1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1−1−2016.2.23 K出版社事件
原告が、被告会社に対し、セクハラ行為を理由にした譴責処分、出勤停止処分の無効確認、総務部長らに対して退職強要等による不法行為に基づく損害の賠償等を求めたところ、会社に対する請求の一部を認容しその余を棄却した事例
[東京地裁2016(平成28)年2月23日判決 LEX/DB25542311]
[事実の概要]
被告会社Y1は、小学校向け教科書等の刊行を業とする会社である。Y2はY1の総務病、Y3はY1の常務取締役、Y4はY1の営業部の課長であった。
原告Xは、2007年にY1に入社し、営業職として勤めた。2013年、XはY1の派遣従業員Z1と新入社員Z2とともに出張した。Xは、主張先のホテルのロビーでZ2と打ち合わせた後、Z2の部屋の前まで同行した。その際のXの言動には争いがある。
同年7月、Y1は出張時のXの言動を理由として、譴責処分とし、その後同処分を取り消して、4日間の出勤停止処分とし、同月末、Xに対し、出勤禁止期間に該当する給与を差し引いた金額の給与を支払った。
同年8月、XはYらに対し、各懲戒処分の取り消し及び退職強要等による不法行為に基づく損害賠償の支払いを求める訴訟を提起した(第1事件)。
同年10月、Xとその妻は、第1事件に関するXの見解等を訴訟資料ともに掲載するホームページを開設した。2014年6月、Y1からの業務命令書を受け、Xは同ホームページを閉鎖した。Y1はホームページに係るXの行為につき、懲罰委員会を設置した。同年8月、懲罰委員会から懲戒解雇相当との答申を受けたY1は、Xに対し、解雇する旨の意思表示をした。
Xは、解雇無効及び雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び解雇日以降の賃金、損害賠償等を請求する訴訟を提起した(第2事件)。
[判決の概要]
1 第1事件請求の当否
(1)譴責処分は取り消されており、無効であることを確認する利益はない。
(2)出勤停止処分
Z2の部屋の前での原告の言動は、原告の主観において性的な不快感を与える積極的な意図がなかったとしても、就業規則の「セクハラに当たる行為」に該当する。
原告が被告会社に求められた「始末書」を提出したことを会社の社内電子掲示板に書き込んだ。また、始末書の内容は、「集団的組織的退職強要事件」「セクハラ疑惑ねつ造事件」などという言葉とともに自己の意見を述べるもので、被告会社の求める謝意を示す内容ではなかったといえる。しかし、電子掲示板に掲載したのは、提出したとの事実に留まり、内容は掲載していないことから、出勤停止処分は重い。
(3)不法行為
原告は、総務部長らなどにパワハラを受けたと主張したが、判決は個人の個々の行為の違法性を否定した。
2 第2事件請求の当否
(1)解雇無効の確認
雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を超えて、過去の法律関係の確認をすることが紛争の解決に資する事情はない。したがって、確認の利益を欠く。
(2)解雇の相当性
ホームページに添付された訴訟資料は、訴訟手続において公開が予定されたものであり、被告会社や個人については伏せ字処理がされていて、プライバシー等に配慮したものとなっている。また、業務命令にしたがって、閉鎖もした。以上より、醜業規則上の普通解雇基準に該当するとはいえず、解雇は相当性を欠く。
よって、労契法16条により、解雇は無効である。
(3)不法行為
解雇は無効であるが、違法な退職強要の事実はなく、未払賃金とは別に、不法行為の成立を認めるべき違法性はない。
以上より、出勤停止の懲戒処分の無効と雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、出勤停止期間の賃金及び解雇日以降の未払賃金の支払いについては請求を認容し、その余は棄却した。(弁護士打越さく良)