1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1−1−2015.4.17 医療法人事件
医療法人の従業員に対し理事及び看護部長が想像妊娠だと述べたり中絶を示唆するような言動をしたこと等につき77万円の支払いが命じられた事例
[札幌地裁2015(平成27)年4月17日判決 LEX/DB25447254]
[事実の概要]
被告医療法人Aは病院と老人保健施設を経営する。被告B(1947年生)は、法人Aの理事の一人で、代表権はないが、最終的な決裁権を有しており、実質的な最高責任者である。被告Cは、法人Aの看護部次長である。
原告X(1972年生)は、2009年法人Aと有期雇用契約をし、介護員(準職員)として採用され、その後有期雇用契約を更新した後、2011年4月、正職員となった。同年1月までBとの接点はなかったが、同月ころBのいるピロティと呼ばれる部屋でも仕事をするようになった。同年12月、XはBに対し、妊娠を報告し、同月中に休職したが、2014年12月、職場に復帰した。
Xは2013年7月、本件訴えを提起した。
[判決の概要]
Xが2011年2月ころから同年9月ころまで職場の実質的な最高責任者であるBと上司であるCと休日を含めて頻繁に食事等をし、比較的高価な服等も贈られたことは、Xの主体的な付き合いではなく、B及びCの誘いを断りにくくてしていたものといえる。その後、XがBからの電話に出なくなりそのようなつきあいがなくなった同年10月ころ、BとCは、Xが嫌がらせと感じても仕方のないような注意をするようになった。そしてその後それまで1人に集中して命じられることのなかったサクション瓶の洗浄等の労働を原告に命じたことも、嫌がらせと受けとめられてもやむを得ないものであった。そして、Xが妊娠を報告した際、祝福の言葉もなく、かえって、B及びCが想像妊娠だとか中絶を示唆するような言動をしたことは著しく不適切である。その後BがCに1人で肉体労働である特浴の入浴介助を命じたのも、配慮に欠ける。
これに対し、被告らは、Xの業務遂行能力及び業務態度に大きな問題があったので、担当させる業務が他になかったと主張したが、判決は、被告らの主張を裏付けるに足る客観的な証拠はないと退けた。また、妊娠の報告をした際の言動も、Xへの心配の情から出たという被告らの主張等も、そうした言動をすることがやむを得ないような事情がない限り、著しく不適切であるとして退けた。
さらに、判決は、食事会やプレゼント自体は「違法とまでいえるかは悩ましい」としながらも、「上司からそうした行為がなくなることと裏腹に、業務に関する注意等を(略)嫌がらせと感じることは、部下の立場であるXからすれば無理からぬところである」として、その行為だけでは「違法とまではいい難いが、その後の行為の違法性を基礎付ける事実として評価されるというべきである」とした。
Xは慰謝料1,000万円と弁護士費用100万円を請求したが、損害額については、言動の違法性の程度、期間等一切の事情に照らし、70万円が相当とし、弁護士費用を7万円とした。
以上より、B・Cについては不法行為に基づき、Aについては不法行為(使用者責任)及び債務不履行(職場環境配慮義務違反)に基づき、77万円と遅延損害金の支払いを命じた。
[ひとこと]
最近問題になっている「マタハラ」の一事案といえる。勤務先と実質的最高責任者、上司を訴えるのは負担が大きかったことだろう。賠償責任は命じられたが、認容額がこの程度では、負担との兼ね合いで、「泣き寝入り」を余儀無くされるのではないだろうか。(弁護士打越さく良)