教育の場で

- 教育者から学生・生徒に対する事例

--1999.07.29 M大学ピアノ講師事件(宮城)

    ピアノ講師X男が、10歳のころから指導をしていたA女に対し、A女が中学3

生のときから8年間にわたり性的行為を行い、A女の大学入学後には性交渉を持

たせたことについて、900万円の支払いが命じられた事例。

[裁判所]仙台地裁

[年月日]1999(平11)年729日判決

[出典]判例集未登載

[評釈等]水谷英夫『セクシュアル・ハラスメントの実態と法理』(信山社・2001

[事実の概要]ピアノ講師X男(48)と、X男の指導を10歳のころから大学卒業まで受

けていたA女(25)とは、その出会から、年齢や社会的な立場に大きな差があり、

常にX男が指示し、A女はこれに従わざるを得ないとの関係にあったが、X男は、

レッスン中、A女を怒鳴ったり、叩いたりすることが往々にあり、頭にこぶがで

きる程、何度も拳で叩いたり、ドラムスティックで尻にあざができるほど叩いた

りすることがあった。X男は、A女が中学3年生のときに突然キスをしたことを

はじめとし、以後8年間にわたり、ブラウスの中に手を入れ、上半身を裸にし、

下着を脱がせて指を挿入するなど次第にわいせつ行為をエスカレートさせ、A女

の大学入学後は数回にわたり性交渉を持たせた。A女は、解離性傷害、外傷性ス

トレス傷害等を発症するに至った。

[原告の請求]1,100万円。

[判決の概要]900万円。「被告の行為は…原告に対する性的な虐待であったというほか

はない」。「原告が性的に無知であり、さらに、それまで継続されてきた被告か

らの性的行為に対して、すでに無抵抗の状態にさせられてしまっていたこと等も

…性交渉を拒めなかったことの要因となっていたものというべきである」。「原

告にとって、被告との性交渉は、単なる苦痛でしかな〔く〕…それまで継続され

てきた服従関係の下で、被告の行為を受け入れざるを得なかったものというべき

である」。「被告の原告に対する性的行為は、原告の大学入学以前のものは、刑

法上の強制わいせつ罪にも該当する行為であって、著しく違法性が強いものとい

わなければならないし、大学入学後の行為についても、その延長上にあって、原

告が十分な意思決定をできない状態にあったのに乗じて、原告の意に反する性的

関係を継続したものであって、これらは、一連の行為として不法行為に該当する

」。「原告の不眠、摂食障害、めまいといった症状や行動が、被告が原告に対して

15歳のころから行ってきた一連の性的行為を原因として形成されてきたものであ

るとの事実を、原告が、明確に認識するに至ったのは、医師による診察を受け始

めた〔大学卒業後〕であると認めるのが相当である」から、本件提訴から3年以前

の行為に対する損害賠償請求権に関する「被告の消滅時効の主張は理由がない」。

[ひとこと]ピアニストになる夢を託した指導者から、暴力的な「指導」を受けるのみな

らず、思春期の8年間わいせつ行為を受け続け、精神に障害を来たしたという、

まさに性的虐待と形容するほかない言語道断の事案である。長期にわたる不法行

為について、消滅時効の起算点を医師による診察を受け始めたときとする点が評

価できる。本件は、被告からの申し出により、判決の認容した慰謝料800万円の

支払い(弁護士費用100万円を放棄)で和解した。