1 職場で
1-1
上司・同僚・取引先による事例
1-1-1998.03.11 青果会社事件(和歌山)
X男ら4名が、A女を「おばん、ばばあ、くそばば」と継続的に呼び、意に反し
てA女の性器付近、胸、尻等を何回も触り、性的に露骨な表現を用いてからかい、
暴行を働いたことにつき、X男らと会社に110万円の支払いが命じられた事例。
[裁判所]和歌山地裁
[年月日]1998(平10)年3月11日判決
[出典]判例時報1658号143頁
判例タイムズ988号239頁
[評釈等]小川幸士・別冊法時20号62頁
鬼塚賢太郎・法令ニュース34巻4号29頁
水谷英夫『セクシュアル・ハラスメントの実態と法理』(信山社・2001)
[上訴等]大阪高裁1998年12月17日判決(棄却)
[事実の概要]専務取締役X男ら4名は、A女(41)に対し、「おばん、ばばあ、くそ
ばば」と継続的に呼び、意に反してA女の性器付近、胸、尻等を何回も触り、
性的に露骨な表現を用いてからかい、「おまえみたいに落ちぶれてないわ」と怒
鳴りながらバインダーで頭部を三回位叩いた。
[原告の請求]550万円。
[判決の概要]110万円。被告らは「各不法行為の大部分について、否認する供述をし、
或いは記憶がない旨供述しているが、その供述は一部にはことさら虚偽を述べて
いると窺えるものも存するが、その多くは被告らが原告が被害として強く感じた
程加害行為についての自覚がなかったため、記憶がなくなったり、曖昧となった
りしたものと推認され…被告らの右供述部分は採用できない」。
[ひとこと]被告らには「原告が被害として強く感じた程加害行為についての自覚がなか
った」との指摘について、上掲鬼塚論文は「石を投げる子どもに対し、池のカエ
ルが『あなたにとってはただの遊びですが、私にとっては生命の危険なのです』
と訴えたというイソップ物語を想起する」として、「本件は、特定の会社、特定
の個人間で起きた偶発的なトラブルではなく、少なくとも和歌山地方(あるいは
もっと広範囲)の同種業界(あるいはもっと広範囲)に根強く存在している女性
蔑視の底流が、たまたま今回地上に現れた現象とみるべきではないであろうか」
「人権尊重をうたう憲法が施行されて、すでに52年が経過した。しかし、男女
差別を禁止する憲法14条は、いまだ国民に定着していない」とする。