1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1−1−2010.3.30 眼科医院事件(鳥取)
上司の部下に対するセクシャルハラスメント行為につき部下及び部下の夫に対する慰謝料を認めたほか、部下の勤務先に厳格かつ具体的な職場環境配慮義務を認めた事例
[裁判所]鳥取地裁倉吉支部
[年月日]2010(平成22)年3月30日判決
[出典]判例集未登載
[事実の概要]
A(女性)は、メディカルサービス法人(医療機関にしかできない医療行為を除く医療サービスを提供するために設立された会社)D社と雇用契約を結び、D社に業務委託していたE眼科医院の職員として勤務していた。Aは、勤務中、E眼科医院の開業者で眼科医であるCから抱きつかれ、キス等された(以下「本件行為」という。)。その後、Aは休職。Aの夫Bが、E眼科医院に対し慰謝料やAの復職に向けた交渉を試みたが決裂し、最終的にAは退職した。
Aは、本件行為に関し、セクシャルハラスメント行為としてCに対して不法行為に基づく慰謝料等の請求(@)をするとともに、C及びD社に対して、Cについては財産上の損害に対する不法行為に基づき(B)、D社に対しては雇主の職場環境配慮義務違反に基づき(C)、休業損害等の損害賠償の請求をした。さらにBが、Cに対して、本件行為によりAとの平穏な婚姻生活を享受する権利が害されたとして、不法行為に基づく慰謝料等の請求をした(A)。
[判決の概要]
@ AのCに対する不法行為に基づく慰謝料等請求について
Aの性に対する自己決定権を侵害したもの。職場上も社会的にも優位な立場にあるCの行為にAは抵抗できない状態であったのであり、Aは屈辱的な精神的苦痛を与えられ、恐怖感、嫌悪感に苦しめられた。したがって、本件行為はセクシャルハラスメント行為として不法行為を構成する。
そして、本件行為自体からAが受けた苦痛のほか、本件行為後のCの行動(周囲に気付かれることなくAを職場復帰させることばかりに注意を払い、Aの精神面へのケアの配慮が全くなかった)がAの精神的苦痛を増大させたことも合わせて慰謝料額を70万円と認定した。
A BのCに対する不法行為に基づく慰謝料等請求について
Bは、本件行為により、自分の妻であるAが本件行為をされてCの性の対象となったことを知り衝撃を受け、それによって、平穏な婚姻生活がある程度害され、精神的苦痛を受けたとして、本件行為がBに対しても不法行為となるとして慰謝料額10万円を認めた。
B AのCに対する不法行為に基づく財産上の損害賠償請求について
上記@のとおり不法行為が成立するとして、休業損害及び退職から再就職までの逸失利益の損害額(合計約60万円)を認定した。
C AのD社に対する職場環境配慮義務違反に基づく損害賠償請求について
前提として、D社とE眼科医院は、実体としては一体の関係にあったと認められ、D社代表者及びCが共同で各労働者を指揮監督していたこと、D社とE眼科医院は、共同してセクシャルハラスメントが起きることのないように職場の環境を配慮する義務を負っていたことを認定。
そして、職場を管理する会社や法人が負うセクシャルハラスメント防止義務、及びその前提として負う会社や法人の代表者、指揮監督者等に対する研修義務を具体的に列挙した上で、D社及びE眼科医院はそれらの義務を果たしていなかったとして、D社の職場環境配慮義務違反を認め、Bにつき双方の不真正連帯債務とした。
[ひとこと]
女性の夫からの慰謝料請求を認めた点や、女性を雇用した会社とその会社に業務を委託し女性の勤務先となっていた眼科医院とが共同して職場環境配慮義務を負うとした点が注目される。なお、双方控訴せず、一審判決で確定している。(川見)