職場で

-  上司・同僚・取引先による事例

--1996.04.26 葬祭会社事件(大阪)

    会社会長X男が、顧客訪問をしていた入社後間もないA女の運転する自動車に乗

り込み、性的なニュアンスの発言をし、太ももに触ったことに対して、X男と会

社に88万円の支払いが命じられた事例。

[裁判所]大阪地裁

[年月日]1996(平8)年426日判決

[出典]判例時報158992

[評釈等]水谷英夫『セクシュアル・ハラスメントの実態と法理』(信山社・2001

[事実の概要]会社会長X男(61)は、顧客訪問をしていた入社後間もないA女(31)の

運転する自動車に乗り込み、「デートしてくれませんか」と誘い、返答に困ったA

女が「コーヒーを飲みに行くくらいなら」と答えると、「あ、コーヒーね」「17

8の小娘じゃないから分かるでしょう」といい、A女が断りきれずにやむなく承諾

すると「うれしいな、うれしいな」といって、A女の左太ももを何度かさすった。

[原告の請求]330万円。

[判決の概要]88万円。「相手方の意思に反する性的言動の全てが違法性を有し、不法行

為を構成するわけではない」。「行為の態様は一見悪質でも悪ふざけのたぐいと

して許される事案もあれば、行為の態様は軽微でも…厳しく指弾されなければな

らない事案もある」。「X男の行為は、行為の態様自体はさして悪質ではないも

のの、偶発的なものではなく、原告に対し再発の危惧を抱かせるものであり、そ

の人格を踏みにじるものであるから、社会的に見て許容される範囲を超え、不法

行為を形成すると言うべきである」。

[ひとこと]結論的には被告の行為に違法性を認めた判決だが、理由付けには疑問が残る。

運転している原告の太ももを被告が10分間撫で続けたとの原告の主張は、「長時

間、継続的に続けられたのなら、貞節な女性としてなんらかの拒絶反応が示され

ていてよいはずであるが、それはない」ので、不自然であり、誇張があるとされ

た。また、被告の行為が「さして悪質ではない」理由は、「原告の明示的な拒絶

を無視してなされたものではな〔い〕」からとする。入社後間がなく、会長であ

る被告の社内での影響力の有無大小も知らない新入社員であっても、女性という

だけで、上司の性的な言動に「なんらかの拒絶反応が示されてよい」と断じるこ

とは、偏見である。会社にいづらくなっても困らない、いつ辞めさせられてもか

まわない、あるいはすでに何らかの紛争状態にあるのでもない限り、不愉快な上

司の言動(性的であろうとなかろうと)に「なんらかの拒絶反応」をただちに示

せる部下など、男女を問わず、そういるものではない。そこにつけこむことこそ

が、セクシュアル・ハラスメントなのである。本判決は、違法性を認めただけマ

シではあるが、それでも、相手が上司といえども不愉快な性的侵襲に対しては女

性であればいつでも毅然とした態度を取れるはず、との誤った思い込みに支えら

れている。東北生活文化大学控訴審2-1-2001.03.29も参照。