1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1−1−2016.1.28 A倶楽部事件
被告法人の従業員等である原告らが、被告法人の支配人のパワハラやセクハラ等を理由として、支配人、被告法人、その理事らに対し、不法行為に基づいて損害賠償請求をするとともに、憲法27条等によって認められる勤労人格権に基づいて、支配人が直接原告らに指揮命令その他接触しないことや接触した場合の制裁金の支払を求めた事案について、原告の1人に対する暴行行為について不法行為の成立を認めて支配人と被告法人に対する損害賠償請求について一部認容したが、その余の請求を棄却した事例
[大阪地裁2016(平成28)年1月28日判決 労働判例ジャーナル50号21頁、LEX/DB25542050]
[事実の概要]
原告らはゴルフ場を経営する一般社団法人(以下被告倶楽部という)の支配人である被告Y1の原告らに対するパワーハラスメントやセクシャルハラスメント等を理由として、被告Y1、被告倶楽部、被告倶楽部の理事Y2、Y3に対し、不法行為(民法709条、715条)に基づいて損害賠償請求(慰謝料請求)するとともに、憲法11条、13条、27条及び民法723条によって認められる職場における勤労人格権に基づいて、Y1を被告倶楽部の支配人から解任することなどを求め、仮に解任の請求が認められない場合の予備的請求として、勤労人格権に基づいて、Y1が直接原告らに指揮命令その他接触しないことや接触等した場合の制裁金を求めた。
原告Aは会計担当の係長、原告Bはシルバー人材センターより被告倶楽部に派遣された派遣社員(既に派遣契約は終了)、原告Cは別のリースシステム会社と被告倶楽部との間の業務委託契約に基づき、被告倶楽部のシャトルバスの運転業務や清掃業務に従事するリースシステム会社の社員である。他の原告D、H、I、J、Kはいずれも被告倶楽部でキャディー業務を営む従業員である。
[判決の概要]
原告らは、それぞれ、被告Y1から恫喝叱責されたり、拳骨で叩かれたり、また叩くぞと脅かされたり、大嘘つき呼ばわりされたり、何らの理由も告げられずにキャディーグループの班長解任を示唆されたり、皆のいる前で怒鳴られたり、他者へパワハラ行為やセクハラ発言を目の当たりにして不安にさせられたりした、と主張した。原告Kは、Y1から「ところで、君は子供が5人いるんやったかなあ?」(略)「しかしまあ、よっぽど好きやったんやなあ」と言われ、その場にいた他の3名も全員絶句で一言も発しなかった。子どものことをセクシャルな下ネタの道具にするものであり、女性に対する最大の侮辱の言葉であって精神的に極めてショックが大きいと主張した。
しかし、判決は、唯一、Y1自身が認めた、被告Y1が原告Aの足元付近にペットボトルを投げたこと、原告Aの着用していたワイシャツの上部を左手でつかんだこと、その結果Aに3日間の科料を要する見込みの頸部挫傷の結果が発生したことのみ認定し、その他のパワハラ行為及びセクハラ行為を認めなかった。そして、理事Y2、Y3については、一般的な業務執行権限を有するにとどまり、実質的にY1を監督していたものではなく、民法715条2項の「代理監督者」に該当するとはいえず、損害賠償責任を負わないとした。 Y1と被告法人に、Aに対する20万円の損害賠償責任のみを認め、その余の請求はいずれも理由がないとして棄却した。(弁護士打越さく良)