1 職場で
1-4 女性から男性への事例
1-4-2004.09.03 郵便局員の女性から男性への事件(大阪)
 郵便局の防犯対策等を担当する管理職X女が、局内パトロール中に、勤務時間中であるにもかかわらず男性職員用浴室が使用中であることを不審に思い、ノックをしないまま浴室扉を少し開き、脱衣室内を覗いたところ、上半身裸の状態で立っていた配達職員A男と目が合ったこと等にセクシュアル・ハラスメント防止義務違反が認められ、A男から被害申告を受けた総務課長Y男には、事情聴取等の対応にセクシュアル・ハラスメント防止義務違反(二次セクハラ)が認められるとして、郵政公社に15万円の支払いが命じられた事例
[裁判所]大阪地裁
[年月日]2004(平16)年9月3日判決
[出典]労働判例884号56頁
[上訴等]控訴審:5-1-2005.06.07
[事実の概要]
 郵便局の防犯対策等を担当する管理職で、局内に3人いるセクシュアル・ハラスメント相談員の1人でもあったX女(43)は、局内パトロール中に、勤務時間中であるにもかかわらず男性職員用浴室が使用中であることを不審に思い、ノックをしないまま浴室扉を少し開き、脱衣室内を覗いたところ、上半身裸の状態で立っていた配達職員A男(47)と目が合い、驚いて一旦は扉を閉めたものの、A男がズボンをはいていたことからA男を注意しようと考え、再度扉を開けて脱衣室内に入り、上半身裸のA男に近づき、じろじろみながら、「ねえ、ねえ、何してるの」「何でお風呂に入ってるの」等とA男に質問した。A男がこれを無視したため、X女は浴室から退去し、郵便課に行き、Z郵便課長に対し、浴室にA男がおり、入浴していい時間かどうか確認したが返事がなかった旨報告した上、A男の勤務時間を確認したところ、A男が1時間の時間休をとっていたことを知った。
 セクシュアル・ハラスメント相談員の1人である総務課長Y男は、事件翌日にA男からの被害報告書を入手するや否や、直ちに加害者であるX女に示し、同人に事情聴取を行い、それに基づき本件浴室の調査まで行う一方で、A男に事情聴取をしたのは事件から一週間も経過した後であり、しかも、A男が事情聴取への立会いを拒んでいたZ郵便課長の立会いに固執する余り、実質的にはA男からの事情聴取ができなかった。また、Y男は、先に聴取したX女の主張する事実関係が信用できるとの判断をしているかのような対応をした。
 A男は、その後数ヶ月間、X女やY男に対して大声で「ねえ、ねえ、お風呂に入ってるの」と大声で言うことを繰り返し、X女に嫌がらせをしたとしてP郵便局長から注意を受けた。A男は局内で気分が悪くなり、2度救急車で病院に搬送され、急性高血圧症で入院する等し、病気休暇を取得し、現在まで休職中。
[原告の請求]約4,427万円
[判決の概要]
 郵政公社は、A男に15万円支払え。X女の行為は「いくらズボンは履いていたとしても、男性が上半身裸でいる状態の男性浴室の脱衣室に、使用していたA男の承諾も得ないまま立ち入り、上半身裸のA男をじろじろ見つめながら前記発言をすることは、防止規程にいう『他の者を不快にさせる職場における性的な言動』というべきで…X女において少なくとも過失があったことは明らかである」。
 総務課長Y男には「A男から被害に関する詳細な事情を聴取する前に、加害者とされ、かつ管理職である被告X女にその申告の有無やその内容を告知してはならない職務上の法的義務があった」のであるから、Y男の行為は「防止規程等に基づき相談員が相談者に対し負担している…職務上の義務に違反するもの」であり、「過失があったというべきである」。
 公務員であるX女とY男の行為には国が国家賠償法に基づく賠償責任を負い、郵政公社がそれを承継した。
 A男が本件セクシュアル・ハラスメント及び本件二次セクシュアル・ハラスメントによりPTSD又は適応障害に罹患したことは認められない。
[ひとこと]
 女性から男性へのセクシュアル・ハラスメントという点のみならず、被害申告を受けた相談員が適切に苦情処理をする義務の違反を「二次セクハラ」と認定した点もめずらしい事例である。セクシュアル・ハラスメントや性的な被害は、むしろ二次被害の方が大きいということも少なくないので、二次セクハラ・苦情処理義務違反・被害拡大防止義務違反等の言葉で裁判所が積極的に二次被害を認めるようになれば、事業主のセクシュアル・ハラスメント防止対策はさらに促進されるであろう。二次被害に関する参考事例として、
1-3-2004.10.04
1-1-2004.07.08
1-1-2004.03.30
[ふたこと]控訴審では原告の逆転敗訴となった。