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渉外離婚(国際離婚)
1離婚の裁判管轄
1−1 国際的裁判管轄
1−1−2014.3.27
日本人妻が米国で提起した離婚の訴え等が係属中に、日本人夫が日本で離婚の訴え等を提起し、日本での訴えが係属中に米国で離婚等の判決が下された事例
[東京家裁2014(平成26)年3月27日判決 戸籍時報752号38頁]
[事実の概要]
日本人夫Xと日本人妻Yは、日本で婚姻し日本で3人の子をもうけた。XYは家族で米国カリフォルニア州ロサンゼルスに赴任したが、XがYの不貞を疑いYの行動を監視し関係が悪化したことから、YはXを相手方としてカリフォルニア州の裁判所に離婚の訴えを提起し、その後、3人の子を伴って家を出た。カリフォルニア州の裁判所は、Xに対し、子らの養育費を暫定的に支払うよう命じた(以下「先行命令」という)。Xは単身で日本に帰国し、YはXに対し、日本の代理人弁護士を介して、書面で未払養育費等の支払を請求したが、Xは現段階では任意に支払うことは考えていないと返信し、Yに対し、@離婚、A3人の未成年子の親権者をXと定めること、B離婚に伴う慰謝料、C子らの養育費を求めて、日本で提訴した(以下「本件訴え」という)。本件訴え後、カリフォルニア州の裁判所は、XとYとを離婚し、子らの親権者をいずれもYと定める旨を判決し(以下「本件先行判決」という)、Xを筆頭者とする日本の戸籍にその旨が記載された。Xが日本で提訴した本件に対し、Yは、日本に管轄権がないと主張し争った。
[判決の概要]
Yについては、子らとともに米国にとどまっていることが認められるものの、XYの双方が日本人であり、日本で婚姻し、Xの2度の海外赴任の際にはいずれもXはYを帯同して住居をともにし、3人の子らについては、いずれも日本で出生したことが認められ、こうした事実に照らすと、本件については、日本の裁判所に国際裁判管轄があると認めるのが相当である。なお、Yの応訴の負担については、Yの経済的状況は必ずしも明らかではないものの、Yにおいて、本件先行命令の履行請求を日本の代理人弁護士を選任して行っていることに照らし、Yに難を強いるものとまでは認めがたい。ただし、米国におけるXとYとの居住実績や別居の事情等に基づいて、米国の裁判所にも管轄が競合的に認められる余地がある。
Xの主張の事実のみからYの不貞行為を推認するに足りる的確な事情は見あたらない。また、YによるXに対する悪意の遺棄があったと認めることはできない。したがって、Xの本件離婚請求は理由がなく、また慰謝料請求についても理由がない。
なお、本件においては、Xも当初は現実に関与していた米国での手続きに引き続いて発せられた本件先行判決に基づいて、Xを筆頭者とする戸籍にYとの離婚の事実が記載されているところ、これまでの手続きの経緯中に本件先行命令及び本件先行判決を当然無効又は不存在と認めるべき事情は見当たらないのであるから、日本国内においても、XとYとは本件口頭弁論終結前に離婚していたものと認められることができ、この点からもXの本件離婚請求は理由がないとして、離婚、親権者をXと定めること及び慰謝料の請求について棄却し、養育費の請求について却下した。
[ひとこと]
2018年4月18日に成立した「人事訴訟法等の一部を改正する法律」によると、夫婦が共に日本の国籍を有するときは、日本に裁判管轄が認められるため(改正後の人訴法第3条の2第1号)、本件においても日本の裁判所に管轄権が認められることになる。
1−1−2009.4.10
婚姻共同生活を営んだことがないと思われる夫婦の日本に住む日本人夫からマレーシアに住むマレーシア人妻に対する離婚事件について,日本の国際裁判管轄権を否定した事例
[裁判所]福岡高裁
[年月日]2009(平成21)年4月10日判決
[出典]戸籍時報649号10頁
[事実の概要]
