1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1−1 2015.5.27 A会社事件
被告会社の従業員であった原告が、被告会社の代表取締役である被告Yから、勤務時間内に職場内においてパワハラ及びセクハラを受け、さらに強姦されたと主張し、被告Y及び被告会社に対し損害賠償等の支払を求めた事案について、原告の請求が一部認容された事例
[東京地裁2015(平成27)年5月27日判決 LEX/DB25530078]
[事実の概要]
原告Xは、被告会社に契約社員として入社した。Xが勤務していた本社営業所には、当時、代表取締役Yと専務、Xの3名のみが勤務していた。Xは、専務に心療内科の診断書を見せて退職を申し出、退職した。
Xは、Yからパワハラ、セクハラ、強姦行為を受け、Yの各行為が不法行為に該当するとして、Y及び被告会社に対し、慰謝料、逸失利益、弁護士費用等の支払いを求めて提訴した。
[判決の概要]
1 Yによる不法行為の成否について
@セクハラについて
Yは、勤務時間中に本社営業所内で、Xの胸、臀部を触る等のほか、XにYの男性器を押しつけることがあり、Xが嫌悪感、不快感を抱いていたことが認められる。Yの各行為は、Xの人格的尊厳を害し、その労務提供に重大な支障を及ぼし得るものであって、違法な行為であると認められる。
A強姦行為について
Xの意に反し、YがXと性交したことが認められる。Yの行為は、Xの抵抗を著しく困難とする暴行又は脅迫を加えたとまではいえないため、強姦罪(刑法177条)に該当するとまでは認められないが、被告会社の代表取締役の地位にあるYと一契約社員であるXの立場の違いから、XがYに対して強く拒絶することが困難な状況にあることを移用して、Xの意に反して行われたものであって、Xの性的自由を著しく侵害するものであり、Xに対する不法行為を構成する。
Bパワハラについて
Xは、Yが、Xの入社直後から退職するまで、Xに対し、「話し方や動き方が気に入らない。首にしてやる。」等の発言をしたと主張し、これに沿う供述をするが、これを裏付ける的確な証拠はなく、他にXの主張する上記事実を認めるに足りる証拠はない。
2 被告会社の責任について
Yの本件各不法行為(上記@A)は、いずれも、被告会社代表取締役としての職務執行行為そのものには属さないが、Yが、被告会社の従業員であるXに対する人事権を有し、Xに対し優越的な立場にあることを利用して行ったものであること、被告会社の職場である本社営業所内で、勤務時間中に行われたものであることからすると、Yの本件各不法行為は、職務の執行行為を契機とし、これと密接な関連を有する行為というべきであり、「職務を行うについて」されたものと認められる。したがって、被告会社は、代表取締役であるYの本件各不法行為について、会社法350条に基づき責任を負う。
債務不履行責任については判断を要しない。
3 損害について
@慰謝料
本件各不法行為は、1年余りの期間にわたって、繰り返しセクハラを行った上、Xが専務にセクハラの被害を申告した後、Xの意に反して性交にまで及んだものであって、Xの性的自由及び人格権を著しく侵害するものであること、Xは被告会社での雇用機会も失ったこと等を総合考慮すると、本件各不法行為によるXの精神的苦痛に対する慰謝料としては350万円が相当である。
A逸失利益
Xは、本件各不法行為により被告会社を退職せざるを得なくなったものと認められるが、諸事情に鑑みれば、本件各不法行為がなければ、本件雇用契約が更新されていたとまで認めるに足りない。したがって、Xが退職した日の翌日から本件契約が期間満了により終了する日までの収入相当額を逸失利益と認めるのが相当であるところ、被告会社がXに対し解雇予告手当を支払っていることにより、実質的に填補されているというべきである。
B弁護士費用
本件各不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額については35万円と認めるのが相当である。
[コメント]
長文にわたるため、[判決の概要]には記載を省略したが、本件では、各争点について、極めて緻密な分析、認定がなされている。密室内で行われるセクハラ等には立証に困難な面も多いが、本判決が一助となろう。
また、有期契約社員の逸失利益の可能性も認めた点でも(本件では否定)、今後の参考になる。(弁護士渕上陽子)