教育の場で

- 教育者から学生・生徒に対する事例

--1999.05.24 T大学大学院事件(宮城)

修士・博士論文製作上の指導教官で妻子ある助教授X男が、教育上の支配従属関係

を濫用し、約1年半にわたり院生A女に性的関係を強要したこと等に対して、750

万円の支払いが命じられた事例。

[裁判所]仙台地裁

[年月日]1999(平11)年524日判決

[出典]判例タイムズ1013182

[評釈等]水谷英夫(本件原告代理人)『セクシュアル・ハラスメントの実態と法理』(信山

社・2001

[上訴等]仙台高裁2000(平12)年77日《確定》(900万円に増額)

[事実の概要]助教授X男は、院生A女との教育上の支配従属関係を背景として、性的な

冗談を言ったり、A女の顔を凝視し続けるといった不快感を与える言動を始めと

して、A女が指導を放棄されることを恐れて強い拒絶ができないことに乗じて身

体的接触を開始し、エスカレートさせた。A女は、X男の言動が原因となって不

安神経症に苦しみ、精神科で通院治療を受けていたが、X男はこのことを打ち明

けられるや、その不安感を利用して肉体関係まで結ばせた。X男はA女から距離

をおいてほしいと明言されると従来の評価を一変させて締め切り間際の論文の書

き直しを命じるという報復に出て、自殺をほのめかす電話をかけたり、用もない

のに院生室に出入りしたり、学内調査では虚偽の弁明をするなどして、A女に不

快感を与える行為を続けた。

[原告の請求]1,000万円。

[判決の概要]750万円。「被告の不法行為は、長期に及び多様である上、教育に携わる者

としてあるまじき振る舞いであり、特に原告が不安神経症に苦しんでいることに

乗じて、妻子ある身でありながら、自己の身勝手な欲望を満足しようと図り、原

告に性的接触を受忍させ、ついには肉体関係まで結ばせたことは、悪質という外

な〔い〕」。「また、関係を拒絶されるや、論文の書き直しを命じて報復した上、

研究科の調査に対しても、当初偽造の診断書を提出したり、他大学の教官に偽証

まで依頼して自己の責任を免れようと図るなど、事後の態度も卑劣かつ狡猾とい

わざるを得ない」。

[ひとこと]高裁では900万円の支払いが命じられ、確定した。新聞報道によると、大学

はX男の敗訴確定を受けてX男を懲戒免職処分とした。