1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1-1-2006.07.26 厚生労働省事件(東京)
職員X男が、臨時職員として働いていた同僚のA女に対して、X男のヒゲを抜くように強いるなどしたことにつき、国の使用者責任を認め、X男と国に55万円の支払いが命じられた事例
[裁判所] 東京地裁
[年月日] 2006(平18)年7月26日判決
[出典] 法学教室312号139頁
[事実の概要] 厚生労働省の出先機関である労働市場センター業務室で、職員X男(29)は、臨時職員として働いていた同僚のA女(31)に対して、職員有志の旅行の際に「勝負水着で来てください」などと書いた文書を見せたり、勤務中に「ヒゲを抜いてほしい」と再三要求してヒゲを抜かせたり、休暇取得についてA女から非難されたと感じたことから同女を応接室に呼び出し20分近く大声で怒鳴り続けるなどした。
[原告の請求] 500万円
[判決の概要] X男と国は55万円支払え。「勤務中に女性の同僚にヒゲを抜いてほしいなどと求めること自体が著しく相当性を欠くばかりでなく、A女が明確に拒否しているのに要求を続けたのは、道義的非難を超えた違法な行為」。国には、X男の「以前からの性的言動に対し厚生労働省は特段の調査や対応策をとってこなかった」ので使用者責任がある。
[ひとこと] 出典が新聞記事のため事実認定・法解釈ともに詳細が不明(認定事実は朝日によれば、ヒゲ抜きと応接室で怒鳴り続けたことが違法とのこと)であるが、公務員の職務上の違法行為に本人の不法行為責任と国の使用者責任(民709、715条)を認めており珍しい。同様の認定に3‐2‐1997.07.29があるが、判例動向としては被害者にとって二者択一となるものが多い。二者択一とは、公務員の職務上の違法行為は最判1955年4月19日民集9巻5号534頁により国賠法1条の適用で国・公共団体のみが責任を負うとされているため、加害者が民間人であれば加害者本人の不法行為責任と企業の使用者責任とを追及できるものが、公務員のばあいには国のみが責任を負い加害者本人の責任を追及できない2‐2‐2003.01.29及び2‐2‐2002.01.29、または公務員の私的行為としての責任のみで監督者の責任を追及できない2-1-2005.04.07となる問題である。松本克美「キャンパス・セクシュアル・ハラスメント訴訟と大学の教育研究環境配慮義務」立命館法学300=301号453頁(2006年)で検討されている。