2 教育の場で
2‐1 教育者から学生・生徒に対する事例
2−1−2020.8.28 A大学事件
1大学法人Y2の部活動の監督(大学職員)Y1が部員Xに対してセクシャルハラスメントを行ったとして、Y1の不法行為責任及びY2 の使用者責任が肯定された事例
2セクシャルハラスメント行為後のY2及び大学法人の理事長Y3らの採った事後対応について、不法行為または在学契約上の債務不履行が否定された事例
[東京地裁2020(令和2)年8月28日判決 判タ1486号184頁]
[判決の概要]
1)胸やふとももを触るなど、異性間での身体接触を伴う行為であって、性的な意味合いを持つ行為として評価されるものであって、実際にXは性的な不快感を覚えたものであるから、Xの性的自己決定権を侵害する違法な行為であった。
「お前と心と心を通わせてやっていきたい。」等の発言についても、上記の行為と一体となって、Y1のXに対する性的な意図を感じさせる発言ということができ、Xに性的な不快感を与えるものであって、Xの性的自己決定権を侵害するものである。
以上によれば、これらはいずれもセクハラ行為として、不法行為を構成する。
2)Y1はY2が雇用する職員であったこと、本件部活動は広報活動の一角を担う活動としてY2の事業の一部に位置づけられるものといえることなどから、Y2の使用者責任を認めた。
3)Y1を監督から解任した後、本件部活動の指導に関与させないことを前提に総監督に復帰させたことやその根拠をXに説明しなかったことについて、手続き的に疑義のある監督解任という状態を解消し、Y1を本件部活動の現場から離れさせる措置であったといえ、Y1に対する最終的な処分をしたものではないから、直ちに不法行為ないし何らかの義務違反を構成しない。
Y2が第三者委員会の調査報告書を開示しなかったことについて、Y2が第三者に公表しないことを条件に、名前をアルファベットに置き換えた上で本件調査報告書を開示する旨回答しており、一律に開示を拒絶したわけではないし、また、当事者以外の第三者においても取り上げられるようになった状況下において、強制力を有せず限界のある第三者委員会が限られた時間の中で行った調査の結果が第三者に開示されることは、無用の誤解を生む可能性もあり、第三者へ開示しないこととへの同意を求めたY2の対応はやむを得ないものであったことから、同意を得られないことを理由に第三者委員会の調査結果を開示しなかったY2の行為は不法行為を構成しない。
Y2らがY1に対し、適切な処分をしなかったことについて、第三者委員の調査報告書が認定したセクハラ行為は重大な性犯罪等に該当するものであるとはいえないこと、Y1は約1年間指導する立場から外れ、給与の減額を受けるなどY2はY1に対し一定の不利益を課してきたことから、Y2が何らの対応もしなかったわけではないし、そもそも、Y2が、雇用しているY1に対しどのような処分を行うかは、就業規則等に基づき行われるのであり、Xの要望に基づき処分がなされなければならないものではないことから、Y2のY1に対する対応がXの何らかの法益を侵害したとまではいえない。