職場で

-  上司・同僚・取引先による事例

--2001.03.26 自動車販売会社事件(宮城)

構造上欠陥のある女子トイレ内に訴外男子従業員がのぞき見目的で潜んでいたこ

とをA女が発見したのに、被告会社が適正かつ迅速な対応を取らなかった点に職

場環境配慮義務違反があるとして、350万円の支払いが命じられた事例。

[裁判所]仙台地裁

[年月日]2001(平13)年326日判決《確定》

[出典]労働判例80813

[事実の概要]従業員A女(34)は、構造上欠陥のある女子トイレ内に訴外男子従業員X

男がのぞき見目的で潜んでいたことを発見し、被告会社に適正かつ迅速な対応を

求めたが、被告会社の不適切な対応が重なったことから精神的苦痛を覚え、退職

に至った。

[原告の請求]約1,584万円。

[判決の概要]350万円。「事業主は…職場においてセクシャルハラスメントなど従業員

の職場環境を侵害する事件が発生した場合、誠実かつ適切な事後措置をとり、

その事案にかかる事実関係を迅速かつ正確に調査すること及び事案に誠実かつ適

正に対処する義務を負っている」。本件の場合、「被告としては、当日のうちに

X男に対し、電話などで、X男が原告に対し電話で話した内容、すなわちのぞき

見目的で侵入していたか、人に頼まれて写真を撮ろうとしていたか、雑誌社に送

っているのかどうかについて事情を聴取し、その上で、被害回復、再発防止のた

めの適切な対処をする義務が存在したというべきである」。しかるに被告会社は

原告に「警察や社外に口外しないように指示ないし要請しながら、自らはX男の

言い分だけを聞いて、X男の言うことと原告の言うことのどちらが正しいのかの

事実を確認することもなく、漫然とX男の言い分を真実と受け止めるような態度

をとったことは事案に適正に対処する義務を怠ったものと言わざるを得ない」。

しかし「原告が…初期の対応を怠った店長に対しその不満を向ける気持ちを持っ

たことはやむをえない面があるとは言え、それをもってすれば、本件侵入事件の

解が図られるわけではないのは当然であるところ、いつまでも原告が店長に対し、

不満をぶつける形として、反抗的な勤務態度を取り続けたことは相当でないとい

ざるを得〔ない〕」。

[ひとこと]被告会社は、迅速に事実調査をしないで時間を空費した(被告がX男を聴取

したのは事件から2日後、警察に届け出るかどうかは原告の意思で決めるように

と指示したのは事件から5日後)。そのあげくに漫然とX男の言い分を鵜呑みに

した(X男には常習性が疑われ、別組織に盗撮写真を売渡していることを一度は

自白したが、後に撤回した。職場では諭旨免職処分、刑事上は起訴猶予処分)。

その一方で被告会社は、不満を持ち続ける原告を疎んじ、態度が反抗的であると

して、「結局他に女性社員がいるのにあなただけが騒いだからな。調べればそう

いう事実はなかったじゃないか。これで青年が一人会社を辞めてるんだぞ」と怒

鳴りつけて(判決はこの恫喝を不当とまではいえないとする)、ついには原告を

退職させた。裁判所も被告会社と同様に、原告の反抗的な態度を「相当でない」

とする評価基準を採用しているのであるが、原告の態度がどのようなものであっ

たならば、過去数回にわたりトイレで用を足す姿を盗撮されていたという被害感

情に、裁判所・被告会社は共感できたのであろうか。職場ではじっと耐えて、何

も無かったように上司を信頼したフリを続け、従前の優秀な営業担当者(争いが

ない)として明るく笑い、従順な社員の態度を取り続けていれば、裁判所は同情

してくれたのだろうか。精神に破綻を来さない限り、そのような態度は取れない

であろう。また、かりにそのような態度を取ることができたとしたら、今度は逆

に、「原告は従来と変わらず明るかったので、被害感情は薄い」と正反対に評価

されかねない。法は不可能を強いることはできないはずである。裁判所は、性被

害を受けた者の衝撃、動揺、怒り、羞恥感情、周囲への不信、自尊心維持の困難

等を理解し、それでもなお原告の態度を相当でないと言えるのかを熟慮したうえ

で、原告が職場でとることのできた「相当」の態度とは何か、将来の被害者が模

範とするためにも、判決において例示してほしいものである。なお、盗撮行為に

関連して会社を「好きになれない」と表明した女性従業員への制裁としては1-1-

1997.04.17があり、原告の抗議が反抗的に過ぎたのでやむをえないと

した解雇には1-1-1996.10.30がある。