1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1−1−2013.12.20 人材派遣会社事件
人材派遣会社がセクハラ防止義務と二次被害防止義務は履行しているとしてこれらの義務違反を否定したが、セクハラ救済義務・解雇回避義務を履行せずこれらには違反したとして、人材派遣会社の義務違反を全て認めなかった一審判決の一部を変更して慰謝料50万円と遅延損害金の支払いを認めた事例
[大阪高裁2013(平成25)年12月20判決 労働判例1090号21頁]
[事実の概要]
人材派遣会社A社(B社の100%子会社。現在はB社に吸収合併)から労働者派遣契約に基づきB社に派遣されていた一審原告Xは、B社で勤務中、C社からB社に出向していた社員Dによりセクハラ被害を受けたことなどについて、A社に対し、派遣元事業者として派遣労働者に対する職場環境配慮義務違反があったと主張して、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求として、損害の一部として300万円及び遅延損害金の支払いを求めた。
なお、A社とB社は、Xに対し、各社との労働契約上の地位不存在と債務不存在の確認を求めて労働審判を申立て、他方Xは、B社との間の雇用契約上の地位の確認と、B社に対する未払い賃金の支払い等を提起した。労働審判は訴訟手続に移行後、A社の請求は全部認容され、B社の請求は労働契約関係の不存在の確認を求める限度で認容された。Xからの雇用契約上の地位の確認の訴えは却下され、その余の請求は棄却された。Xは控訴し、控訴審において、セクシュアルハラスメントの発生及び発生後の対応における職場環境配慮義務違反についての不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償として300万円及び遅延損害金の支払いを求める反訴を提起した。控訴審が、損害賠償請求は反訴要件を満たさないとして分離し、京都地方裁判所に移送したのが、本件の一審である。京都地方裁判所は、Xの請求をいずれも棄却した。
[判決の概要]
「派遣元事業主は、派遣先が派遣就業に関する法令を遵守するように、その他派遣就業が適正に行われるように、必要な措置を講ずる等適切な配慮をすべき義務を負う(労働者派遣事業法31条参照)」。他方、派遣先であるB社も、「労働者派遣契約に基づき派遣就業をする者に対し、直接の雇用関係にある従業員と同様に、労務の提供に関して良好な職場環境の維持確保に配慮すべき義務(職場環境配慮義務)を負っており、セクシュアル・ハラスメントに関してもその予防や発生したときの適切な対処をすべき義務がある」とした。その上で、「派遣元事業主であるA社は、B社が前記のセクシュアル・ハラスメントに関する義務を遵守して適正な派遣就業が行われるよう、派遣先との連絡体制の確立、関係法令の関係者への周知等の適切な配慮をすべき義務がある」とした。
その上で、A社について、セクハラ救済義務と平成18年2月末日の解雇回避義務について、一審判決を覆して、A社の義務違反を認めた。
しかし、A社は「セクシュアル・ハラスメントに関する指針を周知・徹底する、派遣労働者のセクシュアル・ハラスメントに関する苦情や相談を受ける体制を整備する等の義務がある」が、このセクハラ防止義務は履行したものとした。また、誹謗中傷を受けるという二次被害の防止義務についても履行したものとした。平成19年5月の契約終了に関する解雇回避義務の違反もないとした。
セクハラ救済義務と平成18年2月末日の解雇回避義務違反について、慰謝料50万円及び遅延損害金の請求を認めた。(弁護士打越さく良)