日本人夫の原告は,マレーシア人妻とマレーシア法に基づく手続きを経て婚姻したが,その後も,夫は日本,妻はマレーシアを生活拠点にしたままで婚姻共同生活を営むことはなかった。そこで,夫が自らの住所地のある福岡家裁に離婚訴訟を提起した。
[判決の概要]
まず,最大判昭和39年3月25日(1−1−1964.3.25 )の基準に従って検討し,妻の夫に対する悪意の遺棄は認められないとして,日本の管轄権を否定した。さらに,最判平成8年6月24日(1−1−1996.6.24)で言及された原告の権利保護の要請の観点から,夫と妻の経済面等につき検討し,日本の国際裁判管轄を認めないことが,夫の権利保護の面で著しく公平を欠くということはできないとして,やはり日本の管轄権を否定した。
[ひとこと]
婚姻共同生活を営んだことがない夫婦の離婚事件という点で特殊な事案。原審,本判決とも日本の管轄権を否定している。
1−1−2008.7.18
離婚等請求訴訟の国際裁判管轄につき,被告の不利益のほか,原告が被告の住所地国に離婚訴訟を提起することにつき法律上事実上の障害があるかどうか等も考慮し,原告の権利の保護に欠けることがないよう留意しなければならないとして,日本に国際裁判管轄を肯定した事例
[新潟家裁新発田支部2008 (平成20)年7月18日判決 消費者法ニュース78号254頁]
[事実の概要]
原告(日本国籍)は韓国で被告(韓国国籍)と婚姻し二子(韓国国籍)をもうけた。しかし,被告は無職の状態が続いた上,原告に対し断続的に暴力を加えた。そのため,原告は二子を連れて日本に帰国し,その後被告に離婚の意思を伝えた。以後,被告は原告に連絡を取らず,別居後から養育費も負担していない。原告は本件訴訟提起に当たり民事法律扶助を利用した。
[判決の概要]
離婚等請求訴訟につき日本の国際裁判管轄を検討するに当たっては,条理に従って決定するのが相当であるが,その判断に当たっては,「応訴を余儀なくされる被告の不利益に配慮すべきことはもちろんであるが,他方,原告が被告の住所地国に離婚請求訴訟を提起することにつき法律上又は事実上の障害があるかどうか及びその程度も考慮し,離婚を求める原告の権利の保護に欠けることがないよう留意しなければならない。」そして,本件では@訴訟全体に関しては,原告が被告の住所地国である韓国で裁判手続を提起遂行することには事実上の障害があり,その障害をもたらしたのは,養育費を負担しないなどの被告側の態度に起因すること,A親権者指定に関しては,二子が日本に居住していることから,本件訴訟については日本に国際裁判管轄があると解するのが,条理に合致する。
1−1−2006.4.13
重婚を理由とする後婚の取消請求訴訟係属中に前婚の無効確認請求等の反訴がなされ、反訴についても我が国の裁判所に国際裁判管轄があるとされた事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2006(平成18)年4月13日判決
[出典]判時1934号42頁
[判決の概要]
婚姻無効確認等の請求訴訟が我が国の裁判所に反訴として提起された場合には、その請求が本訴と密接な関係を有する限り、反訴被告が応訴を余儀なくされることによる不利益があるとは認められないし、本訴と反訴とを併合審理することにより審理の重複や判断の矛盾を避け身分関係に関する紛争の画一的・一回的解決を図ることができるのであるから、特段の事情のない限り、我が国の国際裁判管轄を肯定するのが当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念に適するものと解される。
1−1−2004.1.30
原告が日本人である離婚請求訴訟において,被告が日本に居住していない場合に,日本の国際裁判管轄を認めた事例
[裁判所]東京地裁
[年月日]2004(平成16)年1月30日判決
[出典]判時1854号51頁
[事実の概要]
