婚姻費用の支払を命じた原審判に対する即時抗告審において、原審判が定めた婚姻費用分担額は、当事者双方の世帯の収入及び家族構成に関する適正な事実認定を前提とし、かつ、実務上妥当性が認められた算定方法に基づく試算結果の範囲内にあり、相当なものと認められる(なお、その算定方法の内容は判例タイムズ1111号に紹介されている)として、夫からの即時抗告を棄却した事例。
[ひとこと]


4−1−2003.12.26
[裁判所]東京高裁
[年月日]2003(平成15)年12月26日決定
[出典]家月56巻6号149頁
[決定の概要]
夫に対し妻への婚姻費用の支払を命じた原審判に対する即時抗告審において、総収入に対応じて租税法規等に従い理論的に導かれた公租公課の標準的な割り合い並びに統計資料に基づき推計された職業費及び特別経費の標準的な割合から基礎収入を推定してその合計額を世帯収入とみなし、これを生活費の指数で按分して作成した算定表(判例タイムズ1111号285頁参照)に抗告人(父)及び相手方(母)の各総収入額を当てはめた上、抗告人と相手方との紛争や、各自の生活の状況を加味すれば、原審判が定めた分担額を支払うべきものとするのが相当であるとして、夫からの即時抗告を棄却した事例
[ひとこと]
算定表公表後、最初の婚姻費用についての公表判例。判例でも、以前より算定根拠が簡単になりました。

4−1−1999.2.22
妻が預金を持ち出して別居した場合。預金等につき夫は婚姻費用にあてることを了解して妻に保管させ,妻も預金を生活費にあててきたところ,妻が費消した額が婚姻費用分担額をはるかに上回るという事案で,妻は改めて婚姻費用分担請求はできないとした例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]1999(平11)年2月22日決定
[出典] 家月51巻7号64頁
[ひとこと]
 婚姻費用にあてる合意のない場合に、「妻は持ち出した預金で生活すべきであり生活費は支払わない」との主張が夫側からなされることがある。基本的には,夫に定期収入があればその中から婚姻費用を分担すべきで,持ち出した預金は財産分与の際に清算すべきとされている(橋本和夫『財産分与・慰謝料に関する諸問題』「離婚を中心とした家族法」商事法務研究会)。

4−1−1997.3.27
過去の過当に払った婚姻費用。夫婦関係が円満であった時期の過当に負担した婚姻費用については,いわば贈与の趣旨でなされたものであり清算を要しない。
[裁判所]高松高裁
[年月日]1997(平9)年3月27日判決
[出典] 判タ956号248頁

4−1−1993.4.15
収入のない妻の稼働能力を評価した例。子が成人している場合で、婚姻費用の請求者である妻には収入はないが、パート勤務程度の稼動能力はあるとして、居住地の最低賃金で1日6時間、月20日程度就労したとして収入を推計して婚姻費用を算定した。
[裁判所]大阪家裁
[年月日]1993(平5)年4月15日審判
[出典] 未公表
[ひとこと]
 請求者(多くは妻)に稼働能力がありながら就労していない(収入ゼロ)場合には、収入を推計して(収入があるものとして)算出することがある。監護する子が小さい場合は認められにくい。反対に義務者が無職・無収入の場合も、稼動能力があるのに働いていない場合には収入を推計して算定することがある。

4−1−1987.1.12
義務者が親を扶養している場合。夫はまず妻子に対して自己の生活と同程度の生活を保障すべきであり,夫婦の別居前から親と夫が世帯を同じくし生活保持義務に準ずべきものとなっていたなど特段の事情がない限り,親の生活扶助よりも妻子の婚姻費用分担を優先すべきであるとする例。
[裁判所]大阪高裁
[年月日]1987(昭62)年1月12日決定
[出典] 判タ645号231頁
[ひとこと]
 2004年から民事執行法では養育費や生活費については、2分の1まで差押可能となったので、上記の4分の3は2分の1と読みかえることになるか。

4−1−1985.12.26
分担義務の始期。生活保持義務としての性質と両当事者間の公平の観点から,申立人が分担義務者に対して請求をした時からとする。
[裁判所]東京高裁
[年月日]1985(昭60)年12月26日決定
[出典] 判時1180号60頁
[ひとこと]
 いつの時点からの婚姻費用を請求できるのか(始期)がしばしば問題になる。
 多くの判例はこの判例と同じく請求時説。具体的には、請求する書面を相手に送付した時、婚姻費用分担調停の申立をした時、などからである。

4−1−1983.12.16
別居の事情と婚姻費用分担の内容についての例。夫婦の一方が、他方の意思に反して別居を強行し続け、別居をやむを得ないとするような事情が認められない場合には、自分自身の生活費にあたる分についての婚姻費用分担請求は権利の濫用として許されず、ただ、同居の未成年の子の実質的監護費用を婚姻費用の分担として請求しうるにとどまる。
[裁判所]東京高裁
[年月日]1983(昭和58)年12月16日決定
[出典]家月37巻3号69頁
[ひとこと]
算定表普及後は、有責配偶者からの請求であることが証拠上も明確な場合以外は配偶者分についても分担請求は認められており、本件のような判断枠組みは現在では通用しないと思われる。

4−1―1983.6.21
夫と同居中の女性の生活費につき、その女性との不貞とは異なる別の事情で破綻した後で同棲関係が生じたなど特段の事情がある場合には,生活費を考慮できる(支出として考慮できる)とするものがある。
[裁判所]東京高裁
[年月日]1983(昭58)年6月21日決定
[出典] 判時1086号104頁

