1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1−1−2008.09.10 言葉によるいやがらせTF堂菓子店事件(東京)
店長X男から業務中および業務後の酒席でなされた言葉によるセクシュアル・ハラスメントにより人格権等を侵害されたとして会社を提訴したA女の請求に対し、約170万円の支払いが命じられた事例
[裁判所]東京高裁
[年月日]2008(平20)年9月10日判決
[出典]LEX/DB25421395
    判例時報2023号27頁
    労働判例969号5頁
[原審]5‐1‐2008.03.26 TF堂菓子店事件(東京)
[事実の概要]
店長X男(31)は、店員A女(19)に対して、職務中およびその延長線上における慰労会において、「頭がおかしいんじゃないの」「昨夜遊びすぎたんじゃないの」「エイズ検査を受けた方がいいんじゃないか」「秋葉原で働いた方がいい」「処女に見えるけど処女じゃないでしょう」「Vにいる男の人と何人やったんだ」等と発言し、シャドウボクシングのまねごとをA女に向かってした。A女は会社に対して使用者責任に基づく損害賠償を請求。
[原告の請求] 約650万円
[判決の概要]
会社は約170万円支払え(慰謝料50万、逸失利益約100万、弁護士費用20万)。X男の発言は「男性から女性に対するものとしても、上司から部下に対するものとしても、許容される限度を超えた違法な発言」であり、X男の各言動は、「その必要性がまったく認められず、ただA女の人格をおとしめ、性的にはずかしめるだけの言動であるし、他の従業員も同席する場において発言されたことによって、A女の名誉をも公然と害する行為であり、明らかに違法」であり、「A女をいたずらに困惑ないし恐怖させるものであったというべきであり、X男にとって、主観的にはA女に対する指導目的に基づくものがあったとしても、全体として到底正当化しうるものとは認め難い」。
上記言動には「就業時間終了後のものも含まれているが、当日の飲食自体が…店長と契約社員との関係にあったことを抜きにしては考えられないものであったことに照らすと…X男の言動が店長としての立場と無関係のものであったということはできない」。
[ひとこと]
会社はX男も含めて従業員にはセクシュアル・ハラスメント関係の教育を行っていたと主張したが、具体的な指導を与えていたとは認められないうえ、訴外従業員Eも冗談でA女が処女じゃないかもといった覚えがあると証言していることなどから、「会社においては性的な言動により従業員の就業環境が害される場面が見受けられることも珍しいことではなかったことがうかがわれるといわざるを得ない」とされた。菓子店といえば従業員も顧客も女性が中心であり、女性のニーズに敏感であることが求められる職場と思われるが、環境型セクシュアル・ハラスメントが蔓延する旧態依然とした男性中心の会社であったとは残念である。

言葉によるいやがらせ事件としては以下があり、本判決は最高額。
1-1-2006.05.25 言葉によるいやがらせJA事件(島根)
1-3-2004.10.04 刑務所職員の言葉によるいやがらせ事件(滋賀)
4-1-2000.08.10 千葉県松戸市議事件(千葉)