日本人である妻は,フランス人である夫と婚姻し,フランスに居住していたが,夫の度重なる暴力により長男を連れて帰国した。夫は,妻に対する暴行,傷害についてパリ大審裁判所に起訴され,罰金の支払いを命ずる有罪判決を受け,付帯して提起された妻の夫に対する損害賠償請求訴訟においても賠償金の支払いを命ぜられた。帰国後,妻は無言電話がかかってきたり,情報会社から身辺調査をされるという不審な出来事が続き,警察等に援助を求めた。パリ大審裁判所は,夫の申立てに基づき,子の国外連れ出しを禁ずる仮処分命令を出した。さらに,夫の告訴を受けて,予審判事によって妻に対する逮捕状が発布された。夫は,フランスの裁判所に離婚訴訟を提起した。
妻は,離婚,親権,慰謝料を求めて,本件訴訟を提起した。夫は,本案前の主張として,夫の住所地はフランスにあり,婚姻生活地もフランスであるため,フランスでの審理が公平に適うとし,日本の管轄を否定し,訴え却下を求めた。
[判決の概要]
原告が日本へ帰国したのは専ら被告の暴行等によるものであること,原告がフランスに離婚訴訟を提起することは,原告の生命身体の危険という事実上の障害があること,当該障害を生じさせたのが専ら被告の言動によるものであること,被告が従前弁護士を選任して訴訟遂行しており,日本の管轄を肯定しても被告の裁判を受ける権利を著しく制限することにならないなどの事情によれば(最判平8.6.24)の判示する国際裁判管轄についての判断に照らして,日本に管轄を認めるのが条理に適うというべきである。
[ひとこと]
被告は1964年の最高裁判決に依拠して日本の管轄を否定したが,本判決は,1964年判決は外国人間の離婚請求訴訟の国際裁判管轄に関する判断であり,本件とは事案を異にするとして,被告の主張を退けた。その上で,1996年の最高裁判決に依拠し,事案の詳細な検討をしたうえで,日本の国際裁判管轄を肯定した。
1−1−1999.11.24
日本人である夫のアメリカ在住のアメリカ人妻に対する離婚の訴えについて,日本の国際裁判管轄を認め,親権者指定の申立についてはアメリカにも管轄がありアメリカの確定判決が日本でも効力を有するとした事例
[裁判所]名古屋地裁
[年月日]1999(平成11)年11月24日判決
[出典]判タ1023号234頁
[事実の概要]
日本人である夫は,アメリカ人である妻と婚姻し,愛知県内に居住していたが,妻は2子を連れて,無断でアメリカに帰国した。妻はオレゴン州で,離婚と2子の親権者を求めて訴訟を提起し,勝訴判決を得,この判決は確定した。
夫は離婚,2子の親権等を求めて訴訟を提起した。妻は,本案前の主張として,日本に国際裁判管轄はないとし,あるいは,日本で効力を有するアメリカの判決と抵触して不適法であると主張した。
[判決の概要]
離婚の訴えは,原告の住所地が日本にあり,婚姻共同生活地が日本にあった場合には,特段の事情がない限り,日本は国際裁判管轄を有するとし,かつ,オレゴン州において被告が提起し確定した離婚の訴えの国際裁判管轄はオレゴン州にはなく,同判決は日本において効力を有しないから,本件離婚の訴えを適法であるとし,離婚請求を認容した。
親権者指定の申立については,その国際裁判管轄が日本とオレゴン州の双方にあり,オレゴン州における確定判決が日本において効力を有するから,不適法であるとして,判決主文で親権者指定の言い渡しをしなかった。
[ひとこと]
1996年の最高裁判決を踏まえ,日本人と外国人間の離婚訴訟の国際裁判管轄を判断した事例判決である。親権者指定の国際裁判管轄の有無を離婚請求部分と分離して考えるという,従来ない判断も示した。
1−1−1999.11.4
[裁判所]東京地裁
[年月日]1999(平成11)年11月4日判決
[出典]判タ1023号267頁,判時1728号58頁
[判決の概要]
日本に居住する日本人夫からアメリカに居住する日本人妻に対して離婚請求した事案で、最二小判1996.6.24の基準によって日本に管轄を認めた。
1−1−1998.5.29
[裁判所]横浜地裁
[年月日]1998(平成10)年5月29日判決