4−1−1983.5.26
分担義務の始期。夫婦げんかの末,無収入の妻が子どもを連れて実家に戻った事案で,義務者において,申立人が婚姻費用分担に関する支払を受けるべき状態にあることを知り,または知ることをうべかりし時に生じるとして,別居時以降の婚姻費用の分担を命じた例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]1983(昭58)年5月26日決定
[出典] 家月36巻7号77頁

4−1−1983.1.24
義務者が債務超過の場合。債務超過であっても債務者の収入が給料であるときは,その4分の3に相当する部分は,民事執行法152条により差押えが禁止されていることに照らすと,この4分の3に相当する金額は,自己および家族の生活保持に優先的に充当することができるのであるから,多額の負債があることは婚姻費用の分担を拒む理由とはならないとする例
[裁判所]福島家裁
[年月日]1983(昭58)年1月24日決定
[出典]家月36巻5号104頁

4−1―1980.2.26
夫と同居中の女性の生活費を婚姻費用分担額算定にあたって考慮すべきでないとする例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]1980(昭55)年2月26日
[出典]家月32巻9号32頁
[ひとこと]同旨の多数の判例がある。

4−1−1979.2.9
別居妻に対して負担すべき婚姻費用の程度の例。妻にとっても別居の責任の一半があり、別居後は、妻が夫と同居していた間のような家事労働をしていない場合、夫が妻に対して負担すべき婚姻費用の程度は、妻が単独で通常の社会人として生活するのに必要な程度で足り、夫と円満に同居し十分な家事労働をしていた場合と同一の生活程度を維持するのに必要な程度であることを要しないとした。
[裁判所]東京高裁
[年月日]1979(昭和54)年2月9日決定
[出典]家月32巻2号60頁
[コメント]
別居妻に対して負担すべき婚姻費用の程度につき、東京高決1977(昭和52)年9月30日(家月30巻7号58頁)も同旨の判断をしている。但し、算定表普及後については1983.12.16決定のコメントの通り。

4−1−1978.11.14
過去の婚姻費用と財産分与。離婚訴訟において裁判所が財産分与を命ずるにあたっては,当事者の一方が過去に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるとする。
[裁判所]最高裁
[年月日]1978(昭53)年11月14日判決
[出典] 民集32巻8号1529頁

4−1−1978.2.20
収入のない妻の稼動能力を評価しなかった例。請求者である妻が教員・美容師・電話交換手などの免許をもっているが,婚姻後主婦として家事に専従し,別居後も幼稚園と小学1年の子を養育していることを考えて,現段階では妻の稼働能力を分担額の算定にあたって,現実の収入として評価しないとした。
[裁判所]熊本家裁
[年月日]1978(昭53)年2月20日審判
[出典]家月31巻2号20日

4−1−1976.7.19
過去の(未払いの)婚姻費用は、財産分与に含めて処理できる。
[裁判所]水戸地裁
[年月日]1976(昭51)年7月19日判決
[出典] 家月30巻1号102頁等

4−1−1970.12.14
婚姻費用の分担額を決定する際の収入からの控除の可否の例。給与所得者である夫の収入額の算定に当たっては、市民税及び県民税の額を控除するのが相当であるが、反面、夫の電話料や自動車税などは、夫の生活費として支出すべきであり、控除すべきではないとした。
[裁判所]高松高裁
[年月日]1970(昭和45)年12月14日決定
[出典]家月23巻7号42頁
[コメント]
現在(2010)では当然の内容である。

4−1−1967.9.12
義務者が親を扶養している場合の親の生活費を控除して算定した例
[裁判所]東京高裁
[年月日]1967(昭42)年9月12日決定
[出典] 家月20巻5号105頁

4−1−1967.9.8
夫婦の一方が、相手方の意思に反して、あるいは正当の事由もなく、独断的に別居を敢行した場合には、その者は、未成年子を伴っている等の特段の事由のない限り、他方配偶者に対して婚姻費用分担の請求をすることはできないとした例
[裁判所]東京高裁
[年月日]1967(昭和42)年9月8日決定
[出典]家月20巻4号16頁、判タ230号313頁
[コメント]
算定表後は通用しない点については、1983.12.16決定のコメントの通り。

4−1−1965.7.16
婚姻費用に未成年子の養育費が含まれるかについての判断。未成年子らを連れて別居中の妻が、夫に対して婚姻費用分担請求をした場合、婚姻費用の中には未成年の子の養育費も含まれるから、婚姻関係破綻の原因の大半が妻に求められ、妻の別居が正当な事由に基づかないものであるときであっても、妻は、夫に対して、婚姻費用の支払を請求することができるとした。
[裁判所]東京高裁
[年月日]1965(昭和40)年7月16日決定
[出典]家月17巻12号121頁、判タ181号152頁

4−1−1963.12.14
婚姻費用分担割合の例。夫の婚姻費用分担義務を認めつつも、全額の給付を命ずることは婚姻関係をさらに一層破局に追い込むおそれがあること、妻が婚姻の継続を強く希望していることなどを考慮し、夫の分担額を一定限度にとどめて支払を命じた。
[裁判所]大阪家裁
[年月日]1963(昭和38)年12月14日審判
[出典]家月16巻5号152頁
[コメント]
現在(2010)では、分担義務の程度は、原則、算定表の幅の中でしか斟酌されない。

4−1−1958.4.11
事実婚の場合も婚姻費用分担請求はできる。
[裁判所]最高裁
[年月日]1958(昭33)年4月11日判決
[出典] 民集12巻5号789頁

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