判例
渉外離婚(国際離婚)

10 その他

10−2017.4.25
執行判決請求事件
[東京地裁2017(平成29)年4月25日判決  LLI/DB L07231875]
[判決の概要]
原告(妻)は被告(夫)に対し、ニューヨーク州裁判所が言い渡した判決のうち、養育費と財産分与の支払いを命じる部分につき、民事執行法24条の執行判決を求めたところ、裁判所は、本件外国判決の内容及び手続きにおいて、日本における公序に反する点をうかがわせる事情はないとして、強制執行を許可した。

10−2013.3.22
原告が,離婚判決に伴って元夫に対する慰謝料請求権及び財産分与請求権を取得したが,元夫がその履行をしないまま死亡したため,原告と元夫の子を被告として上記債務の支払等を求めた事案において,元夫の相続,遺言に関する適用法は,米国ニューヨーク州のESTATES,POWERS AND TRUSTS LAW(EPTL)で,EPTL12条1項1号(a)に基づいて本件債務の支払いを求める原告の主張は採用することはできないとして,請求を棄却した事例
[東京地裁2013(平成25)年3月22日 LEX/DB25512107]
[事実の概要]
Aは夫Bとの離婚判決に基づき,Bに対し慰謝料請求権及び財産分与請求権を取得したが,Bがその履行をしないまま死亡した。AはAB間の子Cが上記債務を承継したと主張して,Cに対しその支払いを求めた。ABCはいずれも米国籍で,Bの相続,遺言に関する適用法は,米国ニューヨーク州のESTATES,POWERS AND TRUSTS LAW(EPTL)である。
[判決の概要]
(1)EPTL12条1項1号(a)の解釈
EPTL12条1項1号(a)は,「本条他項に従い,相続人及び遺言受益者(遺言によって有利に財産が処分される者)は,そのような者として受領した資産価値の範囲内で,遺産管理人又は(b)項に規定するその他の者から支払われなかった故人の債務,相当な葬儀費用,故人の遺産管理費用及び遺産に掛かる全ての税金について責任を負う。」と規定するところ,同条は,故人の遺産を配分された相続人又は遺言受益者が,かかる配分によって,債権の満足を得られなくなった故人の債権者に対する責任についての規定であり,同条の文言上,「相続人及び遺言受益者」の責任を,「そのような者として」,すなわち,相続人及び遺言受益者として受領した資産価値の範囲内に限定することを明示していることに照らすと,故人の資産を受領した者がEPTL12条1項1号(a)に基づく責任を負うのは,相続人又は遺言受益者としての資格に基づいて,当該資産を受領した場合であると解するのが相当である。
(2)本件遺言による遺産の取得がないことについて
証拠によれば,被告は,Bのフィリピン国内の預金の一部(20万米ドル)について,被告の弟と等分に相続するとされていることが認められ,本件遺言によって有利に財産が処分される者であるといえるから,遺言受益者に該当する。
しかし,前記認定のとおり,本件遺言で対象財産として列挙されているもののうちの大半は,Bが生活を共にしていたDに生前贈与されていた上,本件遺言が検認されたことはなく,遺言執行者も選任されていないから,EPTL上,本件遺言に基づいて遺産を分配する手続がいまだ採られていないというべきである。また,被告が本件遺言において相続するとされた遺産を取得したことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告が,遺言受益者としての資格に基づいて,Bの遺産を取得したとの事実を認めることはできない。
(3)法定相続による遺産の取得がないことについて
前提事実によれば,被告はBの子であるから,EPTL上の法定相続人に該当する。
しかし,前記認定のとおり,Bについて,現在まで法定相続の手続を行うために必要な遺産管理人は選任されておらず,したがって,遺産管理人によるBの遺産の分配も行われていないから,被告が法定相続人として遺産管理人からBの遺産を取得したとの事実は認められない。
よって,被告が,相続人としての資格に基づいて,Bの遺産を取得したとの事実を認めることはできない。
(5)小括
よって,EPTL12条1項1号(a)に基づいて本件債務の弁済を求める原告の主張は採用することができない。

