判例
4 別居中の生活費など

4−3 別居中の夫婦に関するその他の問題

4−3−2021.12.15
新型コロナ緊急経済対策による特別定額給付金につき、別居中の妻子の分も世帯主として受領した夫に対する妻からの不当利得返還請求を認めた例
[熊本地裁2021(令和3)年12月15日判決 LEX/DB25591687]
[事実の概要]
夫婦は2020年3月に別居し、その後、子が生まれた。夫(控訴人)は2020年5月頃、新型コロナ緊急経済対策による特別定額給付金として、別居中の妻と子(いずれも被控訴人)の分も含めて金30万円の支給を自治体より受けた。支給基準日における住民票上の世帯主は夫であった。妻は、2020年5月、離婚調停および婚姻費用分担調停を申し立てた。
別居以降2021年5月まで、夫は妻に生活費の送金をしていなかった。2021年6月、調停に代わる審判によって、婚姻費用として、2020年6月から2021年5月までの未払金48万円及び同年6月から毎月1万円の支払義務が認められた。2020年11月、妻は離婚請求事件を提訴した。また、2021年、妻と子は夫に対し、夫に支払われた特別定額給付金である各10万円及び弁護士費用1万円につき、不法行為による損害賠償請求訴訟を提訴し、原審は各10万円及び法定利息3%の請求を認めた。なお、弁護士費用については認容しなかったようである。夫から控訴し、妻子は付帯控訴し、不当利得返還請求を選択的併合として追加請求した。
[判決の概要]
控訴審判決は、原判決を変更し、付帯控訴に基づき、「本件の事情の下では、・・給付金対象者の家計への支援を行うという本件事業の目的に反するものであるといえるから、控訴人が受給した30万円のうち被控訴人らを対象者とする各10万円を取得する私法上の権利は、被控訴人らにそれぞれ帰属するというべきである。したがって、控訴人は・・給付金20万円を受給して悪意で利得し、被控訴人らにその損失が生じたものと認められる。」として、不当利得返還請求を認容した。

4−3−2005.6.9
妻及び子が居住する夫婦共有名義の不動産について、別居中の夫が妻に対してした共有物分割請求権の行使が、権利の濫用に当たるとされた事例
[裁判所]大阪高裁
[年月日]2005(平成17)年6月9日判決
[出典]判時1938号80頁
[事実の概要]
X(夫)とY(妻)は、昭和43年に婚姻した夫婦であり、昭和62年4月までに自宅を取得し、各2分の1の共有持分を有している。Xは税理士。XYには3人の娘がいるが、長女は精神疾患のため通院治療を継続している。Xが平成8年に自宅を出て、別居開始。Xは癌に罹患している。自宅にはXの債務を被担保債権とする抵当権等が設定されている。XはYに対し、本件不動産を競売に付したうえで、代金分割の方法による共有物分割を求めた。原審は、本件共有物分割請求権の行使が権利の濫用に当たらないと判断し、Xの請求を認容。Yが控訴。
[判決の概要]
@離婚に伴う財産分与手続であれば、自宅をYが単独で取得する可能性が高い、AXは収入を得ているにもかかわらず、Yや長女を置き去りにして別居し婚費をほとんど分担せずYを苦況に陥れていること、BYらは、自宅の競売により退去を余儀なくされ長女の症状が悪化する可能性がある上、経済的にも一層苦境に陥ること、CXが余命を考慮して、自宅を処分し負債を整理することについては、必要があるとしてもYらを苦境に陥れてまで自宅を処分しなければならない理由はない等を指摘して、本件共有物分割請求権の行使が権利の濫用に当たると判断し、原判決を取り消して、Xの請求を棄却した。
[ひとこと]
夫の側にも共有物分割を求める経済的理由等があったため、1審と2審で結論が分かれた。

4−3−1992.8.26
預金などの持ち出し。離婚訴訟係属中の妻が夫名義の国債,ゴルフ会員権,現金を持ち出して消費した場合について、それが実質的な夫婦の共有財産であるときには,その財産の一部を持ち出したとしても,その持ち出した財産が将来の財産分与と考えられる対象や範囲を著しく逸脱するとか,他方を不当に困惑させるなど不当な目的を持たない限り,違法性はなく不法行為とはならず,最終的な帰属は財産分与の際に決すべきとした。
[裁判所]東京地裁
[年月日]1992(平4)年8月26日判決
[出典] 判タ813号270頁

4−3−1991.3.6
居住権。夫婦の一方は他方が所有する建物に居住することができるが,婚姻破綻につき有責性のある者が居住権を主張することは、権利濫用として認められない。
[裁判所]東京地裁
[年月日]1991(平3)年3月6日判決
[出典] 判タ768号224頁

4−3−1989.11.30
動産の引渡請求。夫婦の協力扶助義務の一形態として,別居中の夫婦の一方が他方に対して,生活上必要な衣類や日用品などの物件の引渡しを求めることができ,他方は自己の生活に必要でない限りこれに応じる義務がある。
[裁判所]大阪高裁
[年月日]1989(平元)年11月30日決定
[出典] 判タ732号263頁
[ひとこと]所有権に基づく引渡請求でも可能なのでは?


4−3−1977.3.24
預金の持ち出し。婚姻中に取得した夫名義の預金の半分を、妻が自分名義に変えて家出した事案で、夫から妻に対する損害賠償請求を棄却した。
[裁判所]横浜地裁
[年月日]1977(昭52)年3月24日判決
[出典] 判時867号87頁

 
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