1 職場で
1-1
上司・同僚・取引先による事例
1-1-1997.04.17 呉服販売会社事件(京都)
専務取締役X男が、社内の朝礼において、従業員A女の異性関係に関する発言を
し、さらにA女に退職を促したことにつき、X男と被告会社に対して約215万円
の支払いが命じられた事例。
[裁判所]京都地裁
[年月日]1997(平9)年4月17日判決《確定》
[出典]判例タイムズ951号214頁
労働判例716号49頁
労働経済判例速報1640号3頁
[評釈等]水谷英夫『セクシュアル・ハラスメントの実態と法理』(信山社・2001)
水島郁子・法律時報70巻7号93頁
石田眞・労働法律旬報1441号20頁
[事実の概要]取締役X男は、社内の朝礼において、女子更衣室の盗撮行為により懲戒解
雇された訴外元従業員と、盗撮事件後の雰囲気から「会社を好きになれない」と表
明した従業員A女とが男女関係にあるかのような発言をし、さらにその場でA女
に退職を促したため、A女は会社に居づらくなり、退職した。
[原告の請求]約621万円。
[判決の概要]約215万円。被告X男の発言により「原告の名誉は毀損されたというべき
である〔から〕本件X男発言の違法性は軽いとはいえない」。「被告X男は、不
用意な発言を差し控える義務があると言うべきで…また、不用意な発言をした場
合には、その発言を撤回し、謝罪するなどの措置をとる義務があるというべきで
ある」。「原告にとって被告会社に居づらい環境になっていたのに、何の措置も
とらなかったため、原告は退職しているから、被告X男は、原告の退職による損
害を賠償する責任を負う」。被告会社については、「何人がビデオ撮影したかな
どの真相を解明する努力を…する義務があったというべきである」のに「ビデオ
カメラの向きを逆さにしただけで…何の措置も取らなかった」うえ、被告会社の
「取締役である被告X男が、朝礼において、本件発言をしているから、被告会社
は、民法715条により…賠償する責任を負う」ものであり、かつ、原告の退職に
よる損害を賠償する責任も負う。
[ひとこと]A女の「会社を好きになれない」発言は、被告会社の盗撮行為に対する不適切
な対応への不快感と思われ、取締役X男の発言は不快感を表明したA女への制裁
であろう。同様の事例に仙台自動車販売会社事件1-1-2001.03.26。