1 職場で
1-1 上司・同僚・取引先による事例
1−1−2018.4.24 A村役場事件
村役場の職員であった原告が村長を務めていた被告から性交渉を強要され、セクハラ又はパワハラに当たる言動や多数のメール送信を受け、うつ病になったなどと主張し慰謝料等を請求したところ、一部認容された例
[仙台地裁2018(平成30)年4月24日決定 労働判例ジャーナル77号28頁、LEX/DB25560291]
[事実の概要]
原告はA村役場職員であった(判決時には定年退職)。被告は、2015年に辞表を提出するまで5期にわたって(約19年)A村村長を務めた。原告は、2014年当時、被告から十数回にわたって性交渉を強要され、セクハラ又はパワハラに当たる言動や多数のメール送信を受け、うつ病になったと主張し、民法709条ないし同法415条(職員に多数の安全配慮義務違反)に基づき、慰謝料、治療費、休業損害及び弁護士費用の損害合計1,000万円及び遅延損害金を求めた。
[判決の概要]
1十数回の性交渉等について
原告は、十数回にわたって性交渉を強要された、途中からは明確に性交渉を拒絶する意思表示もしたと主張したが、判決は、強要の事実と認めるに足りる証拠がない、性交渉の様子を携帯電話で撮影した行為も当時の両者の関係に照らすと、直ちに不法行為等に当たるとは言い難い、被告が原告に両者の関係を駄目にしたいというなら人事関係も白紙にする旨のメールをした2014年9月までの多数のメール(「何がおわびだ。ふざけないで答えろ。」等)も、同様に不法行為等とは認めなかった。
2不法行為責任
被告が、原告に対し、両者の関係を駄目にしたいなら人事関係も白紙にする旨のメールをした2014年9月のメール以降に送信した複数のメール(原告が希望する班長補充の件は原告の態度次第等の内容)は、それまでの両者の関係を考慮しても、村長の地位を利用したパワハラとして不法行為に当たる。
原告が被告に被告から夫の悪口を言え等と言われておかしくなった、被告に対して恋愛感情を持ちたくないと2014年10月に訴えたにも関わらず、それ以降、被告が原告に対し、捨てられるなら不正入園疑惑の件で原告を助けない、原告が好きだ、被告の苦しみは原告より大きいなどと一方的に気持ちを述べたのは、それまでの被告の原告に対する言動や原告の健康状態を踏まえると、原告を精神的に追い詰める不法行為に当たる。
その後も被告が原告に対してメールや電話を要求したり、原告に頼まれた挨拶を断ったり、村長室において、「何事があっても別れることはしない。この誓いを破ったときは、いかなる事をされても異議はありません」という誓約書を作成させたりしたこと等も、不法行為に当たる。
被告が誓約書のやりとりの際に原告に対し足を触りたくなると述べたり、嫌がっている原告の身体を触ったり抱きついたりしたことは、従前の両者の関係を考慮しても、セクハラとして不法行為に当たる。
被告が、原告に対し、性交渉の際に撮影した写真は見つからないが、誓約書に違反しない限り心配する必要がない旨メールを送ったことは、脅迫に当たる不法行為である。
以上より、被告は原告に対し、民法709条に基づき、不法行為によって原告に生じた損害を賠償する責任を負う。
3損害額、遅延損害金の起算日
判決は、原告のうつ病発症は被告の不法行為によると認めた。
しかし、原告がうつ病の治療費に関する証拠を提出しなかったので、治療費は認めなかった。また、不正入園問題疑惑のストレスもあったとして、休業損害も認めなかった。
慰謝料は、一切の事情を勘案し、150万円とし(請求額600万円)、その1割の15万円の限度で弁護士費用を認めた。
原告は「最初に性交渉を強要された日」として2014年4月10日を遅延損害金の起算日と主張したが、その時点では強要とは認められないとして、原告代理人が介入することによって被告による不法行為がやんだ2014年11月21日とすべきとした。
以上より、165万円及び2014年11月21日からの遅延損害金の支払いの限度で原告の請求を認容した。(弁護士打越さく良)