1 職場で
1-1
上司・同僚・取引先による事例
1-1-1992.12.16 美容院経営者事件(愛知)
美容院経営者X男が、独身従業員A女に対する借金の返済を性交渉で支払うよう強
要し、A女の婚姻後も右関係を継続したことについて、A女およびその夫に対し
て400万円の支払いが命じられた事例
[裁判所]名古屋地裁
[年月日]1992(平4)年12月16日判決
[出典]判例タイムズ811号172頁
[事実の概要]美容院経営者X男は、A女に借金の返済を迫り、返済できなければ暴力団
に債権譲渡し取り立てをさせる、自分と性交渉を持てば1回5万円の割合で返済
したことにする等と述べて、A女を畏怖させて応じさせ、A女の婚姻後もこの関
係を継続した。
[原告の請求]A女に対して500万円、その夫に対して300万円支払え。
[判決の概要]A女に対して300万円、その夫に対して100万円支払え。X男は「A女に
対し情交関係を求め、更に右情交関係の反復とわいせつ行為の反復を求めたもの
と解され、右はA女に対する不法行為を構成する」。「婚姻後の右行為はA女の
夫に対する関係でも不法行為を構成する」。X男は過失相殺を主張するが「情交
関係等はX男単独ではできず、A女の「同意」がなければ成立しないものである
が、前記の通りA女が自発的に情交関係を承諾したのものではないのであり、単
にX男との間に情交関係等があったからといって、当然に原告らに過失を認める
ことはできない」。
[ひとこと]結論として原告の過失を否定した点は評価できるが、「情交関係等はX男単
独ではできず、A女の「同意」がなければ成立しない」との理解は誤っている。
同意がなくとも成立するし、抵抗があっても成立するからである。かりに裁判官
が、抵抗がなかったことを「同意」と理解しているのであれば、それも誤りであ
る(性被害の裁判例にはこの誤解が少なくないように見えるが)。抵抗がなかっ
たのは、同意があったから、ではなく、抵抗が不可能だったから、というばあい
が少なくない。