1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1-1-2002.05.15 H労働者派遣会事件(岡山)
上司である専務取締役営業部長X男が岡山支店支店長A女と高松支店支店長B女
にセクシュアル・ハラスメントを行ない、A女とB女がこれを被告会社に訴えるや
X男と被告会社がA女とB女の職場環境を悪化させ、職場復帰を不可能にしたこ
とにつき、X男と被告会社にA女とB女へ合わせて3,0000万円の支払いが命じら
れた事例。
[裁判所]岡山地裁
[年月日]2002(平14)年5月15日判決
[出典]労働判例832号54頁
[事実の概要]X男は上司としての立場を利用してA女と肉体関係を持とうと考え、A女
と親しいB女に出世と引換えでの協力を要請したが、B女から拒否された。その数
時間後にX男はA女を呼び出し、A女を自分の後継者にすることに決めたと告げ、
「後継者になるということイコール男女の関係があるのは当たり前だ。僕は家庭
を捨てない」と言って自己と肉体関係を持つよう求めたが、A女から拒否された。
X男はA女とB女に対する虚偽の性的風評を流した。A女とB女はX男の行為
を被告会社に訴えたが、会社はX男の不合理としか思えない弁解を盲信し、事情
聴取ではX男の主張の裏付けを取ることに終始し、A女とB女の訴えについてそ
の真偽を公平な立場で聞くという姿勢を欠き、十分な調査をしないままA女とB
女を支店長から一気に部下のいない一番下の地位に降格して給料を3割減給し、
その後も2回にわたり非違行為もないのに減給し、退職前の2ヶ月間は給料を全
く支給しなかった。社長Y男はA女に「再婚しないの」、B女に「子供はまだか」
等のプライバシーに関する質問をたびたびした。
[原告の請求]X男、社長、会社はA女に約2,559万円、B女に約2,688万円支払え。
[判決の概要]X男と会社はA女に約1,529万円、B女に約1,480万円支払え。プライバシ
ーに関する社長の発言は違法性を有するとまでは言えない。「A女らの降格及び
減給処分につき、被告社長は、A女らが支店長の立場にありながら社員にセクハ
ラ行為について話をし、業務時間内に社員を連れて被告社長に訴えに来たことで
あると供述するが、少数の者の訴えでは上司に聞き入れてもらえない危惧感があ
る場合に、自己がセクハラを受けたことを他の社員にうち明け、多人数で上司に
セクハラの事実を訴え、職場環境の改善を図ることを要求することは、同セクハ
ラの事実が被害者と称する者のねつ造であれば格別、被用者として当然許される
べき行為であって、これを降格及び減給処分の理由とすることは許されない」。
「セクハラ行為の有無について十分な事実調査をせずに前記の処分を行っている
のであるから…被告会社の同処分は違法である」。「さらには…2回にわたる減
給は、就業規則で定められた範囲を逸脱し、労働基準法にも違反する違法なもの
である」。
[ひとこと]未払賃金と逸失利益が全額認容されたことから合計金額が高くなった(原告
2人ともが支店長として高い給料を得ていた)。X男のあまりに自己中心的な行為
には憤りを越えて呆れてしまうが、その慰謝料は各1000万の請求に対してA女200
万、B女30万にとどめられた。地位と引換えにA女に肉体関係を求めた理由を「
君は独身だから性的欲求は解消されていないと思ったからだ」と述べるX男とい
い、そのX男を擁護して「なぜ自分一人で心に抑えておかなかったのか」と被害
者が訴えたことを責める社長といい、女性が大多数を占める人材派遣会社の経営
陣でありながら、働く女性の職場環境などどうでもいいようだ。控訴。