1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1−1 2015.3.11 A法律事務所事件(東京)
被告(弁護士)の経営する法律事務所の事務員として勤務していた原告が、不当解雇、セクハラ及び侮辱的発言を受けたとして損害賠償請求等をした事件で、セクハラ等は認めなかったが侮辱的発言について不法行為の成立を認めた事例
[東京地裁2015(平成27)年3月11日判決 判例時報2274号73頁、LEX/DB25540270]
[事実の概要]
原告は、被告の経営する法律事務所の事務員として勤務していたところ、被告から解雇され、その解雇が無効であるとして、1雇用上の権利を有する地位にあることの確認及びバックペイの支払い、2不当解雇、セクシュアルハラスメント、侮辱的発言を受けたとして不法行為に基く損害賠償請求の支払い、3委任契約に基づく報酬支払債務が不存在であることを求めた(本訴事案)。
なお、原告は、元夫との離婚時に合意した養育費(月額5万円)を一方的に減額され、自分自身で履行勧告を申し出たところ、元夫から養育費減額の調停の申立てを受けた。原告は被告に相談し、原告と被告とで元夫の自宅に行き、元夫は不在だったが、元夫の母親と話し合いをした。被告は、離婚時の合意から減額した養育費(月額3万5000円)にすること等を内容とする契約書を作成し、契約当事者である原告、元夫、元夫の連帯保証人である元夫の母の押印はされていない。被告は、原告から養育費減額調停の申立てについて解決を委任され、弁護士費用として着手金30万円、成功報酬30万円の取決めがなされた等と主張して60万円の報酬の支払いを請求した(反訴事案)。
[判決の概要]
判決は、仮処分事件前の解雇は即時解雇としても普通解雇としても解雇権を濫用したものであり無効としたが、仮処分事件中の答弁書で行われた解雇は普通解雇として有効とした上で、被告に対し、雇用契約終了時までの日割り計算した賃金9万3333円と遅延損害金の支払いを命じた。
さらに、ホテルにしつこく誘う等のセクハラに該当する言動を認めるに足りる証拠はないとしたが、第1解雇を行った際に、原告に対し「風俗嬢であることをねー、自慢にしているよお前は!心の中で。そんなことしてたらねー、うー、将来が見えるよ」等と発言したことを認定し、原告が上記発言を受けても何ら動揺していなかったこと等から名誉感情を著しく害されたことはないとの被告の主張も、上記発言内容は一般社会通念に照らして他人の名誉を侵害するものであるとして斥け、不法行為が成立するとし、慰謝料5万円、弁護士費用5000円の限度で認めた。
被告からの反訴については、弁護士費用を60万円にするとした委任契約書は作成されておらず、作成に困難だった事情はないことから、弁護士委任契約が締結されたか疑問であり、さらに、被告が主張する同契約を履行したという事実も認められないとして、報酬支払請求権の存在は認められないとして、その請求を斥けた。(弁護士打越さく良)