2 教育の場で
2-1 教師から学生・生徒に対する事例
2-1-2001.03.29 TS大学事件控訴審(宮城)
 教授X男が、学生時代から指導をし、現在は部下でもある副手A女を夜9時過ぎに駅まで自動車で迎えにくるよう呼び出し、車中で性交を強要したことに対して、700万円の支払いを命じた原審を変更して、230万円の支払いを命じた事例。
[裁判所] 仙台高裁
[年月日] 2001(平13)年3月29日判決
[出典] 判例時報1800号47頁
[上訴等]
 最高裁2001年12月21日決定(上告棄却・不受理)
 一審:仙台地裁1999年6月3日判決(700万円)2-1-1999.06.03
 関連裁判:2-1-2002.03.14
[事実の概要]
 教授X男が、学生時代から指導をし、現在は部下でもある副手A女を夜9時過ぎに駅まで自動車で迎えにくるよう呼び出し、車中で性交を強要した。
[原告の請求] 1,177万円。
[判決の概要]
 230万円。「本件行為は計画的なものではなく、X男が夜遅くA女と狭い車内で話すうち衝動的に行われた多分に偶発的なものということができるが、X男はA女がX男を信頼し、また、その指示・要求に従わざるを得ない立場にあるのを不当に利用して本件行為に及んだものというべきであって、その行為は非難されなければならない。しかし、A女の行動も無警戒にすぎ、本件現場においても、A女がX男の要求を断固として拒否する態度に出たならば本件行為にまで至らなかったものということができる」。
[ひとこと]
 裁判官は、被害者が断固と拒否する態度に出たならば防げた、との個人的かつ希望的倫理観を押し付けるだけで、近年の研究成果から明らかな――研究以前に多くの女性にとっては経験則であるが――性被害者の心理状態および被害時に取り得る行動については、まったく理解していない。「能力を腐らせて家族の肥やしになることも考えろ」と女性の司法修習生に教官(裁判官)が述べてしまうように(大谷恭子『共生の法律学』259頁〔有斐閣・2000〕)、女性は他人(男性)に従ってこそ、とする社会規範が支配的であることを、承知しているはずであろうに、本判決のような一部の裁判官はなぜ、女性が性的攻撃を受けたときだけ、いやならば反撃すべきだ・できたはずだ、とけしかけるのだろうか(1-1-1996.04.26も同様)。女性は男性に従うべし、と、いやな男性には反撃せよ(それが貞節な〔保護に値する?〕女性だ)、との相反する規範に挟まれている女性にとっては、ふたつの規範を内面化しているほど、性的侵害を受けたときにどちらの規範に従うべきか迷い、混乱してしまうので、対応を即断できない。その男性を好きか嫌いかで規範を選択・行動を決定できるはず、と裁判官は思っているのかもしれないが、どちらでもない男性(知人のほとんど)や、尊敬しているが性的接触は望まない上司・教師等に対しては、どちらの態度を取るべきなのか、行為の意外性に驚愕していることもあって、瞬時に断することができない。このような心理状態を理解せずに被害者を非難する本判判決に対しては、最高裁の判断が注目されていたが、不受理の決定が下され、この控訴審判決が確定してしまった。