1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1-1-2004.03.30 N自動車販売会社事件(千葉)
自動車販売会社店長X男が、研修中に宿泊していたホテル室内において、泥酔して寝ていた新入社員A女の着衣の下に手を入れ、胸の辺りを触り、さらに、起き上がって抵抗したA女をベッドの上に倒そうとしたことにつき、X男には不法行為責任が、被告会社には苦情処理義務違反はないものの使用者責任があるとして、連帯して60万円の支払いが命じられた事例
[裁判所]東京地裁
[年月日]2004(平16)年3月30日判決
[出典]労働判例876号87頁
[事実の概要]
自動車販売会社店長X男(53)は、研修中に宿泊していたホテル室内において、泥酔して寝ていた新入社員A女(27)の着衣の下に手を入れ、胸の辺りを触り、さらに、起き上がって抵抗したA女をベッドの上に倒そうとした。X男は、A女から損害賠償を求める文書を送付されると、セクシュアル・ハラスメント行為を否定し、A女の行為はX男への名誉毀損であるとして、簡易裁判所へ調停を申し立てた。調停不成立で、A女が提訴。
[原告の請求]1,100万円
[判決の概要]
X男と被告会社は60万円支払え。X男の行為はA女の性的自由を侵害し、不法行為を構成する。被告会社は使用者責任を負うが、A女から申告を受けた後、すみやかに事情聴取を行い、A女がX男の下で就業することが無いようにA女の就労義務を免除し、さらにその後まもなくA女とX男を別の事業所に配置するなどの対応を取っており、苦情処理義務違反は無い。
[ひとこと]
 近年では、加害者の不法行為責任と事業主の使用者責任(事前の防止義務等)のみならず、苦情の申し立てに事業主がどのように対応したのか(事後の苦情処理義務)が、以前にも増して重要な論点となっている。本件では事前の防止策は不十分であったが、事後の対応は適切と判断された。対応をせず放置した例として1−3−2004.10.04 や、1-1-2004.07.08。セクシュアル・ハラスメントが事業主にとってのリスク・マネジメントの問題であることにつき、吉川英一郎『職場におけるセクシュアル・ハラスメント問題/日米判例研究/企業法務の視点でとらえた雇用主の責任と対策』(2004年)。