職場で

-  上司・同僚・取引先による事例

--2001.03.22 N銀行事件(京都)

    支店長X男が、従業員A女に行ったセクシュアル・ハラスメント行為につき、X

男と銀行に対して約667万円の支払いが命じられた事例。

[裁判所]京都地裁

[年月日]2001(平13)年322日判決

[出典]判例時報1754号125頁

[上訴等]大阪高裁2002227日判決(棄却)

[事実の概要]支店長X男(50)は、支店長の立場でしか利用できない会員制クラブにA

女(28)を連れて行き、突然A女の手を強く握り、A女にのしかかるようにして、

唇をA女の唇に押しつけ、A女の乳房を直接触った。A女は精神的ストレスによ

り難聴を発症し、退職に追い込まれた。

[原告の請求]約2123万円、謝罪文の掲示。

[判決の概要]約667万円。謝罪文は棄却。「被告X男は、原告が断固たる拒否ができない

立場にあることを知って図に乗り、その行動をエスカレートさせたものであって、

破廉恥といわざるを得ない(仮に、被告X男が、断固たる拒否をしないことから

原告の真意による合意があったと考えたのであっても、それは、被告X男が、自

分と立場の異なる人の気持ちが全く理解でない(あるいは理解しようとしない)

ことを意味するに過ぎず、原告の真意による合意があったと信じたことについて

重大な過失があることが明らかである。)」。「原告から見れば〔被告X男に対

する被告銀行の〕処分内容は、微温的でおざなりなものと受け止めざるを得ず…

原告が、被告銀行内部の措置に限界を感じて外部の弁護士に相談するようになっ

たのは、予想できる成り行きであったし、原告が訴訟をも視野に入れるようにな

ると、セクシャル・ハラスメント問題に対する問題意識が低く、これに対して組

織的に支援する雰囲気が醸成されていない被告銀行の職場で、原告が孤立するこ

とも予想できる成り行きであった」。【引用者注:(  )は原文、〔  〕は引用者

の挿入。】

[ひとこと]「性的被害者の心理状態についての近年の研究の成果を総合勘案すれば」と

して、被害者がいったん泣き寝入りを決めたことはPTSDの「回避」として理

解できるし、X男の感情を害さずに誘いを断らなければいけないこと、相談した

課長からはっきり断るようにと指示されたこと、そして夫にも相談できずにいた

ことなどが原告の多大なストレスとなり難聴を発症したとするなど認定しており、

被害後の被害者心理・困難な環境を適切に理解している判決として、高く評価で

きる。