4 その他
4-1 政治家による事例
4-1-1997.06.25 熊本市議バドミントン協会事件
熊本市議会議員・バドミントン協会役員で妻子あるX男が、実業団バドミントン選
手A女を強姦し、その後もA女の驚愕・動揺に乗じて半年ほど関係を強要したこと
に対して、300万円の支払いが命じられた事例。
[裁判所]熊本地裁
[年月日]1997(平9)年6月25日判決
[出典]判例時報1638号135頁
[評釈等]水谷英夫『セクシュアル・ハラスメントの実態と法理』(信山社・2001)
[事実の概要]バドミントン協会役員・熊本市議会議員で妻子あるX男(39)は、実業
団バドミントン選手A女(23)に酒を飲ませ抵抗を抑圧してホテルで強姦し、
その後も「結婚を前提に付き合いたい」等の甘言を弄して関係を強要した。A
女は、単なる暴力的な性の捌け口として強姦された場合よりは救いがあると考
えて被告の言葉を信じようとしたり、恥ずかしさなどから被害を認めたくない
との思いや、選手生命を奪われるのではないかとの驚愕・動揺から、半年ほど
関係を続けた。
[原告の請求]500万円。
[判決の概要]慰謝料300万円。強姦被害者の心理状態に関する研究や、原告のおかれて
いた状況に鑑みれば、原告が強姦日を特定できなかったこと、強姦後も普段通り
の生活を送っていたこと、性関係を継続したこと、及び強姦を誰にも話さなかっ
たことには、「格別不自然、不合理な点はなく、むしろ性的な被害者の言動とし
て十分了解が可能であり、自然なものであるということができる」。「被告は、
妻子がありながら原告と合意の上で性関係を継続したことを認めており、この事
実は被告にとって社会的に不利益なものであり…自己に不利益な事実を敢えて告
白しているので、その信用性は高いと主張しているが、それよりも一層被告にと
って不利益となる強姦の事実を秘匿するため、合意の上での性関係の限度で事実
を認めたとみる余地もあるので、不利益な事実の告白であることから直ちに被告
の供述の信用性が高いということはできない」。「被告の行為は、刑法上の強姦
又はこれに準じる行為というべきものである」。原告との性関係は「被告が意識
するとしないとにかかわらず、原告に対し、結婚したい等と甘言を弄し、あるい
は自らの社会的地位と影響力を背景とし、原告の意向に逆らえば選手生命を絶た
れるかもしれないと思わせる関係の中において、形成され維持されたものである
から、結局、原告は、被告から強姦又はこれに準じる行為によって辱められた上、
その後も継続的に性関係を強要されたのであり、被告によって性的な自由を奪わ
れたということができ、しかも、これが原因で恋人と別れた上、バドミントン部
を辞め、会社も退職するに至ったのであり、多大の精神的苦痛を被ったといわな
ければならない」。「被告は、原告に性関係の強要を続けたことの自覚がなく、
これに対する反省の情が窺われないといわざるを得ない」。
[ひとこと]密室の出来事であるため客観的証拠に乏しかったが、本判決は、原告が自尊
心を回復してゆく過程の認定も含めて、性的被害者の行動に対する適切な理解に
もとづくものであり、非常に高く評価できる。被告は紛争途中から熊本県議(自
民)。