1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1-1-2007.03.13 生命保険会社事件(広島)
被告男性上司3名が、会社の忘年会で、原告女性部下7名に対して、抱きつく、押し倒す、羽交い絞めにして股間に性器付近を押し付ける等したことについては不法行為が成立するが、原告らの多くがかなりの人生経験を経た中高年に達するものであったことからすれば、被告らの行為を咎めずに嬌声を上げて騒ぎ立てる等したことに過失が認められるとして、過失相殺が適用された事例
[裁判所] 広島地裁
[年月日] 2007(平19)年3月13日判決 ≪確定≫
[出典] 労働判例943号52頁
[事実の概要]  被告男性上司3名は、会社の忘年会で、原告女性部下7名に対して、抱きつく、蹴る、脇腹を掴む、左腕を胸の上付近に打ちつけて転倒させる、2人で前後から羽交い絞めにして足を広げさせ股間に性器付近を押し付ける、首を両足で挟み後ろに倒す、背後から抱きつき写真を取らせる等の暴力行為・性的嫌がらせをした。原告らは被告らの行為を特に咎めることなく、むしろ嬌声を上げて騒ぎ立てる等した。本件忘年会の出来事について具体的な申出がなされたのは3ヵ月後であった。原告らは精神的に不安定になり、入院・通院した。
[原告の請求] 原告7名に慰謝料総額約6,500万円を支払え
[判決の概要] 被告らは、原告7名に慰謝料総額852万円を支払え。「被告らの行為は暴力行為及び性的嫌がらせ行為として原告らの身体的自由、性的自由及び人格権を侵害するものとして、不法行為に当たる」。「しかし、原告らの多くは…かなりの人生経験を経た中高年に達する者であったことから…被告らの行き過ぎた行動を諌めるべきであった」。「ところが、原告らは…むしろ嬌声を上げて騒ぎ立て…このような原告らの態度が被告ら…の感情を高ぶらせ、セクハラ行為を煽る結果となったことは容易に推認される」。「原告らの行為には過失相殺の法理を適用するのが相当」。「原告らが被告ら…に同調し騒ぎ立てたのは、宴会の雰囲気を壊してはならないという思いや上司にあたる被告3名への遠慮からであったという側面も否定できない…〔ので〕原告らの責任割合を2割と認め〔る〕」。
[ひとこと] 本件当時、原告らは20代後半から50代前半の女性たちであった。判決は、本件忘年会で、訴外従業員が被告の行為に抗議したところ被告から叱責され、泣き出したことを認定してもいる。このように暴力的な忘年会で、原告らに「上司である被告らを諌めるべきであった」として過失相殺を適用することは疑問である。上司でありながら、その地位を利用して宴会で安易に「感情を高ぶらせ」て暴力行為を行う加害者に甘いのではないか。