2 教育の場で
2-2 教育者によるその他の事例
2-2-2002.01.29 N大学事件控訴審(奈良)
 県立大学教授X男から助手A女へのいやがらせが公権力の行使にあたるとして、県に55万円の支払いを命じた原審を変更して、11万円の支払いを命じた事例
[裁判所] 大阪高裁
[年月日] 2002(平14)年1月29日判決
[出典] 判例タイムズ1098号234頁
[上訴等] 1審: 2-2-2000.10.11
[事実の概要]
 教授X男は、助手A女の出張中に、無断でA女の私物を段ボールにつめて移動させ、研究室内に廃液などを放置し、A女が資格を持たないにもかかわらず専門外分野の講師への応募を執拗に勧めるなどした。A女はX男と県を相手に訴えを提起。
[原告の請求] 550万円。
[判決の概要]
 県は11万円支払え。X男の行為は公権力の行使なので国家賠償法上の違法行為にあたる。「〔X男は〕教室員に対する勤務管理の面において…公立大学職員としての地位を重視し、〔出張欠勤等の〕届についても厳格な履行を求め」、「一方、A女にあっては…管理者による拘束を嫌い、自由な雰囲気のもとで研究を続けることへの強い性向を持つものと認められ」るが、「公立大学の研究者が一方で公務員の地位を有し、他方において学問研究の自由を享有する大学研究者でもあるということからすれば、〔X男とA女の考え方は〕基本的にはいずれもが正しい」。「本件は公務員たる地位を有する県立大学の教室員に対し、休暇届、出張届、職務専念義務等の厳格な励行を求める教室主任と、それに従うのをよしとしない教室員との継続的な対立の事例である」。
 A女の私物を移動したことは、不在時にこれを行ったことの当否は別として、「違法な嫌がらせとまではいうことができない」。廃液容器をA女の部屋の前室に移動させた点に嫌がらせ的な要素があったと見る余地がないではないが、嫌がらせと評価することはできない。応募要件を欠く他大学への公募への申込みを勧めたことは「必要性、相当性の面で問題がないとは言えないが…違法とまで認めることはできない」。
 しかしながら、他大学への兼業承認申請に押印しなかったことについては、3月の時点で未だ作成されていない他大学の行事予定表の提出にこだわって押印を拒否したことが合理性を欠くから、嫌がらせと見るのが相当。
[ひとこと]
 本件は、初のアカハラ(アカデミック・ハラスメント)訴訟として注目を浴びたが、控訴審では、アカハラとしてとらえる必要はない、主任教授と助手の勤務態度・研究姿勢への考え方の相違による対立、と単純に図式化されてしまった。裁判官は、個々の出来事を単発的にとらえたために、それだけでは嫌がらせとまではいえない、との評価を下したのではないかと思われる。たしかに、ひとつづつ事象を取り上げれば、X男の各行為はどれも些細なことのようにも見える。しかし、これらの行為が5年間に及ぶ確執・軋轢の中で日常的に行われたという事実こそが重大な意味を持つ。上司にとっては対立関係にある部下への軽い嫌味のつもりでも、部下にとっては、対立関係にあるがゆえに、非常に大きな脅威と映ることが少なくない。判決は、対立関係に至った原因はA女にもあるとするので、喧嘩両成敗的な視点でA女の訴えを聞いていたのだろうか。裁判官には、上司が部下に与える事実上の威嚇力というものを想像できなかったのかもしれない。