[出典]判タ1002号249頁
[判決の概要]
日本に住む米国人夫が夫を遺棄して上海にいる中国人妻に対し離婚請求した事案で、日本に管轄権を認めた。
1−1−1996.6.24
[裁判所]最高裁第二小法廷
[年月日]1996(平成8)年6月24日判決
[出典]判時1578号56頁
[判決の概要]
ドイツ人妻がドイツで提訴して得た離婚判決が確定したが,ドイツの判決が民訴法200条2号の要件を欠くため日本でドイツ判決の効力を認めることが出来ないという事案。
最高裁は,「当事者間の公平や裁判の適正・迅速の理念により条理に従って決定するのが相当」として,跛行婚を解消するため日本で離婚訴訟を提起する以外に方法がないとして管轄権を認めた。
1−1−1995.12.26
[裁判所]東京地裁
[年月日]1995(平成7)年12月26日判決
[出典]判タ922号276頁
[判決の概要]
日本に住む日本人夫がイタリアに住むイタリア人妻に対し離婚請求し、妻が離婚の反訴をした事案で,日本に管轄権を認めた。
1−1−1993.3.29
[裁判所]東京高裁
[年月日]1993(平成5)年3月29日判決
[出典]家月45巻10号65頁
[判決の概要]
米国人の妻が米国バージニア州に住む米国籍の夫に対し離婚に伴う財産分与及び慰謝料を請求したが,原告及び被告はいずれも日本に住所を有しないとして日本の管轄権を否定した(同旨東京地判平3・12・20判時1441号112頁)。
1−1−1991.3.4
[裁判所]水戸家裁
[年月日]1991(平成3)年3月4日審判
[出典]家月45巻12号57頁
[判決の概要]
フランス人の妻から日本に住むイギリス人の夫に対し離婚請求がなされ,住所地国である日本の管轄権を認めた。
1−1−1984.8.3
[裁判所]東京地裁
[年月日]1984(昭和59)年8月3日判決
[出典]判時1149号122頁
[判決の概要]
日本に居住する日本人妻がブラジルに住むブラジル人夫に対して離婚請求し,被告が異議なく応訴している事案で、例外的に日本に管轄権を認めた。
1−1−1983.12.21
[裁判所]浦和地裁
[年月日]1983(昭和58)年12月21日判決
[出典]判時1112号112頁
[事案の概要]
日本に住む日本人妻からパキスタンに住むパキスタン人夫に対し離婚請求し,妻はパキスタンに戻る意思がなく,夫はパキスタン女性と婚姻して1子をもうけ書面で離婚に同意するとの意思表示をしている事案で、例外的に日本に管轄権を認めた。
1−1−1964.3.25
[裁判所]最高裁大法廷
[年月日]1964(昭和39)年3月25日判決
[出典]民集18巻3号486頁、判時366号11頁
[判決の概要]
韓国人夫婦間の離婚。原告(妻)は日本に住所があるが,被告(夫)は来日したことがなく,妻が夫から遺棄され夫は所在不明であるというケースで,「原則として被告の住所地国が裁判管轄権を有するが,例外として原告が遺棄された場合や被告が行方不明である場合その他これに準ずる場合には原告の住所地国にも管轄権がある」とした。
[ひとこと]
被告の住所が日本にある場合には無条件に,原告の住所が日本にある場合には正義公平の見地から特別の事情のあるときに例外的に日本の裁判管轄権を認めるとした。以来,下級審判例はおおむねこの基準にそってきた。
1−2 国内的裁判管轄
1−2−1964.3.25
[裁判所]最高裁大法廷
[年月日]1964(昭和39)年3月25日判決
[出典]民集18巻3号486頁、判時366号11頁
[判決の概要]
被告の住所は日本にないが,例外的に原告の住所地である日本に離婚裁判の管轄権が認められる場合,その国内裁判管轄権については,人事訴訟手続法4条2項(旧人訴法),人事訴訟手続法による住所地等指定規則に基づき被告の住所地は東京都千代田区でとされるので,東京家庭裁判所に管轄がある。
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