5 敗訴の事例
5-1 職場で
5−1−2015.2.26 A水族館事件
性的な発言等のセクシュアル・ハラスメントをしたことを理由に出勤停止等の懲戒処分を受けた男性が、会社に対して懲戒処分の無効確認等を請求したが、請求が棄却された例
[最高裁第一小法廷2015(平成27)年2月26日判決 判タ1413号88頁、労働判例1109号5頁、LEX/DB25447084]
[事実の概要]
水族館の経営等を目的とする株式会社(上告人)の男性従業員(被上告人ら)が、女性従業員(従業員Aら)らに対して「俺のん、でかくて太いらしいね。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」「でも俺の性欲は年々増すねん。」「今日のお母さんよかったわ…」「かがんで中みえたんラッキー。」「もうそんな年になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」「30歳は、22、3歳の子から見たら、おばさんやで。」「もうお局さんやで。怖がられているんちゃうん。」などの性的な発言等のセクシュアル・ハラスメント(以下「本件各行為」という。)をしたことを懲戒事由として上告人から出勤停止等の懲戒処分(以下「出勤停止処分」という。)を受けたことから、上告人に対し、出勤停止処分は懲戒事由を欠き又は懲戒権を濫用したものであるなどと主張して、出勤停止処分の無効確認等を求めた。原審は男性従業員の請求を認容したため、会社が上告した。
[判決の概要]
『原審は、被上告人らが従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず、本件各行為のような言動も同人から許されていると誤信していたなどとして、これらを被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが、職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感などを抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられることや、…本件各行為の内容等に照らせば、仮に上記のような事情があったとしても、そのことをもって被上告人らに有利にしんしゃくすることは相当ではないというべきである。また、原審は、被上告人らが懲戒を受ける前にセクハラに対する懲戒に関する上告人の具体的な方針を認識する機会がなく、事前に上告人から警告や注意等を受けていなかったなどとして、これらも被上告人らに有利な事情としてしんしゃくするが、上告人の管理職である被上告人らにおいて、セクハラの防止やこれに対する懲戒等に関する上記のような上告人の方針や取組を当然に認識すべきであったといえることに加え、従業員Aらが上告人に対して被害の申告に及ぶまで1年余にわたり被上告人らが本件各行為を継続していたことや、本件各行為の多くが第三者のいない状況で行われており、従業員Aらから被害の申告を受ける前の時点において、上告人が被上告人らのセクハラ行為及びこれによる従業員Aらの被害の真実を具体的に認識して警告や注意等を行い得る機会があったとはうかがわれないことからすれば、被上告人らが懲戒を受ける前の経緯について被上告人らに有利にしんしゃくし得る事情があるとはいえない。』
『上告人が被上告人らに対してした本件各行為を懲戒事由とする各出勤停止処分は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない場合に当たるとはいえないから、上告人において懲戒権を濫用したものとはいえず、有効なものというべきである。』
[ひとこと]
言葉によるセクハラに関しては、体を触るなどの身体的なセクハラに比べて軽視されがちだが、厳しく対応する企業を後押しするものであり、また、相手方が明確に拒否していなくても免責されないことを示した点でも、評価すべき判断といえる。(弁護士折井純)