2 教育の場で
2-2 教育者によるその他の事例
2-2‐2003.01.29 名古屋市事件(愛知)
市立大学教授X男(64)の、ロシアにおける調査旅行で通訳等の協力者として参加した現地の日本人留学生A女(33)への言動が、公権力の行使にあたるとして、国家賠償法の適用により、市に120万円の支払いが命じられた事例
[裁判所]名古屋地裁
[年月日]2003(平15)年1月29日判決
[出典]労働判例860号74頁、LEX/DB28081610
[事実の概要]
市立大教授X男(64)は、ロシアにおける調査旅行で、以前から面識があり、本件調査旅行に通訳等の協力者として参加していた現地の日本人留学生A女(33)に対して、この機会に性的関係を持ちたいと考えて、宿泊先の自室で、「バイアグラを飲んどいたよ」と述べて(しかし外国暮らしのA女はその名称・薬効を知らなかった)、A女がお茶をいれるためにバスルームに行った際、A女に気づかれないように部屋の鍵を施錠しようとしたり、「妻とはもう長いこと…ないんだよね」「Aさんには特別な感情を持っていてねえ」などと述べた。A女は、X男から、帰国した後には自分の秘書として働いて欲しいとの勧誘を、上記行為以前から引き続き受けていたが、その秘書とは大学に雇用される職員と考えていたことから、帰国後(上記行為の約1月後)、X男の勤務先である市立大学に、X男の上記行為と大学への就職に関する相談の手紙を送付した。
[原告の請求]本訴(A女の請求)450万円。 反訴(X男の請求)100万円
[判決の概要]
市は120万円支払え。X男の反訴(名誉毀損で100万円請求)は棄却。
本件調査旅行は学長の命令に基づいており、市の海外派遣基準にも該当することから、教育公務員特例法20条中のいわゆる職務研修にあたり、国家賠償法1条1項所定の公権力の行使にあたるので、市が損害賠償責任を負う。旅行費用が科研費(文部省・当時)から出ていることは市の責任を左右しない。
X男は「自己が本件調査旅行の研究代表者であり、A女が通訳や雑用等の担当者であるという両者の上下関係から生じる事実上の影響力を巧妙に利用して不法行為に及んだ」。「調査旅行中しばしば本件客室が日程の打ち合わせに使用されており、現に本件セクハラ行為の際にも、本件客室内で翌日の日程の打ち合わせがなされていたなどの事情も考慮すれば、本件セクハラ行為は、職務研修上予定された調査活動を契機として行われ、かつこれと密接な関連性を有する行為と認めるのが相当である」。
本件行為時、X男・A女間で秘書就任に関するX男の勧誘が継続しており「A女が承諾した事実は認められないものの…秘書としての就労を一切拒否する態度に出ていたわけでもないから、本件セクハラ行為によって、A女は、この点に関する一種の期待権類似の地位を侵害されたといえなくもない」。
[ひとこと]
原告はX男の不法行為責任(民法709条)と市の使用者責任(同715条)を主張し、予備的に市の国賠法1条1項に基づく責任を主張していたが、後者が認められた。