10−2011.11.4
日本人夫からフィリピン人妻に対する離婚請求及び夫が認知した妻の子に対する認知無効確認請求について、日本に国際裁判管轄を認めたうえ、いずれの請求も認容した事例
[広島高裁2011(平成23)年4月7日判決 戸籍時報692巻39頁]
[事実の概要]
日本人Xは、3人の子がいるフィリピン国籍のY1と婚姻し、Y1の子のうちY2について、実子ではないと知りながら、Xが父となっている虚偽の出生証明書を入手して、認知の届出をした。Y2は来日し、XY1と同居を始め、日本国籍を取得した。同居中、Y2は、Xに髪を引っ張られたり、胸など触られたりしたため、児童相談所の一時保護施設に入所し、Y1もXと別居し、福祉施設内で生活をしている。
XはY2が自分の実子ではないことを理由に、Y2に対して認知無効確認請求をするとともに、Y1に対して離婚請求をした。原審は、Xのいずれの請求も認めた。
[判決の概要]
1国際裁判管轄について
 X及びYらはいずれも日本国内に生活しており、認知無効事件及び離婚事件のいずれについても、我が国に国際裁判管轄が認められることは明らかである。
2準拠法について
(1)認知無効事件
 @認知の当時、Y2はフィリピン国籍を有していたと認められる。法の適用に関する通則法(以下「通則法」という。)29条1項及び2項によれば、認知に関しては、子の出生時における父の本国法によるほか、認知の当時における認知者又は子の本国法によるとされていて、渉外認知の成立をなるべく容易にするという認知保護の政策に基づいて選択的連結が導入されている。そうすると、認知の無効については、上記の選択的連結を導入した趣旨を考慮して、上記すべての法律によっても認知が無効である場合のみ、これを無効とすることができると解される。
 A本件では、X及びY2の本国法は日本法であるが、認知当時のY2の本国法はフィリピン法である。しかし、フィリピン法においては(フィリピン家族法175条、172条。なお、同法には認知の制度は存在しない。)、事実主義を採用していると解されていることから、フィリピン法は認知に関する準拠法とはいえず、認知無効に関する準拠法ともならない。実際、本件においては、申立人と相手方の血縁上の親子関係がないから、同法による父子関係が認められないことは明らかである。
 Bよって、日本法によって、認知無効が認められるのであれば、XはY2に対し認知無効を求めることができる。
(2)離婚事件
 通則法25条により、夫婦の常居所地法は同じ日本法であると認められるから、離婚事件についても日本法が適用される。
3認知の撤回及び慰謝料請求について
(1)「・・・民法785条については第一義的には認知の撤回を認めないという趣旨にとどまり、血縁上の親子関係が存在しない場合であっても、認知者の認知の取消しや無効の主張を認めないという趣旨までも含むことは困難であると思われる。・・・よって、XのY2に対する認知無効請求には理由がある。」
[ひとこと]
認知無効確認訴訟の国際裁判管轄については、裁判例が確立していないが、本判決は関係者がすべて日本国内で生活していることを認定して、日本に国際裁判管轄を認めている。理由を明記していないが、条理を基準とする判例に照らし結論は妥当である。現在、家事・人訴事件についての国際裁判管轄の法制化の作業中であるが、現在の国際裁判管轄の判例基準を追認する形で法文化しようとしているので、成立後も、本件の結論が妥当すると思われる。本件では、認知者自身が無効を主張しうるか否かについても問題となっている。本判決は、通説判例に従って肯定し、Xの請求を認めたが、Xは血縁関係がないことを知りながら違法な手段で認知の手続をしていること、Y2に対する性的虐待、認知無効が認められるとY2の日本国籍がはく奪されることなどから、Xの主張は権利濫用とすべき、という批判もある。

10−2010.7.6
日本人夫からフィリピン人妻に対し、フィリピン法に基づいて重婚を理由とする婚姻無効確認を求め、棄却された例
[裁判所]熊本家裁
[年月日]2010(平成22)年7月6日判決
[出典]速報判例解説8号365頁、LEX/DB25464099
[事実の概要]
被告(フィリピン人女性)は、フィリピン人夫Aと別居中に、原告(日本人男性)と交際を開始し、原告との間に長女を出産した。原告と被告はフィリピンの方式により婚姻し、被告と長女は日本で原告と生活を始めた。そのころにAは死亡。原告は長女を認知し長女は準正により日本国籍を取得した。被告は原告との間に二女を出産し、二女は嫡出子として日本国籍を取得した。その後、原告と被告は、夫婦関係が悪化し、別居を開始した。被告は、別居後、日本で子らと生活をしている。
原告は被告に対し、被告との婚姻成立当時、被告がAと婚姻していたことを理由に、原告被告間の婚姻無効確認訴訟を提起した。
婚姻の成立は、各当事者につき、その本国法によるところ(法の適用に関する通則法24条1項)、原告の本国法(日本法)では重婚は婚姻の取消事由であるが、被告の本国法(フィリピン法)では重婚は無効とされている。重婚は婚姻の実質的成立要件のうち、双面的婚姻障碍(相手方との関係において婚姻の成立が妨げられる要件)に該当し、重婚の効力は無効となるのが原則である。
被告は、「本件にフィリピン法を適用し婚姻を無効とすることは公序良俗に反する」と主張して争った。
[判決の概要]
Aは、原告と被告との婚姻の成立後に死亡しており、既に重婚状態は解消していること、原被告の婚姻期間は5年を経過しており、被告と長女は約5年間日本で生活していること、二女は出生してから現在まで日本で生活していること、他方で、原告と被告との婚姻が無効となれば、長女及び二女が原被告の嫡出子たる身分を失うことになることなどの事情を考慮すれば、原告と被告の婚姻について、重婚を無効とするフィリピン家族法を適用することは、その結果においてわが国の公の秩序又は善良の風俗に反するものと解するのが相当である。
したがって、通則法42条に基づき、フィリピン家族法35条4号の適用を排除すべきであるから、原告と被告との婚姻は無効とはいえないとした。
[ひとこと]
本件は一審で確定した。国際結婚で重婚状態にあるときに、婚姻が無効とされ、子どもが日本国籍を喪失するか否か(ひいては子どもの在留資格が危うくなるか)、が争われた。判決ではフィリピン法の適用は公序良俗に反するとされたので、子らは日本国籍を失わなかった。その後、被告であったフィリピン人妻が、日本人夫を相手方に婚姻取消の調停・合意による審判を申立てたとのことである。

 
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