判例
4 別居中の生活費など

4−2 同居請求
民法752条は夫婦の同居義務を定めている。別居中の配偶者の一方から同居の申立がなされことがある。申立が嫌がらせや憤りを秘めているという場合も少なくない。なお、同居命令について履行を強制する方法はない。


4−2−2017.7.14
夫婦関係の破綻の程度は、離婚原因の程度に至らなくても、同居義務の具体的形成をすることが不相当な程度には至っているなどとして、同居を命じた原審判を取り消し、申立てを却下した例
[福岡高裁2017(平成29)年7月14日決定 家庭の法と裁判17号68頁、判タ1453号121頁、判時2383号29頁、LEX/DB25561629]
[事実の概要]
夫婦は2009(平成21)年に婚姻し、妻は2013(平成25)年に子を連れて別居した。妻は2014(平成26)年に離婚訴訟を提起した。一審判決は破綻を認め離婚を認容したが、控訴審判決は、真摯に話し合えば修復の余地があるとして離婚請求を棄却し、これが確定した。夫はこれを受けて、2016年、妻に対し、同居を求める審判を申し立て、原審は同居を命じたので妻が抗告した。
妻について、医師により適応障害(抑うつ状態)との診断がなされ、ストレス原因は明確であり治療には環境調整が必要であると診断されている。原審において、家庭裁判所調査官同席の下での夫との面会が提案された際に、妻はそれだけで、手が震え、呼吸が荒くなり嗚咽するという状況になった。また、ストレッサー(相手方夫)との面会には拡張薬の事前服用が必須でそれでも精神症状が悪化する可能性があることは否定できないと家庭裁判所の医務室技官により報告がなされている。
[決定の概要]
「共同生活を営む夫婦間の愛情と信頼関係が失われる等した場合に、仮に、同居の審判がされて、同居生活が再開されたとしても、夫婦が互いの人格を傷つけ、又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる場合には、同居を命じるのは相当でないといえる。」
「抗告人について、あらかじめ薬を服用することで適応障害の症状を抑えることができる可能性はあるとしても、そのようにしてまで相手方との同居生活を再開したところで、抗告人において、早晩、服薬によって症状を抑えることも困難となり、再度別居せざるを得なくなる可能性は高いということができ・・そのような事態に至った時に、相手方から抗告人に対し、適切な配慮がされるとは思われず、相互に個人の尊厳を損なうような状態に至る可能性は高いといわざるをえない。」として、原審判を取り消し、同居の申立てを却下した。

4−2−2009.8.13
妻から夫に対する同居申立てを認容した原審判を取り消して申立てを却下した事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2009(平成21)年8月13日決定
[出典]家月62巻1号97頁
[事実の概要]
相手方(妻)と抗告人(夫)は、平成14年に婚姻したが、夫は平成19年ころから勤務先の女性と親しくなり、妻は抗告人の不倫を責め立て、激しい口論になることがあった。夫は婚姻生活の継続は不可能と考え、平成19年ころから妻のもとにほとんど帰らなくなった。そこで、妻が夫婦同居を求める審判を申し立てたところ、原審は、夫婦関係が悪化したのは専ら夫の不倫に原因があり、夫の不倫を知った後の妻の言動がかなり激しいものであったとしても、妻は現在円満な夫婦関係を切望していることなどの事情に照らし、夫婦関係の修復は可能であるとして、同居を命じる審判をした。これに対し、夫から抗告がなされた。
[判決の概要]
同居を命じる原審判がされた後も、抗告人夫が、相手方妻との婚姻生活の継続は不可能であるとの考えや、今後も相手方が激情して取り乱すなど衝動的な行動を取ることを繰り返す可能性があるとの考えを変えていないなどの事情に照らすと、仮に同居の審判に基づき同居生活が再開されたとしても、夫婦共同生活の前提となる夫婦間の愛情と信頼関係の回復を期待することは困難であり、夫婦が互いの人格を傷つけ又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められるから、現時点において、同居を命じるのは相当ではない。
[ひとこと]
いったん同居を命じる審判がされた後も、夫の妻への不信・同居拒否の強い意思に変更のない事情が考慮されて、同居命令が覆された事案。同居命令によっても人の気持ちまで変えることはできず、抗告人夫の同居拒否の意思が固く、同居の可能性がほとんどない案件では、結局同居命令を取得すること自体も困難といえる。

4−2−2005.1.14
不貞を繰り返す別居中の夫に対して妻から同居を求めた事件において同居を命じた例である。
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2005(平成17)年1月14日決定
[出典]家月57巻6号154頁
[事実の概要]
夫と妻は昭和52年11月1日に婚姻、長男長女をもうけた。夫婦ともに勤務医である。夫は何回か勤務先の看護士と不貞関係を持っている。夫は平成14年12月中旬頃から外泊が増え、平成15年6月28日以降自宅に帰らず、妻と別居するに至った。
[判決の概要]
「抗告人(夫)と相手方(妻)の婚姻期間が25年あまりの長きにわたっており、それとの比較で別居期間が短く、相手方が抗告人との同居を求めているという状況に鑑みれば、抗告人と相手方の婚姻については、その維持継続の見込みが完全に否定される状況にあるとは断定できない」として、同居義務を定めた原審判を相当とした。

4−2−2001.4.6
女性と交際中の夫に対し妻から同居請求した事案で,同居によりむしろ一層互いの人格を傷つけ個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が極めて高いとして却下した例。
[裁判所]東京高裁
[年月日]2001(平13)年4月6日決定
[出典] 家月54巻3号66頁

4−2−2000.5.22
夫から妻に対する同居請求。夫は自分なりに家庭を崩壊させないよう努めてきており、妻も生活費が送金されている現状では離婚まで求めないと述べ、調停委員の勧めにしたがって食事を共にするなどしている現状のもとで、同居拒否に正当な理由がないとして原審を覆して妻に対し同居を命じた例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2000(平12)年5月22日決定
[出典] 判時1730号30頁

4−2−1998.11.18
舅の世話と乳児の世話によるストレスと夫婦の会話不足から家を出た妻に対し,夫から同居請求がなされた事案で,同居審判は帰責性が夫婦のいずれかにあるのかを確定するためにあるのではないとし、本件では妻に翻意の可能性が全くないとして却下した。
[裁判所]札幌家裁
[年月日]1998(平10)年11月18日審判
[出典] 家月51巻5号56頁

4−2−1997.9.29
妻の不貞発覚後に妻が家を出た(夫にも以前に不貞あり)事案で、夫から妻に対する同居請求につき、「同居を拒否する正当な理由はなく,共同生活体が今後も維持される可能性は否定できないとして同居を命じた例
[裁判所]東京高裁
[年月日]1997(平9)年9月29日決定
[出典] 判時1633号90頁
[ひとこと]
 原審は「同居義務が夫婦それぞれの心理を基礎とするものであることに鑑みるとこれを強いることは相当でない」としたがこれを覆した。

 
TOP BACK